敵対関係であった朱鷺とひとまずの友好関係を築けたジョンたちは、ようやくまともな宿に泊まれるようになった。
とはいえ敗戦後の日本である。
まともな宿と呼べるものはそう多くなく、朱鷺と平次郎の身分を明かして無理やり上がり込んだ民家が今日の寝床だ。
平次郎は民家から流れてくるラジオ放送を聞き流しながら、一人庭先にたたずみながら刀を抜き放つ。
日課の型鍛錬だ。
だが常人には刀を抜いただけのように見える。
それもそのはず、この世界の忍の挙動は極まったものなら【光速】へ至る。
類忍戦力と呼ばれる諜報部隊を各国が整備していなければ、忍者数人で太平洋戦争は終結したといわれるほどの速度を彼らは有していた。
さすがに平次郎の型鍛錬は光速で行われたものではないが、音速は軽く超過した者だ。
音の壁を音もなく引き裂き、光すら残さぬ剣閃が鮮やかに虚空を切り裂いた。
「お見事……」
「……お前か米兵」
そんな平次郎の鍛錬を観察していたものが一人。
ジョン・カーター。
朱鷺といつの間にか同盟を結び、友にカグヤの救出へ動こうとしている者。
平次郎にとっては、得体のしれない信用のおけないやつである。
「日本の忍は光の速度で動くと聞きましたが、本当のようですね」
「そういうお前たちも人のことは言えまい。『万忍殺し』には光の速度は通じなかったと同僚の奴は語っていたが」
「『奴らとて常に光の速度で動けるわけではない。さらにその無茶な加速は奴らにとって大きな自滅を引き起こす場合もある。私はその自滅の確立を少し上げて待っていればよかった』と語っていましたが……私には少々意味の分からない理論でしたので詳細は不明ですね」
あの人本当人間なんですかね? と苦笑を浮かべるジョンを、平次郎はじっと見つめる。
所作・言動・雰囲気――そのすべてがこの男を人畜無害な男だと語っている。
CIAの諜報員が無害な男? ありえない。
この男……いったい何を隠している?
なぜ急に合衆国を裏切った?
そんな疑念が平次郎の内心に浮かんだ瞬間だった。
「あ……」
「ん?」
刀の鞘に仕込まれた引き金を引き、対空千手砲を一発――ジョンに向かって発射していた。
「ちょっ!?」
完全な不意打ちだった。
普通の兵士ならよけられない。
胸に風穴を開け、血を吐きその場で倒れ伏したはずだ。
だが、ジョンはよけて見せた。
確かな鍛錬を積んだものの動き――それを見て平次郎の口角が上がる。
「あぁ、やはりだめだな。まどろっこしいのは」
「へ、へーじろうどの?」
「すまんなCIA今は味方なのは重々承知しているが、我等の世界は裏切り裏切られが当たり前の世界だ。『ただ信用してくれ』というは難しいのは理解してくれ」
刀を構え、その場で跳躍を開始する。
たーんたーんたーん。
地面を強く踏む足音が響き渡る中、平次郎の戦意は最高潮に達した。
「そして某は、玄龍會。怪しい奴は秘密ごと斬れがもっとうでな……。すまぬが、秘密がわかるまで――斬り結ばさせてもらうぞ!」
「ぐっ! 簪さんが言ったのは本当でしたか!」
なんて脳筋なんだこの人は!? と言いたげたなジョンを無視し、刀と対空千手砲による乱撃がジョンを襲った。
当然ジョンも応戦するため徒手空拳の構えをとるが、瞬間地面から生え出た一本の白骨の腕が、ジョンのズボンのすそをつかみワンテンポ行動を遅らせる。
「なっ! これはっ!」
「朱鷺殿も、やはり口約束では信用ならなんだかっ!」
今は宿の中で不死・カグヤとともに予定を立てている朱鷺の支援に感謝しながら、忍とスパイは夜に舞う。
…†…†…………†…†…
数時間後――ひどく疲れた様子のジョンが宿に帰ってくるなり、湯あみから上がってきた簪は半眼になり、満足げにジョンと肩を組んでいる平次郎を見ていった。
「言っただろう。そいつは脳筋だって」
「えぇ……。いやというほど思い知らされました」
「ははは! すまんすまん! ジョン殿! 何、おぬしの熱い心を知ったからには、この平次郎心からお主と朱鷺殿任務達成に尽力しよう!」
どうやらジョンの胸の内を知り、すっかりジョンが気に入ったらしい平次郎の態度に、ジョンと簪は深いため息をつくのだった。
…†…†…………†…†…
ジョンに手配された車に乗り、日本の悪路を走る。
過ぎていく村々の様子は、空襲から焼け出された人たちが多く見えた。
