数日前、突如として消息を絶ったFOX小隊。
その行方は誰にも分からず、彼女たちが使っていた拠点には激しい戦闘の跡だけが残されていた。
では、ユキノたちは一体どこへ消えたのか。
答えは――。
シャーレの地下だった。
「……」
地下の一室にユキノたち四人は武器を取り上げられ、椅子へ座らされていた。
そして目の前には自分たちを強襲してきた臨戦ホシノ、シロコテラー、臨戦トキ、ケイ、ナギサ、ミカ、セイア、水着サオリ、アツコ。
どう見ても穏やかな話し合いをする雰囲気ではない。
「それでさ~」
臨戦ホシノが笑顔で腕を組みながら四人を見る。
「そろそろ教えてくれないかな?」
「ここ数日、どうして先生を監視してたの?」
「目的は?」
ケイも四人を睨みつけながらホシノに続く。
「誰の命令で先生へ張り付いていたのですか?」
「……」
ユキノは冷静な態度を貫いたまま口を開かない。
「黙秘かぁ~」
臨戦ホシノが少し困ったように頬を掻く。
「おじさんたちも、できれば穏便に済ませたいんだけどねぇ~」
「勝手に私たちの拠点を襲撃しておいて、穏便なんてよく言えたわね!!」
現地クルミが睨みつける。
「それについては申し訳ありません」
ナギサが謝る。
「ですが、先生の周囲を数日にわたり監視していた以上、放置することはできませんでした」
「疑いが晴れた暁には、あなた達の被害額は私が払わせていただきますが――」
「もし先生に危害を加えるつもりだった場合……」
シロコテラーが静かにユキノたちを見る。
「ん。話は変わる」
「……私たちから話すことはない」
ユキノは短く答えた。
「そうですか」
臨戦トキが一歩前へ出る。
「では、もう少し質問を続けましょう」
「何時間続けても同じだ」
「我々は何も――」
その時、地下室の扉が開いた。
「……」
入ってきた二人を見て、捕らわれていたユキノたちの表情が変わる。
ニコそしてクルミ、仲間と全く同じ顔をした二人だった。
「……本当に慣れませんね」
現地ニコが吐き捨てる様にニコを見る。
「自分と同じ顔の存在が目の前に居るというのは…」
「こっちだって同じよ……」
現地クルミも複雑そうな顔をする。
だがニコの表情には、いつもの柔らかな笑顔がなかった。
「ユキノちゃん、先生に何をするつもりだったんです?」
「……」
声は意外にも静かだった。
だからこそ現地ニコは僅かに目を細める。
ニコの隣でクルミも、真剣な表情で四人を見ている。
「ちゃんと答えて。あなたたちが何を考えて先生へ張り付いてたのか――」
「もし先生に何かするつもりだったなら……」
クルミが拳を握る。
「あなたたちだとしても、私は容赦しないから」
「……!」
現地クルミが言葉を失った。
同じ顔、同じ声。
だがらこそ、わかる事がある、その目は本気だった。
現地ニコもニコを見つめて、背中に冷や汗が垂れる。
「……っ」
冗談でも、脅しでもない。
先生に何かあれば、本当に自分たちを消すつもりだ。
確実に私たちを始末しようとしている……これはウソなんて生易しいものじゃない!
「ユキノちゃん…!」
現地ニコが静かに声を掛ける。
「……この二人、本気ですよ」
「……分かっている」
ユキノは小さく息を吐いた。
「……わかった、すべて話そう」
「……隊長いいんですか?」
オトギも冷や汗を流しながらユキノを見る。
「このまま黙っていても状況は変わらない」
ユキノは募集組へ視線を戻した。
「我々が先生を監視していた理由は――」
一度だけ間が空く。
「先生の好きな食べ物を調査するためだ」
「「「「「…………」」」」」
地下室が静まり返った。
誰一人として声を発さない。
しばらくしてから、ケイが口を開いた。
「嘘ですね」
「嘘じゃない!!」
ユキノが初めて声を荒げる。
「もう少しまともな説明をしてください」
ナギサも冷たい目を向ける。
「数日間も先生を監視していた理由が、好きな食べ物を調べるため?」
「その世迷言を私たちに信じろと?」
「本当なのよ!!」
現地クルミが叫ぶ。
「こっちは何日もかけて調べたんだから!」
「余計に信じられません!」
ケイが言い返した。
「精鋭特殊部隊が数日間かけて先生の食事内容を監視していたと!?」
「そうよ!!」
「何のために!?」
「任務だったからよ!」
「誰がそんな任務を出すんですか!?」
「それは――」
現地クルミが口を閉じる。
「ほら!」
「違う! それは任務上言えないだけなの!!」
ニコも困ったように現地ニコを見る。
「本当に先生の好物を……?」
