新人先生はネタバレ生徒しか引けない   作:KuRoNia

40 / 40
新人先生、救護から逃げる

「救護ォ!!!」

 

 ミネが盾を構え、プールサイドを蹴った。

 その突撃は、もはや救護という言葉から連想される優しさとは真逆だった。

 轟音が辺りに響き、地面が震える。

 まっすぐに突っ込んでくるミネを前に、先生、現地ミカ、セイアは反射的に三方向へ跳んだ。

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「相変わらず馬鹿げた突進力だな!」

 

 ミネの盾がプールサイドの床を削る。

 直撃していれば、確実に数メートルは吹き飛ばされていただろう。

 セイアは着地しながら現地ミカへ叫んだ。

 

「ミカ! 武器は持ってきているか!?」

 

「先生と話すだけのつもりだったから持ってきてないよ!」

 

「変なところで気を使うな、能天気!」

 

「はぁーー!!?」

 

 現地ミカが若干キレた。

 

「セイアちゃん、今それ言う!?」

 

「今だから言うんだよ!」

 

 その間にも、ミネは再びセイアへ向き直っていた。

 先生や現地ミカにはほとんど目もくれない。

 あくまで目的はセイアの救護である。

 

「セイア様止まってください!」

 

「だから私はこの世界の私ではないと言っているだろう!」

 

「問答無用です! 安静が必要な者を放置するわけにはいきません!」

 

「君の救護はいつも激し過ぎる!」

 

 ミネが再び突撃してくる。

 セイアは咄嗟に横へ跳ぼうとした。

 だが、その前に現地ミカが動いた。

 

「させない!」

 

 現地ミカが横から全力でタックルを仕掛ける。

 狙いはミネの体勢を崩し、そのままプールへ叩き落とすこと。

 しかしミネは盾を構え、そのタックルを正面から受け止めた。

 衝撃音というには大きすぎる音が響く。

 

「この程度で私の救護を止めようなど、笑止千万!」

 

 ミネが高らかに叫ぶ。

 そして、じりじりと現地ミカを押し返し始めた。

 

「う、嘘でしょ!?」

 

 現地ミカが歯を食いしばる。

 

「重っ……! 力強っ……!」

 

 それを見ていたセイアが、目を見開いた。

 

「オイオイ、冗談だろう!?」

 

 セイアは戦慄したように叫ぶ。

 

「ミカはティーパーティーが開発した最強のB.O.Wだぞ!?」

 

「誰がB.O.Wだって!!?」

 

 現地ミカが叫ぶ。

 先生も困ったように言う。

 

「セイア、その言い方はどうなのかな」

 

「びっくりしたかい? でもこれが真実だ…」

 

「真実じゃないよ!?」

 

 現地ミカが押されながら怒鳴る。

 

「ふざけてないで何とかしてよ!!?」

 

 セイアは自分の細い腕を見る。

 そして、真顔で答えた。

 

「そんなことを言われてもね……。私のような華麗で華奢な病弱フォックスが、ゴリラとタイラントの間に入ったところで瞬殺だろう?」

 

「セイアちゃん、後で本当に殴るからね!!」

 

 現地ミカの声に本気が混じり始めた。

 先生は周囲を見回す。

 

「う〜ん、私が出て行っても役に立たなそうだし、どうしようか?」

 

「二人とも落ち着き過ぎぃぃ!!」

 

 現地ミカが悲鳴に近い声を上げる。

 

 その時、セイアはふと旧校舎の方を見た。

 普段、補習授業部が使っている教室。

 その窓際に、人影があった。

 ナギサ、ミカ、アツコの三人が、楽しそうにこちらを眺めていた。

 その様子は完全に観戦体勢である。

 

「オイ! そんなところで見てないで援護しろ!!」

 

「えぇ〜? それが人に頼む態度なの〜?☆」

 

 ナギサは優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「まだ余裕そうですし、もう少し眺めていてもいいかもしれませんね」

 

 アツコも静かに頷く。

 

「まだ援護するには早そうだね」

 

「君たち、全員あとで覚えていろよ!」

 

 セイアが叫ぶ。

 窓際では、ヒフミやアズサ、コハルもいた。

 ヒフミは明らかに心配そうだった。

 

「先生たち、大丈夫なんでしょうか!?」

 

 アズサも銃を手に取りかけている。

 

「援護した方がいいんじゃないか?」

 

 コハルも慌てていた。

 

「色々とヤバそうなんだけど!?」

 

 だが、ミカが三人を制した。

 

「こういう面白……じゃなくて、大事な場面に横槍を入れるのは野暮だよ」

 

「今、面白いって言いかけましたよね!?」

 

「今は見守るべき時です。たぶん」

 

「たぶん!?」

 

 ハナコは窓際からにこにこと手を振っていた。

 

「がんばってください、セイアちゃーん応援してますよ~」

 

「君が一番助ける気がないだろう!」

 

