禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

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第22話

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第二十章

 

《帰還する者達》

 

 

戦いは終わった。

 

《歓喜の聖堂》は燃えていた。

 

紫色の炎が宇宙空間へ漏れ出し、

巨大な敵旗艦はゆっくりと崩壊を始めている。

 

無数の破片。

 

漂う残骸。

 

冷たい星々。

 

 

その中心から。

 

巨大墓標艦。

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》が静かに離脱していく。

 

 

もはや砲撃はない。

 

敵艦隊は存在しない。

 

混沌の軍勢も消えた。

 

 

ただ。

 

無数の死だけが残された。

 

 

艦橋。

 

ヴォルグラムは最後に戦場を見ていた。

 

巨大な窓の向こう。

 

燃える敵旗艦。

 

散らばる味方の残骸。

 

無数の命が失われた場所。

 

 

ドッグが隣へ来る。

 

 

「終わったな。」

 

 

ヴォルグラムは答えない。

 

 

しばらくして。

 

小さく言った。

 

 

「ああ。」

 

 

「帰る。」

 

 

それだけだった。

 

 

第一節

 

《全員帰還》

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》内部。

 

巨大格納庫。

 

普段なら。

 

オーク達が酒を飲み。

 

人間達が笑い。

 

子供達が走り回る。

 

そんな場所。

 

 

だが。

 

今は違った。

 

 

数百の担架。

 

数千の負傷者。

 

白い布。

 

並べられた遺体。

 

 

誰一人として。

 

置いてこなかった。

 

 

若い人間兵。

 

老いた傭兵。

 

オーク。

 

混沌種。

 

マリーン。

 

ネクロンに付き従った機械兵。

 

デーモン。

 

 

全員が帰ってきた。

 

 

生きている者も。

 

死んだ者も。

 

 

それがネヴァーモーンだった。

 

 

レオンは震える手で、

一人の兵士の名札を外していた。

 

まだ若い。

 

昨日まで笑っていた男。

 

食堂で酒を飲み。

 

くだらない話をしていた。

 

 

「帰ろう。」

 

 

その言葉だけが口から出た。

 

 

第二節

 

《埋葬》

 

ネヴァーモーンには。

 

墓地がある。

 

 

艦内深部。

 

巨大な礼拝堂。

 

無数の名前が刻まれた壁。

 

静かな炎。

 

金属の床。

 

 

戦死者達はそこへ運ばれていく。

 

 

しかし。

 

その作業を行う者達も。

 

傷だらけだった。

 

 

腕を失ったオーク。

 

腹を貫かれた人間兵。

 

肩を砕かれた混沌種。

 

重傷のマリーン。

 

 

医療班が叫ぶ。

 

 

「治療を優先しろ!!」

 

 

だが。

 

誰も従わない。

 

 

「後だ。」

 

 

「先にあいつを寝かせる。」

 

 

「あいつ寒がりなんだ。」

 

 

「置いていけるか。」

 

 

血が床へ落ちる。

 

包帯が赤く染まる。

 

呼吸は苦しい。

 

 

それでも。

 

誰も手を止めない。

 

 

優しい手で。

 

家族を運ぶ。

 

 

グラッグが巨大なオークの遺体を抱えていた。

 

 

「重イナ。」

 

 

しかし。

 

その声は震えている。

 

 

「酒……飲ム約束ダッタ……」

 

 

誰も笑わない。

 

 

カイウスは、

戦死したマリーンの剣を磨いている。

 

 

「よく戦った。」

 

 

ただそれだけ。

 

 

リリスは、

若い女性兵士の髪を整える。

 

血を拭き。

 

服を直し。

 

優しく微笑む。

 

 

「綺麗なまま帰りましょう。」

 

 

セトラは無言だった。

 

 

だが。

 

機械の指先で。

 

一つ一つ名札を確認している。

 

 

決して間違えないように。

 

 

決して忘れないように。

 

 

第三節

 

《重傷者達》

 

医療区画。

 

そこもまた静かだった。

 

