禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

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第61話

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十九章

 

《頼むから、俺より先に行くな》

 

 

宴は静かになっていた。

 

 

夜明け。

 

 

赤い朝日がアメストリアの大地を照らしている。

 

 

燃え尽きた焚き火。

 

 

空になった酒樽。

 

 

眠る兵士達。

 

 

死んだ家族達の棺。

 

 

笑い疲れた者。

 

 

泣き疲れた者。

 

 

誰もが戦いの終わりを感じていた。

 

 

ヴォルグラムは静かに座っていた。

 

 

酒瓶は空。

 

 

包帯は血で染まっている。

 

 

身体中が痛い。

 

 

肋骨。

 

 

肺。

 

 

腕。

 

 

脚。

 

 

古い機械。

 

 

傷。

 

 

何百年も使い続けた身体。

 

 

その全てが悲鳴を上げていた。

 

 

しかし。

 

 

それ以上に。

 

 

胸が痛かった。

 

 

目の前。

 

 

マルケウス。

 

 

カイウス。

 

 

リリス。

 

 

グラッグ。

 

 

ドッグ。

 

 

セトラ。

 

 

ブラッドレイ。

 

 

そして。

 

 

周囲には無数の家族達。

 

 

若い兵士。

 

 

古参兵。

 

 

アメストリア兵。

 

 

負傷者。

 

 

難民。

 

 

死んだ家族達の棺。

 

 

ヴォルグラムは静かに彼らを見る。

 

 

数百年。

 

 

どれだけ見送ってきただろう。

 

 

最初の仲間。

 

 

初代ネヴァーモーン。

 

 

兄弟のような男。

 

 

娘のように育った兵士。

 

 

笑い合った家族。

 

 

全員。

 

 

先に逝った。

 

 

そして。

 

 

また新しい家族ができた。

 

 

また失った。

 

 

また増えた。

 

 

それを何度も繰り返してきた。

 

 

その時だった。

 

 

ヴォルグラムがゆっくり立ち上がる。

 

 

周囲が驚く。

 

 

「団長!!」

 

 

「座ってろ!!」

 

 

「傷が開くぞ!!」

 

 

ドッグが肩を支える。

 

 

ブラッドレイも腕を貸す。

 

 

だが。

 

 

ヴォルグラムは首を振る。

 

 

「少しだけ。」

 

 

「立たせろ。」

 

 

皆が黙る。

 

 

彼の顔。

 

 

そこにはいつもの笑みがなかった。

 

 

いつもの豪快さも。

 

 

いつもの冗談も。

 

 

なかった。

 

 

彼は家族達を見る。

 

 

一人一人。

 

 

長い時間を共にした者達。

 

 

新しく加わった者達。

 

 

その全員を見る。

 

 

そして。

 

 

静かに言った。

 

 

「なぁ……」

 

 

誰も喋らない。

 

 

風の音だけ。

 

 

「柄でもねぇがな……」

 

 

少し笑う。

 

 

しかし。

 

 

声が震えている。

 

 

「お前ら家族を守る為なら……」

 

 

「いくらでも無茶してやる。」

 

 

「何回でも死んでやる。」

 

 

ドッグの煙草が止まる。

 

 

カイウスも顔を上げる。

 

 

マルケウスも笑わない。

 

 

セトラだけが静かに聞いている。

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「何百回でも前に出る。」

 

 

「盾になる。」

 

 

「壁になる。」

 

 

「怪物なら俺が相手してやる。」

 

 

「地獄なら俺が行く。」

 

 

「だから……」

 

 

言葉が止まる。

 

 

少しだけ。

 

 

沈黙。

 

 

そして。

 

 

震えた声。

 

 

「頼む。」

 

 

「死ぬな。」

 

 

誰も動かない。

 

 

ヴォルグラムの目から涙が落ちた。

 

 

ぽたり。

 

 

何百年も生きた男。

 

 

数え切れない死を見た男。

 

 

