RABBIT小隊が公園からシャーレへ連れて来られて、およそ一時間後。
先生から自由に使っていいからね~、と言い渡されたフロアの一室で、ミヤコ、サキ、モエ、ミユの四人はテーブルを囲んでいた。
警戒しているからかまだ荷物はほとんど解いていない。
そもそも四人とも、ここへ長く滞在するつもりなどなかった。
「……では、今後の方針を確認します」
ミヤコが真剣な表情で口を開く。
「まず、先生とシャーレについて情報を集めます」
「賛成だ」
サキが即座に頷いた。
「あの先生、どう考えても怪しい」
「私たちを勝手にシャーレ預かりにして、公園占拠の責任まで自分で背負うなんて普通じゃない」
「だよね~」
モエも椅子へ背中を預ける。
「私たちを助けたように見せて、後から何かやらせるつもりかもしれないし」
「その可能性もあります」
ミヤコも否定しない。
「先生は私たちをシャーレ所属にすることで、好きなように使える駒にしようとしているのかもしれません」
「あ、あの……」
ミユがおそるおそる手を上げた。
「でも先生……そんなに悪い人には見えなかったような……」
三人の視線が一斉にミユへ向く。
「ひっ」
ミユは小さくなる。
「い、いえ……何でもありません……」
ミヤコはミユを責めることはせず、再び話を続けた。
「だからこそ、自分たちで確認します」
「直接本人に聞いても、本当のことを話す保証はどこにもありません」
「なら、先生の周囲にいる人たちから情報を集めるほかありません」
「そうと決まればさっそく動くか?」
サキが頷く。
「今は先生がどういう人物なのか、少しでも情報が欲しい」
「賛成~」
モエも楽しそうに笑った。
その時。
「皆さん、随分と物騒なお話をしていますね」
部屋の片隅から、ニコの声が聞こえた。
ニコとクルミも、先生からしばらくRABBIT小隊と同じフロアを使うよう言われていた。
「私たちも同行していいですか?」
「先輩たちも?」
「私たちも、このシャーレの今の状況までは詳しく知りませんからね」
クルミも腕を組む。
「まあ、私も気になるし」
「この前……じゃなくて、ついさっき来たばかりだもの」
「先生が今どんな人たちと関わってるのかくらいは確認しておきたいわ」
「では、一緒に行きましょう」
こうしてRABBIT小隊によるシャーレ内部の調査が始まった。
◆
部屋を出て、最初に目へ入ったのは隣のフロアだった。
「そういえば、先ほどから人の出入りがありますね」
ミヤコが扉を見る。
「シャーレ所属の生徒でしょうか?」
「確認してみよう」
サキが一歩前へ出るとタイミング良く内側から扉が開いた。
「ふふん! 今日も便利屋68の活動開始よ!」
最初に現れたのは、赤いコートを羽織った少女。
その後ろから三人の生徒が続いてくる。
「アルちゃん、今日は依頼あったっけ?」
「これから見つけるのよ!」
「それを活動開始と言っていいのかな」
「アル様が活動開始と仰るなら、活動開始です!」
「……」
RABBIT小隊の四人が観察していると向こうもこちらに気が付いた。
「…どなた?」
先頭に居た少女――アルが首を傾げた。
「一時的に隣のフロアを借りている者です」
「SRT特殊学園RABBIT小隊、月雪ミヤコです」
「同じく、空井サキだ」
「風倉モエで~す」
「か、霞沢ミユです……」
「SRT?」
アルが首を傾げて考えている一方で、ニコとクルミは四人を見ながら記憶を探っていた。
ニコが呟くようにクルミに耳打ちする。
「あれは確か……ゲヘナの便利屋さんでしたっけ?」
「そうだったと思う」
「便利屋68……よね?」
その言葉を地獄耳で聞き取ったアルが、勢いよく胸を張った。
「その通り!」
「ゲヘナでも名の知れたアウトロー集団!」
