訓練場の中央では、激しい戦いを終えた二人が揃って大の字になり、青空を見上げていた。
アヤメも現地ナグサも、もう指一本動かすのすら億劫なのだろう。荒かった呼吸こそ少しずつ落ち着いてきているものの、立ち上がる気配はまるでない。
戦いが始まる前まで二人の間にあった、触れただけで切れてしまいそうな張り詰めた空気だけは、綺麗に消えていた。
「勝てなかったか……でも」
アヤメが小さく口を開く。
ナグサも空を見上げたまま、視線だけをそちらへ向けた。
「なんか……スッキリした」
「よかったね」
「身体は死ぬほど痛いけどね。ナグサがあんなにバカスカ撃ってくるから」
「アヤメが避けないから」
「最後くらい格好つけさせてよ」
「格好よかったよ」
思いがけず素直な言葉を返され、アヤメは一瞬だけ黙り込んだ。
「……そういうこと急に言うのやめて」
「何で?」
「なんか調子狂う」
そう言いながらも、口元は少しだけ緩んでいる。
先生はそんな二人を遠巻きに見守りながら、胸の奥に溜めていた息をようやく吐き出した。
勝敗だけを見れば引き分け。
けれど、今の二人を見ていると、最初から勝ち負けなんて大した問題ではなかったのだろう。
戦う前には言えなかったことを言って。
相手へ勝手に抱いていた理想を壊して。
それでもなお、目の前にいる相手と向き合う。
どうやら二人に必要だったのは、そんな単純な喧嘩だったらしい。
「……あ」
そこで現地ナグサが何かを思い出したように声を漏らした。
「何?」
「引き分けだよね?」
「そうだけど?」
「じゃあ、アヤメを百花繚乱に戻すって約束は……」
「そもそも約束してないからね?」
「勝ったら戻ってもらうつもりだったのに」
「勝ってないじゃん」
「……もう一回やろう」
「絶対嫌」
即答だった。
「身体動かないんだけど!? 今すぐ再戦とか言い出したら本気で嫌いになるからね!」
「今すぐとは言ってない」
「後日でも嫌だよ!」
「戦闘じゃなくてもいい。焼き鳥の大食いなんてどうかな?」
「しれっと自分の土俵に引きずり込もうとするな!」
「じゃあ話し合う?」
「それを最初からやれって話だったんじゃねえのか?」
二人の会話を離れた場所から聞いていたレンゲが呆れたように突っ込むと、現地キキョウも深く頷いた。
「本当にそう」
「でも話し合いだけじゃこうならなかったと思う」
ナグサが静かに言う。
「それはまあ……そうだけど」
キキョウも否定しきれず、少し複雑そうな顔になった。
やがて先生たちが二人へ近づき、それぞれ身体を起こすのを手伝う。
「いたたた……先生、もうちょっと優しく」
「ごめんごめん」
「本当に痛いんだからね……」
先生に肩を借りながら立ち上がったアヤメの向こうでは、現地ナグサもレンゲとキキョウに支えられて何とか身体を起こしていた。
少しして二人が近くのベンチへ座らされると、現地ナグサは改めてアヤメの横顔を見る。
「……それで、本当に百花繚乱には戻らないの?」
今度の声には、戦う前のような弱さはなかった。
ただ純粋にアヤメ本人の答えを聞きたい。
そんな問いだった。
アヤメもそれが分かったのだろう。
少しだけ考えてから、訓練場の端にいるコクリコたちへ視線を向けた。
「戻らない」
「…………」
ナグサの表情が僅かに曇る。
だがアヤメは、その反応から逃げることなく言葉を続けた。
「私、百花繚乱から逃げた後に行く場所なんて無かったんだよ。何にもしたくなかったし、誰かに期待されるのも嫌だった。そんな私をコクリコは無理に変えようとしなかった」
視線の先ではコクリコはいつものように掴みどころのない笑みを浮かべながら、黙って話を聞いている。
「好きにしていいって言われた。百花繚乱へ戻れとも、花鳥風月部のために何かしろとも言われなかった。それで、エビス分校で好き勝手させてもらった」
