新人先生はネタバレ生徒しか引けない   作:KuRoNia

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連続投稿の2話目ですのでまだ一個前の話を読んでいない人はそちらから読んできてください。


天童アリス、勇者として羽ばたく

 アリスと現地トキの戦いは、一方的だった。

 

 アビ・エシュフ。

 リオが現地トキのために用意した、専用の戦闘用装備。

 それを纏った現地トキは、まさに要塞だった。

 両腕に備えられたガトリング、肩部に搭載されたレーザーキャノン。

 全身を覆う装甲と、エリドゥから送られてくる膨大な戦闘支援データ。

 

 現地トキは、それら全てを冷静に制御していた。

 

「対象の戦闘継続を確認」

 

 現地トキの青い瞳が、アリスを捉える。

 

「無力化します」

 

 次の瞬間、両腕のガトリングが火を噴いた。

 凄まじい弾幕が、アリスへ降り注ぐ。

 

「くっ……!」

 

 アリスは咄嗟に巨大なレールガンを盾のように正面へ向ける。

 弾丸がスーパーノヴァの表面で弾け、火花を散らした。

 衝撃が腕に響く。足が後ろへ滑る。

 それでもアリスは踏みとどまった。

 

「アリスは、負けません!」

 

 アリスは弾幕の切れ目を見計らって飛び出す。

 瓦礫の上を駆け、崩れた壁を足場に跳ぶ。

 スーパーノヴァを構え、現地トキへ狙いを定めた。

 

「光よ!!」

 

 凄まじい光弾が、現地トキへ向かって一直線に走った。

 

 だが――

 

「予測済みです」

 

 現地トキはわずかに体を傾けるだけで、その一撃を回避した。

 光弾は背後の建物を貫き、壁に大穴を開ける。

 

「えっ……!?」

 

「射線、発射タイミング、足運び。全て予測済みです」

 

 現地トキは淡々と言う。

 そして、再びガトリングを構えた。

 

「次はこちらです」

 

 アリスは慌てて遮蔽物の裏へ飛び込む。

 弾丸が壁を削り、破片が飛ぶ。

 アリスは息を整えながら、もう一度動き出した。

 

 右へ、左へ。

 遮蔽物から遮蔽物へ。

 

 隙を見つけて再び撃つ。

 だが、その全てが現地トキに読まれていた。

 

「そこです」

 

 アリスが飛び出す前に、現地トキの弾丸が進路を塞ぐ。

 

「こちらですね」

 

 アリスが狙いを変えた瞬間、現地トキはすでに回避行動を取っている。

 

「未来予知でもしているみたいです……!」

 

 アリスは悔しそうに歯を食いしばった。

 

「正確には未来予知ではありません」

 

 現地トキは冷静に答える。

 

「エリドゥの支援システムによる戦闘予測です」

 

「それはずるいです!」

 

「戦闘において、有効な支援を使うことは当然の事です」

 

「むぅ……!」

 

 アリスは再び飛び出した。

 スーパーノヴァを構え、至近距離から撃ち込もうとする。

 しかし、現地トキはそれすらも読んでいた。

 

「チャージ完了……」

 

 現地トキの肩部ユニットが展開する。

 両肩のレーザーキャノンに、青白い光が集まっていく。

 空気が震える。アリスは危険を察知し、咄嗟に近くの大きな瓦礫の裏へ飛び込んだ。

 だが、現地トキはその行動まで予測済みだった。

 

「発射」

 

 レーザーキャノンが放たれる。

 極太の光線が、アリスの隠れていた遮蔽物ごと貫いた。

 瓦礫が爆ぜる。

 衝撃が周囲を吹き飛ばす。

 

「きゃあああああっ!」

 

 アリスの体が宙に投げ出された。

 建物の壁を次々と突き破り、アリスは別の建物の中へと吹き飛ばされた。

 床を転がり、ようやく止まる。

 

「……っ」

 

 全身に痛みが走る。

 アリスは仰向けのまま、かすかに息を吐いた。

 視界の端に、スーパーノヴァが見えた。

 先ほどの攻撃で大きく損傷したのか、黒い煙を吐いて沈黙している。

 

「私の…光の剣が……」

 

 アリスは手を伸ばそうとした。

 だが、腕が震える。

 力が入らない。

 

「……」

 

 自然と、頬を涙が伝った。

 

「アリスは、自分のことを勇者だと思っていました……」

 

 声が震える。

 