「はい、そうです」
現地ニコは頷く。
「私たちも最初は耳を疑いました」
「……」
ニコが何とも言えない顔になる。
クルミも眉を寄せた。
「そんな理由で……?」
「そんな理由とは何よ!」
「私たちだって好きでやってたわけじゃないわよ!」
セイアが考える。
「嘘にしては、あまりにも妙だね」
「でも流石にこれは嘘っぽくない?」
ミカも半信半疑だった。
「数日間ず~っと先生のご飯を見てたってことでしょ?」
「それって天下のFOX小隊がやる任務なの?」
「――いや、そうとも限らないかもよ」
臨戦ホシノが口を挟んだ。
「これ、本当なんじゃない?」
「ホシノ?」
ケイが見る。
「だってさ、この状況で嘘をつくなら、もうちょっとマシな嘘をつかない?」
臨戦ホシノはユキノたちを指差す。
「先生の好物を調べてました~なんて嘘としては下手すぎるよ」
「私もホシノさんの意見に同感です」
臨戦トキも頷いた。
「虚偽申告をするなら、より合理的な理由を用意するはずです」
「例えば先生の戦力分析や、シャーレの警備状況確認など」
「先生の好物という回答は不自然すぎます」
シロコテラーも頷く。
「ん。もし嘘ならゲマトリアレベルで雑魚過ぎる」
水着サオリもユキノたちを見る。
「それに、ここまで追い詰められて、そんな馬鹿げた嘘を選ぶ意味がない。恐らく本当だろう」
アツコも水着サオリの横で頷く。
「私もそう思う」
「……」
ナギサとケイがユキノたちに視線を合わせるとユキノは不機嫌そうに睨み返していた。
「……本当に?」
ケイが尋ねる。
「だから最初からそう言っている!」
ユキノの声が地下室へ響いた。
「…………」
本当の事だと全員が悟りしばらく辺りに静寂が広がる。
そして全員が同時に心の内に思った言葉は――
マジかぁ……
「本当にそんな任務あるんだ……」
ミカがぽつりと漏らす。
「おじさんもびっくりだよ」
「一体誰がそんな指示を……」
ナギサが頭を抱える。
「まあ、先生に危害を加える目的じゃなかったなら逃がして――」
臨戦ホシノがFOX小隊を解放しようと立ち上がった瞬間だった。
「みんな~!」
上の階から声が響く。
「ご飯できたよ~!」
「…………」
募集組全員が固まった。
FOX小隊も固まる。
「……マズイ事になりました!!」
ケイが呟く。
「どどどどーすんの!どーすんの!?」
ミカが慌てた様子で周囲を見る。
「………」
セイアが一足先にダンボールを被る。
「一人だけ隠れるなんてズルいよセイアちゃん!!」
「私が先生を止めてきます!」
臨戦トキが動こうとする。
「ん。もう遅い」
シロコテラーが階段を見る。
「え?」
先生の顔が覗いた。
「あれ?みんな地下にいたんだ」
「ほらお昼できたから冷めないうちに――」
そこまで言いかけて先生の動きが止まる。
「……え?」
捕らわれているFOX小隊。
取り上げられた装備。
周囲を囲んでいる募集組。
「どゆこと……?」
「……」
「誰か説明してくれないかな?」
募集組が互いの顔を見る。
流石にもう誤魔化せない。
「先生」
ナギサが代表して口を開く。
「実は、ここ数日この方々が先生を監視していたことに気づきまして」
「え、そうなの?」
「はい」
「全然分からなかった……」
「まぁ、それは先生ですからね」
「ケイ、今ちょっと馬鹿にした?」
「だって事実ですから」
「ひどい」
臨戦ホシノが続ける。
「それで何をしてるのか気になって、拠点まで尾行して」
「そのまま確保して事情を聞いてたんだよね」
「あらら~……」
先生はユキノたちを見る。
「大丈夫だった?」
「……」
ユキノは答えに困った。
自分たちを捕まえた側の責任者が、最初に聞くことがそれなのか。
先生が募集組を見る。
「それで、誤解だったんでしょ?」
「……まぁ、そうよね?」
クルミが少し気まずそうに答える。
「先生に危害を加えるつもりはなかったみたい」
「じゃあ解放してあげよう?」
「既にそのつもりでした」
ナギサが答える。
四人の拘束が解かれていく。
先生はユキノたちの前まで行くと頭を下げた。
「うちの子たちがごめんね!」
「……」
「この前トリニティで私がちょっと迂闊なことしちゃってさ」
「それからみんな、先生のことになると少しピリピリしてるんだよね」
先生は顔を上げる。
「大丈夫?怪我とかしてない?」
「問題ありません」
ユキノが答える。
「そっか、良かった!」
「あっ、良かったらご飯食べてく?」
「……は?」
現地クルミが目を丸くした。
