カヤとの面談の数日後、シャーレの共用キッチンでは、ニコが朝食の準備をしていた。
炊き立てのご飯に甘辛く煮た油揚げ。
それらを慣れた手つきで包んでいく。
「よし、こんなものですね」
皿の上には綺麗に並べられた大量のお稲荷さん。
その横ではクルミがいちご牛乳を飲みながら見ていた。
「相変わらず作りすぎじゃない?」
「シャーレには人が多いですからね」
「まあ、余ることはなさそうだけど」
そんな他愛のない会話をしていると。
「おはよ~」
先生が眠そうな顔でキッチンへ入ってきた。
「おはようございます、先生♪」
「おはよう~」
クルミも軽く手を上げる。
先生は完成したお稲荷さんを見る。
「美味しそうだね」
「先生も食べますか?」
「後でもらおうかな~」
先生は何かを思い出したようにニコを見る。
「あっ、そういえばニコに聞きたい事があるんだった!」
「なんですか?」
「前に言ってたさ、連邦生徒会長の空席を狙ってる、ピンク頭でヤギ目の子ってカヤの事?」
ニコが笑顔のまま固まった。
「先生、朝ご飯まだですよね♪」
「え?」
ニコが素早くお稲荷さんを一つ掴む。
「はい、あーん♪」
「むぐっ!?」
そのまま先生の口へ突っ込んだ。
「…………」
クルミが呆れた顔でニコを見る。
「露骨すぎない?」
「何がですか?」
「今のどこに誤魔化す気があったのよ」
先生は口いっぱいのお稲荷さんを何とか飲み込む。
「お、美味しい」
「ふふ、ありがとうございます♪」
「いや、それでさカヤってさ――」
「もう一つどうぞ♪」
「むぐっ!?」
クルミが思わず突っ込む。
「はぁ、何個食べさせるつもりなのよ」
「先生も育ち盛りですからね、いっぱい食べてください」
「先生は大人でしょ!」
再びお稲荷さんを飲み込んだ先生が、じっとニコを見る。
「やっぱりカヤのこと知ってるよね?」
「いいえ…?」
「絶対知ってるよね!?」
「はて…?」
「すごい目が泳いでるよ!?」
「そんなことありませんよ?」
先生は今度はクルミを見る。
「クルミはどう?」
クルミの肩が跳ねた。
「えっ!?わ、私も知らないわよ!」
「……怪しい」
「何でよ!?」
先生は二人を交互に見る。
明らかに何か知っている。
「うーん……」
ニコとクルミが僅かに身構えた。
「まあいいか」
「「え?」」
二人の声が重なる。
「今すぐ聞かなきゃいけないことでもないし」
「そのうち教えてね」
「……善処します」
「私は何も知らないんだからね!」
クルミは最後まで否定していた。
そうして先生がキッチンから出ていき、その背中が見えなくなった瞬間。
「……危ない所でした」
ニコが小さく息を吐いた。
「全然誤魔化せてなかったけどね」
「しかし、まさかもう防衛室長と会っていたとは」
「先生、行動早すぎない?」
「本当に油断できませんねぇ」
その時。
「何の話?」
「「うわっ!?」」
先生がひょこっと顔を出した。
「水分取りに来ていたのをすっかり忘れたよ」
「驚かせないでよ!」
「ごめんごめん」
「それで私が出て行ってから何の話してたのかな~?」
「何でもありませんよ?」
「何でもない!」
「あはは、やっぱダメか~!」
先生は笑いながら今度こそ去っていった。
「……」
「……」
「相変わらず勘がいいんだか悪いんだか分からないわね」
「そこも先生らしいですね」
◆
朝の出来事からしばらく経ったお昼前にシャーレへ一本の連絡が入った。
「ヴァルキューレから?」
先生は執務室で端末を見ながら眉を寄せる。
「待たせてごめんね、こちら連邦捜査部シャーレの先生だけど何かあったの?」
『あっ先生ですか!?』
画面の向こうにはカンナが映っていた。
『急な連絡申し訳ありません。現在、市街地の商業施設へ武装した不良集団が立てこもってまして』