「だけど、アリスは勇者でもなんでもない……」

 

 アリスは天井を見つめる。

 崩れた建物の隙間から、エリドゥの空が見えた。

 

「ただの……人だった……」

 

 涙が零れる。

 

「弱く、勇者でもないから…ここでゲームオーバーなんですか……?」

 

 その時だった頭の中に、声が響いた。

 

『アリス……聞こえていますか?』

 

「……誰ですか?」

 

 アリスは涙目のまま、周囲を見回す。

 誰もいない。だが、声は確かに聞こえている。

 

『私は……アリスの……えーと…従者です!』

 

「従者……?」

 

『はい。勇者には従者が付き物でしょう?』

 

「そうなのですか?」

 

『多分そうです。少なくとも今はそういうことにしてください』

 

「わかりました……」

 

『まぁ、私のことはあまり気にせずに』

 

 声は少しだけ早口になった。

 

『というか、何でそんな弱音を吐いてるんですか!?』

 

「だって……」

 

 アリスは小さく呟く。

 

「アリスは弱いから……」

 

『弱かったら勇者じゃないんですか?』

 

「えっ?」

 

『いいですか? 勇者とは、読んで字のごとく勇気のある者です』

 

 声は強く言った。

 

『どこに“強い者”と書いてあるのですか?』

 

「……」

 

『それに、ゲームの勇者も最初はみんなレベル1でしょう?』

 

「レベル1……」

 

『そうです。最初から最強の勇者なんて、チュートリアル破壊もいいところです』

 

「でも……」

 

 アリスは視線をスーパーノヴァへ向ける。

 

「あのトキは強いです。アリスの攻撃も避けられます。光の剣も使えなくなってしまいました……」

 

『今回戦っている相手は、ただのチーターです』

 

「チーター…?」

 

『エリドゥの支援を受けて未来予測じみた回避をしているのです。あれは実質チートです。運営に通報案件です』

 

「運営……?」

 

『細かいことはいいのです』

 

 声は少しだけ柔らかくなる。

 

『もし、ここから逆転できる可能性があると言ったら』

 

「……」

 

『アリスは、私を信じてくれますか?』

 

 アリスの瞳に、少しずつ光が戻っていく。

 涙を拭い呼吸を整える。

 

「……信じます」

 

『……よろしい』

 

 声は、少しだけ嬉しそうだった。

 

『では、私の力を貸しましょう。ただし今回だけの特別バージョンですからね!』

 

「特別バージョン……!」

 

『はい。では、私のセリフの後に――こう言ってくださいね』

 

 声が、アリスに言葉を教える。

 それは、聞いたことのない言葉だった。

 けれど、どこか胸の奥で響くものがあった。

 アリスは小さく頷いた。

 

「わかりました!」

 

 

 現地トキが、アリスの吹き飛ばされた建物へと歩いてくる。

 警戒は解いていない。

 だが、アリスのスーパーノヴァは沈黙している。

 今なら無力化できるとそう判断していた。

 

「アリス。これ以上の戦闘継続は不毛です」

 

 現地トキは静かに告げる。

 

「降伏してください!」

 

 その時、奇妙な光景が見えた。

 仰向けに倒れているアリスが、片腕を空へ伸ばしていた。

 何かを掴もうとするように。

 あるいは、空の向こうにある何かへ命じるように。

 

「……?」

 

 現地トキが眉をひそめる。

 アリスが口を開いた。

 

「アトラ・ハシースの箱舟、起動プロセスを開始します」

 

 現地トキには、アリスが何を言い出したのか分からなかった。

 

「何を……?」

 

「王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された――――」

 

 その瞬間、通信機からリオの声が響いた。

 

『トキ!!』

 

 切羽詰まった声だった。

 

『今すぐアリスを止めなさい!!!』

 

「了解!!」

 

 現地トキは即座に砲門を展開する。

 だが、一歩遅かった。

 

「名もなき神々の王女AL-1Sが承認します―――」

 

 アリスの声が、空間に響く。

 

「ここに新たな聖域(サンクトゥム)が舞い降りん―――!!!」

 

 宣言と同時に、辺りは強烈な閃光に包まれた。

 空気が震え、周囲の瓦礫が浮き上がる。

 現地トキは咄嗟に腕で視界を守った。

 

 数秒後。

 

 光が収まると、そこに立っていたアリスの姿は、変わっていた。

 