「便利屋68とは私たちのことよ!」
「アウトロー……!?」
ミヤコの警戒心が一段上がった。
「なぜゲヘナのアウトロー風情が、シャーレのフロアを使用しているのですか?」
「ふっ」
アルは待っていましたと言わんばかりの表情を浮かべる。
「決まっているでしょう?」
「先生が、私たちほど優秀な人材を手元へ置いておきたいと判断したのよ!」
アルの宣言を聞いていたムツキが後ろでニヤニヤ笑い始めた。
「え~?」
「な、何よ、ムツキ室長?」
「本当にそうだったっけ~?」
「そうに決まってるわよ!」
「先生が私たちの才能を見抜いて――」
「私たちがテントで生活してたところを先生に見つかったんじゃなかったっけ?」
「…………」
アルの表情が固まった。
ムツキはケラケラ笑いながら続ける。
「それで先生から『そんなところで寝てないで、シャーレに空いてる部屋あるから使いなよ』って言われて、そのままなし崩し的に使い始めたんだよね~」
「ムツキぃぃぃ、なんで本当の事を言っちゃうのよ!!」
「社長、自白しちゃってるよ」
「!?」
「先生は、私たちを助けてくださったんです……!」
ハルカだけは真剣な表情だった。
「アル様が雨風に晒されることのないように……!」
「お願いだから、それ以上惨めな説明にしないで!」
アルが頭を抱える。
「……」
ミヤコたちは顔を見合わせた。
つい一時間ほど前。
自分たちも先生から、ほとんど同じことを言われた。
「一つ聞いてもいいですか?」
「あなた達から見て先生は、どのような人物ですか?」
「先生?」
アルは腕を組む。
「頼りになる大人よ!」
「放っておくと危なっかしいけどね」
カヨコが続ける。
「面白い人だよ~」
ムツキは笑った。
「とても優しい方です……!」
ハルカも迷わず答える。
「ちょっと!」
アルが三人を見る。
「なんで私だけ一番普通なのよ!」
「アルちゃんらしくていいじゃん」
「そういう問題じゃないわよ!」
RABBIT小隊はそのやり取りを無言で観察する。
誰も先生へ悪感情を持っているようには見えない。
だが、それだけで先生を信用する理由にはならない。
ミヤコはメモへ短く書き込んだ。
『便利屋68――先生から住居を提供された』
◆
次は、自分たちのフロアを挟んだ反対側。
扉へ近づくと、中から声が聞こえてきた。
「ヒヨリ!」
「また荷物が増えているぞ!」
「ち、違うんですサオリ姉さん!」
「これは必要な物なんです!」
「その袋いっぱいの菓子がか!?」
「こ、これは~…そ、そうです。いざと言う時の非常食です!」
「その言い訳は昨日も一昨日も一週間前も聞いたぞ!!」
「うわぁぁぁぁん!!」
勢いよく扉が開くとそこから大きな袋を抱えたヒヨリが飛び出してきた。
「きゃっ!?」
ミヤコとぶつかりかけ、慌てて止まる。
「す、すみません!」
その後ろから現地サオリが姿を現した。
「ヒヨリ、急に飛び出すな危ないだろう!」
「はいぃ……」
続いてミサキ、現地アツコも部屋の奥から顔を出す。
「うちの者がすまなかったな……見ない顔だが新顔か?」
ミヤコ達に気が付いた現地サオリが尋ねる。
「今日から隣のフロアを借りています。RABBIT小隊です」
「そうか」
現地サオリはそれだけ答えた。
ミヤコは室内を観察する。
サオリの周囲には、必要最低限の荷物しかない。
きちんと整理され、いつでも撤収できそうな程度。
対してミサキのスペースには本やくまのぬいぐるみ。
現地アツコのスペースには花瓶にキレイな花が一輪、机の上には整備中だったのか武器が分解されて置いてある。
ヒヨリのスペースには大量の菓子や食料に少し古い型の冷蔵庫が二台…明らかに、周りの三人の方に遠慮する気がないように見える。
「ここは皆さんの部屋なのですか?」
