FOX小隊がシャーレの空きフロアを使い始めてから数日。
朝のシャーレでは、先生がいつものように依頼掲示板の前で腕を組んでいた。
「今日はどうしようかなぁ……」
『荷物運び』
『不良生徒への対応』
『温泉発掘調査』
『アルテリア・カーパルス占拠』
↑この高額依頼は私たち便利屋68が貰うわ!←便利屋68 R.I.P←やっぱりやめとくわね!
様々な依頼が貼られている中で、先生は一枚の紙を手に取る。
「これかな」
『D.U.地区の巡回パトロール』
最近周辺で不良生徒同士の小競り合いが増えているらしく、定期的にパトロールしてほしいという内容だった。
――大きな事件でもないし、誰か誘って散歩がてらのんびり歩きながら…。
「先生」
「ん?」
そんな事を考えていたら後ろから声を掛けられる。
振り返ると、ミヤコを先頭にサキ、モエ、ミユが立っていた。
「その依頼ですが私たちも担当します」
「ミヤコたちが?」
ミヤコは先生の持つ依頼書を見る。
「周辺警戒なら私たちにも適しています」
「前回の立てこもり事件で先生との連携方法もある程度把握しました」
「今回は私たちが先生にお供します」
「そっか」
先生は嬉しそうに頷く。
「じゃあ一緒に行こっか」
「……はい」
以前なら。
『先生まで来る必要はありません』
そう答えていたかもしれない。
だが、今のミヤコはそこまでは言わなかった。
「先生」
「ん?」
ミヤコたちと行こうと思ったら別方向から声が飛んでくる。
その声の主はユキノだった。
そしてその後ろにはニコ、クルミ、オトギが苦笑いをしながらこちらの様子を窺っていた。
「その任務、我々も参加する」
「先輩たちも?」
ミヤコが少し眉を寄せる。
「ええ、そうです」
「何故ですか?」
「先生の指揮能力を実際に確認しておきたいと思いまして」
ユキノは淡々と答える。
「前回の人質救出では遠方から監視していましたが」
「先生がどのような指揮を行うのか、自分たちで体験しておく必要があると思っただけです」
「それも……潜入調査の一環ですか?」
「そうです」
ユキノは即答した。
現地ニコが隣で笑顔を浮かべる。
――ユキノちゃん、普通に先生の指揮を受けてみたいだけな気もしますけど。
もちろん口には出さない。
「でしたら」
ミヤコが依頼書へ手を伸ばす。
「別の依頼で確認してください」
「何故だ?」
「この依頼は私たちが先に選びました」
「まだ受注していないでしょう」
「今から受けます!」
「後輩なら先輩に一回ぐらい譲ってもいいんじゃないですか?」
「……それとこれとは別です」
「……」
ミヤコとユキノが互いを睨みつける。
「えーっと」
少し険悪な空気を感じ取った先生が二人の間に入る。
「みんなで行けばいいんじゃない?」
「「それは違います」」
「何で!?」
先生だけが理解できていなかった。
様子を見ていたサキも腕を組むでこの話題に入ってきた。
「巡回警備なら私たちだけで十分だと思いますけど」
そんなサキに現地クルミが反応する。
「ちょっと、FOX小隊だってパトロールくらいできるわよ!」
「ですが先輩たちの目的は先生の調査ですよね?」
「それとこれとは別よ!」
「なら何故そこまで先生と一緒に行きたいんです?」
「っ!?」
「べ、別に先生と行きたいわけじゃないわよ!」
「任務よ、任務!」
「クルミ~、そんなこと言って本当は先生と――」
「オトギは黙ってなさい!」
モエはそんな両者を見比べる。
「先生って人気だね~」
「「違います」」
今度はミヤコとユキノが同時に否定した。
「息ぴったりだね」
「違います!」
「違う!」
「あっ、はい……」
先生が若干押され始める。
「あ、あの……」
