新人先生はネタバレ生徒しか引けない   作:KuRoNia

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幕間
新人先生、昼食の相席が濃すぎる


 テス先生が正式にシャーレの一員となってからしばらく経ったある日のこと。

 午前中の業務が一段落したところで、先生は執務室の時計を確認すると大きく背伸びをした。

 

「そろそろお昼にしようかなぁ」

 

「賛成~! もうお腹空いたよ!」

 

 向かい側の机で書類仕事をしていたテス先生が、待っていましたと言わんばかりに顔を上げる。

 

「テス、その書類まだ終わってないでしょ?」

 

「腹が減っては仕事はできぬって言うじゃん? つまり昼休憩も立派な業務の一環なんだよ!」

 

「そういう屁理屈だけ覚えるの早いね……」

 

「何か言った?」

 

「何でもないよ」

 

 二人がそんなやり取りをしていると、近くにいたユメも興味を示し、さらに別室で書類の整理を手伝っていたカヤと元理事にも声を掛けることになった。

 こうして先生、テス先生、ユメ、カヤ、元理事の五人は、シャーレから少し歩いた場所にある飲食店へ向かった。

 

「……さすがに昼時は混んでるなぁ」

 

 店へ入った先生は、想像以上の客の多さに苦笑した。

 店内はほぼ満席で賑わっていた。そこまで高級な店ではないものの、値段の割に量が多く味も良いため、シャーレ周辺ではそれなりに人気がある店だった。

 

「別のお店にしますか?」

 

 カヤが店内を見ながら尋ねたところで、店員がこちらへ駆け寄ってくる。

 

「五名様ですよね? 申し訳ありません、現在まとまったお席がなくて……ただ、先ほど四名席が一つ空きましたので、四名様でしたらすぐにご案内できます」

 

「じゃあ、みんな先に座ってていいよ」

 

「先生は?」

 

「私は待つよ。一人ならそんなに掛からないでしょ」

 

 先生がそう答えると、店員が少し考えてから口を開いた。

 

「お一人様でしたら、相席でよろしければすぐご案内できますよ」

 

「じゃあそれでお願いします」

 

「あっ、ちょっと、先生!」

 

 カヤが止める間もなく先生は即答した。

 

「みんな先に食べてて。食べ終わったら合流しよう」

 

 先生は四人を先に送り出すと、そのまま店員に案内されて店の奥へ進んでいった。

 そして辿り着いたのは、六人掛けの大きなテーブルだった。

 

「こちらのお席になります」

 

「ありがとうございます」

 

 既に五人の見知らぬ生徒が座っていた。いや一人だけは知っている顔が居た。

 

「あれ、ワカモ?」

 

「――先生?」

 

 狐坂ワカモは先生の姿を見た瞬間に目を見開き、次の瞬間には満面の笑みを浮かべていた。

 

「まあ、先生♡ このような場所でお会いできるなんて……! まさかこれは運命というものでは♡」

 

「久しぶりだね。相席になるみたいだけど大丈夫かな?」

 

「もちろんでございます♡ むしろ私としてはいつまでも相席していただいて――」

 

「食べ終わったら席は空けるよ?」

 

「そういう意味ではございません!」

 

「?」

 

 何故か落ち込んだワカモを不思議そうに見ながら、先生は空いている席へ座った。

 残る四人とは初対面だった。

 一人は優雅な雰囲気を纏ったネコミミの少女で、先生が座ってからというもの、興味深そうな視線を向け続けている。

 その隣では落ち着いた雰囲気の白黒の特徴的な髪色をした少女が、こちらへ大した興味もなさそうに食事を続けていた。

 さらに向かいには、見るからに喧嘩慣れしていそうな大柄な少女。

 そして最後の一人は、柔和な笑みを絶やさず、先ほどから何を考えているのか全く読み取れない金髪の髪がすごいフワフワしてそうな小柄な少女だった。

 

「ワカモのお友達?」

 

「「「「…………」」」」

 

 一瞬だけ妙な沈黙が流れた。

 

「……お友達、ですか」

 

 ネコミミ少女が、その表現を楽しむように小さく笑う。

 

「違うの?」

 

「いいえ。今はその認識でも構いませんよ」

 

「そう?ならよかった」

 

 先生はあっさり納得した。

 

「ごめんね、少しの間相席よろしくね」

 

「ええ。こちらこそ、先生」

 

「私のこと知ってるの?」

 

「噂くらいは」

 

「最近どこ行ってもそう言われるんだよねぇ……」

 

「ふふっ。それだけ有名になられたということでしょう」

 

 初対面とは思えないほど滑らかに会話へ入り込み、少女が少しだけ身を乗り出す。

 