『内部には複数の一般市民が取り残されており、人質にされている可能性が高いんです』
「それはまずいね」
『正面から突入すれば、人質へ危害が及ぶ危険がありまして』
『そこで以前、連邦生徒会が期待されていた先生の指揮を今一度お借りしたくて連絡させていただきました』
「なるほど…分かった、すぐにみんなを連れて現場に行くね!」
『お待ちしております!』
通話を終えて先生は勢いよく立ち上がり執務室から、いつもみんなが居る共用スペースに向かう。
「……あ」
ただ、そこには誰も居なかった。
普段なら誰かしらいるはずなのだが。
今日は運悪く募集組の多くが、溜まっていた依頼を片付けるため朝から外で活動をしている事を思い出した。
元理事が、溜まりに溜まった依頼の山を見て、ついに堪忍袋の緒が切れて
『暇な奴はこの溜まった依頼を片付けて来い!!』
とまとめて送り出した結果である。
「こんな日に限ってみんな出払ってる……」
そんな中後ろから声を掛けられる。
「何かあったんですか?」
振り返るとそこにはニコとクルミ。
さらに二人の後ろにはミヤコたちも不思議そうな顔でこちらを見つめていた。
「良かった! ちょっと立てこもり事件があったみたいなんだ!」
「カンナが言うには人質も居るかもしれないんだ!」
ミヤコたちの表情が変わる。
「……これから現場に行くんですか?」
「そうだね、すぐに向かおうと思っているよ」
「それで…ごめんなんだけど…ニコとクルミには一緒に来てもらおうかなって」
「はい、分かりました!」
「分かったわ、すぐに行くわよ!」
先生はミヤコたちを見て、なるべく不安がらない様に優しく笑いかけた。
「みんなはここに残ってていいからね」
「……は?」
ミヤコが僅かに目を見開いた。
「私たちは?」
「大丈夫、君たちはここで待機してて」
「何故ですか?」
「え、だって、まだ私のこと信用出来てないでしょ?」
「……」
「無理矢理連れて行くのも違うと思うし」
「ニコとクルミもいるから、何とかなると思う」
「…では」
ミヤコの声が少し低くなる。
「私たちをシャーレ所属にしたのは、戦力として使うためでは無いのですか?」
「違うけど?」
「……」
「この前も言ったでしょ」
「困ってたから、とりあえず預かっただけだって」
「必要になったら命令して使うつもりだったわけじゃないよ」
ミヤコは先生の顔を見る。
嘘を言っているようには見えない。
その時、先生の端末に追加情報が届いた。
「クソ……人質の中に小さい子も居るらしい」
「!」
四人の空気が一変した。
「先生!!」
ミヤコが一歩前へ出る。
「私たちも行きます」
「いいの?」
「勘違いしないでください」
ミヤコはいつもの冷たい表情へ戻る。
「先生に協力するわけではありません」
「助けを求めている市民を見捨てることは、私たちの正義に反します」
「そっか、じゃあ少しの間ミヤコ達の力を貸してもらうね!」
ニコが少しだけ嬉しそうに微笑む。
クルミも腕を組みながら頷いた。
「なら早く準備しなさい」
「人質がいるなら一分一秒が大事なんだから」
「了解!」
ミヤコが答える。
その声には、出会った時とはまるで違う力が戻っていた。
◆
事件現場に到着すると緊張した張り詰めた空気を感じ取る。
商業施設の周囲にはヴァルキューレの車両が並び、規制線が張られていた。
「先生!」
カンナが駆け寄ってくる。
「来ていただきありがとうございます!」
「状況はどんな感じ?」
「犯人は確認できているだけで七名」
「建物内部に一般市民が十数名取り残されています」
「要求は?」
「現金と逃走用車両です」
カンナはそこで先生の後ろを見る。
「……」
