禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

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第59話

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十七章

 

《古い身体》

 

 

宴はまだ終わらない。

 

 

夜明けまではまだ時間がある。

 

 

焚き火の炎は小さくなり。

 

空には灰が静かに舞っている。

 

 

歌っていた者達は眠り。

 

酒を飲んでいた者達は寝袋や担架で横になり。

 

負傷兵達は包帯だらけのまま笑いながら眠っていた。

 

 

死んだ家族達の棺は焚き火の近くに並べられている。

 

 

誰も独りにはしない。

 

 

それがネヴァーモーンだった。

 

 

その中心。

 

 

団長ヴォルグラム・ケイン。

 

 

椅子に深く腰掛け。

 

身体中を包帯で巻かれ。

 

酒瓶を片手にぼんやり焚き火を眺めている。

 

 

グラッグはまだ食べている。

 

 

カイウスは静かに酒を飲み。

 

 

ドッグは煙草を吸い。

 

 

ブラッドレイとセトラも近くに座っていた。

 

 

しばらく誰も喋らない。

 

 

戦いの後の静かな時間。

 

 

家族が無事だったことを確かめるような時間。

 

 

その時だった。

 

 

ヴォルグラムが胸を押さえる。

 

 

ギシ。

 

 

肋骨が鳴る。

 

 

肩が軋む。

 

 

人工筋肉が悲鳴を上げる。

 

 

古い機械音が身体の奥で響く。

 

 

「痛てぇな……」

 

 

ドッグが煙を吐く。

 

 

「今さらか?」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「流石に身体にガタがきてる。」

 

 

胸を軽く叩く。

 

 

金属音。

 

 

古い補助骨格。

 

 

数百年前の人工筋繊維。

 

 

無数の戦場を耐えてきた機械部品。

 

 

どれも限界が近い。

 

 

カイウスが静かに言う。

 

 

「そろそろ交換時期だ。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「だな。」

 

 

少し笑う。

 

 

「ぼちぼち新しい身体にしねぇとな。」

 

 

その言葉。

 

 

アメストリア兵達は少し驚いた。

 

 

ブラッドレイが静かに尋ねる。

 

 

「そこまで傷んでいるのか。」

 

 

ヴォルグラムは酒を飲む。

 

 

「あちこち交換してる。」

 

 

「肺。」

 

 

「心臓。」

 

 

「骨。」

 

 

「筋肉。」

 

 

「神経。」

 

 

「内臓。」

 

 

「全部何回か変えてる。」

 

 

ドッグ。

 

 

「頭だけはそのままだ。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「そこは壊れてる。」

 

 

周囲が笑う。

 

 

だが。

 

 

ブラッドレイは黙る。

 

 

人間。

 

 

老い。

 

 

寿命。

 

 

自然な死。

 

 

それを望む王の前にいるのは。

 

 

何百年も生きるために。

 

 

何度も自分の身体を捨てた男。

 

 

ヴォルグラムは焚き火を見る。

 

 

「最初は嫌だった。」

 

 

誰も口を挟まない。

 

 

「腕を失った。」

 

 

「脚も失った。」

 

 

「内臓もやられた。」

 

 

「その度に交換した。」

 

 

「気付いたら。」

 

 

自分の腕を見る。

 

 

傷だらけ。

 

 

金属。

 

 

古い義肢。

 

 

「どこまでが俺なのか分からなくなった。」

 

 

静かな言葉だった。

 

 

数百年。

 

 

何度も死にかけた。

 

 

何度も身体を捨てた。

 

 

生きるため。

 

 

家族を守るため。

 

 

戦うため。

 

 

カイウスが静かに言う。

 

 

「私も同じだ。」

 

 

彼もまた。

 

 

半分以上が機械。

 

 

人間であり。

 

 

機械でもある。

 

 

ヴォルグラムは少し笑う。

 

 

「だがな。」

 

 

ブラッドレイを見る。

 

 

「お前らを見ると羨ましい時がある。」

 

 

「傷付く。」

 

 

「老いる。」

 

 

「死ぬ。」

 

 

「全部人間だ。」

 

 

ブラッドレイは静かに答える。

 

 

「それが人間だからな。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「ああ。」

 

 

「だから眩しい。」

 

 

ドッグが煙草を消す。

 

 

「俺もいつか死ぬ。」

 

 

「当然だ。」

 

 

「お前も。」

 

 

「お前も。」

 

 

ブラッドレイを見る。

 

 

「王様も。」

 

 

ヴォルグラムは笑う。

 

 

「俺らはまだ分からん。」

 

 

グラッグ。

 

 

「オーク長生キ。」

 

 

カイウス。

 

 

「私も分からない。」

 

 

セトラ。

 

 

「余も長い。」

 

 

周囲が少し笑う。

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「だからな。」

 

 

「もし身体を替えるなら。」

 

 

胸を叩く。

 

 

「もう少し丈夫なのにしたい。」

 

 

ドッグ。

 

 

「頭も交換するか?」

 

 

「お前からだ。」

 

 

グラッグ。

 

 

「オークニナルカ?」

 

 

「嫌だ。」

 

 

「強イ。」

 

 

「飯代が破産する。」

 

 

周囲が笑う。

 

 

しかし。

 

 

少しだけ。

 

 

ヴォルグラムの顔は寂しそうだった。

 

 

何百年。

 

 

何度も身体を替えてきた。

 

 

それでも。

 

 

心だけは昔のまま。

 

 

家族を失う痛み。

 

 

戦友の名前。

 

 

酒の味。

 

 

それだけは変わらない。

 

 

ブラッドレイが静かに言う。

 

 

「身体が変わっても。」

 

 

ヴォルグラムを見る。

 

 

「お前はお前だ。」

 

 

静かな言葉。

 

 

ヴォルグラムは少し驚く。

 

 

ブラッドレイ。

 

 

「家族達がそう思っているなら。」

 

 

「それで十分だ。」

 

 

グラッグ。

 

 

「団長ハ団長。」

 

 

カイウス。

 

 

「同意する。」

 

 

ドッグ。

 

 

「機械でも爺でも団長だ。」

 

 

セトラ。

 

 

「変わらぬ。」

 

 

ヴォルグラムはしばらく黙る。

 

 

そして。

 

 

ゆっくり笑った。

 

 

「……そうか。」

 

 

酒を飲む。

 

 

ぽた。

 

 

また包帯から漏れる。

 

 

グラッグ。

 

 

「漏レテル。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「うるせぇ。」

 

 

焚き火の向こう。

 

 

朝日が少しだけ見え始める。

 

 

長い夜が終わる。

 

 

戦いも終わる。

 

 

だが。

 

 

ネヴァーモーンはこれからも旅を続ける。

 

 

古い身体でも。

 

 

新しい身体でも。

 

 

機械でも。

 

 

人間でも。

 

 

怪物でも。

 

 

家族がいる限り。

 

 

ヴォルグラム・ケインは。

 

 

また立ち上がるのだった。

 

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十七章 完

 

――身体は朽ちても、家族を想う心だけは交換できない。――

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