ミユがおそるおそる手を上げた。
「やっぱり、みんなで一緒に行けばいいんじゃ……?」
「私もそう思いますけどね」
「ニコ先輩!」
ミユの瞳に自分の味方が居てくれたことに感動して光が灯る。
「駄目です」
「却下だ」
だが即座に切り捨てられミユは縮こまってしまった。
「ひぅ……」
「う~ん」
モエは少し考えて。
「じゃあさ~」
ニヤリと笑った。
「どっちが先生とパトロールするか、模擬戦で決めればいいんじゃない?」
「モエ…お前それ本気で言ってるのか?」
サキが呆れたように見る。
「え~? 一番分かりやすくない?」
「勝った方が先生と行く、負けた方はお留守番」
ミヤコとユキノが同時に顎に手を添えて考え込む。
「ちょっと待って?」
先生が嫌な予感を覚えた。
「そこで二人とも考えないで?」
「わかりました」
「こちらも異論はありません」
「あるよ!」
だが先生の意見は既に両小隊から無視されていた。
しばらくしてシャーレの訓練場にて。
「なんでこうなったんだろう……」
先生は訓練場の端で頭を抱えていた。
目の前には装備を整えたRABBIT小隊。
反対側にはFOX小隊が自分たちの装備を確認していた。
「それでは」
ユキノが武器を確認する。
「勝った方が先生とパトロールへ行く」
「問題ありませんね?」
ミヤコも頷く。
「はい、条件はそれで問題ありませんが――」
その時、ミヤコが先生を見る。
「ユキノ先輩、一つ条件があります」
「何ですか?」
「私たちRABBIT小隊とFOX小隊では、純粋な戦闘能力に差があります」
「……」
サキが僅かに顔をしかめるが事実だからこそ誰も否定はしない。
FOX小隊はSRTでも最上位に位置していた小隊。
経験、練度、個々の能力。それらを加味するとRABBIT小隊よりは確実に上だ。
「なので、私たちは先生の指揮ありで戦わせてもらいます」
ミヤコは当然のように先生の腕を掴んだ。
「え?」
「待て!」
ユキノが反応する。
「それは条件が違う!」
「ですがユキノ先輩が言っていたじゃないですか――」
ミヤコは勝ち誇っているかのような笑みを浮かべて。
「先輩の目的は先生の指揮能力を確認することですよね?」
「……そうだ」
「なら先生の指揮によって、私たちがどこまで戦えるのか、実戦形式で確認できますよ?」
「私たちは先輩たちとの戦力差を埋められる」
「ユキノ先輩は先生の指揮能力を確認できる」
「これって一石二鳥ですよね?」
「……」
ユキノが黙った。
反論しようしてもできない。
目的だけ考えるなら確かにミヤコの言ったことは間違っていないのだから。
「……分かった」
「よし!」
ミヤコが少しだけ満足そうに頷く。
「先生、お願いしますね」
「もう私の参加確定なの?」
「そりゃそうでしょう」
「そうなんだ……」
モエが笑う。
「ちゃっかりしてるね~」
「これも戦術です」
現地ニコも笑顔のままミヤコを見る。
「随分逞しい後輩になりましたね♪」
「では始めましょう」
ミヤコが武器を構える。
空気が一変する。
「RABBIT2」
「RABBIT2、準備完了」
「RABBIT3」
「いつでも~」
「RABBIT4」
「R、RABBIT4……準備できました」
向かい側。
「FOX2」
「FOX2、問題ありません」
「FOX3」
「FOX3、準備完了」
「FOX4」
「FOX4、いつでもいけます」
ユキノが前を見る。
「FOX小隊、準備完了」
先生が少し困りながらも前を見る。
「それじゃああまり気乗りしないけど……始めようか」
開始直後。
先に動いたのはFOX小隊だった。
「FOX3、左から回って」
「了解」
「FOX4、高所へ」
「了解ですよっと」
「FOX2、私の後ろに」