 セイアが叫ぶ。

 そして、先生の方へ振り返る。

 

「クソ! これだからシャーレにいる生徒は頭がおかしいって噂されるんだ! 先生もそう思うだろう!?」

 

 先生は少し考えた。

 

「それ、セイアが言っていいのかな?」

 

「私は別だろう!?」

 

「…そ、そうだね!」

 

 その間にも、ミネは現地ミカを押し返している。

 

「ミカ様も邪魔をするなら救護しますよ!」

 

「頼むから早くなんとかして〜!!!」

 

 現地ミカが必死に踏ん張りながら叫ぶ。

 

 セイアの脳内に、一つの作戦が浮かんだ。

 まともな作戦ではない。

 だが、今この場で使えるものは限られている。

 セイアは現地ミカへ声を飛ばした。

 

「ミカ!」

 

「何!?」

 

「もう少し耐えたら、ミネを解放していいぞ!」

 

「えぇ!?」

 

「私にいい考えがある」

 

「その言い方、絶対ダメなやつじゃん!」

 

「信じたまえ」

 

「どうなっても知らないからね!」

 

 現地ミカは歯を食いしばり、もう少しだけミネの突進を抑える。

 そして、セイアが旧校舎へ向かって走り出した瞬間。

 現地ミカは横へ跳んだ。

 支えを失ったミネの視線が、即座にセイアへ向く。

 

「セイア様!」

 

「付いてこい、ミネ!」

 

「私の言うことを聞いて止まりなさい!!」

 

「セカンドオピニオンしたい気分だ!」

 

 セイアは旧校舎の裏手の方へ向かって走る。

 その背後から、ミネが凄まじい勢いで追ってくる。

 先生と現地ミカも慌てて後を追った。

 

 旧校舎の裏口付近。

 セイアはタイミングを見計らい、跳んだ。

 扉の前を越えるように、身体を宙へ投げる。

 

 その直後。

 ミネが同じ場所へ踏み込んだ。

 カチリという小さな音が聞こえ、次の瞬間には地面が爆ぜた。

 

「ミネ団長!?」

 

 現地ミカが叫ぶ。

 先生も思わず足を止めた。

 爆発の規模は大きく、普通ならしばらく動けなくなる程度の威力はあった。

 セイアは少し離れた場所に着地し、服についた埃を払った。

 

「夜な夜なアズサがトラップを仕掛けておいてくれて助かった……」

 

 窓から見ていたアズサが小さく呟く。

 

「まさか役に立つとは……」

 

「仕掛けてたんですか!?」

 

 セイアは倒れているミネへゆっくり近づいた。

 

「悪いが、私はカルテには載っていないんだ」

 

 煙の向こうで、ミネは倒れていた。

 少なくとも、今は動いていない。

 先生と現地ミカも駆け寄ってくる。

 

「セイア、大丈夫!?」

 

「見ての通りだよ」

 

 セイアは軽く肩をすくめる。

 現地ミカもほっと息を吐いた。

 

「よかった……」

 

 だが、その時。

 現地ミカの視線が、セイアの膝に向いた。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「セイアちゃん、膝のところ怪我してるよ」

 

「……?」

 

 セイアは自分の膝を見た。

 確かに、軽い擦り傷ができている。

 ほんの小さな傷だった。

 その時、煙の向こうから、聞きたくない声がした。

 

「怪我……?」

 

 先生、現地ミカ、セイアの三人が同時に固まった。

 倒れていたミネの指が動く。

 

「救護が必要な場に……救護を!!」

 

 ゆっくりと、ミネが起き上がる。

 

「冗談だろ!?」

 

 セイアが叫ぶ。

 

「嘘でしょ!?」

 

 現地ミカも叫ぶ。

 

「スーパータイラント戦かな?」 

 

 先生は思わず呟いた。

 

「ミカが余計なことを言うからだぞ!」

 

「こんなことで復活するなんて思わないでしょ!?」

 

「それはそうだね」

 

 先生は素直に頷いた。

 よろよろと立ち上がったミネは、再びセイアを視界に捉えた。

 

「セイア様……大人しく救護を……」

 

「もうほとんど執念じゃないか!」

 

 セイアが思わず後ずさったその時だった。

 セイア達の後ろの階段から、軽い足音が聞こえてきた。

 

「ハイハイ、そこまでだよ〜☆」

 

 ミカが階段を下りてくる。

 先ほどまで窓から観戦していた彼女が、ようやく介入したのだ。

 

「ミネ団長も、少しは落ち着いた?」

 

 セイアの表情がぱっと明るくなる。

 

「クリス! 来てくれたのか!!」

 

 ミカの笑顔が固まった。

 

「誰がメンヘラゴリラだって?」

 

「同じようなものだろうに…」

 

「セイアちゃん何か言った!?」

 

「別に何も言ってないよ?」

 