「せっかくの機会です。色々とお話を伺っても?」

 

「ご飯食べながらでもいいならいいよ」

 

「まあ。それは嬉しいですね」

 

「…………」

 

 ワカモから彼女へ無言の視線が飛ぶ。

 

「ワカモ?」

 

「はい、先生どうしましたか?♡」

 

「なんか今すごい目してなかった?」

 

「気のせいですわ♡」

 

「そう?」

 

「はい♡」

 

 先生が再びメニューへ視線を戻した途端。

 

「…………」

 

 ワカモの笑顔から温度だけが消えた。

 ネコミミ少女はその牽制を真正面から受けても全く動じず、むしろ楽しそうに微笑み返している。

 先生が顔を上げる。

 

「先生、何を注文なさいますか♡」

 

「ん?なんか一瞬空気死んでなかった?」

 

◆

 

 少し離れた四人席で注文した料理を待っていたカヤは、何気なく先生の方へ目を向けた。

 最初に見えたのはワカモ。

 

「……は?」

 

 そこまでは最悪だが納得しよう。彼女が先生を決して傷付けない事はシャーレの生徒達から聞いていたから落ち着いていられた。ただ問題はその周囲だった。

 

「…………」

 

 カヤの表情が固まる。

 目を瞑ってからもう一度改めて先生の周りを見る。

 

「…………え?」

 

「どうしたの?」

 

 テス先生が尋ねる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください……脳が理解出来ていないので」

 

「?」

 

 防衛室長として数多くの危険人物に関する資料を扱ってきたカヤには、見覚えがあった。

 

 一人。

 

 また一人。

 

 さらに―――。

 

「…………嘘でしょう?」

 

「どうした?」

 

 今度は元理事が怪訝そうな顔をする。

 カヤは慌てて顔を近づけ、小声で告げた。

 

「元理事……先生の席を見てください」

 

「先生がどうした?」

 

「ワカモさん以外の方です」

 

 元理事が何気なく視線を向ける。

 

「………おいおい」

 

「気づきました?」

 

「多少なりとも知ってれば嫌でも気づくだろ……」

 

 カヤは周囲に聞こえないよう、さらに声を落とした。

 

「狐坂ワカモを含めて……あの席には少なくとも七囚人が四人います」

 

「…………」

 

「えっ?」

 

 傍で聞いていたテス先生が普通に声を上げかける。

 

「声を抑えてください!」

 

「なんで?」

 

「お店をパニックにしたいんですか!?」

 

「七囚人って何?」

 

 ユメまで首を傾げる。

 

「そこからですか!?」

 

 カヤは頭を抱えそうになりながら、改めて先生の席へ視線を向けた。

 

 そして。

 

「……ただ」

 

「どうした?」

 

「あの小柄な方だけ……分かりません」

 

 元理事もそちらを見る。

 いつも穏やかな笑みを浮かべながら、先生との会話を楽しそうに眺めている少女。

 

「資料には?」

 

「少なくとも私の立場で閲覧できた情報には存在しません」

 

「お前にも分からんのか」

 

「だから余計に怖いんですよ……!」

 

 七囚人が四人も同じ卓へ座っている。

 その中に防衛室長の自分ですら正体を知らない人物が、当然のように混ざっている。

 

「先生ぇ……なんでよりによってあの席を引くんですか……」

 

「相席を選んだだけだろ?」

 

「普通はこうならないんです!」

 

「まぁ大丈夫じゃない? それよりもお腹すいたー!」

 

 テス先生はすでに空腹に気を取られ始めた。

 

「先生、お友達増えそうですね~」

 

 ユメは斜め上の感想を嬉しそうに言う。

 

「だからそういう話じゃないんです!」

 

 カヤは料理が届いてからも、先生の席から視線を外すことができなかった。

 

◆

 

「先生はこちらのお店にはよく来られるのですか?」

 

 ネコミミ少女がワカモの事など気にも留めずに尋ねる。

 

「たまにね。シャーレから近いし、値段の割に量多いから」

 

「飾り気より実を選ばれるのですね」

 

「そんな格好いい話じゃないよ。安い方が助かるだけの話」

 

「ふふっ。率直ですね」

 

 ネコミミ少女は何気ない雑談の中から、するりと先生との距離を縮めていく。

 

「それでは、先生がお好きなものは? 食べ物でも、それ以外でも構いませんよ」

 

「好きなもの?」

 

「はい。せっかくお会いできたのですから、先生についてもっと知りたいな、と」

 

「結構ぐいぐい来るね」

 

「お気に障りましたか?」

 