RABBIT小隊と半FOX小隊。
「先生!何故、公園を占拠していた生徒たちがここにいるのですか?」
「手伝ってくれるって」
「先生に協力するためではありません」
ミヤコが即座に訂正する。
「市民を助けるためです」
「……そうか」
カンナは少し複雑な表情を浮かべたが、それ以上追及しなかった。
今は人質が最優先だからだ。
「建物正面は完全に監視されています」
カンナが地図を広げる。
「こちらが近づけば、犯人が人質へ危害を加える可能性があります」
「裏口は?」
「一つありますが、こちらも一名が警戒しています」
「窓は?」
「二階と三階に複数」
ミヤコは地図を見る。
「先生」
「うん?」
「一つ提案があります」
「聞かせて」
ミヤコが建物を指差す。
「ヴァルキューレには正面で交渉を続けてもらいます」
「犯人の注意を可能な限り正面へ集中させてから、その間に私たちが裏手から侵入します」
「ミユ」
「は、はい」
「高所から内部を監視、犯人の位置と人質の位置を特定したら報告してください。その後は狙撃待機」
「分かりました」
「モエは退路と監視カメラを無効化してください」
「爆破していい?」
「駄目です」
「え~」
「人質がいます」
「じゃあちょっとだけ」
「駄目です!」
「先生~」
「私もミヤコと同じ意見かな」
「二人から怒られた~」
モエが残念そうに肩を落とす。
「サキは私と一緒に内部へ」
「了解」
「ニコ先輩とクルミ先輩は?」
「私たちは先生の援護ですかね?」
ニコが答える。
「もちろん何かあった時のバックアップはきちんとしますから安心していいですよ」
クルミが先生を指差す。
「あと私は先生を見張る」
「私?」
「勝手に前へ突っ込んで行かないようにね!」
「出ないって」
「いつもの行動で完全に信用できないのよ!」
「会ってまだ数日くらいなのに!?」
「だから余計に信用できないの!」
カンナがそのやり取りを見ながら僅かに眉を動かした。
随分と馴染んでいる。
「それで」
先生がミヤコを見る。
「ミヤコはどう動く?」
「私が全体を確認しながら先導します」
「サキと人質のいる区画まで突破」
「ミユからの情報を受けて、その都度判断します」
「うん、わかったよ」
先生は頷いた。
「私もそれがいいと思う」
「ただ、ちゃんと突入のタイミングはカンナに伝えようね」
「……分かりました」
ミヤコが先生を見る。
てっきり先生が全ての指揮権を奪うと思っていた。
だが先生は違った、自分の作戦を聞いて否定せず。
足りないと思った部分だけを補った。
「どうしたの?」
「……何でもありません」
「では始めましょう」
その瞬間ミヤコの空気が変わった。
「RABBIT2、準備は?」
「RABBIT2、準備完了」
「RABBIT3」
「いつでもいけるよ~」
「RABBIT4」
「R、RABBIT4……いつでも行けますぅ…」
ミヤコは武器を構える。
「これより、人質救出作戦を開始します」
◆
「中にいる犯人へ告ぐ!」
正面入口から見える位置からカンナが拡声器を手に立っていた。
「私はヴァルキューレ警察学校公安局長、尾刃カンナだ!」
「要求があるなら私が聞く!」
「人質を解放しろ!」
窓から犯人が顔を出す。
「近づくな!」
「車を用意しろ!」
「それは用意している!他に無いのかと聞いているんだ!」
カンナは堂々と正面から言葉を返す。
犯人たちの意識が集中する。
その裏側で着実に追い詰められているとも知らずに。
「RABBIT4」
『二階廊下、一名』
ミユの声が通信へ流れる。
『人質からは離れています』
「了解」
ミヤコが小さく手を上げる。
サキが止まる。
先生も少し離れた場所から状況を確認していた。
「ミユ」
『は、はい』
