筍暗闘   作:過労死志願

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比良坂ナキメ

「…………」

「今時狼煙とはな」

 

 無言で木の葉の山に火をつけ、焚火の上で布をパタパタさせて煙を調整する朱鷺。

 傍らでそれを見ていた平次郎から呆れたような声が上がる。

 

「手紙では時間がかかりますので……」

「まぁそれはそうだが。いったいどういった心境の変化です……か」

「……あの、平次郎さん」

「はい、なんでしょう」

「ちょいちょい、怪しい口調になっていますがひょっとして大分無理をされているのでは?」

「うぐっ……」

 

 一瞬の沈黙の後、平次郎はため息とともに話し出す。

 

「ばれておるか?」

「ばれてますね」

「女性には優しく話すのが最近の流行りだと聞いたのだが……」

「気遣ってくださっていたんですね。多少語気が強くても気にしませんよ私は」

 

 朱鷺がそういうと、平次郎は深く息を吐いたあと今まで我慢していたものを吐き出すように話し出した。

 

「朱鷺殿。某は朱鷺殿に対していろいろ思うところがある」

「はい。急な方向転換は申し訳ないです。流派への裏切り行為ですから、私は見限ってもらっても」

「違う。そうではない」

 

 言葉とともに瑞っと身を乗り出し、近づいてくる。

 

「え、ちょ!?」

 

 こう見えて……いや、見た通り朱鷺は初心なたぐいである。

 何といっても女性しか所属できない醜女衆に所属し、男に負けぬ戦果を挙げるために戦ってきたくノ一だ。

 男勝りの実力を敬遠する男忍が今は多く、男ににらまれることはあっても言い寄られることは皆無だった。

 突然の、平次郎の接近に思わず後退し背中が背後の木の幹に当たる。

 瞬間、平次郎の手が朱鷺の顔の横を通り過ぎ幹をたたいた。

 

 後の世でいうところの壁ドンである。

 

「朱鷺殿、某を見くびるのはやめろ。一度共に歩むと誓った身。たとえどんな事情があろうとも、朱鷺殿を見捨てるなど選択に入らん」

「ひゃうっ。あ、ありがとうございます?」

 

 何でそんなに信用してくれているんだろう? と朱鷺は内心考えながら、間近に近づく平次郎から顔をそらす。

 

「だが、このまま何も知らないままでは手伝いようがない。朱鷺殿、いったい何を背負っておられる? 某に教えてくれんか?」

「そ、それは……そにょぉ」

 

 その時だった。

 近くの茂みが揺れ、狼煙を見た簪が顔を出した。

 

「あ、簪さん。来てくれたんですね?」

「……ちっ」

 

 同時に、壁ドンされて顔を赤らめている朱鷺を見て舌打ちをした後。

 

「おい、ジョン。取り込み中だ。今から青〇をするらしいから少し距離をとるぞ」

「え、外でやるんですか? 日本の忍者って豪胆ですね」

「しません!? しませんよそんなこと!?」

 

 朱鷺は慌てて簪たちを引き留めた。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

「緊急時に乳繰り合っているとは、ずいぶんと余裕だな比良坂」

「貴様、朱鷺殿に口が過ぎるぞ。そっ首撥ねてやろうか非国民が」

「血の気が多い忍。玄龍會ね? 言っとくけど、依頼主が休戦といわなければ貴方をまず殺していたわ」

 

 バチバチと簪と平次郎の間で火花が散る中、ジョンと向かい合ったときは口を開く。

 

「……あの場でカグヤ様に誓ったこと、嘘偽りはありませんね? ジョン・カーター」

「ええ。さすがにあの状況で嘘をつくほど、私も人間やめていませんよ」

「いいでしょう……。あなたを信用します」

「ただ、一つ条件があります」

 

 ひとまず互いの立場確認を済ませ、今後の話しに移ろうとしたときだった。

 ジョンが人差し指を立て、その後平次郎といがみ合っている簪を指さす。

 

「彼女についているあれ、解いて頂けないですか?」

「……それは」

 

 朱鷺は一瞬困った顔をする。

 正直な話をすると、自分は簪に恨まれている自覚があった。

 おそらくあれを解いた瞬間に、簪は朱鷺を殺しにかかってくる。

 そう確信を持てる程度には憎まれている自覚がある。

 

