禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

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第58話

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十六章

 

《王への敬礼》

 

 

宴は続いていた。

 

 

焚き火の炎は静かに揺れ。

 

酒の匂いが夜風に乗って流れる。

 

 

負傷兵は笑い。

 

生き残った者達は肩を組み。

 

死んだ家族達の名があちこちで語られていた。

 

 

アメストリア軍も。

 

 

ネヴァーモーンも。

 

 

今は同じ火を囲み。

 

同じ酒を飲んでいる。

 

 

その中で。

 

 

ヴォルグラム達の周囲だけは少し静かだった。

 

 

団長。

 

 

副長。

 

 

隊長達。

 

 

今回の戦いで最も前に立った者達。

 

 

皆傷だらけだった。

 

 

ヴォルグラムは椅子に沈み込み。

 

 

カイウスは静かに酒を飲み。

 

 

グラッグは肉を食べ。

 

 

ドッグは煙草を吸っている。

 

 

ブラッドレイもまた静かに杯を持っていた。

 

 

その時だった。

 

 

人々のざわめきが少しずつ静まる。

 

 

アメストリア兵達が道を開く。

 

 

ネヴァーモーンの兵達も立ち上がる。

 

 

ゆっくり。

 

 

本当にゆっくり。

 

 

一人の王が歩いてきた。

 

 

セトラ。

 

 

古き王。

 

 

何千もの戦場を見てきた王。

 

 

レクイエム・オブ・アッシュの頭脳。

 

 

演算王。

 

 

誰よりも冷静で。

 

誰よりも正確で。

 

そして。

 

誰よりも長く家族達を見守ってきた存在。

 

 

彼は王衣を纏い。

 

杖を手に。

 

静かに歩いてくる。

 

 

兵士達は自然と道を空ける。

 

 

誰も騒がない。

 

 

誰も冗談を言わない。

 

 

それほどまでに。

 

 

セトラという存在は。

 

 

ネヴァーモーンにとって特別だった。

 

 

ヴォルグラムがゆっくり顔を上げる。

 

 

そして。

 

 

笑った。

 

 

「遅ぇぞ、セトラ。」

 

 

周囲が少し笑う。

 

 

セトラは静かに答える。

 

 

「王は遅れて来るものだ。」

 

 

ドッグ。

 

 

「本当に来たな。」

 

 

リリス。

 

 

「奇跡ね。」

 

 

グラッグ。

 

 

「酒飲ム。」

 

 

セトラはゆっくり焚き火の前へ来る。

 

 

その目。

 

 

何千年も生きた王の瞳。

 

 

その奥には。

 

 

安堵があった。

 

 

ヴォルグラム達が生きている。

 

 

家族が帰ってきた。

 

 

それを見ている。

 

 

その瞬間。

 

 

ヴォルグラムがゆっくり立とうとする。

 

 

「団長!!」

 

 

「無理するな!!」

 

 

兵士達が慌てる。

 

 

だが。

 

 

彼は立った。

 

 

身体が軋む。

 

 

肋骨。

 

 

肺。

 

 

腕。

 

 

脚。

 

 

全てが悲鳴を上げる。

 

 

それでも。

 

 

立つ。

 

 

ブラッドレイが肩を支える。

 

 

ドッグも反対側を支える。

 

 

カイウスが静かに見守る。

 

 

そして。

 

 

ヴォルグラムはセトラを見る。

 

 

珍しく。

 

 

本当に珍しく。

 

 

笑顔を消した。

 

 

「セトラ。」

 

 

老王が静かに目を向ける。

 

 

「お前が一番の功労者だ。」

 

 

誰も喋らない。

 

 

焚き火の音だけが響く。

 

 

「お前の正確な演算があったから。」

 

 

「惑星を傷付けず。」

 

 

「あの化け物だけに損傷を与えられた。」

 

 

あの地下深くへのバンカー弾。

 

 

核までの距離。

 

 

爆発範囲。

 

 

重粒子砲。

 

 

艦砲射撃。

 

 

通常弾頭。

 

 

全て。

 

 

一つでも狂えば。

 

 

