新人先生はネタバレ生徒しか引けない   作:KuRoNia

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新人先生、招かれざる客に対応する

 カヤがシャーレへ身を寄せることになってから、一日が経った。カンナはその日のうちに「ヴァルキューレで資料を集める」と言って帰っていったが、前日の夜からほとんど眠れていなかったらしいカヤは、朝になって執務室へ姿を現した時点で目元に薄っすらと疲労を滲ませていた。

 

「カヤ、本当に大丈夫? もう少し寝ててもいいんだよ?」

 

「お気遣いなく。先生の近くにいる方が安全ですので」

 

「そ、そう……?」

 

 それからというもの、先生が執務室へ行けばカヤもついてくる。資料室へ足を運べばその後ろにぴったりと張り付き、昼食を取るため食堂へ向かえば当然のように隣の席へ座り、依頼掲示板を確認している間ですら半歩後ろに立って周囲を警戒し続けた。

 

「……カヤ」

 

「何ですか?」

 

「今日ずっと私の後ろにいない?」

 

「先生の周囲が今現在で最も安全だと判断しただけです。お気になさらず」

 

「いや、気にはなるけど……まあいいか」

 

「ありがとうございます」

 

 昨日まで殺されるかもしれないと怯えていた生徒を、無理に引き離す理由もない――先生はそう軽く考えていたが、その様子を見ている者たちは、まったく別の意味で気にしていた。

 

 休憩スペースで紅茶を飲んでいたナギサの視線がカヤへ向き、隣ではミカが頬杖をついたまま、笑っているようでまったく笑っていない目を向ける。ゲーム機を手にしていたはずのセイアも画面ではなくカヤを見ており、その横からアツコがじっと観察していた。

 少し離れた場所では臨戦トキとケイ、さらには臨戦ホシノとシロコテラーまでもが同じ方向へ視線を向けている。

 

「……は?」

 

 偶然通りかかったミヤコまで足を止め、カヤを見つめていた。

 

「ひっ……な、何ですか!?」

 

 カヤの背筋にぞくりと悪寒が走った、その瞬間。数多の視線が一斉に逸れ、慌てて周囲を確認した頃にはもう、何もない日常が広がっているだけだった。

 

「……あれ?」

 

 カヤが少しだけ眉を寄せる。

 

 ――今のは、一体何だったんでしょうか?

 

 実際のところその場にいた大半が考えていたことは、

 

 ――何であいつ、ずっと先生にくっついてるの?

 

 ほぼそれだけだった。

 

「カヤ、どうかした?」

 

「いえ。何でもありません」

 

 何も知らない先生だけが、いつも通り過ごしていた。

 

 そして、何事もなく時は流れその日の深夜。カヤへ貸し与えられた部屋では、ベッドの上で毛布を胸元まで引き上げたカヤが、落ち着かない様子で何度も扉と窓を確認していた。

 

「……今日は流石に寝れそう?」

 

「無理です」

 

「そっかぁ……」

 

「窓の鍵は?」

 

「閉まってるよ」

 

「廊下は?」

 

「トキたちもいるし、誰か入ってきたらすぐ分かるよ」

 

「先生はどこで寝るんですか?」

 

「自分の部屋だけど?」

 

「……ここじゃないんですか?」

 

「え?」

 

「……いえ、何でもありません」

 

 カヤは毛布を鼻の辺りまで引き上げる。昨夜からほぼまともに眠れておらず、昼間もずっと緊張し続けていた身体は、流石にもう限界だった。

 

「とりあえず安心して寝ていいよ。何かあったらすぐ呼んでいいから」

 

「……本当に来てくれますか?」

 

「もちろん」

 

「……分かりました。でもやっぱり不安なので寝るまで傍に居てください」

 

「いいよ~」

 

 先生が安心させるように笑いかけると、カヤは渋々目を閉じた。それから何度か寝返りを打ち、一度だけ目を開けて先生がまだいることを確認すると、ようやく規則正しい寝息を立て始めた。

 

「……すぅ……」

 

「眠ったか……」

 

 先生は声を抑えながら安堵の息を吐き、静かに立ち上がって照明を落とし、音を立てないよう扉を開ける。

 

「おやすみ、カヤ、いい夢を見なよ」

 

 小声でそう告げて廊下へ出ると、静かに扉を閉めた。そして振り返った先にはケイ、セイア、ニコの三人が、妙に真剣な表情で待っていた。

 