「犯人の武器を狙える?」
『できます』
「お願い」
『わかりました』
一発…乾いた銃声が遠くから微かに聞こえる。
建物内部の窓際に立っていた犯人の銃だけが弾き飛ばされる。
「なっ!?」
「今!」
ミヤコとサキが一気に突入した。
「RABBIT2、右!」
「了解!」
サキが犯人を制圧。
「RABBIT3!」
『こっちも終わったよ~』
裏口までのルートは、モエが確保していた。
『ちゃんと爆破してないからね~』
「偉いよ!」
先生が褒める。
『でしょ~?』
「余計な事を言ってないで、今は通信を空けてください!」
『「ごめんなさい」』
ミヤコの注意に二人が同時に謝った。
クルミが呆れる。
「何やってるのよ……」
「あと私の盾から一歩前に出たわよ」
「一歩だけで!?」
「さっさと後ろに戻る!」
「はい!」
先生が素直に後ろへ下がる。
ニコはそんな二人を横目にしながら周囲を警戒していた。
「クルミちゃん」
「何?」
「先生の扱い、もう慣れました?」
「慣れたくないんだけど!」
「RABBIT1、人質を目視で確認」
ミヤコがドアの隙間から視線を向けると、中には怯えた表情の人質たちと二人の犯人が居た。
「いちいち動くな!」
犯人が人質に銃を向けた瞬間。
『RABBIT1』
ミユの声。
『右側、狙えます』
「了解」
「RABBIT2」
「任せろ」
先生が通信を聞く。
「カンナ!」
『こちらカンナ』
「今だよ!」
「了解!」
正面カンナが一気に踏み込む。
「突入!」
ヴァルキューレの部隊が正面から雪崩れ込んだ。
咄嗟の事に犯人たちがそちらへ気を取られる。
「今です!」
一斉に動く。
ミユの狙撃、サキの射撃。
ミヤコが人質の前へ盾になるために滑り込む。
犯人の武器が床へ落ちた。
「人質確保!」
「RABBIT2、残りは?」
「制圧済み!」
「RABBIT3」
『裏口も問題なし~』
「RABBIT4」
『周辺に追加の敵影ありません』
ミヤコが小さく息を吐く。
「作戦終了」
◆
「ありがとうございます!」
事件が解決した後。
救出された市民たちが、RABBIT小隊へ何度も頭を下げていた。
「本当に助かりました!」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「……」
ミヤコは少しだけ照れくさそうにしていた。
サキも恥ずかしそうにしていた。
モエは珍しく静かだった。
ミユだけが照れたように小さく笑っている。
「え、えへへ……」
一人の子供がミヤコへ近づく。
「ありがとう!」
「……はい」
ミヤコは少しぎこちなく答えた。
SRT特殊学園は閉鎖されてしまった。
自分たちは行く場所すら失ったかもしれないが、それでも自分たちが学んできたものまで消えたわけではない。
こうして人を助けることはできる。
自分たちの正義をまだ貫くことができる。
「……」
少し離れた場所からニコは何も言わずに、優しく笑っていた。
「ニコ先輩」
「何ですか?」
「……いえ」
ミヤコは首を横に振る。
「何でもありません」
「そうですか♪」
クルミも満足そうに腕を組んでいる。
「ちゃんと出来てるじゃない……」
カンナは、その光景を離れた場所から見ていた。
先日、公園で銃を向け合ったRABBIT小隊が今日はその生徒たちと協力して、市民を救った。
「……」
鮮やかな連携。
的確な判断。
人質を最優先にした行動。
これほど優秀な生徒たちが。
本来ならSRT閉鎖後、ヴァルキューレへ編入される可能性もあった。
「カンナ?」
先生が近づく。
「どうしたの?」
「……いえ」
カンナはRABBIT小隊を見る。
「改めて思っただけです」
「何を?」
「彼女たちは優秀ですね」