「いや、そんなことは無いよ」

 

「では遠慮なく」

 

「…………」

 

 そんな二人のやり取りをワカモがジーーーーーーーっと見ていた。

 そして先生の視線がメニューへ向いた瞬間。

 

「先生はお食事を楽しまれに来たのですから、あまり話しかけるのは迷惑になるかと思いますよ」

 

「相変わらず怖い狐ですね~」

 

「忠告しているだけですよ」

 

「ふふっ。承知しました」

 

「ワカモ?」

 

「はい♡」

 

「仲良いんだよね?」

 

「もちろんでございます♡」

 

「ええ、とても仲良くさせていただいておりますよ」

 

 二人の間に漂う空気に全く気づかず、先生は料理を食べ始めた。

 その様子を、先ほどまで先生へ大して興味を示していなかった黒白少女が横目で眺める。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「君は彼女のことをどう思っているんだい?」

 

「ワカモの事?」

 

「そう」

 

「どうって……」

 

 先生は少し考える。

 

「問題児?」

 

「先生!?」

 

「そこは否定できないでしょ?」

 

「うぅ……」

 

 ワカモが露骨に落ち込む。しかし先生はすぐに笑った。

 

「まあでも、手がかかる子ほど可愛く思っちゃうところもあるんだけどね」

 

 その言葉を聞いたワカモが停止した。

 

「先生が……私を……可愛い……」

 

「ワカモ?」

 

「少々お待ちくださいませ。今、幸せを噛み締めておりますので」

 

「わかった……」

 

 先生はそっとしておくことにした。

 しかし、その言葉を聞いていた黒白少女は、先ほどまでとは違いはっきりと先生へ視線を向けていた。

 

「……変わった人だね、君は」

 

「その評価もよく言われるよ」

 

「褒めてはいないよ」

 

「それもよく言われる」

 

「ククッ……」

 

 少女は少しだけ楽しそうに笑う。

 

「彼女のような生徒を、怖いとは思わないのかい?」

 

「怖い時はあるよ?」

 

「先生!?」

 

「だってワカモ本気で怒ると怖いじゃん」

 

「先生には絶対にそのようなことはいたしません!」

 

「うん。それも知ってる」

 

 先生は特に気負うことなく続ける。

 

「でも、危ないから放っておこうとは思わないかな。何かやらかしたら止めるし、その後どうするかも一緒に考える。それが先生の仕事だと思ってるから」

 

「……なるほど」

 

「それで私の判断が間違ってたら、その時は大人の私が責任を取ればいい。ワカモが取り返しのつかない事をしちゃったときは私が謝るし、止めて見せるよ」

 

 先生にとってはいつもの考えを口にしただけだった。

 

「……凄いですね」

 

 大柄な少女が、そこで初めて食事の手を止めた。

 

「何が?」

 

「いいえ、あなたの様な大人を見るのは初めてでして、少々驚いてしまいました」

 

「そうかな? 私以外にも結構いると思うけどな~?」

 

「自分で関わった者は最後まで面倒を見る。そういう話でしょう?」

 

「まあ、……そうかな」

 

「先生の在り方は私からすると好印象ですわ」

 

 少女は晴れやかに笑う。

 

「義理も人情も無い人より、よっぽど信頼出来ますわ」

 

「そういうの大切にするタイプなんだ?」

 

「そうですわね。落ちる所まで落ちてもこれだけは曲げたりしません」

 

「じゃあ私たち結構気が合うかもね」

 

「ですわね」

 

 二人が自然に話していると、ワカモがまた少しだけ不満そうな顔をしていた。

 

「ほむ……」

 

 そこで小柄な少女が楽しそうに声を漏らした。

 

「大変興味深いお話でした」

 

「そう?」

 

「ええ。危険だから排除するのではなく、自分が関わった以上は最後まで責任を持つ……なるほど」

 

 口元には柔らかな笑み。

 しかし、その目が何を考えているのか先生には全く分からない。

 

「先生は実に面白い方ですね」

 

「最近それもよく言われるなぁ」

 

「それでは先生。今後もし何かお困りのことがございましたら、私にもお声掛けください」

 

「いいの?」

 

「もちろんですとも」

 

 少女は両手を組む。

 

「私、人の願いや望みを叶えるお手伝いをすることには少々自信がありますので」

 

「へぇ。凄い親切なんだね~」

 

 少女の笑みが僅かに深くなった。

 

「ええ、とても親切なんですよ」

 

「先生」

 

 すかさずワカモが割り込む。

 

「どうしたの?」

 

「お困りでしたら、まず私へお申し付けくださいませ」

 