「…………」
「だからさ」
アヤメは少し照れ臭そうに頬を掻く。
「今更『はい、全部終わりました。じゃあ百花繚乱に戻ります』っていうのも違う気がするんだよね」
それは恩返しなどという綺麗な言葉だけではないのだろう。
逃げ込んだ場所も、そこで過ごした時間も、そこで出来た関係も。
全部ひっくるめて、もうアヤメ自身の一部になっている。
「もちろん、花鳥風月部が悪いことするっていうなら付き合わないよ」
「おやおや、つれないねぇ」
コクリコが楽しそうに笑う。
「でもエビス分校のことは手伝う。それで……百花繚乱にも、必要なら顔を出す」
「つまり?」
レンゲが尋ねると、アヤメは少し考え。
「半分百花繚乱、半分花鳥風月部かな?」
妙に軽い答えを出した。
「半端者ですねぇ~」
真っ先にシュロが口を開いた。
「確かに中途半端ですね。いいじゃないですか、花鳥風月部になっちゃいましょうよー?」
アザミまで頷く。
「アザミはともかく。シュロにだけは言われたくない!!」
アヤメが即座に噛みついた。
「何でですか!?」
「先生のところにもいる! コクリコのところにもいる! ぶりぶりざえもんかお前は!?」
「手前は柔軟なんですよ!!」
「物は言いようだな!?」
「それに手前はコクリコ様と先生の両方を大事にしてるだけです」
「それをどっちつかずって言うんだよ!」
「違いますぅ~」
「違わない!」
さっきまで盛大に喧嘩をしていたとは思えない勢いで言い争いを始める二人を見て、先生は苦笑した。
アザミも、シュロを援護する気は特にないらしい。
「まあでも、エビス分校を手伝ってくれるというなら歓迎しますけどね」
「……本当に?」
「人手はあった方が楽ですから」
「そこはもう少し感動的な言い方ない?」
「人手不足が深刻でしてね」
「即答……」
シュロも腕を組みながら頷く。
「手前も別に反対しませんよ。使える人が増えるのは良いことですし」
「さっき半端者って言ってたじゃん」
「手前は柔軟ですから」
「都合良いなお前」
そして最後にアヤメが視線を向けたのはコクリコだった。
「どうしたんだい?」
「いや……」
少し言いづらそうに目を逸らす。
「コクリコはいいの?」
「何がだい?」
「こんな中途半端で」
自分を拾ってくれた場所に完全に残るわけでもなく。
かといって昔の居場所へ完全に戻るわけでもない。
どちらにも片足を置く。
そんな選択をコクリコはしばらくアヤメを眺めていたが、やがていつも通りの調子で小さく笑った。
「好きにしな」
「…………!」
「最初からそう言ってるだろう?」
それだけだった。
「……そっか」
アヤメも少しだけ笑った。
「じゃあ、好きにする」
「ああ。そうおし」
コクリコの返事を聞き、アヤメの肩から最後に残っていた力まで抜けていく。
すると隣では、現地ナグサが少し考えるように俯いていた。
「完全には戻らないんだ…」
「みんなには悪いけどね」
「…………」
「そんな顔しないでよ」
「してない」
「してるよ」
アヤメが呆れたように現地ナグサを見る。
「百花繚乱にも顔出すって言ったでしょ」
「ちゃんと来て」
「暇なら行くよ」
「毎日暇になって」
「重い重い重い!」
「出来れば週五で来て」
「ヘビーローテーションどころの話じゃないよ!?」
そのやり取りを見ていた現地キキョウが、額へ手を当てながらも笑っている。
「ナグサ先輩、ちょっと前までより面倒くさくなってない?」
「素直になっただけだと思うけど、あれは重いな」
レンゲも笑う。
「ですわね!」
ユカリも嬉しそうに両手を合わせた。
「これからまた皆様で集まることが出来ますのね!」
「……まあね」
アヤメは少しだけ照れ臭そうに答えた。
話が一段落した頃。
アヤメはふと、訓練場の柵へ掛けていたものに気づいた。
「あ」
先生から借りたマフラー。