「……三人ともどうしたの?」

 

「先生、少しお話があります」

 

「こんな時間に?」

 

「出来れば今すぐにだね」

 

 セイアが静かに答える横で、ニコも普段の柔らかな笑みこそ浮かべているものの、どこか焦っているようだった。

 

「できれば静かな場所へ移動しましょうか。カヤさんを起こさない方がいいでしょうから」

 

「……そうだね」

 

 三人の様子から、先生も薄々ただ事ではないことを察していた。

 

◆

 

 人気のない会議室に照明は最低限だけ点けられ、窓の外には深夜のキヴォトスが広がっている。

 

「それで、何があったの?」

 

「まず私から」

 

 ケイが端末を机へ置き、画面に周辺地図を表示させながら口を開いた。

 

「シャーレ周辺に設置されている防犯カメラへアクセスし、通常とは異なる車両の動きを確認しました」

 

「防犯カメラにアクセスって……」

 

「細かいことは気にしないでください」

 

「了解~」

 

 先生は諦めたように返事をする。ケイが映像を切り替えると、深夜の道路を進む複数の装甲車、さらに後方には戦車、そして大量の兵士を輸送していると思われる車両が映し出された。そのどれにも、特徴的なロゴマークがペイントされている。

 

「これ……カイザー?」

 

「はい。確認できる車両だけでも相当な数です。進路から見て、目的地はほぼ間違いなくシャーレでしょう」

 

「……んー?」

 

 先生の表情が引き締まる。

 

「セイアは?」

 

「私は二人ほど確実な情報を持っているわけではないよ」

 

 セイアは腕を組みながら窓の外へ視線を向ける。

 

「今の私に予知夢はもう無い。ただ……代わりに妙に勘が鋭くなってしまってね。今夜はずっと嫌な感じがしていた」

 

「嫌な感じ?」

 

「ああ。何かがこちらへ近づいている。しかも、かなり面倒なものがね」

 

「なるほど……それでニコは?」

 

「私は少し前からドローンを飛ばしてカイザー側の動きを監視していました」

 

 ニコが端末を操作すると、上空から撮影された映像に、地上部隊とは別方向から飛来する複数の輸送ヘリが映る。

 

「こっちは空からです。しかも一般的なカイザー部隊とは装備が違います」

 

「いや、まさかね……」

 

「三人とも別々の方法で調べたのに、答えは同じです」

 

 ケイが結論を告げた。

 

「恐らくカイザーの狙いはシャーレです」

 

「なんでさ!?」

 

 三人が先生を見る。

 

「FOX小隊を襲ったのセイアたちでしょ!? カヤが言ってた『カイザーに狙われてる』ってただの勘違いじゃなかったの!?」

 

「それを私に言われても困るね」

 

「まあ、来ちゃったものは仕方ありませんし」

 

「原因の究明は後です。今は対処を優先してください」

 

「みんな落ち着いてるなぁ!?」

 

 先生は頭を抱えかけ、すぐに動きを止めた。脳裏に浮かぶのは、ようやく眠ったばかりのカヤの姿。

 

『先生、私を守ってください!』

 

 もし本当にカイザーが来ているなら、FOX小隊の件が勘違いだったかどうかなどもはや関係ない。今度こそ、カヤが本当に狙われている。

 

「……分かった」

 

 先ほどまでの困惑が消え、先生の声色が変わった。

 

「詳しい戦力を教えて」

 

「分かりました」

 

 ケイがすぐに画面を切り替える。

 

「地上部隊は物量中心です。歩兵多数。装甲車。そして戦車も複数確認しています」

 

「正面から押し潰す気かな?」

 

「可能性は高いです。しかし本命はこちらでしょう」

 

 今度はニコが輸送ヘリの映像を拡大した。

 

「ヘリに乗っているのはカイザーの精鋭部隊です。装備も通常兵とは明らかに違います」

 

「指揮官もいるのかい?」

 

 セイアが尋ねる。

 

「はい。先頭ではなく中央の機体です」

 

 画質は荒いが、拡大された映像には整然と並ぶ精鋭部隊の奥に、一際目立つ人物が座っているのが見えた。灰黒色を基調とした長い軍用コート、黒い機械式バイザーとマスクに覆われた顔面の奥では緑色のセンサーが静かに発光し、袖や帽子にはPMCを示す部隊章がある。

