禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

33 / 62
第33話

アメストリア中央戦線。

 

鋼鉄の道。

 

⸻

 

ネヴァーモーンの重戦車群はなおも前進を続けていた。

 

履帯が瓦礫を踏み砕き。

 

主砲が敵陣を吹き飛ばし。

 

強襲艦が低空を飛ぶ。

 

⸻

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》から降り注ぐ砲撃が地平線を赤く染める。

 

⸻

 

オーク。

 

混沌兵。

 

異形。

 

デーモン。

 

⸻

 

数十万の敵。

 

⸻

 

だが。

 

ヴォルグラム・ケインは巨大斧を肩に担いだまま立ち止まった。

 

赤い義眼が敵軍を見つめている。

 

⸻

 

何かがおかしい。

 

⸻

 

オークが後退している。

 

混沌兵が隊列を組んでいる。

 

デーモンが無駄な突撃をしない。

 

⸻

 

砲撃が降れば散開する。

 

戦車が前進すれば側面へ回り込む。

 

包囲された部隊は即座に撤退する。

 

⸻

 

あまりにも統率されていた。

 

⸻

 

ブラッドレイも敵軍を見つめる。

 

⸻

 

「妙だな。」

 

⸻

 

ヴォルグラムが頷く。

 

⸻

 

「ああ。」

 

⸻

 

「随分統率されてる。」

 

⸻

 

砲弾が頭上を通過する。

 

戦車が横を進む。

 

遠くではオークとアメストリア兵が激突している。

 

⸻

 

しかし。

 

二人の視線は敵の奥を見ていた。

 

⸻

 

誰かがいる。

 

⸻

 

この大軍を動かしている何者かが。

 

⸻

 

ヴォルグラムは通信機を取った。

 

⸻

 

「艦のセンサーに何か映ってるか?」

 

⸻

 

《レクイエム・オブ・アッシュ》。

 

艦橋。

 

⸻

 

無数の戦術画面。

 

緑色の立体映像。

 

砲撃座標。

 

熱源。

 

魔力反応。

 

⸻

 

その中央。

 

セトラ。

 

⸻

 

長い年月を生きたネクロンの王は椅子に腰掛けたまま静かに目を閉じていた。

 

⸻

 

周囲の士官達が振り向く。

 

⸻

 

セトラがゆっくり口を開く。

 

⸻

 

「……ようやく気付いたか。」

 

⸻

 

緑色の瞳が輝く。

 

⸻

 

「余計な敵ばかり斬ってるから見落とす。」

 

⸻

 

ヴォルグラムが笑う。

 

⸻

 

「見えてるのか?」

 

⸻

 

「ああ。」

 

⸻

 

セトラは戦術図を操作する。

 

⸻

 

無数の光点。

 

赤い反応。

 

敵部隊。

 

⸻

 

その中心。

 

⸻

 

いくつかの光点が存在していた。

 

⸻

 

「妙だったんだ。」

 

⸻

 

「オークが命令を聞いてる。」

 

⸻

 

「混沌兵が無駄死にしない。」

 

⸻

 

「デーモンが勝手に暴れてない。」

 

⸻

 

「こんな連中が仲良く戦ってる時点で異常だ。」

 

⸻

 

ブラッドレイが静かに聞く。

 

⸻

 

「つまり。」

 

⸻

 

セトラ。

 

⸻

 

「指揮官がいる。」

 

⸻

 

艦橋が静かになる。

 

⸻

 

セトラは立体映像を拡大する。

 

⸻

 

崩壊した工業区。

 

燃える都市。

 

地下施設。

 

⸻

 

さらに地下。

 

⸻

 

赤い反応。

 

⸻

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

⸻

 

「かなり深い。」

 

⸻

 

「地下施設だ。」

 

⸻

 

「恐らく敵の司令部だな。」

 

⸻

 

ドッグが通信に割り込む。

 

⸻

 

「どれくらい強い?」

 

⸻

 

セトラが少し黙る。

 

⸻

 

