禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

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第60話

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十八章

 

《長かったな》

 

 

宴も終わりに近づいていた。

 

 

夜は明け始めている。

 

 

灰色だった空の向こうから、ゆっくりと朝日が顔を覗かせる。

 

 

戦場の煙。

 

 

壊れた兵器。

 

 

砕けた装甲。

 

 

倒れた怪物。

 

 

その全てが朝日に照らされていた。

 

 

焚き火の周囲では、酔い潰れた兵士達が転がっている。

 

 

負傷兵達は肩を寄せ合い眠り。

 

 

アメストリア兵達も、ネヴァーモーンの兵達も、区別なく同じ毛布に包まれていた。

 

 

死んだ家族達の棺の前には酒が供えられている。

 

 

誰かが歌を歌っている。

 

 

誰かが泣いている。

 

 

誰かが笑っている。

 

 

いつものネヴァーモーンだった。

 

 

その中央。

 

 

ヴォルグラムは静かに座っていた。

 

 

酒瓶を片手に。

 

 

包帯だらけの身体。

 

 

古い義肢。

 

 

軋む関節。

 

 

何百年も戦ってきた男。

 

 

彼は空を見上げた。

 

 

朝日。

 

 

その光が目に入る。

 

 

そして。

 

 

ぽつりと呟いた。

 

 

「俺も歳を取ったな……」

 

 

誰も笑わなかった。

 

 

ドッグだけが煙草を咥えながら答える。

 

 

「今さら気付いたのか?」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「つくづく思うぜ。」

 

 

右腕を動かす。

 

 

ギシ。

 

 

古い補助筋肉が軋む。

 

 

胸も痛む。

 

 

肋骨も痛い。

 

 

肺も痛い。

 

 

昔なら数日で治った傷。

 

 

今は長く残る。

 

 

昔なら笑って済んだ痛み。

 

 

今は身体に残る。

 

 

ヴォルグラムは苦笑した。

 

 

「本当に爺だな。」

 

 

その時。

 

 

少し離れた場所。

 

 

大きな笑い声。

 

 

混沌種達の輪の中心。

 

 

巨大な戦斧。

 

 

巨大な身体。

 

 

マルケウス。

 

 

彼はまだ酒樽を抱えて笑っていた。

 

 

ヴォルグラムが叫ぶ。

 

 

「おーい!!」

 

 

マルケウス。

 

 

「ん?」

 

 

「お前もこっち来い!!」

 

 

「なんだよ!!」

 

 

「来いって!!」

 

 

巨大な混沌種は笑いながら近づく。

 

 

その姿。

 

 

何百年も変わらない。

 

 

戦場では怪物。

 

 

宴では馬鹿。

 

 

ヴォルグラムは仲間達を見渡した。

 

 

マルケウス。

 

 

カイウス。

 

 

リリス。

 

 

セトラ。

 

 

グラッグ。

 

 

皆。

 

 

長い付き合いだった。

 

 

長すぎるほどに。

 

 

ヴォルグラムは酒を持ち上げる。

 

 

「なぁ。」

 

 

皆が見る。

 

 

「マルケウス。」

 

 

「カイウス。」

 

 

「リリス。」

 

 

「セトラ。」

 

 

「グラッグ。」

 

 

少し笑う。

 

 

「お前らは。」

 

 

「俺がネヴァーモーンを作った時からの付き合いだからな。」

 

 

静かな空気。

 

 

セトラが目を閉じる。

 

 

カイウスも黙る。

 

 

リリスが微笑む。

 

 

グラッグは肉を食べるのをやめる。

 

 

マルケウスも酒を置いた。

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「長かったな。」

 

 

誰も否定しない。

 

 

数百年。

 

 

数え切れない戦争。

 

 

惑星。

 

 

銀河。

 

 

死。

 

 

別れ。

 

 

無数の地獄。

 

 

その全てを。

 

 

彼らは共に歩いてきた。

 

 

マルケウスが笑う。

 

 

「あの頃のお前。」

 

 

「もっと痩せてたぞ。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「うるせぇ。」

 

 