「何でそうなるの?」
「ちょうど多めに作っちゃったから」
「私たち、さっきまで地下に捕まってたんだけど?」
「まぁそれのお詫びだと思ってさ、良かったら食べていってよ」
そして先生が募集組を見つめると、全員一斉に頭を下げて。
「「「「「誠に申し訳ありませんでした」」」」」
◆
シャーレの食堂。
結局、FOX小隊の四人も先生たちと一緒に昼食を取ることになった。
「今日はチャーハンです!」
先生が大皿をテーブルへ置く。
「今日は珍しく先生が当番だったね」
セイアが席へ座る。
「私だって料理くらいするよ?」
「キッチンを爆破しなかっただけ合格です」
ケイが言う。
「私ってそこまで信用ないの!?」
そんな騒ぎの中ユキノたちは少し離れた席で戸惑っていた。
「……」
「変な場所ですねぇ」
現地ニコが呟く。
「今更?」
現地クルミは疲れたように答える。
「私はもう何が起きても驚かないわよ」
「この世界のクルミちゃん、それは危険な台詞ですよ」
「もう諦めたわ…」
「諦めたらそこで試合終了よ、こっちの私」
「……なんなのよ、もう!」
二人のクルミに二人のニコ。
オトギは交互に見ながら少し楽しそうにしていた。
「やっぱりこうして会話していると不思議だね~」
「オトギ」
「何ですか?」
「面白がるな」
ユキノが注意する。
「先生、今日のお昼は――」
その時、ちょうどよく食堂へ四人の生徒が入ってきた。
それは、ミヤコ達RABBIT小隊の四人だった。
最初にFOX小隊へ気づいたのはミヤコだった。
「……あ、え?」
足が止まる。
「ユキノ……先輩?」
「久しぶり、ミヤコ――」
ユキノがミヤコを見る。
「サキ」
「モエ」
「ミユ」
「ユキノ先輩!?」
サキも目を見開いた。
「どうして先輩たちがここに!?」
「え~、本当に全員いるじゃん!」
モエが驚く。
「ニ、ニコ先輩……?」
ミユがニコを見る。
そして。
「……?」
隣を見るともう一人ニコが居た。
視線を戻すと現地ニコが居る。
「…………??」
ミユの顔が混乱する。
「ニコ先輩が……二人……居る?」
「え?」
ミヤコたちもようやく気づく。
「……」
ニコ。
ニコ。
クルミ。
クルミ。
「…………」
サキが目を擦った。
「私の目がおかしくなったのか?」
「私にも二人に見えるよ~」
「ク、クルミ先輩も二人います……」
ミヤコがゆっくりニコとクルミを見る。
「……ニコ先輩?」
「なんですか、ミヤコちゃん♪」
「本物です……」
現地ニコの方を見て。
「ニコ先輩……?」
「はい、そうですよ~♪」
「…………こっちも本物?」
ミヤコが理解できずに固まった。
ニコとクルミは最初ミヤコたちが何に混乱しているのかわからなかったがそういえばとあることを思い出し、顔を見合わせる。
「あっ!……そういえば」
「詳しく説明してませんでしたね」
「してなかったわね……」
「……そっちのニコ先輩、何を説明してなかったんですか?」
ミヤコの声が僅かに低くなる。
「私たちは、あなたたちが知っているFOX小隊とは少し違うと言いますか~なんと言ったらいいでしょうかね?」
「少し?」
「まあ、その辺りは複雑でして♪」
サキがクルミを見る。
「公園の時、私は普通にクルミ先輩本人だと思っていたんだぞ!?」
「いや、本人よ本人!偽物みたいな目で見てくるんじゃないわよ!!」
「ただ詳しく説明する暇がなかっただけだし!」
「……」
ニコが苦笑する。
「私たちは私たちなんですけどねぇ」
「余計に分かりません!」
「みんな~積もる話はあとで!」
先生が声を掛ける。
「ご飯冷めちゃうよ~!」
「先生!」
クルミが振り返る。
「今かなり大事なところだから!」
「でもチャーハンが……」
「ちょっと待ってて!」
「はい……」
現地クルミがそのやり取りを見る。
「……私、本当にあんな感じになるの?」
「いつもあんな感じじゃないですか」
「……嘘でしょ!?」
◆
食事が始まってからもRABBIT小隊とFOX小隊の間には、少しぎこちない空気が流れていた。
「先輩たちは今までどこにいたんですか?」
ミヤコがユキノに尋ねる。
「……色々あった」
「色々ですか?」
「極秘任務だ、詳細はあなた達にも説明できない」
「そうですよね…」
「そのやり取りかっこいいね!」
先生がチャーハンを食べながら口を挟む。
「「先生は黙っていてください!」」
ミヤコとユキノの声が重なった。
「静かにしてま~す」
先生が大人しく引き下がる。