惑星は消えていた。

 

 

アメストリアは滅びていた。

 

 

数百万人が死んでいた。

 

 

だが。

 

 

セトラは成功させた。

 

 

王の演算。

 

 

千年の知識。

 

 

膨大な経験。

 

 

それが全てを救った。

 

 

ヴォルグラムが笑う。

 

 

「改めて。」

 

 

「助かったぜ。」

 

 

「セトラ。」

 

 

その言葉。

 

 

長い付き合いの家族達が静かになる。

 

 

数百年。

 

 

何百回もの戦場。

 

 

何百回もの宴。

 

 

その中で。

 

 

ヴォルグラムが。

 

 

公の場で。

 

 

誰かへ礼を言うことは少ない。

 

 

そして。

 

 

次の瞬間。

 

 

ヴォルグラムが頭を下げた。

 

 

深く。

 

 

ゆっくり。

 

 

ネヴァーモーン団長。

 

 

何百年も戦場に立ち続けた男。

 

 

誰よりも頑固な男。

 

 

その男が。

 

 

頭を下げた。

 

 

「全軍を代表して。」

 

 

「礼を言う。」

 

 

静寂。

 

 

誰も声を出せない。

 

 

ドッグの煙草が止まる。

 

 

カイウスも目を細める。

 

 

グラッグですら肉を置く。

 

 

ブラッドレイも静かに見る。

 

 

そして。

 

 

一人。

 

 

また一人。

 

 

ネヴァーモーンの兵士達が立ち上がる。

 

 

人間。

 

 

オーク。

 

 

混沌種。

 

 

マリーン。

 

 

デーモン。

 

 

全員。

 

 

立ち上がる。

 

 

そして。

 

 

頭を下げた。

 

 

「ありがとう。」

 

 

「助かった。」

 

 

「王。」

 

 

「家族を救ってくれた。」

 

 

アメストリア兵達も続く。

 

 

ブラッドレイもゆっくり頭を下げる。

 

 

「感謝する。」

 

 

「貴殿がいなければ。」

 

 

「我々は滅んでいた。」

 

 

セトラは黙っている。

 

 

長い時間。

 

 

何千年もの時間。

 

 

王だった。

 

 

神だった。

 

 

支配者だった。

 

 

だが。

 

 

今。

 

 

目の前にいるのは。

 

 

臣下ではない。

 

 

兵士でもない。

 

 

家族達だった。

 

 

老王は静かに目を閉じる。

 

 

そして。

 

 

少しだけ笑った。

 

 

「余一人の力ではない。」

 

 

静かな声。

 

 

「お前達が戦った。」

 

 

「お前達が命を賭けた。」

 

 

「余は少し道を示しただけだ。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「それでもだ。」

 

 

セトラ。

 

 

「……そうか。」

 

 

少し沈黙。

 

 

そして。

 

 

老王はゆっくり酒杯を持ち上げる。

 

 

「ならば。」

 

 

「この勝利を。」

 

 

「死んだ家族達へ。」

 

 

「生き残った家族達へ。」

 

 

「そして。」

 

 

ブラッドレイを見る。

 

 

「新たな家族へ。」

 

 

静かな夜。

 

 

焚き火。

 

 

星。

 

 

傷だらけの兵士達。

 

 

その中心。

 

 

王がいた。

 

 

そして。

 

 

ネヴァーモーンの全員が。

 

 

もう一度杯を掲げた。

 

 

「乾杯!!」

 

 

数千人の声が。

 

 

アメストリアの夜空へ響き渡った。

 

 

そしてその時。

 

 

ヴォルグラムは少しだけ笑った。

 

 

「……珍しく真面目な宴になっちまったな。」

 

 

グラッグ。

 

 

「酒飲ム。」

 

 

ドッグ。

 

 

「いつもの流れだ。」

 

 

カイウス。

 

 

「安心した。」

 

 

周囲から笑い声が上がる。

 

 

老王セトラも。

 

 

ほんの少しだけ。

 

 

静かに笑っていた。

 

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十六章 完

 

――最も偉大な王とは、家族が無事に帰る道を示す者である。――

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