「わかりました」
迷いがない。ユキノの指示に従い、四人が一気に散開する。
「速い……!」
サキが身構える。
「先生どうしますか?」
「うん」
ミヤコは先生を見る。
先生は周囲を確認する。
「正面からはぶつからない、向こうの進路を一つ潰そうか」
「モエ」
「は~い」
「右側の遮蔽物、軽く爆破できる?」
「軽く?」
「軽くね?」
「……どれくらい?」
「絶対に訓練場を壊さないくらい!」
「難しいな~」
「お願い!」
「了解~」
小規模な爆発。
「っ!」
FOX小隊の進路が一つ塞がれる。
「FOX1」
現地クルミが報告する。
「進行ルートを潰されたから迂回するわよ!」
「分かった」
その僅かな時間。
「ミユ」
「は、はい!」
「多分オトギが高所へ移動するはず」
「だから先に取れる?」
「や、やってみます!」
「無理しなくていいからね~」
「RABBIT2」
「了解!」
サキが前へ出た。
「私が引きつける!」
「待ってサキ」
「何だ?」
「右へ三歩ズレて」
「?」
先生に言われた通り移動する。
その直後にサキがいた場所を模擬弾が通過した。
「っ!」
「オトギ先輩の狙撃!」
「もう見えてるのか!?」
「今は動いて!」
「了解!」
ミヤコは先生の指示を聞きながら、FOX小隊の動きを確認する。
自分だけでは見えていなかった部分は先生が拾う。
そして先生が見落とした部分は、自分が補う。
「先生」
「何?」
「ユキノ先輩は私を狙ってきます」
「だろうね、隊長を落とすのが一番早いからね」
先生とミヤコがほぼ同時に同じ方向を見る。
「もしかして同じこと考えてる?」
「…今は集中してください」
「了解」
◆
試合開始から数分。
最初に動きがあったのは高所だった。
「FOX4、狙撃位置につきました」
オトギは訓練場を見渡せる高台の一角に伏せ、スコープ越しに戦場を確認する。
最初に見つけたのはサキ。
遮蔽物から次の遮蔽物へ移動しようとしている。
「見つけた」
照準を合わせて、一発で仕留めに掛かる。
「っ!」
だが、引き金が引かれる直前にサキが突然横へ移動した為、模擬弾は肩のすぐ横を通り過ぎる。
「外した?」
「っ!」
サキはそのまま遮蔽物へ滑り込んだ。
『サキ、大丈夫?』
「問題ない!」
「それにオトギ先輩の位置も割れた!」
『うん。だけど一回オトギは放っておこう』
「え?」
『オトギは多分、もうそこにはいないと思うよ』
先生の予想通り。
「……位置を変えます」
オトギはすぐに狙撃地点を離れていた。
一度姿を晒した場所に留まり続ける理由はない。
別の高台へ移り、再びスコープを構える。
「FOX4、位置変更完了」
『FOX1、了解』
今度はすぐに撃たない。
まず周囲をじっくり確認する。
高所、窓、足場、遮蔽物の上。
特に今、自分が警戒しないといけない相手はミユだった。
「……」
視線を走らせるがどこにも居ない。
別の場所を見る、やはり居ない。
「今の所、RABBIT4は高所に居ないようです」
『確認できるか?』
「少なくとも、こちらから見える高所には居ません」
オトギは少しだけ考える。
ならば今狙うべき相手は――。
「あそこか…」
下を見る。
モエが遮蔽物の陰からFOX小隊の進行ルートを確認していた。
爆発物を扱うモエを先に落とせば、動きやすくなる。
オトギが銃口を下へ向ける。
照準がモエへ重なる。
トリガーを引く、その瞬間――
下から一発の銃声。
「…え?」
胸元へ模擬弾が命中した。
「……」
オトギがゆっくり視線を弾が飛んできた方へ向けると。
建物の影、地上に近い低い位置。
そこに、ライフルを構えたミユがいた。
「本当に…オトギ先輩があそこのポジションに来た…!」