 ミネは階段から降りて来たミカを見て、目を見開いて驚く。

 

「ミカ様が二人……?」

 

 現地ミカと募集ミカ。

 同じ顔をした二人が、ミネの視界に入る。

 さすがのミネも、ここで少し混乱した。

 セイアはこの機を逃さず説明する。

 

「混乱すると思うが、私は君が守っている私とは違う存在なんだよ」

 

「そうでしたか……」

 

 ミネは一瞬だけ考え込む。

 

「それならば、もっと早く言ってくれれば……」

 

「最初に言ったけどね!!!」

 

 セイアの叫びが旧校舎前に響いた。

 ミカは苦笑しながら、ミネの前へ立つ。

 

「まあまあ、ミネ団長。とりあえず落ち着こ? このセイアちゃんは、今すぐ救護対象ってわけじゃないからさ」

 

「ですが、怪我をしています」

 

「擦り傷だよ」

 

「擦り傷も立派な救護対象です」

 

「そこは間違ってないけど、なんで0か100でしか考えられないかな~?」

 

 先生はそのやり取りを見ながら、ようやく肩の力を抜いた。

 現地ミカも胸を撫で下ろす。

 セイアは膝の傷を見下ろし、深くため息を吐いた。

 

「まったく……もうこれ以上は勘弁してくれ…」

 

 ミカがケラケラと笑いながらセイアの失敗を指摘する。

 

「セイアちゃんが段ボールから出てこなければ、ここまで騒がしくならなかったと思うよ?」

 

「……」

 

「図星でしょ?」

 

「黙りたまえ」

 

 こうして、プールサイドから始まった感動的な告白と再生の場面は、ミネ団長の救護突撃によって爆発と追跡劇に変わり、最終的にミカの介入でどうにか収束した。

 なお、セイアの膝の擦り傷は、その後ミネによって念入りに救護された。

 本人は最後まで不満そうだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

あなたがトリニティでやってはいけない事リスト(作者:装甲アッサム春雨)(原作:ブルーアーカイブ)

キヴォトス最大規模の学園の一つにして、キヴォトス屈指のお嬢様学園であるトリニティ総合学園。▼そこは日々を麗しく華やかに過ごすお嬢様の楽園。▼しかし、そこの片隅では今日もなにやら必死なお説教とそれから逃げ回る声が?


総合評価:3541/評価:8.88/短編:15話/更新日時:2026年07月01日(水) 00:32 小説情報

憑依者しかいないゲマトリアがキヴォトスの破滅を回避しようとする話(作者:シャンタン)(原作:ブルーアーカイブ)

人の心を理解するがために、咄嗟に出る提案が原作より悪辣な黒服▼生徒を護りたい意志が強いが、製作できるのは怪物関連なマエストロ▼生徒を護るために崇高に至ろうとする、生徒第一なベアトリーチェ▼テクストが解釈ができず、原作兵器が作成できないゴルコンダ▼何事にもいち早く気付くが、そういうこった!!なデカルコマニー▼事態を把握しているが、ゴルコンダがいるため、表舞台に…


総合評価:5469/評価:8.59/連載:22話/更新日時:2026年06月29日(月) 17:31 小説情報

センセイモドキは先生を辞めたい(作者:ブルアカやったことない民)(原作:ブルーアーカイブ)

センセイモドキ……センセイオンナタラシに擬態することでキヴォトスに生息する数多の生物から危険を逃れている。センセイオンナタラシとの違いは▼・未成年である事(17歳)▼・ブルアカの知識を前もって持っている事▼・思春期をキヴォトスに生息する数多の生物に破壊されたことによる積極的なセクハラ言動


総合評価:4064/評価:7.98/連載:6話/更新日時:2026年07月04日(土) 07:00 小説情報

【青学三次】(自称)モブの日常掲示板(作者:掲示板物好き)(原作:ブルーアーカイブ)

キヴォトス転生者たちが好きなことして、少しやらかす話集です。▼本作はどくいも様の『青資秘密学園奮闘ログ』の三次創作となります。▼https://syosetu.org/novel/322798/


総合評価:3852/評価:8.57/短編:33話/更新日時:2026年07月02日(木) 20:00 小説情報

シロコに姉認定されるシロコ(転生者)(作者:フドル)(原作:ブルーアーカイブ)

 シロコに憑依転生しちゃったオリ主が原作知識で悲劇を回避しようとするけど失敗してしまい、捻れて歪んだ世界線でシロコ*テラーとしてなんやかんやあってからあまねく奇跡の始発点の世界線へ合流。▼ 体験したからわかる捻れて歪んだ世界線での苦しみを他の世界線のシロコに味わって欲しくない……。そうだ、向こうのシロコを強くしよう‼︎▼ そんな思いつきでオリ主はシロコのもと…


総合評価:9730/評価:8.83/短編:2話/更新日時:2026年02月09日(月) 18:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>