《WARHAMMER 40,000》
NEVERMOURN
第十九章
《英雄達を家へ》
⸻
戦いは終わった。
快楽の王子は滅び。
《歓喜の聖堂》は炎に包まれ。
紫色の瘴気は消え。
混沌艦隊は宇宙の塵となった。
⸻
だが。
勝利の歓声はなかった。
⸻
誰も叫ばない。
誰も酒を求めない。
誰も笑わない。
⸻
戦場には。
ただ静寂だけがあった。
⸻
艦橋のあちこちには、
倒れたネヴァーモーンの兵達が横たわっていた。
人間。
オーク。
混沌種。
マリーン。
デーモン。
様々な種族。
様々な人生。
様々な故郷。
⸻
だが。
彼らには共通点があった。
⸻
ネヴァーモーンの家族だった。
⸻
遠くで炎が燃える。
破壊された玉座から火花が散る。
崩れた天井から金属片が落ちる。
⸻
その中を。
ヴォルグラムが静かに歩いていた。
巨大斧を肩に担ぐ。
血塗れの装甲。
無数の傷。
⸻
だが。
その足取りは重かった。
⸻
倒れている若い兵士。
まだ二十にも満たない人間。
彼は避難民を守って死んだ。
⸻
隣には。
腕を失ったオーク。
最後まで通路を守っていた。
⸻
さらに先。
マリーンが壁にもたれたまま動かない。
その手には、
最後までボルトライフルが握られていた。
⸻
ヴォルグラムは一人一人を見る。
名前。
顔。
笑い方。
酒の好み。
喧嘩した日。
馬鹿騒ぎした夜。
全部覚えている。
⸻
後ろでは。
誰も喋らなかった。
⸻
グラッグが黙っている。
マルケウスも笑わない。
リリスも煙草を吸わない。
ドッグも帽子を深く被っていた。
⸻
その時。
レオンが小さく呟く。
⸻
「……随分、死にましたね……」
⸻
静かな声。
震えている。
⸻
ヴォルグラムは立ち止まった。
数秒。
炎の音だけが響く。
⸻
そして。
ゆっくり言った。
⸻
「ああ。」
⸻
「今回は随分、家族が逝った。」
⸻
誰も否定しない。
⸻
苦しい戦いだった。
艦内戦。
接舷戦。
避難民の防衛。
敵旗艦への突撃。
⸻
多くの命が失われた。
⸻
レオンが俯く。
⸻
「俺達……勝ったんですよね……?」
⸻
誰も答えない。
⸻
その時。
ドッグが静かに言う。
ドッグ・ハント
ドッグ・ハント
⸻
「難民は全員生きてる。」
⸻
カイウスが頷く。
⸻
「避難船団の被害はゼロだ。」
⸻
リリスが優しく笑う。
⸻
「子供達も無事よ。」
⸻
セトラが答える。
⸻
「居住区の民間人も全員保護した。」
⸻
その時。
ヴォルグラムが振り返った。
⸻
赤い義眼。
疲れた顔。
だが。
その瞳には誇りがあった。
⸻
「上出来だ。」
⸻
その言葉に。
誰も泣かなかった。
⸻
ただ。
全員が静かに頷いた。
⸻
死んだ者達も。
きっと同じことを言う。
⸻
それでいい。
⸻
守れたのなら。
⸻
その時。
ヴォルグラムが巨大斧を床へ突き立てた。
⸻
ゴン。
⸻
艦橋に音が響く。
全員が顔を上げる。
⸻
「お前ら。」
⸻
静かな声。
⸻
「逝った英雄達の身体を。」
⸻
炎が揺れる。
⸻
「一人残らず。」
⸻
グラッグが拳を握る。
⸻
「……」
⸻
「家に連れ帰るぞ。」
⸻
誰も喋らない。
⸻
なぜなら。
ネヴァーモーンでは。
死者を置いて帰らない。
⸻
敵地であろうと。
宇宙空間であろうと。
地獄であろうと。
⸻
家族は家へ帰る。
⸻
それが掟だった。
⸻
グラッグがゆっくり膝をつく。
巨大なオークが。
静かに。
倒れた若い人間兵を抱き上げた。
⸻
「帰ルゾ。」
⸻
カイウスは戦死したマリーンを背負う。
⸻
「兄弟。」
⸻
リリスは女性兵士の髪を整える。
⸻
「ちゃんと帰りましょう。」
⸻
マルケウスは混沌種の部下を肩に担ぐ。
⸻
「飲み会、まだだろ馬鹿。」
⸻
ドッグは戦死した傭兵の帽子を拾う。
⸻
「お前の酒代、俺が払っとく。」
⸻
レオンは泣いていた。
⸻
初めて仲間を失った。
初めて戦争を知った。
⸻
すると。
セトラが隣に立つ。
⸻
「泣くことは悪くない。」
⸻
レオンが涙を拭う。
⸻
「ネクロンも泣くんですか?」
⸻
数秒。
沈黙。
⸻
「昔は。」
⸻
それだけ言った。
⸻
そして。
ネヴァーモーンの兵達は。
敵艦の中を歩き始める。
⸻
血の中を。
炎の中を。
崩壊する通路を。
⸻
倒れた家族を探しながら。
⸻
「こっちに二人いる!」
⸻
「医療班!」
⸻
「まだ温かいぞ!」
⸻
「担架を!」
⸻
「絶対に置いていくな!」
⸻
誰も急がない。
誰も焦らない。
⸻
まるで。
家族を迎えに来たように。
⸻
宇宙の外では。
《レクイエム・オブ・アッシュ》が待っている。
⸻
巨大な墓標艦。
狂人達の家。
酒場。
食堂。
居住区。
笑い声。
喧嘩。
宴会。
⸻
そして。
帰る場所。
⸻
ヴォルグラムは窓の外を見る。
⸻
暗黒の宇宙。
無数の星。
静かな銀河。
⸻
その中で。
小さく呟いた。
⸻
「……帰るぞ。」
⸻
後ろには。
生きている家族達。
そして。
帰るべき英雄達。
⸻
ネヴァーモーンは勝った。
だが。
その勝利は血で買われた。
⸻
それでも。
彼らは誇りを失わない。
⸻
守れたからだ。
⸻
子供達を。
難民達を。
家族達を。
⸻
だから。
死んだ者達にも胸を張って言える。
⸻
「仕事は終わった。」
⸻
「みんなで帰ろう。」
⸻
炎に包まれる敵旗艦の中。
ネヴァーモーンは静かに歩いていた。
⸻
銀河最悪の傭兵達。
銀河最狂の家族達。
⸻
だが。
死者を背負い。
故郷へ帰るその姿は。
どんな英雄よりも。
どんな聖者よりも。
ずっと人間らしかった。
⸻
《WARHAMMER 40,000》
NEVERMOURN
第十九章 完
――英雄達は家へ帰る――