「ワカモに頼むと建物が残らない時あるからなぁ……」

 

「そんなぁ!」

 

「でしたら」

 

 ネコミミ少女も笑みを浮かべる。

 

「私も候補に加えていただけませんか? 先生からのご依頼でしたら、できる限り美しく解決してみせますよ」

 

「なんで急に営業合戦始まったの?」

 

「人気者ということでは?」

 

「そんなもんかなぁ」

 

 先生は深く考えず、残っていた料理へ箸を伸ばすべく意識をそちらに向けたタイミングで落ち込んでいたワカモが顔を上げる。

 先生へ向けるものとは似ても似つかない鋭い眼光が、同席していた彼女たちへ突き刺さった。

 

 ――この方に妙なことをすれば、ただでは済ませません。

 

 言葉がなくても十分伝わる。

 ネコミミ少女は愉快そうに微笑み返した、小柄な少女も何ら動じることなく同じ笑みを返す。

 黒白少女は余裕そうに我関せずと食事を続け、大柄な少女は面倒そうにため息を吐いた。

 

「食事時くらい落ち着かれてはいかがですか?」

 

「ん?」

 

 先生が顔を上げる。

 

「何かあった?」

 

「何でもございませんよ、先生♡」

 

「……さっきからちょこちょこ一瞬だけ空気悪くない?」

 

「気のせいでございます♡」

 

「う~ん…まぁワカモが言うなら…」

 

 何の疑いもなく再び食事を始める呑気な先生を見ながら、初対面の四人はそれぞれ違った意味で呆れていた。

 

◆

 

「ごちそうさまでした」

 

 食事を終えた先生は手を合わせると、席を立った。

 

「じゃあ私は午後からも仕事あるから戻るね」

 

「もう行ってしまわれるのですか、先生……」

 

「仕事だからね」

 

「シャーレまでご一緒しても?」

 

「ワカモも何か用事があるんじゃないの?」

 

「先生以上に重要な用事など――」

 

「気を使わなくていいよ、お友達と食事を楽しんでね」

 

「うぅ……わかりました」

 

 しょんぼりするワカモを見て苦笑しながら、先生は残る四人へも頭を下げた。

 

「今日は相席ありがとう。思ってたより楽しかったよ」

 

「こちらこそ偶然の出会いも悪くありませんね。またお会いできる日を楽しみにしております、先生」

 

 ネコミミ少女が優雅に笑う。

 

「うん。またね」

 

「私も、次に会う機会があればもう少し君と話してみたいものだね」

 

 最初は無関心だった黒白少女も、今では僅かに興味の混じった目を向けている。

 

「ははは、難しい話じゃなければいくらでも付き合うよ」

 

「ククッ……覚えておくよ」

 

「先生とはまた一緒に食事を楽しみたいですわね」

 

 大柄な少女が腕を組む。

 

「ありがとう。私も話しやすかったよ」

 

 そして最後に、小柄な少女。

 

「ほむほむ…。先生少しいいですか?」

 

「何かな?」

 

「本日は実に有意義な時間でした」

 

「ただお昼食べてただけだよ?」

 

「私には、それで十分なのですよ」

 

「?」

 

「またいつかお会いしましょう」

 

「うん。またどこかで」

 

「私の事は教授と呼んでください。何かありましたらワカモに一報ください。私の耳にも入るはずですので」

 

「わかった。それじゃあまたね~。みんなも元気でね~」

 

「先生もご自愛ください」

 

 小柄な少女はただ楽しそうに笑っていた。

 先生は最後まで誰一人として素性を尋ねることなく、その場を離れていった。

 先生の背中が遠ざかる。

 

「ふふっ……確かに興味深い方ですね」

 

 ネコミミ少女が笑う。

 

「最初はどうでもよかったが……少しだけ興味がわいたよ」

 

 黒白少女も、もう一度先生が去った方向へ目を向ける。

 

「あのように筋を通す人は好ましいですね」

 

 大柄な少女も頷きながら残っていたデザートを食べていた。

 

「ほむ」

 

 小柄な少女だけは、最初から最後まで笑みを崩さなかった。

 

「これは良いご縁を得られたかもしれないですね」

 

「…………」

 

 そんな四人へワカモが静かに視線を向ける。

 

「皆様」

 

 満面の笑顔だった。

 

「先生に妙なことをなさいましたら――分かっていますね?」

 

「まあ、怖い」

 

「ふふっ」

 

「面倒だね」

 

「ですから食事の席で殺気を出すのはマナー違反ですよ」

 

「ほむほむ」

 

 先生がいなくなった途端、一気に物騒な空気へ変わった食卓を前にしても、小柄な少女だけは心底楽しそうに笑っていた。

 