ミユ自身が一番驚いていた。
「R、RABBIT4!」
「FOX4に命中しました!」
『ナイスだよ、ミユ!』
「あ、ありがとうございます!」
「……なるほど」
オトギは胸元の判定装置を見る。
赤色の脱落判定が光っていた。
「狙撃は高所からというセオリーを逆手に取られたか…」
オトギは苦笑する。
「一本取られちゃったな~」
FOX小隊に最初の脱落者が出た。
オトギが脱落したことで。
戦場の高所は、一気にRABBIT小隊が使いやすくなった。
「サキ、オトギが脱落したから上取れる?」
『任せろ』
サキが階段を駆け上がる。
先生は再び戦場を確認する。
FOX小隊はユキノと現地ニコが中央。
現地クルミは先ほどモエによって進行ルートを潰され、迂回して合流しようとしている。
「ミヤコ」
「はい」
「クルミが合流するにはここを通るしかないのはわかるよね?」
先生が簡易マップを指す。
「わかります」
「ここで下に意識を向けたいんだけど…」
そこまで聞いたミヤコはすぐに指示を飛ばす。
「RABBIT3」
『は~い』
「簡単なトラップをこの地点に設置してください」
『別にいいけど、それ意味ある?』
先生も補足するようにモエに説明する。
「引っかからなくてもいいんだ」
『?』
「気づかせればいいから」
モエが楽しそうに笑った。
『じゃあ、分かりやすいの置いとくね~』
◆
「……面倒ね」
現地クルミは迂回ルートを進んでいた。
本来ならオトギが高所から周囲を監視している。
だから多少開けた場所へ出ても問題ない。
今は何より、ユキノたちとの合流が先。
「この先ね」
一歩進もうとして。
「……」
寸前で止まる、地面に不自然に置かれた小さなワイヤー。
「こんな見え見えのトラップに引っかかるわけないでしょ」
現地クルミが呆れたように呟く。
明らかにモエが仕掛けたものだ。
「こんなの避ければ――」
自然と足元へ意識を向ける。
ワイヤーを跨ぐその瞬間。
「クルミ先輩なら気づいてくれると思ってました!」
上から声がする。
「え?」
顔を上げると高台の上にサキがいた。
「オトギ先輩がいないなら、こっちは高所は使い放題なんですよ!」
「しまっ――」
銃声、模擬弾がクルミの胸元へ命中する。
「っ!」
判定装置が赤く光った。
現地クルミが固まる。
「嘘……」
自分が引っかかったのは。
トラップそのものではない。
トラップへ注意を向けさせること自体が目的だった。
「やられた……!」
「よし!RABBIT2、FOX3撃破!」
サキが拳を握る。
『ナイス!』
「だけど先生」
「なに?」
「こういう罠を思いつくのは少し性格が悪くないか?」
『えっ!?』
サキの言葉にモエが笑う。
『先生、言われてるよ~』
『モエも共犯だからね!?』
現地クルミは悔しそうに二人の声を聞いていた。
「オトギが負けてたなんて……」
完全な油断だった。
◆
残るFOX小隊は二人。
ユキノと現地ニコは無線を使ってオトギとクルミからの返事がないことから脱落したことを悟った。
「……二人落ちたか」
ユキノが小さく呟く。
「思った以上に厄介ですね」
ニコも笑顔こそ崩していないが、周囲を見る目は鋭い。
「FOX1」
「何だ?」
「二人で動きましょう」
「ああ」
自然と背中を預け合う。
ツーマンセルこれなら。
多少の数的不利でも簡単には崩されない。
「FOX2、右だ」
「了解です」
ニコが援護射撃して、遮蔽物から様子を窺っていたモエを引っ込める。
「ユキノちゃん、左からRABBIT2」
「見えている」
ユキノが即座に照準を合わせる前にサキが遮蔽に身を隠す。
「……流石だな」
FOX小隊の二人は崩れない。
互いの死角を補い。