「強い。」

 

⸻

 

「少なくとも雑魚じゃない。」

 

⸻

 

「それに一人じゃない。」

 

⸻

 

その時。

 

前線で戦っていたリリスが黒炎を消した。

 

⸻

 

「私にも見えるわ。」

 

⸻

 

ヴォルグラム。

 

⸻

 

「どうだ?」

 

⸻

 

「気味が悪い。」

 

⸻

 

「悪魔の匂い。」

 

⸻

 

「混沌の気配。」

 

⸻

 

「それに……古い。」

 

⸻

 

ブラッドレイ。

 

⸻

 

「古い?」

 

⸻

 

「何千年も生きてる怪物みたいな感じ。」

 

⸻

 

セトラが静かに笑う。

 

⸻

 

「それなら話が早い。」

 

⸻

 

「古い化け物なら俺も嫌というほど知ってる。」

 

⸻

 

グラッグが笑う。

 

⸻

 

「殴レルカ?」

 

⸻

 

「殴れる。」

 

⸻

 

「多分な。」

 

⸻

 

その時だった。

 

⸻

 

敵中央。

 

⸻

 

黒煙の向こう。

 

⸻

 

巨大な殺意。

 

⸻

 

空気が震える。

 

⸻

 

デーモン達が咆哮する。

 

オーク達が武器を掲げる。

 

混沌兵が隊列を組み直す。

 

⸻

 

セトラの瞳が細くなる。

 

⸻

 

「向こうもこっちに気付いたな。」

 

⸻

 

戦術画面が赤く染まる。

 

⸻

 

「大型反応接近。」

 

⸻

 

「護衛部隊だ。」

 

⸻

 

「三分で接触する。」

 

⸻

 

ブラッドレイが軍刀を抜く。

 

⸻

 

「指揮官を守る部隊か。」

 

⸻

 

「そんなところだ。」

 

⸻

 

ヴォルグラムが巨大斧を担ぐ。

 

⸻

 

「セトラ。」

 

⸻

 

「なんだ。」

 

⸻

 

「敵の頭は見えてるな?」

 

⸻

 

セトラは静かに笑った。

 

⸻

 

「年寄りを舐めるな。」

 

⸻

 

「ちゃんと見えてる。」

 

⸻

 

「敵の王様は地下に隠れてる。」

 

⸻

 

「それもかなり臆病なタイプだ。」

 

⸻

 

ブラッドレイが小さく笑う。

 

⸻

 

「気が合いそうにないな。」

 

⸻

 

「俺もそう思う。」

 

⸻

 

リリスの黒炎が燃え上がる。

 

⸻

 

「行く?」

 

⸻

 

ヴォルグラムが前を見る。

 

⸻

 

燃える都市。

 

死体。

 

鋼鉄。

 

家族。

 

⸻

 

後ろには避難民。

 

アメストリア。

 

帰るべき場所。

 

⸻

 

ヴォルグラムは通信を開く。

 

⸻

 

「全軍、前線維持。」

 

⸻

 

「敵の頭が見つかった。」

 

⸻

 

「俺達が行く。」

 

⸻

 

グラッグが武器を握る。

 

⸻

 

ドッグが弾倉を確認する。

 

⸻

 

ブラッドレイが軍刀を構える。

 

⸻

 

そして。

 

艦橋のセトラが最後に言った。

 

⸻

 

「無茶はするな。」

 

⸻

 

「帰って酒を飲むんだろう?」

 

⸻

 

ヴォルグラムが笑う。

 

⸻

 

「当然だ。」

 

⸻

 

遠く。

 

黒煙の向こう。

 

⸻

 

敵指揮官が待つ。

 

⸻

 

戦争の中心。

 

⸻

 

地獄の底。

 

⸻

 

そこへ。

 

ネヴァーモーンの家族達と。

 

アメストリアの王は。

 

ゆっくりと歩き始めた。

 

⸻

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第三十一章 完

 

――妙な戦場には、必ず誰かが糸を引いている。――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。