戦いで傷付けたくなくて外していたものだ。
アヤメはそれを手に取り、しばらく眺めた。
雪山で待ち伏せしていた時。
寒さに震えていた自分へ、先生が何の警戒もせず渡してきたもの。
その後雪崩に巻き込まれて先生に助けられて。
結局ずっと借りたままだった。
「…………」
返さないと。そう思って先生のところまで歩いていく。
「先生」
「ん?」
「あのさ」
「うん」
「これ……」
マフラーを差し出そうとする。
だが手が止まってしまう。
「…………あ」
「どうしたの?」
何故だろう、今ここで返してしまうのが。
少しだけ惜しいと思った。
自分でも理由は分かっているようで。
分かりたくないような気もする。
そんなアヤメの様子を、先生は何も言わずに眺めていた。
そして何かを察した先生が口を開く。
「暖かくなったら返してくれればいいよ」
「……え?」
「まだ寒いんでしょ?」
先生は優しい笑みを浮かべながら。
「だから、それまで使ってていいよ」
言葉だけ聞けば、ただ季節の話をしているようにも聞こえる。
けれどアヤメには何となくそれだけではないような気がした。
自分の中に残っている迷いもまだ一人では立てない部分も。
今すぐ全部無理に納得する必要なんてない。
自分で「もう大丈夫」と思える日まで、借りていてもいい。
そんなことを言われたような気がした。
「……ごめんね先生」
アヤメは差し出しかけていた手を戻し、もう一度マフラーを首へ巻いた。
「まだ借りとくね」
「どうぞ」
少しだけ笑う。
「でもいつか絶対返すから」
「わかった」
先生も頷いた。
「その時を楽しみに待ってるよ」
それ以上二人とも何も言わなかった。
◆
かなり離れた建物の屋根から百花繚乱の訓練場を眺めている者たちがいた。
「……終わったみたいですね」
清澄アキラが静かに呟く。
隣では、ニヤニヤ教授がいつものように楽しそうに笑っていた。
「そうですねぇ」
「教授」
「なんですか?」
「稲生物怪録と稲亭物怪録を盗らなくて良いんですか? その為にわたくしを呼んだのでしょう?」
「…………」
教授は訓練場へ視線を戻す。
花鳥風月部。百花繚乱。
そしてその中心にいる先生。
「まあまあ、せっかくの勝負の余韻に水を差すこともないでしょう」
アキラがちらりと横目で見る。
「本当は先生がいるから手を出せないだけでは無いですか?」
「…………」
教授の笑顔が一瞬だけ固まる。
「ほむほむ」
そしてまたいつもの笑みへ戻る。
「面白いことを言いますね~」
「否定はしないんですね」
「さて、何のことでしょう?」
いかにも何を言っているのかわからないという顔でとぼける教授に、アキラは小さく息を吐いた。
これ以上追及しても、まともな答えが返ってこないことくらい分かっている。
教授もその反応を見て満足したのか、訓練場から視線を外した。
「さてと」
軽く服についた埃を払いながら立ち上がる。
「このまま眺めていても何も得られませんからね」
口元の笑みを少しだけ深くした。
「悪役は悪役らしく、そろそろお暇しましょうかね」
「……結局、わたくしの見せ場の無いまま退散ですか」
アキラも続いて立ち上がる。
「おや?」
教授が振り返った。
「もしかして拗ねてます?」
「拗ねていません」
「ほむほむ」
「その顔やめていただけます?」
明らかに不満そうなアキラを見て、教授は可笑しそうに笑った。
「そんなに拗ねないでください。今回は我々の舞台では無かっただけですよ」
「…………」
教授は人差し指を一本立てる。
「それに引き際を見誤った者ほど、醜いものもありませんしね」
実にもっともらしい言葉だった。
目的を達成できないと分かれば、潔く引く。
それもまた悪役に必要な美学なのだろう。
「さあ、帰りましょうか」
教授はそう言って。
実に優雅に実に格好よく華麗に振り返った教授はすぐに立ち止まった。
