禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

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第21話

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第十九章

 

《英雄達を家へ》

 

 

戦いは終わった。

 

快楽の王子は滅び。

 

《歓喜の聖堂》は炎に包まれ。

 

紫色の瘴気は消え。

 

混沌艦隊は宇宙の塵となった。

 

 

だが。

 

勝利の歓声はなかった。

 

 

誰も叫ばない。

 

誰も酒を求めない。

 

誰も笑わない。

 

 

戦場には。

 

ただ静寂だけがあった。

 

 

艦橋のあちこちには、

倒れたネヴァーモーンの兵達が横たわっていた。

 

人間。

 

オーク。

 

混沌種。

 

マリーン。

 

デーモン。

 

様々な種族。

 

様々な人生。

 

様々な故郷。

 

 

だが。

 

彼らには共通点があった。

 

 

ネヴァーモーンの家族だった。

 

 

遠くで炎が燃える。

 

破壊された玉座から火花が散る。

 

崩れた天井から金属片が落ちる。

 

 

その中を。

 

ヴォルグラムが静かに歩いていた。

 

巨大斧を肩に担ぐ。

 

血塗れの装甲。

 

無数の傷。

 

 

だが。

 

その足取りは重かった。

 

 

倒れている若い兵士。

 

まだ二十にも満たない人間。

 

彼は避難民を守って死んだ。

 

 

隣には。

 

腕を失ったオーク。

 

最後まで通路を守っていた。

 

 

さらに先。

 

マリーンが壁にもたれたまま動かない。

 

その手には、

最後までボルトライフルが握られていた。

 

 

ヴォルグラムは一人一人を見る。

 

名前。

 

顔。

 

笑い方。

 

酒の好み。

 

喧嘩した日。

 

馬鹿騒ぎした夜。

 

全部覚えている。

 

 

後ろでは。

 

誰も喋らなかった。

 

 

グラッグが黙っている。

 

マルケウスも笑わない。

 

リリスも煙草を吸わない。

 

ドッグも帽子を深く被っていた。

 

 

その時。

 

レオンが小さく呟く。

 

 

「……随分、死にましたね……」

 

 

静かな声。

 

震えている。

 

 

ヴォルグラムは立ち止まった。

 

数秒。

 

炎の音だけが響く。

 

 

そして。

 

ゆっくり言った。

 

 

「ああ。」

 

 

「今回は随分、家族が逝った。」

 

 

誰も否定しない。

 

 

苦しい戦いだった。

 

艦内戦。

 

接舷戦。

 

避難民の防衛。

 

敵旗艦への突撃。

 

 

多くの命が失われた。

 

 

レオンが俯く。

 

 

「俺達……勝ったんですよね……?」

 

 

誰も答えない。

 

 

その時。

 

ドッグが静かに言う。

 

ドッグ・ハント

 

ドッグ・ハント

 

 

「難民は全員生きてる。」

 

 

カイウスが頷く。

 

 

「避難船団の被害はゼロだ。」

 

 

リリスが優しく笑う。

 

 

「子供達も無事よ。」

 

 

セトラが答える。

 

 

「居住区の民間人も全員保護した。」

 

 

その時。

 

ヴォルグラムが振り返った。

 

 

赤い義眼。

 

疲れた顔。

 

だが。

 

その瞳には誇りがあった。

 

 

「上出来だ。」

 

 

その言葉に。

 

誰も泣かなかった。

 

 

ただ。

 

全員が静かに頷いた。

 

 

死んだ者達も。

 

きっと同じことを言う。

 

 

それでいい。

 

 

守れたのなら。

 

 

その時。

 

ヴォルグラムが巨大斧を床へ突き立てた。

 

 

ゴン。

 

 

艦橋に音が響く。

 

全員が顔を上げる。

 

 

「お前ら。」

 

 

静かな声。

 

 

「逝った英雄達の身体を。」

 

 

炎が揺れる。

 

 

「一人残らず。」

 

 

グラッグが拳を握る。

 

 

「……」

 

 

「家に連れ帰るぞ。」

 

 

誰も喋らない。

 

 

なぜなら。

 

ネヴァーモーンでは。

 

死者を置いて帰らない。

 

 

敵地であろうと。

 

宇宙空間であろうと。

 

地獄であろうと。

 

 

家族は家へ帰る。

 

 

それが掟だった。

 

 

グラッグがゆっくり膝をつく。

 

巨大なオークが。

 

静かに。

 

倒れた若い人間兵を抱き上げた。

 

 

「帰ルゾ。」

 

 

カイウスは戦死したマリーンを背負う。

 

 

「兄弟。」

 

 

リリスは女性兵士の髪を整える。

 

 

「ちゃんと帰りましょう。」

 

 

マルケウスは混沌種の部下を肩に担ぐ。

 

 

「飲み会、まだだろ馬鹿。」

 

 

ドッグは戦死した傭兵の帽子を拾う。

 

 

「お前の酒代、俺が払っとく。」

 

 

レオンは泣いていた。

 

 

初めて仲間を失った。

 

初めて戦争を知った。

 

 

すると。

 

セトラが隣に立つ。

 

 

「泣くことは悪くない。」

 

 

レオンが涙を拭う。

 

 

「ネクロンも泣くんですか?」

 

 

数秒。

 

沈黙。

 

 

「昔は。」

 

 

それだけ言った。

 

 

そして。

 

ネヴァーモーンの兵達は。

 

敵艦の中を歩き始める。

 

 

血の中を。

 

炎の中を。

 

崩壊する通路を。

 

 

倒れた家族を探しながら。

 

 

「こっちに二人いる!」

 

 

「医療班!」

 

 

「まだ温かいぞ!」

 

 

「担架を!」

 

 

「絶対に置いていくな!」

 

 

誰も急がない。

 

誰も焦らない。

 

 

まるで。

 

家族を迎えに来たように。

 

 

宇宙の外では。

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》が待っている。

 

 

巨大な墓標艦。

 

狂人達の家。

 

酒場。

 

食堂。

 

居住区。

 

笑い声。

 

喧嘩。

 

宴会。

 

 

そして。

 

帰る場所。

 

 

ヴォルグラムは窓の外を見る。

 

 

暗黒の宇宙。

 

無数の星。

 

静かな銀河。

 

 

その中で。

 

小さく呟いた。

 

 

「……帰るぞ。」

 

 

後ろには。

 

生きている家族達。

 

そして。

 

帰るべき英雄達。

 

 

ネヴァーモーンは勝った。

 

だが。

 

その勝利は血で買われた。

 

 

それでも。

 

彼らは誇りを失わない。

 

 

守れたからだ。

 

 

子供達を。

 

難民達を。

 

家族達を。

 

 

だから。

 

死んだ者達にも胸を張って言える。

 

 

「仕事は終わった。」

 

 

「みんなで帰ろう。」

 

 

炎に包まれる敵旗艦の中。

 

ネヴァーモーンは静かに歩いていた。

 

 

銀河最悪の傭兵達。

 

銀河最狂の家族達。

 

 

だが。

 

死者を背負い。

 

故郷へ帰るその姿は。

 

どんな英雄よりも。

 

どんな聖者よりも。

 

ずっと人間らしかった。

 

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第十九章 完

 

――英雄達は家へ帰る――

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