ぼろぼろの小屋が町のように立ち並び、今日を生きるための炊事の煙がわずかに立ち上っている。
そんな光景を見つめながら、簪は一人物思いにふけっていた。
「簪、大丈夫か?」
「……不死か」
運転席に座るジョン。助手席に座り道案内をする平次郎。
そして、ジョンの危なっかしい運転と、意外にも地図が読めなかった平次郎の無茶苦茶な道案内に恐怖し意識を失った朱鷺しかいない車内。
声をかけてこられる存在は不死しかいなかった。
「お前の境遇は知っている。色々大変だったんだろう」
「別に、私程度の不幸今のこの国ではありふれている」
住んでいた家を街を、焼き払われ逃げ出すほかなかった人間にあふれているこの国で、一家離散は珍しいことではない。
唯一違うものがあるとするならば、その原因が敵国である米国だったか――それとも同じ日本人だったかということだけだ。
「鬼畜米といわれたアメリカ人も、ジョンを見れば悪い奴ばかりじゃないことはわかる。同じように朱鷺を見れば、日本人が私を排斥した連中のような屑ばかりでないことも理解している。戦争中はだれもかれもが狂っていた……一般人ですら身近に感じる殺し合いの気配に、血の匂いに。狂っていただけなんだろう」
納得はしているさ……。
そう呟く簪に、悲しそうな目を向けながら不死はつぶやいた。
「それでも、日本にはいられないか?」
「……すいません」
「謝るな。お前は悪くない。当然の感情だ」
どれほどの納得を得たとしても、家族をバラバラにされたこと……そして自らを奴隷として扱った連中を許すには、簪はまだ若すぎた。
言葉や理性でどれほど押さえつけたとしても、ふとした拍子にはらわたが煮えくり返り、どうしようもない憎悪が吹き出しそうになる。
それを咎められるほど、不死は逆に若くはなかったようだった。
「それでも、また故郷が恋しくなったら……いつでも帰ってこい」
「……はい」
「じゃぁ、外すぞ」
「……よろしくお願いします」
昨夜不死と結んだ約束。
それを不死はいま果たそうとしてくれているようだった。
不死の目が瞬く。
ふっ、と首筋に感じていたちりちりとした痛みが消えた。
簪をとらえていた呪印が、不死の手ではがされた瞬間だった。
「これでお前は自由だ。どこへなりとも行くがいい」
「そうさせてもらいます。最も、あのアメリカ人に恩を売る必要があるので今回の一件には最後まで付き合いますが」
惜しむらくは、ジョンの考えているところを未だ簪は知らないことだ。
真の目的は何なのか。それを知らないことには、ジョンに恩を売ることはかなわないだろう。
そんなことを考えていると、助手席の平次郎が振り返ってきた。
「なんだ、ジョン殿の本心が知りたいのか? 某が教えてやろうか」
「黙れ方向音痴。地図また逆さだぞ」
「え!?」
「ヘージロ!? お願いしますよヘージロ!?」
「あ、安心されよジョン殿。今地図直しましたから。ところでさっきの道右折です」
「ヘージロ!? 通り過ぎてから言うのやめてもらえませんか!?」
ギャーギャー騒がしい二人にため息をつく。
とはいえ平次郎の申し出がありがたいのもまた確かだった。
「施しは受けない」
「施しのつもりはないが」
「私の心の問題だ、たわけ」
そう告げながら、簪は事前に放っていた分身に指示を出し、その分身が得た情報を自らの中に取り込もうとした。
分身が追っていたのは、自分たちを襲撃してきた珍妙ないでたちのアメリカ人だ。
だが、
「…………」
「どうされましたか? 簪さん」
「……すまん。相手に気づかれたらしい。情報を抜けなかった」
分身が自分に情報を伝達する前に、あたりにまき散らされた灼熱の焼夷弾によって焼き払われた。
「……あの爺、ふざけたナリのわりに実力は確かなようだ」
「仮にもうちの上司と同格と謳われた実力者ですからね。あなた方忍者で言うところの『上忍』規格の実力はあるかと」
「ほう? 米国の古強者か。会ってみたいものだな」
不敵に笑う平次郎に舌打ちを漏らしつつ、ふてくされたように簪が目を閉じる。
どうやらふて寝を決め込むらしい。
「あぁ、待ってください簪さん。寝る前に情報交換しておきましょう。こうなっては呉越同舟ですので」
「まぁその通りではあるな。この際手持ちの情報はすべて明かしあっておこうぞ」
「……別に構わんが」
