《WARHAMMER 40,000》
NEVERMOURN
第二十一章
《英雄達に乾杯》
⸻
《レクイエム・オブ・アッシュ》。
銀河を漂う巨大墓標艦。
戦いから十数時間。
埋葬作業は続き。
医療区画には負傷者が溢れ。
礼拝堂には無数の棺が並んでいた。
⸻
食堂は静かだった。
普段なら。
オーク達の喧嘩。
人間達の笑い声。
酒樽の音。
馬鹿騒ぎ。
⸻
だが今日は違う。
誰も騒がない。
誰も笑わない。
⸻
それぞれが。
失った家族のことを考えていた。
⸻
その時だった。
⸻
艦内全域。
格納庫。
医療区画。
居住区。
礼拝堂。
厨房。
機関室。
難民居住区。
⸻
全てのスピーカーから。
ノイズが走る。
⸻
ブツッ。
⸻
静寂。
⸻
誰もが顔を上げた。
⸻
そして。
聞き慣れた低い声が響く。
⸻
ヴォルグラムだった。
⸻
「ネヴァーモーン及び。」
⸻
少し間が空く。
⸻
「難民諸君。」
⸻
「よく聞け。」
⸻
艦内全体が静まり返る。
⸻
医療区画。
重傷者達が顔を上げる。
⸻
礼拝堂。
埋葬作業をしていた者達が手を止める。
⸻
食堂。
オーク達が黙る。
⸻
難民区画。
子供達が耳を傾ける。
⸻
その声は。
いつものように乱暴だった。
⸻
「今回は。」
⸻
「久しぶりに。」
⸻
長い沈黙。
⸻
「家族がたくさん逝った。」
⸻
その言葉は。
誰の胸にも深く刺さった。
⸻
若い人間兵。
老いた傭兵。
オーク。
マリーン。
混沌種。
デーモン。
⸻
多くの仲間が帰ってきた。
だが。
もう二度と笑わない。
⸻
ヴォルグラムは続ける。
⸻
「正直に言う。」
⸻
「辛ぇ。」
⸻
「慣れねぇ。」
⸻
「何回経験しても。」
⸻
「慣れる気もしねぇ。」
⸻
艦内が静かになる。
⸻
誰もが知っている。
ヴォルグラムは滅多に弱音を吐かない。
⸻
その男が。
今。
正直に話していた。
⸻
「だがな。」
⸻
少しだけ声が強くなる。
⸻
「難民達に被害は無い。」
⸻
医療区画。
救出された子供達。
避難民。
老人達。
母親達。
⸻
誰も死んでいない。
⸻
「ガキは生きてる。」
⸻
「親も生きてる。」
⸻
「家族も生きてる。」
⸻
「街も守れた。」
⸻
「船団も守れた。」
⸻
その言葉に。
難民達の目から涙が流れた。
⸻
なぜなら。
それは事実だった。
⸻
自分達は生きている。
⸻
その代わりに。
彼らが死んだ。
⸻
ヴォルグラムの声が少し低くなる。
⸻
「あいつらは。」
⸻
「英雄だ。」
⸻
礼拝堂。
並ぶ棺。
⸻
オーク。
人間。
混沌種。
マリーン。
⸻
その全てへ向けた言葉。
⸻
「銀河は。」
⸻
「英雄の名前なんか覚えねぇ。」
⸻
「帝国も。」
⸻
「混沌も。」
⸻
「誰も覚えねぇ。」
⸻
「新聞にも載らねぇ。」
⸻
「銅像にもならねぇ。」
⸻
「勲章もねぇ。」
⸻
「誰も褒めてくれねぇ。」
⸻
長い沈黙。
⸻
そして。
ヴォルグラムは静かに言った。
⸻
「だから。」
⸻
「俺達が覚える。」
⸻
「俺達家族が忘れない。」
⸻
難民区画。
救出された少女エルナが泣いていた。
⸻
子供達も泣いている。
⸻
その時。
ヴォルグラムの声が響く。
⸻
「難民諸君。」
⸻
「お前達も忘れないでくれ。」
⸻
「名前を知らなくてもいい。」
⸻
「顔を覚えてなくてもいい。」
⸻
「だが。」
⸻
「今日、お前達が生きている理由だけは。」
⸻
「忘れないでくれ。」
⸻
沈黙。
⸻
誰も声を出せない。
⸻
格納庫では。
グラッグが涙を拭っていた。
⸻
リリスは煙草を吸えない。
⸻
カイウスは俯いている。
⸻
ドッグは帽子を深く被る。
⸻
マルケウスは目を閉じていた。
⸻
レオンは泣いていた。
⸻
そして。
ヴォルグラムが言う。
⸻
「総員。」
⸻
少しだけ。
いつもの団長の声に戻る。
⸻
「酒を持て。」
⸻
オーク達が顔を上げる。
⸻
「飲める奴は飲め。」
⸻
「飲めない奴は水でもいい。」
⸻
「茶でもいい。」
⸻
「コーヒーでもいい。」
⸻
「何でもいい。」
⸻
「手に持て。」
⸻
艦内全域。
兵士達が動く。
⸻
酒瓶。
マグカップ。
缶。
水筒。
⸻
重傷者ですら。
震える手でコップを持つ。
⸻
難民達も持つ。
⸻
子供達も持つ。
⸻
礼拝堂。
棺の前にも。
静かに酒が置かれる。
⸻
ヴォルグラムの声。
⸻
「逝った英雄達に。」
⸻
その瞬間。
全艦が立ち上がる。
⸻
「俺達家族に。」
⸻
静寂。
⸻
涙。
⸻
笑顔。
⸻
血。
⸻
傷。
⸻
その全てを抱えて。
⸻
ヴォルグラムが最後に言った。
⸻
「乾杯。」
⸻
その瞬間。
数万人の声が重なった。
⸻
「乾杯!!」
⸻
オークの咆哮。
人間の声。
デーモンの笑い。
マリーンの低い声。
子供達の小さな声。
⸻
全てが一つになる。
⸻
礼拝堂の炎が揺れる。
⸻
棺の前に置かれた酒。
⸻
帰ってきた英雄達。
⸻
彼らはもう飲めない。
⸻
だが。
きっと聞こえている。
⸻
グラッグが酒を掲げる。
⸻
「帰ッテ来タゾ。」
⸻
ドッグが静かに笑う。
⸻
「酒代は俺達が払う。」
⸻
リリスが微笑む。
⸻
「またいつか飲みましょう。」
⸻
カイウスが剣を置く。
⸻
「兄弟に。」
⸻
セトラが静かに言う。
⸻
「忘れない。」
⸻
そして。
ヴォルグラムは。
礼拝堂の棺達を見つめながら。
小さく呟いた。
⸻
「よくやった。」
⸻
「お前達のおかげで。」
⸻
「家族は今日も生きてる。」
⸻
《レクイエム・オブ・アッシュ》は静かに進む。
暗黒の宇宙を。
生者と死者を乗せて。
⸻
その夜。
銀河で最も狂った傭兵達は。
泣きながら酒を飲んだ。
笑いながら酒を飲んだ。
死者の話をした。
生き残った話をした。
⸻
そして。
誰一人。
英雄達を忘れなかった。
⸻
《WARHAMMER 40,000》
NEVERMOURN
第二十一章 完
――英雄達に、乾杯。――