アキラも教授の後を追うように振り返り、その視線の先に居た者に気が付いた。
「…………♪」
いつからそこにいたのだろう。
ある意味で今一番出会いたくない存在のワカモがそこに立っていた。
ニコニコと人のよさそうな笑みを教授にぶつけている。
それはもう、とても楽しそうな笑顔でただし目だけは全く笑っていない。
「…………」
教授の背中へ、じわりと嫌な汗が浮かんだ。
どうやら逃げ切れてはいなかったらしい。
「……教授。今、引き際を見誤った者ほど醜いと言っていましたよね?」
「……言いましたねぇ」
教授はどこかぎこちない動きで身体ごとアキラの方へ向き直った。
「………助けてくれません?」
「嫌です」
「即答ですか!?」
「少々、お話がございます」
ワカモの楽しそうな声が、教授の背後から聞こえてきた。
教授の笑顔が完全に引きつった。
「頑張ってください、教授」
「ほむぅぅぅぅ!!」
百花繚乱の騒動が一段落した裏で別の追いかけっこが、静かに始まろうとしていた。
◆
百鬼夜行での怒涛の日々から数日後。
シャーレのとあるフロア。
先生はある部屋の入口で立ち止まり、中の光景を黙って眺めていた。
ソファではコクリコが優雅にお茶を飲んでいる。
その近くではアザミがお菓子を食べながら何かの雑誌を読んでいた。
アヤメはベッドへ寝転がってスマホを弄っている。
そして部屋の主のような顔でくつろいでいるシュロ。
先生の頭に一つの疑問が浮かんだ。
どうしてこうなった?
「シュロ」
「なんですかぁ、手前様?」
「ちょっと聞いていい?」
「どうぞ~」
先生は部屋の中を指差した。
「どうしてこうなったの?」
「何がです?」
「全部だよ!」
シュロは不思議そうに首を傾げる。
「手前様が『よくシャーレに来るなら余ってる部屋を使っていいよ』って手前に言ってくれたんじゃないですかぁ~?」
「確かに言ったけどさ!」
「なら何か問題でも?」
「普通シュロだけだと思うじゃん!?」
「手前の知り合いが遊びに来るくらい普通でしょう?」
「もう住んでるよね!?」
先生が頭を抱える。
あの二人の喧嘩が終わった後に別れたはずなのに。
シュロは何故か以前にも増してシャーレへ顔を出すようになった。
最初は遊びに来るだけだった。次第に滞在時間が伸びていき。
とうとう先生が、例のごとく余っていた部屋を一つ貸した。
そこまではまだ良かった。
気がつけばアヤメが来るようになった。
気が付いたらアザミが居た。最後にはコクリコまで普通に入り浸っていた。
しかも全員がシュロのところに来ただけという建前を崩さない。
「我は本当にシュロの顔を見に来ただけだよ?」
コクリコが涼しい顔でお茶を飲む。
「私もそうですよ~」
アザミは雑誌から顔を上げないで答えた。
「私は……シュロと先生に用事があっただけ」
アヤメは少し気恥ずかしそうに答えた。
「ほぼ毎日ここに用事あるじゃん!」
「細かいなぁ」
「細かくないよ!」
ちなみにアヤメが頻繁にシャーレへ来ていると知った現地ナグサまで、最近ではちょくちょく顔を出すようになっていた。
「……本当にここ何の部屋なんだろう」
先生が遠い目をする。
「花鳥風月部シャーレ支部?」
アザミが何気なく言う。
「やめて! 洒落にならないから!」
その時、部屋に置かれていたテレビからニュース番組の音声が聞こえてきた。
『続いてのニュースです』
全員が何気なく画面へ目を向ける。
『先日、百鬼夜行自治区で開催された祭りを大規模な混乱へ陥れたとされる謎の組織――』
『“花鳥風月部”について、新たな情報が寄せられています』
先生の顔から笑みが消えた。
『複数の関係者が、連邦捜査部シャーレの施設へ頻繁に出入りしているとの目撃情報があり――』
先生は無言でゆっくりテレビから視線を外した。
「…………」
冷や汗が流れ始める。