 人間らしい顔など一切存在しない完全な機械人でありながら、その姿勢と装備だけで他のカイザー兵とは明らかに違う雰囲気を醸し出していた。

 

「今回の部隊指揮官と思われます」

 

「……分かった」

 

 先生は少し考えてから続けた。

 

「悪いけど、私が募集したみんなだけ静かに起こしてきてもらえる?」

 

「募集組だけですか?」

 

「うん。カヤはやっと寝たところだから起こしたくない。それに便利屋のみんなとアリウススクワッド、ミヤコたちとユキノたちも今日は寝かせておこう」

 

 少し申し訳なさそうに笑いながら、先生は言葉を続けた。

 

「みんな最近色々あったしさ。できるなら私たちだけで何とかしよう」

 

「分かりました」

 

「了解したよ」

 

「任せてください」

 

「それと警報は鳴らさないでね。できるだけ静かに」

 

 三人が頷き、音もなく会議室から出ていく。

 

「……さて」

 

 一人残った先生は地図に浮かぶ、迫ってくる大量の赤い反応を見つめた。

 

「約束を守るとしますか」

 

◆

 

 数分後、会議室には眠そうな顔をした募集生徒たちが集められていた。

 

「先生~……」

 

 目を擦りながら先生を見上げるミカに、他の面々も次々と視線を向ける。

 

「こんな時間にどうしたの……?」

 

「ごめんね。ちょっと大変なことになって」

 

「大変?」

 

 ナギサが僅かに姿勢を正し、臨戦ホシノやシロコテラーも先生の表情から何かを察していた。集まったメンバーへ説明を始めようとした、まさにその時。廊下から微かな足音が聞こえ、扉がゆっくりと開かれる。

 

「先生」

 

「ミヤコたち!?」

 

 そこにはRABBIT小隊の四人が立っていた。

 

「何かありましたか?」

 

「なんで起きてるの?」

 

「この時間に廊下を複数人が移動していましたので」

 

 ミヤコが当然のように答えると、サキも腕を組んだ。

 

「私たちは訓練を受けている。あれだけ人の気配がすれば気づく」

 

「なんか楽しそうだったし~」

 

「モエはそれで起きてきたの?」

 

「当たり前じゃん♪」

 

「わ、私は皆についてきただけで……」

 

「静かにしてたつもりだったんだけどなぁ……」

 

 先生が頭を掻いていると、再び足音が聞こえてくる。

 

「……まさか」

 

「何が起きた?」

 

「ユキノたちまで!?」

 

 今度はユキノを先頭に、ニコ、クルミ、オトギのFOX小隊四人までもが起きてきてしまった。

 

「この時間に何人も動いていれば流石に気づく」

 

「私たちも気配には敏感ですからね♪」

 

「何か隠してるでしょ?」

 

「スナイパーの悲しい性ですよね~」

 

 先生は天井を見上げる。

 

「起こさないようにした意味……」

 

「先生」

 

 ケイが声を掛ける。

 

「来てしまったものは仕方ありません」

 

 少し迷った末、先生も諦めた。

 

「まあ、起きちゃったものはしょうがないか。でもカヤと便利屋のみんな、アリウススクワッドは起こさないでね。このまま寝かせておこう」

 

 ユキノが僅かに反応する。

 

「まだシャーレにいるのか?」

 

「うん。しばらく匿うことになった」

 

「……そうか」

 

 ユキノの表情が僅かに複雑になったが、今は追及しなかった。

 

「それじゃあ、改めて説明するね。今、カイザーの部隊がこっちに向かってる」

 

「……!」

 

 全員の表情が変わる。

 

「地上からは大部隊が来ている。歩兵だけじゃなくて、装甲車や戦車もいる」

 

 画面を指差しながら、先生は続けた。

 

「さらに上空から複数の輸送ヘリ。こっちは精鋭部隊で、指揮官らしい人も乗ってるみたい」

 

「彼らは何を狙っているのですか?」

 

 ナギサが尋ねる。

 

「多分だけど、カヤじゃないかな…」

 

「多分?」

 

「事情がちょっと複雑で……」

 

 困ったように笑いながらも、先生は言葉を継いだ。

 

「でも少なくとも、このまま通したらカヤが危ないのは確かなんだ。それにシャーレにいるみんなも巻き込まれる」

 