片方が射撃すれば、もう片方が周囲を見る。
「強いね」
先生が呟く。
「はい」
隣のミヤコも認める。
「二人になっても簡単には崩せません」
先生は戦場を見る。
「だけど二人で固まってくれてるなら今の状況の方がいい」
「……なるほど」
ミヤコも先生の意図を理解する。
「数の差を使うんですね」
「うん」
四対二。
まともに撃ち合う必要はない。
「RABBIT3」
『は~い』
「左から姿見せて」
『撃たれない?』
「すぐ隠れて」
『了解~』
「RABBIT2は右」
『分かった』
「RABBIT4はそのまま」
『は、はい』
「ミヤコは一緒に回ろうか」
「了解です」
◆
「左!」
現地ニコが叫ぶ。
モエが一瞬姿を見せるが銃口を向けた瞬間。
「右だ!」
今度はサキが動く。
ユキノがそちらへ照準を移す。
だが二人ともすぐに引っ込む。
「……弾切れ狙いか?」
「でしょうねぇ」
現地ニコが周囲を見る。
撃たせる。
視線を散らす。
それ以上の事はしてこない。
「FOX1」
「ああ」
二人とも分かっている。
だが無視するわけにもいかない。
次に出てきた時、本当に撃ってくる可能性がある。
「FOX2、後ろは?」
「問題ありません」
「なら少し前へ――」
銃声。
「っ!」
ユキノの足元へ模擬弾が当たる。
「狙撃です!」
現地ニコが銃口を向ける。
遠く、低い位置からミユがこちらを狙っていた。
「RABBIT4!」
「ひゃっ!?」
ミユが慌てて身を隠す。
「今!」
その瞬間右からサキが飛び出してきた。
「FOX2!」
「分かってます!!」
現地ニコが即座に対応する。
左からモエも飛び出す。
「FOX1!」
「くっ!」
ユキノがそちらを向く。
一つ一つはFOX小隊なら対処できる。
だが三方向から交互に絶え間なく仕掛けられる。
「……まずいですね」
現地ニコの顔から笑顔が消える。
「ああ」
撃破するための攻撃ではない。
自分たち二人を動かし続けるための攻撃。
気づけば最初にいた位置から随分移動している。
「作為的なものを感じますね」
「……分かっている」
「RABBIT2、正面!」
サキが姿を現した。
「FOX2!」
「いつまで続くんですか!?」
現地ニコが正面へ。
「RABBIT3、側面!」
「私がやる!」
ユキノがモエを見る。
そして。
「……!」
このタイミングでようやく気づいた。
ミユの狙撃地点。
サキの位置。
モエの位置。
三人が自分たちの逃げ道が一方向しかない様に配置されている。
「FOX2!」
「はい!」
「後ろを警戒――」
「ユキノ先輩」
背後。
「……」
ユキノの動きが止まった。
ゆっくり振り返る。
ミヤコがいつの間にか。
先生と一緒に大きく迂回し、二人の背後まで回り込んでいた。
銃口がユキノへ向けられている。
正面にはサキ。
側面にはモエ。
高所と遠距離を抑えるミユ。
そして後方にミヤコ。
「……完全に囲まれましたね」
現地ニコが諦めたように小さく笑う。
「……そうだな」
ユキノも銃を下ろした。
「そこまで!」
先生が手を上げる。
「RABBIT小隊の勝利!」
「やった!」
サキが拳を握る。
「勝っちゃったよ~」
モエも嬉しそうに手を上げる。
「か、勝ちました……!」
ミユも顔を明るくする。
ミヤコは小さく息を吐いた。
「……」
現地クルミは脱落地点から呆然と戦場を見ていた。
「本当に負けた……」
「負けちゃいましたね~」
オトギも戻ってくる。
「私たちがRABBIT小隊に……」
「流石に驚きですね~」
現地ニコが先生を見る。
純粋な個々の能力ではFOX小隊の方が上。
それでも先生の指揮とRABBIT小隊の連携によって。
その差を一つずつ崩され、最後には包囲網の中へ追い込まれた。