 だが今はそんな小競り合いをしている余裕はなかった。

 

「……申し訳ありませんがそれは」

「カグヤ様に言いつけますよ?」

「汚いぞ貴様ぁっ!」

 

 それを言われるとどうしようもないのをもう知っているだろうに! と、朱鷺は涙目で立ち上がる。

 そんなときに苦笑を浮かべながら、ジョンは一枚のメモを差し出した。

 

「当然ただとは言いません。こちらをどうぞ」

「む……」

 

 見ると、そこにはジョンが調べた簪のすべてが書かれていた。

 

「……そうか。彼女はもう、日本を見限ったか」

「えぇ。祖国を憎むしかないなど哀しいことですが、それだけの仕打ちをされてきたとは思っています」

「こちらも、それだけの仕打ちをしてきた自覚はあるよ」

 

 比良坂古神道はあまりにも――カグヤ様に顔向けできないことをしすぎている。

 そのことをかみしめた後、朱鷺は改めて簪を見た。

 

「簪さん」

「……何よ」

「……こちらを」

「?」

 

 瞬間、朱鷺が霊力でつないだ糸から朱鷺が持つ不死の情報が送られた。

 

「っ! お前……」

「罪滅ぼしになるとは思ってはいませんが……。今だけ、力を貸してください」

「――っ!」

 

 瞬間、簪はジョンに一瞬視線を向ける。

 ジョンはその簪の視線に笑顔を浮かべながら、

 

「私も、今だけは力を貸していただけませんか?」

「……はぁ、くそっ」

 

 苛立たしげにそう言うと、簪は時をにらみつけながら告げた。

 

「今の私の上司はジョンだ。ジョンが命令をするならそれに従う。そういう契約だからな」

「ありがとうございます」

「礼などいうな、虫唾が走る。お前のために少しでも働かなくてはならないという現状そのものが不服だというのに」

「貴様っ! 言わせておけばっ!」

「平次郎さん。いいんです」

 

 そういって朱鷺が平次郎をなだめた時、平次郎も何かを察したのだろう。

 驚いた顔で簪のうなじあたりを見つめ、少し口を閉ざした後その場に座った。

 

「では、今回の作戦について作戦内容を詰めましょうか」

「最大の障害はおそらく、正倉院に入った私たちの上司です」

 

 そう告げながら、事前に正倉院に配備していた式神を召喚術で呼び出す。

 折り紙が命を得た鶴の式神は、ポンという音を立てて朱鷺の手のひらに現れ、今の正倉院の状態を朱鷺に教えてくれた。

 

 

───────────────────────────────

・比良坂ナキメの秘密:

実はナキメと玄老斎はこの事件が起きる一週間ほど前に、カグヤに正倉院から出してほしいと打診されていた。

 

だが、仮にもカグヤの宿るプライズは国宝の類であり、重要な異界遺産でもある。

出してほしいといわれてはいそうですかというわけにもいかなかった。

 

正直PC3の気持ちはわかるが、カグヤを外に出せないというのは上層部の決定でもある。

裏切った以上落とし前は必要だろう。

サイクル終了時、ナキメはPC3に社会戦を使用する。

 

なおクライマックス時、戦闘が苦手な比良坂ナキメは登場せず代わりに玄老斎が落とし前を付けに現れる。

 

なお、このHOの秘密と居所は玄老斎のものと扱ってもよい。

───────────────────────────────

 

 

「直接戦闘が苦手な方が参戦しないのが唯一の救いですが、待ち構えるのは玄龍會の上忍――玄老斎。油断のならない方です」

「むぅ、玄老斎殿と戦うことになるか。厄介だな」

「そんなに強い方なんですか?」

「そこの単細胞玄龍會の上位互換みたいなやつよ。敵とみれば切りかかってくる狂犬が人間になったと思いなさい」

「貴様ぁッ! 玄龍會に何の恨みが……まぁあるだろうが」

「急にしぼむのやめなさいよ、やりにくいわね!?」

 

 けたたましい平次郎と簪の言い合いを背景音に、夜のとばりが落ちてゆく。

 かつて敵だった忍たちを、結び付けるように。

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