 地図を見つめる先生の表情が引き締まる。

 

「問題はまず、この地上部隊だね。数が多すぎる」

 

「じゃあ」

 

 臨戦ホシノが軽く手を上げた。

 

「正面はおじさんたちがやるよ」

 

「ん。私も行く」

 

 隣のシロコテラーも当然といった様子で頷く。

 

「二人だけでか?」

 

 ユキノが思わず聞き返した。

 

「相手には装甲車だけでなく戦車までいる。歩兵の数も相当だ。それを二人だけで相手にするのは無茶です!」

 

「大丈夫大丈夫~、おじさん最強だから」

 

「ん。問題ない」

 

 あまりにも軽い二人の言動に、ユキノだけでなく他のFOX小隊全員が何とも言えない顔になる。

 

「あっ! ちょっと待ってね~」

 

 何かを思い出したように鞄を漁った臨戦ホシノが取り出したのは、紫色の表紙をした一冊の本だった。

 

「……?」

 

 初めて見る本に先生が首を傾げる中、臨戦ホシノは気にせず本を開いた。

 

「カイザー……カイザー……」

 

 ペラペラとページを捲る音が響く。

 

「ん~……? あっ、あった」

 

 あるページで指が止まる。

 

「うん。やっぱり書いてあるね」

 

 隣から覗き込んだシロコテラーが呟く。

 

「じゃあ遠慮しなくていいね」

 

「……」

 

「ホシノ…その本はなに?」

 

 恐る恐る尋ねる先生に、臨戦ホシノは本当に不思議そうな顔を返した。

 

「え? おじさんの仕返し帳簿だけど……?」

 

「…………」

 

 その返答を聞いた先生が黙り、臨戦ホシノも黙る。シロコテラーだけが無表情のまま二人を見ていた。

 

「……そ、そっか教えてくれてありがとう…。じゃあ正面はお願いしてもいいかな?」

 

「任せてよ~」

 

 これ以上、あの紫色の本について聞いてはいけない――先生の本能がそう告げていた。

 

「次だけど――」

 

 気を取り直し、先生は上空から迫るヘリの位置を示す。

 

「こっちの精鋭部隊。多分屋上から直接入ってくると思うんだけど――」

 

「私たちにやらせてほしい」

 

 意を決したようにユキノが言った。

 

「FOX小隊が?」

 

「ああ」

 

 仲間たちを見渡すと、三人とも真剣な表情のまま何も言わなかった。それを確認してから、ユキノは先生へ視線を戻す。

 

「先生にはまだ話していなかったことがある。私たちはSRTを復活させるため、不知火カヤに協力していた」

 

「……え?」

 

 驚いた表情でミヤコたちがユキノを見る。

 

「その中にはカイザーが関わる任務もあった。正しいことではないと分かっていた。それでもSRTを取り戻すためだと、自分たちへ言い聞かせていたんだ…」

 

「そう、だったんだね…」

 

 責める響きのない声で、先生はただ続きを待った。

 

「……今度は」

 

 ユキノが先生を見据える。

 

「命令ではなく、自分たちの意思で戦わせてほしい。罪滅ぼしなどと言えるほど都合のいい話ではないことも分かっている。それでも……私たちにやらせてくれ」

 

「いいよ」

 

 先生はそれだけ答えた。

 

「ありがとうございます」

 

 今度はミヤコが声を上げた。

 

「私たちも行きます」

 

「ミヤコたちも?」

 

「はい」

 

 ユキノを見てから、ミヤコは続けた。

 

「FOX小隊だけの問題ではありません。私たちも同じSRTです」

 

 それから少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らす。

 

「それに……ここは今、私たちが暮らしている場所ですから」

 

 先生が少しだけ目を丸くする。公園で初めて会った時、「先生、私たちはあなたのような大人が一番嫌いです」と言っていた彼女が、今はシャーレを自分たちの暮らしている場所だと言った。随分とまぁかわいくなっちゃって――そう思いながら先生は嬉しそうに笑う。

 

「じゃあ一緒にお願いしようかな」

 

「なんですか、その顔は!?」

 

「ふふ、別に何もないよ?それにミヤコ達が心配だから私も上を担当するね」

 

 そんなやり取りをしていると、ニコも手を上げた。

 

「では私たちも上を担当します」

 