「ミヤコちゃんたちは今はシャーレで生活しているんですよね?」
今度は現地ニコが尋ねる。
「一時的にです、決して先生を信用しているわけではありません」
「ふふ」
「何ですか?」
「いえ、何でもありませんよ♪」
現地ニコが笑う。
ユキノはミヤコを見る。
以前、遠くから監視した時とは違う。
ミヤコたちはまだ先生を警戒している。
「ミヤコ」
「…何ですか?」
「おかわりいる?」
先生が大皿を持って尋ねる。
「……お願いします」
「サキは?」
「私も頼む」
「モエ?」
「いっぱいちょうだい~」
「ミユは?」
「わ、私も少し……」
「わかった」
先生が皿へチャーハンを盛っていく。
「……」
ユキノはその様子を見つめる。
信用しているわけでは無いと言っていた割には。
もうこの場所と先生との生活に大分馴染み始めてないか。
「ユキノちゃん?」
現地ニコが小さく呼ぶ。
「……何でもありません」
ユキノはチャーハンへ視線を落とした。
そうして食事も終わり。
RABBIT小隊とFOX小隊が久しぶりに会話している。
先生は少し離れた場所からその様子を眺めていた。
「やっぱり君たちって先輩後輩なんだね」
隣のニコへ話しかける。
「バレちゃいましたか♪」
「いや隠す気なかったでしょ。それに普段ミヤコ達が先輩先輩言ってたから薄々わかってはいたけどね」
先生はFOX小隊を見る。
「そういえばユキノたちもSRTの生徒だったんでしょ?」
ユキノが先生を見る。
「そうですが」
「じゃあ今、帰る場所ってあるの?」
「……先生の生徒達にぶち壊されましたからありませんね」
「………そうでしたね、ほんとすいません」
先生は気まずそうにしながら考える。
「じゃ、じゃあシャーレの空いてるフロア使う?」
「「「「……は?」」」」
FOX小隊の声が揃った。
「ちょうどミヤコたちが使ってるところの向かいが空いてるから、元の拠点が使えるようになるまで自由に使ってくれていいよ」
「お風呂も使えるし、ベッドとか必要なら用意するから」
クルミが呆れた顔をする。
「……先生って実は連邦生徒会を転覆させるとか考えてないわよね?」
「考えてないよ!?」
「……」
ユキノは黙って先生を見る。
断るべきだ。自分たちはカヤの命令で動いている。
先生を監視したのも任務、ここへ居座る理由などない。
だが視線がミヤコたちへ向く。
先生の周囲でまだ警戒しながらも、以前より自然な顔で過ごしている後輩たち。
そしてあの日見た光景が一瞬だけ頭を過る。
市民を守り。感謝され。
自分たちの正義を貫いていたRABBIT小隊の眩しい姿が。
「……」
「ユキノ?」
現地クルミが尋ねる。
「……分かりました」
「えっ?」
「提案を受けると言っています」
「ユキノ!?本気なの!?」
「先生をより詳しく調査する必要がある」
ユキノは三人を見る。
「これは潜入調査だ。シャーレ内部へ堂々と入れる機会を逃す理由はない」
「なるほどね、確かに理屈は通ってるね」
オトギが頷く。
現地クルミは少し迷う。
「防衛室長には?」
「調査が終わり次第、後で報告すればいい」
「……」
現地ニコだけはユキノの顔を見ていた。
先生を調べるため。
本当にそれだけなのだろうか。
「ニコ」
「……なんですか?」
ニコはいつもの笑顔を浮かべる。
「潜入調査なら仕方ありませんね」
「決まりだ」
ユキノが先生へ向き直り先生の瞳を見つめる。
「ただし、我々はシャーレ所属になったつもりはない」
「分かってるよ?」
「ここに居るのも拠点が直るまでだ」
「うん」
「先生の部下になったつもりもない」
「そうだね」
「……何故そんなに軽い」
「似たようなやり取りを最近したからとしか…」
「…?」
ユキノが首を傾げるその後ろでRABBIT小隊の四人は何とも言えない表情でユキノを見ていた。
「……あの、ユキノ先輩…?」
「何だ?」
ユキノが尋ねる。
「いえ、なんでもありません…」
ミヤコは目を逸らした。
モエだけは楽しそうに笑う。
「どこかで聞いたような台詞だな~って」
「モエ」
「ごめんごめん♪」
ニコもクスクス笑う。
「兎に続いて狐までですかぁ」
クルミは頭を抱えた。
「笑ってる場合じゃないと思うんだけど……」
こうして先生を監視するためにシャーレへ近づき。
募集組に捕まり、地下で尋問され。
何故か一緒にチャーハンを食べたFOX小隊は。
その日のうちにRABBIT小隊の向かいのフロアへ引っ越すことになった。
潜入調査少なくともユキノ本人は、そういう体にしていた。