「そうみたいだね、私もビックリしちゃったよ」
「今日初めて一緒に行動したんですか?」
「うん、でもあんなに優秀なら私の助けなんて必要なかったかもね」
「……そんなことは無いですよ」
カンナは少しだけ表情を曇らせる。
今のヴァルキューレ内部にはいろいろと問題が多い。
自分でも全てを把握できていない。
上から下りてくる指示。
不可解な予算、カイザーとの妙な関係。
そしてその裏に防衛室が関係している気配。
もしこの子たちが自分たちのところへ来たとして。
本当に胸を張って横に立つことができるのだろうか。
「……だからこそ」
「ん?」
「いえ、何でもありません」
「……カンナ?」
「気にしないでください……ただの…独り言です」
カンナはそれ以上何も言わなかった。
◆
事件現場から離れた高層建築の屋上。
「FOX4、状況は?」
「FOX4」
スコープを覗いていたオトギが答える。
「人質救出完了」
「RABBIT小隊とヴァルキューレの共同作戦は成功だね」
「先生も無事みたいだよ」
「……それと」
「何だ?」
「本当に居るみたいだね――」
ユキノが僅かに眉を動かす。
オトギはスコープを別の方向へ向ける。
「FOX2とFOX3」
「……という言い方でいいのか分からないけど」
「ニコとクルミだね」
「……」
少し離れた場所で現地ニコが双眼鏡を覗いていた。
「報告は聞いていましたけど……」
「本当に私がいますね……」
その隣で現地クルミも双眼鏡を覗く。
「……」
「私もいるんだけど」
「自分が二人いるって、かなり変な気分ね……」
「ですねぇ」
「オトギちゃんだったらどうです?」
「私は面白いが勝つかな~」
オトギが答える。
「自分同士で戦ったら、どっちが勝つんだろうとか?」
「それ今考えること!?」
「気になるでしょ~?」
「ならないわよ!」
現地ニコがクスクス笑う。
だがユキノだけはニコやクルミを見ていなかった。
その視線の先にいるのはRABBIT小隊。
先生の指揮を受け自分たちで作戦を考え。
ヴァルキューレと協力して一般市民を救い感謝されている。
「……」
ユキノの胸の奥に小さな違和感が生まれる。
自分たちはSRTを復活させるためにカヤへ協力している。
SRTを取り戻すただそのためだけに今まで多くの任務を遂行してきた。
だが最近与えられる任務は。
本当にSRTの正義に沿ったものだっただろうか。
カイザーへの協力。
情報操作。裏から誰かを動かす任務。
自分たちはSRTを取り戻すためにSRTで学んだ正義から離れていないか。
あの後輩たちはSRTを失ったにも関わらず。
今も自分たちが学んできた正義を貫いている。
市民を守り感謝され。
胸を張って立っている。
一瞬、ユキノの頭に浮かぶ。
――あれこそ私たちが、やりたかったことではないのか?
「……」
「ユキノちゃん?」
ニコの声にユキノは我に返る。
「…何でもない」
「でも――」
「違う」
自分へ言い聞かせるように呟く。
「私たちはSRTを取り戻す」
「そのために必要なことをしている」
「……」
ニコは何も言わなかった。
「こちらの任務も終わった。帰還するぞ」
「了解」
クルミとオトギも装備を片付け始める。
ニコだけが、少し心配そうにユキノを見る。
「ユキノちゃん」
「何だ?」
「……いいえ、何でもありません」
FOX小隊は屋上から撤収していく。
最後、ユキノだけが一度足を止めた。
つい振り返って見てしまう。
先生と共に居るRABBIT小隊。
救出された市民たちと楽しそうに話している光景を。
ほんの一瞬だけその光景を羨ましそうに見つめる。
だがすぐに前を向いてユキノも屋上を後にした。
「……」
今の自分には、まだ別の道を選ぶことなどできなかった。