「少し借りているだけだ」
「エデン条約が成立して以降、外の世界を知るために情報の集まるシャーレへ来ることが増えた」
「そうしたら先生から『しばらくいるなら、このフロア使っていいよ』と言われ、その言葉に甘えさせてもらっている」
「なるほど」
ミヤコが頷く。
その視線が、二台の冷蔵庫へ向く。
「随分と使い込んでいるようですが」
「……私もそう思う」
サオリがヒヨリを見る。
「先生が好きに使っていいって言ったんですよ!?」
「物を無限に増やしていいとは言われていない!」
「でも冷蔵庫も置いてくれましたし!」
「それは一台目までだろ!!」
ミサキが呆れ気味に言う。
「ヒヨリが二台目まで増やした時点で、それはもう自分の部屋だと思う」
「そんなぁ!?」
現地アツコは我関せずといった様子で机に向き直り、銃の整備を再開していた。
「ニコ先輩」
ミヤコが小声で尋ねる。
「彼女たちをご存じですか?」
「いいえ」
ニコは素直に首を横へ振る。
「私も知らないわ」
クルミも同様だった。
「……先生の周り、知らない子ばっかりなんだけど」
「まぁ賑やかでいいじゃないですか」
「そういう問題?」
ミヤコは現地サオリへ向き直る。
「一つ質問があります」
「何だ?」
「先生とは、どのような関係ですか?」
現地サオリは、ほとんど迷わなかった。
「恩人だ」
「……それだけですか?」
「ああ」
「何かあったんですか?」
サキが尋ねる。
「……色々あった」
どうやら現地サオリはそれ以上説明する気はないらしい。
「先生は信用できますか?」
というミヤコの質問には。
「できる」
即答した。
「……」
ミヤコは再びメモへ記録する。
『所属不明の四人組――先生を恩人と認識』
まだ、判断材料としては足りない。
◆
さらにシャーレ内部を歩く。
次に一行がたどり着いたのは、共用の休憩スペースだった。
扉を開けるとそこは想像していたよりも広かった。
大きなソファ。
複数のテーブル。
ゲーム用の大型モニター。
簡単なキッチンに冷蔵庫。
そして複数の生徒が思い思いの場所で過ごしている。
ミヤコは無意識に周囲を確認した。
入り口は一つ窓が複数、遮蔽物になる家具。
室内にいる人数に各人の装備、視線、位置関係。
瞬時に頭の中で情報を整理し終えたミヤコは表情を変えずに心の内で思う。
――この程度の空間なら。
――私一人でも制圧できそうですね……。
もちろん、口には出さない。
だが、その少し後ろからニコとクルミは、ミヤコのその微妙にドヤっている横顔を見ていた。
「……」
「……」
二人の表情が僅かに引きつる。
ニコには覚えがあった。
――あの顔、絶対に室内の戦力分析をしていますねぇ……。
クルミも同じことを察していた。
――たぶん『私一人でも何とかなる』とか考えてるわよね、この子……。
そして二人には、もう一つ見えていた。
ミヤコが入り口を確認している、その一瞬視線が外れたタイミングでゲーム画面を見ていた臨戦トキの視線が、ほんの僅かにミヤコへ向く。
ミヤコが臨戦トキを見る頃には、既にその視線はゲーム画面へ戻っている。
サキがテーブルへ視線を向ける。
ナギサとミカが楽しそうに会話しながらティーカップを持ち上げる直前、ほんの一瞬だけRABBIT小隊全員の位置を確認していた。
モエが窓を見る。
掲示板を見ていた臨戦ホシノの腕が僅かに動き、両手をフリーにする。
ミユが掲示板の方を見る。
アツコが笑顔のまま、四人の行動を視界へ収め続けている。
RABBIT小隊が誰かを見るたび。
その相手は何事もなかったように別のことをしている。
だが、RABBIT小隊が視線を外した瞬間。
必ず誰かが四人を観察していた。
「……」
ニコの笑顔がさらに引きつった。
――気づいて~!