「先生の指揮が加わるだけでこんなに変わるものなんですね」
「いやいや」
先生が手を振る。
「私はちょっと助言しただけだよ」
「実際にオトギを狙ったのはミユだし」
「クルミを引っかけたのもモエとサキ」
「最後の囲み方もミヤコと一緒に考えただけだしね」
「つまり、小隊それぞれの能力を利用しただけだと?」
ユキノが先生を見る。
「そうなるのかな、だってみんな強いもんね~」
「私はそれをやりやすいようにしただけ」
「……」
ユキノは先生をじっと見る。
これが遠くから眺めていただけでは分からなかった。
先生の指揮。
「なるほど……」
小さく呟いた後先生に近づいていく。
「ユキノ?」
そんなユキノを現地クルミが不思議そうに見る。
「先生」
「ん?」
「次はFOX小隊を指揮してもらう」
「……はい?」
ミヤコが反応した。
「えっ?」
先生も目を丸くする。
「もう一回やるの!?」
「当然でしょう」
ユキノは淡々と答える。
「今の試合ではRABBIT小隊だけが先生の指揮を受けていた」
「先生の指揮能力を正確に確認するなら、我々も同じ条件で戦う必要があります」
「……」
ミヤコが黙る。
今度はユキノの正論だった。
「先輩」
現地ニコが少し楽しそうに言う。
「リベンジする気ですね♪」
「任務だ」
「そういうことにしておきますよ♪」
「ニコ」
「ふふ」
ユキノが先生を見る。
「では頼みますね」
「う、うん」
先生がFOX小隊側へ移動する。
「……」
ミヤコがその様子をじっと見ていた。
「ミヤコ?」
サキが声を掛ける。
「……何でもありません」
少しだけ面白くない。
何故そう感じたのか。
ミヤコ本人にもまだ分からなかった。
◆
「ニコ、左!」
「了解です!」
「クルミはまだ撃たないで!」
「分かったわ!」
「オトギ、ミユを狙える?」
「いけますよ~」
「ユキノは待ち伏せしておいて」
「了解」
第二試合。
先生の指揮がFOX小隊へ付いた結果。
ユキノが死角から姿を現した。
「っ!?」
「そこまで!」
第二試合はあっさりとFOX小隊の勝利で終わった。
「…………」
RABBIT小隊が沈黙する。
「余裕勝ちでした♪」
ニコが嬉しそうに笑う。
「先生の指示、分かりやすかったわ」
クルミも少し感心した様子だ。
「自分で判断する余地も残してくれますしね」
オトギが続ける。
「ふむ……悪くないですね」
ユキノも小さく呟いた。
先生が笑う。
「みんな元々強いから、私は少し声掛けただけだけどね」
「……先生」
ユキノが見る。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
ユキノが思っていたより心地よかった。
命令されたり支配されたりとは違う、そういう指揮ではなかった。
自分たちを信じできることを任せてくる。
「……」
ユキノはそれ以上考えるのを止めた。
「先生」
今度はミヤコが声を掛ける。
「何?」
「もう一度です!」
「……えっ!?」
「今の戦いで、改善点が分かりました」
「次は勝ちます」
「ねぇ、ちょっと待って!?」
「早く準備してください」
「休憩は!?」
「まだ二試合しかしていません」
「十分だよ!?」
「早く始めましょう」
「聞こえてないの!!?」
◆
第三試合。
「そこまで!」
「RABBIT小隊勝利!」
「よし!」
サキが拳を握る。
ミヤコも少しだけ得意そうだった。
「……次だ」
ユキノが言う。
「嘘でしょ!?」
「今度はFOX小隊だ」
「まだやるの!?」
◆
第四試合。
「そこまで!」
「FOX小隊勝利!」
「よし」
珍しくユキノが僅かに笑う。
「……もう一度です」
ミヤコが言う。