リリス。

 

 

「今より怖かったわね。」

 

 

カイウス。

 

 

「いつも怒っていた。」

 

 

グラッグ。

 

 

「殴ラレタ。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「お前が暴れたからだ。」

 

 

周囲が笑う。

 

 

ドッグが煙を吐く。

 

 

「俺はまだ新人か。」

 

 

ヴォルグラムが笑う。

 

 

「お前はまだ二十年くらいだろ。」

 

 

ドッグ。

 

 

「十分長い。」

 

 

「俺らから見たら新人だ。」

 

 

周囲が笑う。

 

 

しかし。

 

 

ヴォルグラムの顔は少し寂しそうだった。

 

 

焚き火を見る。

 

 

静かに言う。

 

 

「なぁ。」

 

 

「家族は随分入れ替わったな。」

 

 

沈黙。

 

 

その言葉だけは。

 

 

誰も笑えなかった。

 

 

セトラが静かに空を見る。

 

 

「多くを見送った。」

 

 

カイウス。

 

 

「覚えている。」

 

 

リリス。

 

 

「全部。」

 

 

マルケウス。

 

 

「馬鹿ばっかりだった。」

 

 

グラッグ。

 

 

「皆強カッタ。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「ああ。」

 

 

何百年前。

 

 

初代ネヴァーモーン。

 

 

最初の家族達。

 

 

既に名前しか残っていない者。

 

 

墓だけが残る者。

 

 

写真だけの者。

 

 

武器だけが残った者。

 

 

酒だけが供えられる者。

 

 

その全員。

 

 

彼らは覚えていた。

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「若い奴らも増えた。」

 

 

「昔の顔は減った。」

 

 

「気付いたら。」

 

 

少し笑う。

 

 

「俺達だけ残っちまった。」

 

 

マルケウス。

 

 

「老害共だな。」

 

 

「うるせぇ。」

 

 

ドッグが静かに言う。

 

 

「でも。」

 

 

「今いる家族も悪くない。」

 

 

その言葉。

 

 

皆が周囲を見る。

 

 

眠る若い兵士。

 

 

笑うアメストリア兵。

 

 

酔い潰れた混沌種。

 

 

包帯だらけの人間達。

 

 

そして。

 

 

新しい家族。

 

 

ブラッドレイ。

 

 

アメストリア。

 

 

ヴォルグラムはゆっくり笑った。

 

 

「ああ。」

 

 

「悪くねぇ。」

 

 

「だから続けられた。」

 

 

セトラが静かに言う。

 

 

「家族は入れ替わる。」

 

 

「だが。」

 

 

「ネヴァーモーンは変わらぬ。」

 

 

その言葉。

 

 

長い時間を生きた王の答えだった。

 

 

ヴォルグラムは目を閉じる。

 

 

遠い昔。

 

 

何も持たなかった頃。

 

 

最初の仲間達。

 

 

小さな傭兵団。

 

 

そして今。

 

 

何千もの家族。

 

 

巨大な戦艦。

 

 

数百年の歴史。

 

 

彼はゆっくり笑った。

 

 

「長かったな。」

 

 

マルケウス。

 

 

「まだ終わらん。」

 

 

カイウス。

 

 

「まだ戦う。」

 

 

リリス。

 

 

「まだ飲む。」

 

 

グラッグ。

 

 

「マダ食ウ。」

 

 

ドッグ。

 

 

「煙草も吸う。」

 

 

ブラッドレイも静かに酒杯を持ち上げる。

 

 

「ならば。」

 

 

「私も付き合おう。」

 

 

ヴォルグラムは大きく笑った。

 

 

「ハハハハハ!!」

 

 

「そうだな!!」

 

 

「まだ終わりじゃねぇ!!」

 

 

朝日が昇る。

 

 

新しい一日。

 

 

死んだ家族を忘れないまま。

 

 

新しい家族を迎えながら。

 

 

ネヴァーモーンは。

 

 

また次の旅へ向かうのだった。

 

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十八章 完

 

――家族は入れ替わる。だが共に歩いた時間だけは決して失われない。――

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