――ミヤコちゃんたちが視線を外した瞬間、きっちり動向を監視されていますから~!
隣のクルミも心の中で叫ぶ。
――ミヤコ!
――あんたたちじゃ逆立ちしたって勝てないから!
――この部屋にいる奴らが、全員普通じゃないって気づけ!
だが当のミヤコは全く気づいていない。
むしろ、
――制圧後は窓側を確保すれば有利ですね。
などと冷静に考えていた。
ニコとクルミは顔を見合わせる。
そして何も言わず、そっと首を横に振るのだった。
「そこ、右ですよ」
「……分かっているさ」
ゲーム画面から声が聞こえる。
「何だ?」
するとゾンビが角から飛び出してきた。
「うわっ!」
セイアの操作するキャラクターが噛みつかれる。
ゲームオーバー。
「……スッーーー」
セイアは無言でコントローラーを置いた。
隣のアツコが笑う。
「また死んじゃったね」
「今のは不意打ちだ」
「敵の配置は先ほど確認していませんでした?」
臨戦トキが淡々と指摘する。
「君たちは観戦するだけだから好き勝手言えるのだよ!」
「ナイフで行けば良かったのに」
「それで君は先ほど三回死んだだろう」
「あはは、そうだっけ? 自分が負けた時はすぐに記憶から消去してるから覚えてないや」
「相変わらずいい性格だよ君は…」
ミヤコたちはセイア達の後ろで立ち止まり話しかける。
「……何をしているんです?」
「見れば分かるだろう?」
セイアが振り返る。
「初代のハードでゾンビを倒している」
「……そうですか」
サキが室内を見回す。
「随分と気の抜けた場所だな」
「サキちゃん……」
ニコが小声で呟いた。
クルミも引きつった笑みのまま、
「知らないって幸せよね……」
少し離れたテーブルでは、ナギサ、ミカ、水着サオリが紅茶を飲んでいる。
「セイアちゃん、また死んだ~☆」
ミカが楽しそうに笑う。
「ミカさんも先ほど四回ゲームオーバーになっていたでしょう」
ナギサが指摘する。
「あれは操作性が悪いのがいけないの!」
「あーはいはいそうですねー」
「ムカツク~☆」
水着サオリは我関せずとばかりに紅茶を口へ運びながら呟く。
「平和だな……」
RABBIT小隊は少し困惑する。
先ほどまで警戒されていたことなど、当然気づいていない。
ミカが四人へ気づいた。
「あれ? さっきニュースで公園にいた子たちだよね?」
「あっ…はい」
「月雪ミヤコです」
「ミヤコちゃんか~、私は聖園ミカだよ。よろしくね~☆」
ミカは軽く手を振る。
ミヤコは、ここでも同じ質問をする。
「皆さんは、先生をどのような人物だと思っていますか?」
「先生ですか?」
ナギサがティーカップを置く。
「誰よりも生徒を優先する方です」
「凄く頼りになる私の王子様かな~?」
ミカが笑顔で答える。
「……王子様?」
「そうだよ」
「……」
ミヤコは少し引いた。
セイアもゲームを一時停止する。
「良くも悪くも、我々の予想を超えてくる人だね」
「優しい人だよ」
アツコも続ける。
「甘すぎるところはあるが、信用できる」
水着サオリも迷わない。
「そういえばあなた達さっき下のフロアに居ませんでした……?」
「あぁ…知らないのか…」
「まぁそのうち先生が説明してくれるから気にしないでいいよ」
「……わかりました?」
そうしてミヤコは再びメモを取る。
全員、言っていることは違うが――
「誰も……先生を悪く言わないんですね」
ミユが小さな声で呟いた。
ミヤコのペンが一瞬止まる。
「……そのようですね」
だが、それだけで信用するつもりはない。
むしろここまで全員が先生を信頼していること自体が、ミヤコには少し不気味に思えた。
「これは何でしょうか?」
次にミヤコたちが足を止めたのは、大きな掲示板だった。
大量の紙が貼られている。