「ミヤコ!?」
◆
第五試合。
「RABBIT2、そのまま!」
「了解!」
「FOX4を抑えて!」
「そこまで!」
「RABBIT小隊勝利!」
「次だ」
「ユキノぉ!?」
◆
第六試合。
「FOX3、今!」
「了解!」
「そこまで!」
「FOX小隊勝利!」
「次です」
「ミヤコさん!?」
◆
そして何試合目か。
「次は――」
「一旦休憩!!」
先生の叫びが訓練場へ響き渡った。
「……」
「……」
兎と狐が全員が止まる。
先生はその場へ座り込んだ。
「無理!」
「もう無理だよぉぉ!」
「私はみんなみたいに何試合も走り回れる訳じゃないの!」
「指揮だけじゃないですか?」
ミヤコが言う。
「指揮も結構疲れるの!」
「頭ずっと使ってるんだからね!?」
「……」
「それは」
ユキノが少し気まずそうに視線を逸らす。
「すみませんでした」
「私も……少し熱くなってしまいました」
ミヤコも反省する。
「少し?」
モエが笑う。
「ミヤコ、めちゃくちゃ負けず嫌いだったよ~」
「モエ」
「はいはい」
現地クルミも肩で息をしながら床へ座る。
「何でこんなことになったのよ……」
「私は結構楽しかったですけどね♪」
現地ニコはまだ余裕がありそうだった。
「私は結構疲れたぁ~」
オトギも壁へ寄りかかる。
「先生の作戦は勉強になったけど」
そんな時サキが何かを思い出す。
「そういえば何のために模擬戦を始めたんだっけ?」
先生がゆっくり顔を上げる。
「パトロールでしょ……」
「「…………あっ」」
「どっちが私とパトロールに行くか決めるためだったよね!?」
「……そうでした」
ミヤコが目を逸らす。
「忘れてました」
ユキノも目を逸らした。
「途中から先生に指揮してもらう方が目的になってたわね……」
「私って何なの?」
先生が頭を抱える。
「勝者への賞品?」
「先生を賞品にしたつもりはありません!」
ミヤコが慌てる。
「我々もだ」
ユキノも否定する。
「じゃあ何でこんなことになったのさ!?」
「……」
「……」
その答えは二人には答えられなかった。
「まったくもう!」
先生が立ち上がる。
「両方一緒に行くよ!」
「え?」
「RABBITもFOXも今日は全員でパトロール!」
「最初からそうすれば良かったんだよ!」
「……仕方ありません」
「異論はない」
結局、先生を中心にRABBIT小隊とFOX小隊が揃ってシャーレを出発した。
「じゃあ行くよ~」
「はい」
先生の右側をミヤコが歩く。
「今回のパトロールでは私たちが前方を確認します」
「お願いね」
「待て」
反対側からユキノが口を挟む。
「前方警戒なら我々も参加する」
「先輩たちは後方をお願いします」
「何故だ?」
「先ほどの模擬戦で前に出過ぎていましたから」
「それとこれとは関係ない!」
「あります」
「ない」
「あります」
「……」
「……」
再び二人が睨み合う。
先生は二人を交互に見る。
「まだまだ元気だねぇ……」
「先生はどっちが正しいと思います?」
ミヤコが尋ねる。
「先生は我々とRABBIT、どちらに前を任せる?」
ユキノも続く。
「えっ」
先生の顔が引きつった。
「ニコ」
少し後ろ。
現地クルミが隣の現地ニコへ小声で話しかける。
「何でしょう?」
「これさ、本当に任務の担当を争ってただけ?」
「さあ?」
現地ニコは楽しそうに笑っていた。
「先生!」
「先生」
「はいはい!」
困ったような先生の声が響く。
その後ろでミユは小さく笑い。
モエは面白そうに眺め。
サキとオトギは呆れ。
現地クルミは何とも言えない顔をしていた。
こうしてRABBIT小隊とFOX小隊による初めての合同パトロールは無事に何事もなく達成されたのだった。