◆

 

「みんな、お待たせ」

 

 先生が元の四人席へ戻ってくる。

 

「先生!」

 

「うわっ!?」

 

 カヤが勢いよく立ち上がった。

 

「何!?」

 

「一体何をしていたんですか!?」

 

「お昼食べてたけど……?」

 

「そうではなくて!」

 

「相席しただけだよ?」

 

「相手が問題なんです!」

 

「ワカモの事?」

 

「狐坂ワカモだけならまだ――」

 

 そこまで口にしたカヤは、慌てて周囲を確認した。

 まだ店内には多くの生徒がいる。

 

「……とにかく、ここでは詳しく言えません」

 

「なんで?」

 

「店をパニックにしたくないからです!」

 

「えぇ……?」

 

 先生はよく分からないまま、先ほどまで座っていた席へ視線を向ける。

 しかし既に五人の姿はなかった。

 

「あれ? 居なくなっちゃった…」

 

「良かった……!」

 

「そんな安心する?」

 

「しますよ!」

 

 先生がますます首を傾げる。

 テス先生とユメは未だ何も分かっていないらしく、そんな二人のやり取りを眺めながら笑っていた。

 

「先生、お友達増えた?」

 

「多分ね~」

 

「良かったですね~!」

 

「そうだね~」

 

「良くありません!」

 

 カヤだけが即座に否定した。

 

「じゃあ何なの?」

 

「……外に出てから話します」

 

◆

 

 店を出て、人通りの少ない場所まで移動したところで、カヤはようやく立ち止まった。

 

「今から言うことを聞いても、大声を出さないでくださいね」

 

「そんな怖い前置きいる?」

 

「必要です」

 

「分かった」

 

 カヤは一度深呼吸する。

 

「先ほど先生が相席していた五人ですが」

 

「うん」

 

「ワカモさんを含めて……七囚人が四人いました」

 

「…………」

 

 先生の表情が止まる。

 

「……四人?」

 

「四人です」

 

「ワカモを含めて?」

 

「はい」

 

「…………」

 

 ゆっくり数を数える。

 

「じゃあ、ワカモ以外に三人……?」

 

「そうです!」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

「大声出さないでって言ったでしょう!!」

 

「無理だよ!?」

 

 先生は思わず先ほどの店を振り返った。

 

「私、七囚人四人と普通にお昼ご飯食べてたの!?」

 

「だからそう言ってるんです!」

 

「誰が誰だったの!?」

 

「今はそれよりももっと恐ろしい事があるんです!」

 

「な、なんだってー!?」

 

 先生とカヤが騒ぐ横で、元理事が腕を組みながら口を開いた。

 

「問題なのは最後の謎の人物」

 

「私もそれが一番気になっています」

 

 カヤの表情が僅かに険しくなる。

 

「謎の人物?」

 

 先生が首を傾げる。

 

「あの小柄で金髪の彼女ですよ…」

 

「ああ、最後に教授って呼んでくれって言っていたあの子か」

 

「……私は知りません」

 

「え?」

 

「防衛室長として閲覧できる危険人物の資料にも、七囚人に関する資料にも、少なくとも私はあの方を見た覚えがありません」

 

「……」

 

 元理事も険しい顔で続ける。

 

「つまり七囚人と同席しながら、誰にも把握されていない人物ということだ」

 

「はえー…」

 

 先生は少し考えた。

 

「でも普通に親切そうだったよ?」

 

「先生!!」

 

「なんで怒るの!?」

 

「その警戒心のなさをどうにかしてください!」

 

「先生って変なところ凄いよねぇ」

 

 テス先生が感心したように頷く。

 

「七囚人と謎の教授さんとお昼を食べて、全員と仲良くなったんだね」

 

「そういわれると私って結構凄い?」

 

「そうやってすぐ調子に乗らないでください!」

 

 ユメも楽しそうに笑う。

 

「でも、先生らしいですよね!」

 

 ただ昼食を食べに来ただけだった。

 それなのに先生は知らないうちに、キヴォトスでも指折りの危険人物たちと同じ食卓を囲み、さらに防衛室長のカヤですら存在を把握していない謎の人物とまで知り合ってしまった。

 

「……でもみんな普通にいい子だったけどなぁ」

 

「その感想が一番怖いんですよ先生!!」

 

 結局先生だけは最後まで、自分がどれだけ濃い面子と昼食を共にしていたのか、いまいち理解できていなかった。




書きたかっただけのやつ。

すいません百花繚乱のストーリーを最初から見直しているのでもうしばしお時間を頂戴したく存じます。
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