 

重傷者が並ぶ。

 

意識を失った者。

 

呼吸が浅い者。

 

死の淵にいる者。

 

 

だが。

 

その中には。

 

先ほどまで埋葬をしていた者達もいた。

 

 

腹部を裂かれた傭兵。

 

片腕を失った兵士。

 

内臓を損傷した混沌種。

 

 

医師が怒鳴る。

 

 

「何故動いた!!」

 

 

若い兵士が笑う。

 

 

「……仲間、運ばなきゃ……」

 

 

「馬鹿か!!」

 

 

「そうですよ。」

 

 

血を吐きながら。

 

男は笑った。

 

 

「俺達、馬鹿なんです。」

 

 

医師は言葉を失う。

 

 

それが。

 

ネヴァーモーンだった。

 

 

自分より。

 

仲間。

 

 

自分の命より。

 

家族。

 

 

だから。

 

重傷者達ですら。

 

最後まで死者を運んでいた。

 

 

第四節

 

《団長》

 

ヴォルグラムは礼拝堂へ来ていた。

 

 

無数の棺。

 

並ぶ名前。

 

静かな炎。

 

 

彼は一つ一つを見る。

 

 

誰がどんな酒を好きだったか。

 

誰が喧嘩好きだったか。

 

誰が子供好きだったか。

 

誰が料理を作っていたか。

 

 

全部覚えている。

 

 

レオンが隣へ来た。

 

 

「団長。」

 

 

「どうして全部覚えてるんですか?」

 

 

ヴォルグラムは少し考える。

 

 

「家族だからだ。」

 

 

それだけだった。

 

 

「団長……辛くないんですか?」

 

 

長い沈黙。

 

 

遠くで祈りの鐘が鳴る。

 

 

ヴォルグラムは答えた。

 

 

「辛い。」

 

 

「毎回だ。」

 

 

「慣れねぇ。」

 

 

レオンは驚いた。

 

 

最強の男。

 

怪物。

 

英雄。

 

 

そう思っていた。

 

 

だが。

 

目の前にいるのは。

 

ただ家族を失った男だった。

 

 

「だから。」

 

 

ヴォルグラムが言う。

 

 

「忘れない。」

 

 

「全員連れて帰る。」

 

 

「それが俺の仕事だ。」

 

 

第五節

 

《静かな夜》

 

その夜。

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》は静かだった。

 

 

食堂に酒はない。

 

笑い声もない。

 

オーク達も騒がない。

 

 

誰もが疲れていた。

 

誰もが傷付いていた。

 

 

しかし。

 

誰も孤独ではなかった。

 

 

重傷者の傍には仲間がいる。

 

死者の傍には家族がいる。

 

 

人間。

 

オーク。

 

マリーン。

 

デーモン。

 

混沌種。

 

ネクロン。

 

 

種族は違う。

 

神も違う。

 

信仰も違う。

 

 

だが。

 

皆。

 

同じ場所へ帰ってきた。

 

 

家。

 

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》。

 

 

銀河を漂う巨大な墓標。

 

狂人達の船。

 

怪物達の家。

 

 

その静かな廊下を。

 

ヴォルグラムは一人歩く。

 

 

遠くで。

 

子供達の寝息が聞こえる。

 

 

難民達は生きている。

 

 

それだけで。

 

十分だった。

 

 

彼は立ち止まり。

 

窓の外の星々を見つめた。

 

 

そして。

 

小さく呟く。

 

 

「……お疲れ。」

 

 

それは。

 

生き残った者達へ。

 

 

そして。

 

帰ってきた英雄達へ向けた言葉だった。

 

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》は静かに進む。

 

暗黒の銀河を。

 

家族を乗せて。

 

生者と死者を乗せて。

 

 

その巨大な艦は。

 

まるで。

 

全ての魂を抱きしめるように。

 

ゆっくりと。

 

故郷のない家族達を乗せて。

 

星の海を進み続けた。

 

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第二十章 完

 

――家へ帰るまでが戦争である――

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