唯一誰にも腹の内を探られていない平次郎がやや不安要素であるが、この馬鹿に大した隠し事などできないだろうと、簪は渋々手持ちの情報をほかの者たちと交換するのだった。
────────────────
・PC2の変更後の秘密:
PC2は不死によって呪印を解呪され自由の身になった。
ならばあとは恩を返すだけである。
貴方の使命は【PC1の使命達成に協力し正倉院からプライズを出すこと。そして、日本から逃げること】に変更される。
────────────────
・PC3の秘密:
PC1に接触した謎の生命体――不死の正体をあなたは知っている。
毛の生えたウミウシーー不死の正体は正倉院内部に眠る地球外生命体宇宙船『筍』の内部に眠る姫『カグヤ』の眷族であり、七千九百余年より以前から、日本を見守ってきた不死の生命体である。
幼少のころ忍の才能がないと陰口をたたかれ泣いていたあなたを慰め、導いてくれた存在でもありずっとそばにいてほしいと願っていた存在でもあった。
その存在がなぜかCIAとともに行動をしている。
何を考えているかなどどうでもいい……彼女を守るのは日本の国是だ。
どんな事情があれ、合衆国になど渡すものか!
PC3の本当の使命は【地球外生命体宇宙船『筍』を死守し、日本から出さない】ことだ。
また今回の任務のためあなたは罪人であるPC2を使いPC1の内偵を行っている。
PC2は呪印を所持しており、その呪印がある間PC2が獲得した秘密はPC3へと自動的に共有される。
このことはPC2の秘密が公開されるまで、他PCには通知されない。
・PC3の変更後の秘密:
カグヤの切なる願いを聞いて、PC3は覚悟を決めた。
彼女がそばからいなくなるのは寂しい。
寂しいが、それが彼女の幸せになるのであれば是非もない。
ずっと一緒にいてほしいという願いはひめ、彼女が会いたいと願った友人のもとにカグヤを送り出すべきだろう。
PC3の使命は【カグヤを正倉院から奪取し、2030年に友人に会える状態にする】ことに変更される。
────────────────
・不死の秘密:
実は不死は地球外生命体『カグヤ』が外界と意思疎通するために派遣した式神である。
現在カグヤは正倉院内部のプライズに封印されており、自由に外に出ることはできないらしい。
また地球外技術を持っているため、地球の術式に別角度からのアプローチが可能であり、呪術の解呪などを得意としているらしい。
不死の本当の使命は【カグヤの願いをかなえる】ことだ。
この秘密を誰かが獲得した時HO「カグヤ」が公開される。
────────────────
・正倉院内のプライズの秘密:
実は月に住む地球外情報生命体「月人」が作り出した宇宙船兼タイムマシンである。
本来は2030年の日本を目指して宇宙旅行に旅立った。
だが地球に渡航する際事故にあい破損。目標年代2030年からが8000年ほど前にずれてしまい、原始時代の瀬戸内海に不時着した。
月人の肉体を地球環境にあわせて構築する機能も不死を作ったのちに失われており、内部には月人――カグヤが封印されている状態となっている。
この秘密を知ったPCはクライマックス時は正倉院内部での戦いとなり、いくつかの制約を受けることを知る。
・クライマックスギミック 正倉院
正倉院には歴史的遺物や国宝が多く収蔵されている。
そのため戦闘には細心の注意を払わなくてはいけない。
①ラウンド開始時GMが1d6を振る。出た目のプロットに「収蔵品」がプロットされる。
②収蔵品があるプロットにプロットした場合、キャラクターは以下の効果を受ける。
・自身が回避判定を行う際-2の修正。自分が奥義破り判定を行う際-1の修正。
・収蔵品のプロットにプロットしたキャラクターが奥義破り・回避に成功した場合、「収蔵品」が破壊され、攻撃・奥義を使用したPCにペナルティーとして集団戦1点が与えらる。
③8R終了時、警邏が正倉院の異変に気付く。それによりクライマックスは終了する。
勝敗がついていなかった場合、以下の順番で条件をあてはめ勝敗を決定する。
・生存PCが多い陣営
・クライマックス終了時逆凪しているPCが少ない陣営
・陣営の合計生命力が多い陣営
・陣営の合計プロット値が高い陣営
・上記すべてで決まらなかった場合はd66でダイスバトル