『迷子のペットを探してください』
『荷物運びの助っ人募集』
『最近近所に不良生徒が集まって困っています』
『落とし物を探しています』
『護衛依頼』
『銀行警備の人員募集!』
『アルテリア・カーパルス占拠』
「……なんだこれ?」
サキが首を傾げる。
「こんな依頼までシャーレへ来るのか?」
「そりゃあ来るよ~」
声の方を見る。
臨戦ホシノ、シロコテラー、ケイの三人が掲示板を眺めていた。
「困ってる人から頼まれると、先生は大体引き受けちゃうからねぇ」
臨戦ホシノが答える。
「その結果、仕事量が増え続けていますけどね」
ケイは呆れ気味だ。
「先生は断るのが下手くそだから」
シロコテラーも頷く。
「ん、誰もやらないなら私はこれにする」
シロコテラーが一枚の紙を取る。
『銀行警備の人員募集!』
「ダメです」
ケイが即座に取り上げた。
「なんで?」
「警備以外の目的があるでしょう」
「銀行の内部構造を確認するだけだけど…?」
「やっぱり!」
「おじさんたちはこっちにしようか」
臨戦ホシノが別の紙を取る。
『迷子のペットを探してください』
「こっちなら平和だよ」
「私の方も銀行の平和を守る立派な仕事!」
「あなたが行くと数日後に平和ではなくなりますよね!?」
ミヤコは三人を見た。
「あなたたちも先生と親しいのですか?」
「まあねぇ、先生は信用していい人だよ」
臨戦ホシノが答える。
「先生は先生」
続けて答えたのはシロコテラー。
「生徒を見捨てる可能性は極めて低いです」
ケイも続ける。
「では、先生の悪いところは?」
ミヤコが尋ねる。
「自己管理能力です」
ケイが即答。
「危機管理かなぁ?」
臨戦ホシノも答える。
「銀行強盗部を認めてくれない所」
「それは先生が全面的に正しいですね!」
「……」
ミヤコはメモへ、
『自己管理能力に問題あり』
『危機管理能力にも問題あり』
と書き込んだ。
◆
シャーレへ来てから、まだ二時間も経っていない。
それでもRABBIT小隊が持つ情報は、かなり増えていた。
一行は一旦、自分たちのフロアへ戻る。
「整理します」
ミヤコはノートを開いた。
「先生について確認できたこと」
「困っている生徒へ住居を提供する」
「所属学園をほとんど気にしない」
「シャーレへ来た小さな依頼まで引き受ける」
「多くの生徒から非常に高い信頼を得ている」
「自己管理能力には問題がある」
「危機管理能力にも問題がある」
「あと、周りに変な生徒が多い」
モエが追加した。
「それは先生本人の情報なのか?」
サキが呆れる。
「でも事実でしょ~?」
「……否定はしないが」
ミヤコはノートを見る。
「調査した結果……余計に分からなくなりました」
「えぇ~?」
ミヤコは少し眉を寄せる。
「ゲヘナの便利屋へ部屋を貸す」
「私たちの知らない生徒たちにも部屋を貸す」
「様々な学園の生徒が自由に出入りしている」
「仕事も迷子探しから治安問題まで、ほとんど選ばず引き受けている」
「その上、周囲の生徒からは異常なほど信頼されている」
「普通の大人とは思えません」
「そう羅列されると…怪しいよな?」
「何か裏があると考えるべきだ」
モエは笑う。
「でもさ~私たちを利用するためだけに部屋を貸したっていう線は、ちょっと弱くなったんじゃない?」
「……」
ミヤコは答えない。
便利屋68にも。
現地サオリたちにも。
先生は同じように部屋を貸している。
ならば自分たちだけが特別に利用されようとしている、という仮説は少し弱くなる。
だからといって信用する理由にはならない。
そんな中ミユが小さく手を上げる。
「わ、私は……やっぱり……悪い人じゃないと思います……」
サキがミユを見る。
「ミユ」
「ひっ」
「まだ判断するには早い」
「そ、そうでしょうか……?」