「おやおや、これは面白いことになっちゃったねぇ」
コクリコはまるで他人事のように笑った。
「面白くないよ!?」
先生が叫ぶ。
するとアザミが思い出したように手を叩いた。
「あ~」
「何!?」
「最近めんどくさくて、蛇を仕舞うの忘れてました~」
ぺろっっと、わざとらしく舌を出す。
「それ絶対わざとだよね!?」
「さあ~?」
「アザミぃ!」
「大丈夫ですよ、手前様!」
今度はシュロが自信満々に胸を張った。
「何が大丈夫なの!?」
「外の連中が無理やりここへ来たら、手前がクロカゲで追い返してあげましょう!」
「絶対やめてね!?」
「何故です?」
「疑惑が確信に変わるから!!」
「いい案だと思ったんですが」
「最悪の案だよ!」
そんな中、アヤメだけは妙に静かに少し考え込んでから口を開いた。
「私、今から百花繚乱なんで」
「……はい?」
アヤメは満面の笑みで続ける。
「花鳥風月部? 何それ?」
「はぁ!?」
シュロが即座に噛みついた。
「何しれっと一人だけ逃げようとしてるんですか!?」
「え? 君誰? 知らない人ですね」
「昨日までコクリコ様のところにいたでしょうが!」
「記憶にないね」
「アヤメ!」
アザミまで立ち上がる。
「半分花鳥風月部って言ったばかりじゃないですか!」
「今日は百花繚乱の日だから」
「そんなシフト制なんですか!?」
「柔軟に生きようと思ってさ」
「それは手前の台詞でしょう!!」
「シュロの真似」
「バカにしてます!?」
「当たり前じゃん」
「てめぇ!」
アザミまで加わり、三人で言い争いが始まる。
コクリコだけは止めるどころか、茶菓子を摘みながら楽しそうに眺めていた。
「ふふふ。賑やかで良いねぇ」
「…………」
先生はそんな光景を前に、額を押さえた。
だが、少しずつ冷静になってくる。
考えてみれば、まだ常駐している可能性があるというだけだ。
証拠だってアザミの目撃情報はあるらしいが決定的ではない。
それにここは連邦捜査部シャーレ。
いざという時には、こちらにもそれなりの権限がある。
先生は心の中で考える。
――まあ最悪、知らないって言えばいいか
自分から部屋を貸した事実については一旦棚へ上げる事にした。
――ヴァルキューレが来ても、シャーレの権限ならある程度は時間も稼げるだろうし――
そんな皮算用をしていると不意にトントンと肩を叩かれた。
先生の思考が止まる。
「先生」
「あっ……」
ゆっくり振り返るとそこには額に綺麗な青筋を浮かべたカヤが立っていた。
「少々、お時間頂けますか?」
「…えっと、今は忙しいかもな~。なんて…」
「防衛室長として今回の件について、詳しくお話を聞かせてください」
カヤは笑っている。
だが目が笑っていない。
「…………うす」
先生は抵抗を諦めた。
そのままカヤに肩を掴まれ、ずるずると部屋から連行されていく。
「手前様~!」
シュロが笑顔で手を振る。
「頑張ってくださいねぇ~!」
「誰のせいだと思ってるの!?」
「いってらっしゃ~い」
アザミも軽く手を振った。
「先生骨は拾うよ」
「死なないから!……死なないよね!!?」
「おやおや、先生も大変だねぇ」
最後コクリコがいつものように笑う。
「他人事みたいに言わないでぇぇぇぇ!!」
先生の悲痛な叫び声が、シャーレの廊下へ遠ざかっていく。
やがて扉が閉じ。
一瞬だけ部屋の中が静かになった。
「さっきの続きでもします?」
「しますか~」
アザミが即答する。
「私も食べようかな」
アヤメも起き上がった。
「では我がお茶でも淹れようかねぇ」
コクリコも立ち上がる。
先ほどまでの騒ぎなど無かったかのように。
花鳥風月部の面々は、再びシャーレの一室で思い思いに寛ぎ始めた。
こうして百花繚乱の騒動は、一応の決着を迎えた。
ただし先生の苦労が減ったかどうかだけはまた別の話だった。