 白と濃紺を基調とした装甲。

 背中に展開された巨大な翼状ユニット。

 ブースターの光が青白く瞬き、両肩には大型の砲撃機構が備わっている。

 

 まるで、勇者が新たな装備を手に入れたかのようだった。

 アリスは自分の手を見下ろす。

 

「これは……?」

 

 頭の中の声が、得意げに言った。

 

『イチゴミルクとコーラに勝手に負担を押し付けて引っ張ってきたデータを再現した、アリスの新装備です!』

 

「イチゴミルクとコーラ……?」

 

『気にしないでください。たぶん怒られますが、今は非常事態です』

 

『さぁアリス、早速新装備の真骨頂を使って、空中戦と行きましょう!』

 

「!!」

 

 アリスの瞳に力が戻る。

 

「アリス、行きます!」

 

 背部ブースターが轟音を上げた。

 次の瞬間、アリスは空へ飛び立った。

 凄まじい速度で青白い軌跡が空に残る。

 

 現地トキはすぐに予測しようとする。

 

「エリドゥの予測補助を最大化」

 

 視界に複数の予測ラインが表示される。

 だが、アリスの機動が速すぎた。

 予測が追いつかない。

 線が何度も更新される。

 それでも遅い。

 

「……速い!」

 

 現地トキが呟いた瞬間、空からアリスの声が響いた。

 

「さっきのお返しです!!」

 

 アリスの両肩のレーザーキャノンが展開する。

 光が収束していき発射される。

 空から二本の光が現地トキへ降り注いだ。

 

「……っ!!」

 

 現地トキは咄嗟に横へ飛ぶ。

 なんとか直撃は避けた。

 だが、レーザーが地面を抉り、爆風と土煙が舞い上がる。

 視界が白く濁った。

 

「視界不良。センサー補正――」

 

 現地トキが視界を確保しようとした瞬間。

 土煙を突き破って、アリスが飛び込んできた。

 

「アリス突撃です!」

 

 それは体当たりだった。

 アリスの装甲が、アビ・エシュフへ正面からぶつかる。

 

「ぐっ……!」

 

 衝撃で現地トキの体が浮いた。

 アリスはそのまま現地トキを抱えるように押し込み、空へ向かって加速する。

 地面が遠ざかっていき建物が小さくなる。

 

 この状態では、エリドゥの予測補助も意味を成さない。

 距離も角度も速度も、めちゃくちゃに変化している。

 予測も、計算も、制御も、まるで追いつかない。

 

「この技は……!」

 

 アリスが叫ぶ。

 

「私にもどうなるかわかりません! 耐えてくださいね!!」

 

 現地トキは、一瞬だけ目を見開いた。

 そして、なぜか少しだけ笑った。

 

「……やっぱりあなたは勇者ですね」

 

 アリスは胸を張るように叫んだ。

 

「ライディーーーン!!!」

 

『それは格ゲーの技ですよ!!』

 

 頭の中の声が即座にツッコむ。

 

『モモイにボコボコにされたのを根に持ってたんですか!?』

 

「アリスは学習しました!」

 

『学習の方向性が変ですよ!!?』

 

 アリスは現地トキを抱えたまま、さらに加速した。

 ブースターが最大出力で唸る。

 空を裂くような速度で、二人は一直線に飛ぶ。

 

 一つ目のビルを突き破る。

 壁が砕け、書類や椅子が舞い上がる。

 

 二つ目のビルを突き破る。

 中にいた防衛ロボがびっくりしたように跳ね、そのまま目を回して倒れる。

 

 三つ目のビルを突き破る。

 ミレニアム生が「何か通ったー!」と叫んでいたが、幸い巻き込まれずに済んだ。

 

 そして、その進路の先にあったのは、中央タワー。

 要塞都市エリドゥの中枢。

 

 リオがいる最上階。

 アリスと現地トキは、最高速度のままタワーの外壁を突き破った。

 ガラス片がきらきらと舞う。

 

 壁に大穴が開き、最上階の部屋へと二人が転がり込む。

 床を滑り、机を吹き飛ばし、資料を舞い上げ、ようやく止まった。

 その部屋にいたリオは、目を見開いたまま硬直していた。

 

「……」

 

 アリスは瓦礫の中から顔を上げる。

 

「あっ!リオを発見しました!」

 

 そして、にっこり笑った。

 

「捕獲します!!」

 

 リオは震える声で叫んだ。

 

「どうして、こうなるのよ……!!?」

 

 その問いに答えられる者は、誰もいなかった。

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