ミユはしょんぼりと手を下ろした。
ニコがそんな四人を見ながらクスクス笑う。
「随分と警戒していますね~」
「当然です」
ミヤコは即答した。
「先生を信用したわけではありません」
「つい先ほどまで、私たちは先生と敵対する側にいました」
「その大人から突然、今日からシャーレ所属だと言われたのです」
「警戒しない方がおかしいでしょう」
「それはそうですね♪」
ニコも否定しなかった。
クルミも腕を組む。
「まあ、ゆっくり確認すればいいんじゃない?」
「信用するにしても、しないにしても」
「自分で見て決めればいいわよ」
ミヤコは小さく頷いた。
その時部屋の扉が開いた。
「みんな、居るかな?」
現れたのは先生だった。
手には大量の書類を抱えている。
「先生」
「シャーレを見て回ってたんだってね」
「……はい」
「何か困ったこととかあった?」
「ありません」
ミヤコが即答する。
「ご飯とか必要なら言ってね」
「必要ありません」
「タオル足りてる?」
「足りています」
「シャワーの使い方分かる?」
「私たちを幼児か何かと勘違いしてませんか!?」
「あはは、ごめんごめん」
先生は満足そうに頷く。
「じゃあ、何かあったらすぐ呼んで」
「私は報告書を書かないといけないからさ」
「報告書?」
サキが反応する。
「カンナに提出するって約束したでしょ?」
「今日中に大体まとめておこうと思ってね!」
「……」
RABBIT小隊が少し黙る。
本当に書くつもりらしい。
「では、また後でね」
先生が出ていこうとする。
「先生」
ミヤコが呼び止めた。
「ん?」
「なぜそこまで私たちへ構うんですか?」
「住む場所を貸して、公園占拠の責任を引き受け」
「ヴァルキューレへの報告まで先生が行う」
「私たちから何を引き出すつもりですか?」
「別に何も?」
「……」
「生徒が困ってたから手伝ってるだけだよ」
「それだけですか?」
「それだけ」
先生は笑う。
「近い内に時間を作るから、その時にまた話を聞かせてくれるとうれしいな。じゃあ私は仕事に戻るね」
そのまま部屋を出ていった。
「……」
静かになる。
「ほら……」
ミユが小さな声で言う。
「悪い人じゃないと思うんですが……」
「まだです」
ミヤコは即答した。
「まだ判断できません」
サキも頷く。
「言葉だけなら、何とでも言える」
「もう少し様子を見るべきだ」
「だね~」
モエも軽く笑った。
だが最初にこの部屋へ入った時より。
三人の声から、ほんの僅かだけ棘が抜けていることに。
本人たちは、まだ気づいていなかった。
◆
同じ頃。
シャーレから少し離れた場所の静かな店の奥で。
一人の男が、向かいに座る少女を見つめていた。
「……それで」
元カイザーPMC理事は警戒した様子で口を開く。
「わざわざ私を呼び出した理由はなんだ?」
「そう警戒しないでください」
少女――不知火カヤは穏やかに笑う。
「少し、お聞きしたいことがありまして」
「何だ?」
「最近のシャーレについてです」
元理事の目が僅かに細くなる。
「先生の周りには、随分と興味深い生徒たちが集まっているようですね」
「ゲヘナ」
「トリニティ」
「アリウス」
「そして――」
カヤは小さく笑った。
「今度は、閉鎖されたSRT特殊学園のRABBIT小隊までシャーレ預かりになったとか…」
「……情報が早いな」
「私も連邦生徒会の人間ですからね」
「それで?」
元理事の声が僅かに低くなる。
「あの若造に何か仕掛けるつもりなのか?」
「いいえ、何も」
カヤは即答した。
そして僅かに間を置く。
「――今は、ですが」
「……」
元理事はカヤから目を逸らさない。
カヤも笑顔を崩さない。
静かな店内で二人の間だけに、張り詰めた空気が流れていた。