「まぁ、私たちもFOX小隊だしね」

 

 ため息を吐きながら立ち上がったクルミが続ける。

 

「偶には後輩たちにかっこいい所見せてあげるんだから!」

 

 こうして屋上から侵入してくる精鋭部隊への迎撃は、RABBIT小隊とFOX小隊、募集されたニコとクルミ、そして先生というメンバーで行うことになった。

 

「残るのは居住区の防衛だね」

 

 シャーレの見取り図を見ながら先生が続ける。

 

「普段みんなが使っている居住区には便利屋やアリウススクワッド、それに今はカヤがいる。絶対にここへカイザーを通すわけにはいかない」

 

「でしたら、こちらは私たちが担当しましょう」

 

「私もいるし安心してよ☆」

 

「ミカだけでもいいんじゃないかな?」

 

「まぁバックアップくらいできるだろう?」

 

「こっちは任せて、といっても出番無いと思うけど」

 

 張り切る臨戦ホシノとシロコテラーを眺めながら、アツコが肩を竦める。そんな中、臨戦トキだけが捨てられた子犬のような目で先生を見つめていた。

 

「先生は屋上へ向かわれるのですね?」

 

「うん。ミヤコたちの指揮に入るよ」

 

「……分かりました」

 

 一瞬だけ不満そうな顔をしたものの、臨戦トキはすぐいつもの無表情へ戻る。

 

「では、先生が戻ってくる場所は私たちが守ります」

 

「ありがとう」

 

「それと先生」

 

 ケイが続けた。

 

「絶対に単独行動は禁止ですからね」

 

「わかってるよ」

 

「その言葉は前にも聞きました!」

 

「そんなぁ……」

 

「先生には実績があります」

 

「悪い意味で?」

 

「分かってるじゃないですか!」

 

 僅かに笑いが起こったが、その空気も長くは続かない。ケイの端末に新しい反応が表示された。

 

「……来ますね」

 

 全員の表情が切り替わる。

 

「到着まで数分ほどですね」

 

 立ち上がり全員を見回すと、先生は静かに告げた。

 

「じゃあ配置につこうか」

 

◆

 

 月明かりだけが照らすシャーレ前に、遠くから低いエンジン音が響いてくる。やがて暗闇の中へ無数の光が現れ、その後方から大型の装甲車が続き、さらに戦車の砲塔がゆっくりとシャーレへ向いた。整然と並ぶ大量のカイザー部隊、その正面には二人の影が伸びている。

 

「……」

 

 臨戦ホシノが盾を軽く体へ預けた。隣ではシロコテラーが静かに銃を構えている。

 

「よくもまあこんなに集めたもんだね~」

 

「ん」

 

「戦車まであるよ」

 

「ん」

 

「ちゃんとおじさんの話聞いてる?」

 

「ん」

 

 呆れたように小さく笑うと、臨戦ホシノは前を向いた。

 

「まぁいいか、それじゃああの時の仕返しを始めよっか!」

 

「ん!」

 

◆

 

 シャーレ上空に低く響くローター音。闇を切り裂きながら接近した複数の輸送ヘリが屋上の上空で停止し、次々と精鋭部隊が降下してくる。

 暗闇の中でもセンサーだけが不気味に光る中、最後に着地した指揮官機が腰の拳銃へ手を添えながら屋上を見渡した。

 

『目標は裏切り者の不知火カヤだ。生存状態での確保を最優先だ。抵抗する者は全て排除しろ』

 

 そのすぐ下、照明を全て落とされた屋上直下のフロアでは、暗闇に包まれた廊下の中でRABBIT小隊、FOX小隊、ニコ、クルミ、そして先生が誰一人として声を発さず、上から響く重い足音だけを聞いていた。

 

 ガンッ。

 

 ガンッ。

 

 人が歩くたびに、天井が僅かに震える。

 

「……」

 

 銃を握り直すミヤコの隣で、ユキノも静かに目を細めた。

 全員が先生からの合図を待っている。先生は静かにシッテムの箱を手に取った。

 

「……来たね」

 

「みたいですね」

 

「いつでもいけます」

 

 ユキノとミヤコが同時に答える。深く一度息を吸ってから、先生は静かに告げた。

 

「じゃあ作戦開始しようか」

 

 深夜のシャーレでカイザーとの戦いが始まろうとしていた。

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