怪物達を殺し。

 

 

惑星を救い。

 

 

家族を率いた男。

 

 

その男が。

 

 

泣いていた。

 

 

「こんな世界で。」

 

 

「馬鹿な望みだけどよ。」

 

 

「頼むから……」

 

 

「俺より先に行くな……」

 

 

涙が止まらない。

 

 

「お前達は……」

 

 

「何より大切な家族なんだ……」

 

 

「ちくしょう……」

 

 

「頼むから……」

 

 

「死ぬな……」

 

 

男泣きだった。

 

 

子供のように。

 

 

何百年も我慢してきたものが。

 

 

一気に溢れ出した。

 

 

その時。

 

 

少し離れた場所。

 

 

セトラ。

 

 

老王。

 

 

彼は静かに通信端末を操作していた。

 

 

誰にも気付かれないように。

 

 

こっそりと。

 

 

ネヴァーモーン全軍。

 

 

アメストリア全軍。

 

 

レクイエム・オブ・アッシュ全艦。

 

 

全てへ回線を開く。

 

 

誰も止めない。

 

 

誰も気付かない。

 

 

ただ。

 

 

団長の声だけが。

 

 

全軍へ流れていく。

 

 

何千人もの兵士達。

 

 

医務室。

 

 

艦橋。

 

 

機関室。

 

 

格納庫。

 

 

墓所。

 

 

休憩室。

 

 

治療中の負傷兵。

 

 

全員が聞いていた。

 

 

ヴォルグラムの泣き声を。

 

 

「俺より先に行くな……」

 

 

「頼むから……」

 

 

その言葉。

 

 

誰も笑わなかった。

 

 

ドッグがゆっくり立つ。

 

 

煙草を捨てる。

 

 

そして。

 

 

ヴォルグラムの肩を掴む。

 

 

「無理だ。」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「……あ?」

 

 

ドッグ。

 

 

「誰かは先に死ぬ。」

 

 

「俺かもしれん。」

 

 

「団長かもしれん。」

 

 

「王様かもしれん。」

 

 

「誰にも分からん。」

 

 

そして。

 

 

少し笑う。

 

 

「でも。」

 

 

「簡単には死なん。」

 

 

ブラッドレイも立ち上がる。

 

 

「私も約束しよう。」

 

 

「可能な限り生きる。」

 

 

カイウス。

 

 

「同意する。」

 

 

マルケウス。

 

 

「簡単にはくたばらん。」

 

 

リリス。

 

 

「まだ飲み足りないもの。」

 

 

グラッグ。

 

 

「団長ヨリ先ニ死ナナイ。」

 

 

その時だった。

 

 

周囲の兵士達。

 

 

一人。

 

 

また一人。

 

 

立ち上がる。

 

 

「生きます。」

 

 

「帰ります。」

 

 

「死にません。」

 

 

「また飲みましょう。」

 

 

アメストリア兵達も。

 

 

難民達も。

 

 

負傷者達も。

 

 

全員が立ち上がる。

 

 

数千人。

 

 

その全員が。

 

 

酒杯を持ち。

 

 

ヴォルグラムを見る。

 

 

そして。

 

 

「約束します!!」

 

 

「生きます!!」

 

 

「帰ります!!」

 

 

「また宴をしましょう!!」

 

 

その声が。

 

 

朝焼けの空へ響いた。

 

 

ヴォルグラムは泣いていた。

 

 

声を上げて。

 

 

肩を震わせ。

 

 

泣いていた。

 

 

セトラは少し離れた場所でそれを見る。

 

 

ブラッドレイが静かに尋ねる。

 

 

「通信を繋いだのか。」

 

 

セトラ。

 

 

「うむ。」

 

 

「たまにはよい。」

 

 

王は静かに目を閉じる。

 

 

何千年も生きてきた。

 

 

王だった。

 

 

支配者だった。

 

 

だが。

 

 

今。

 

 

彼が見ているのは。

 

 

泣きながら家族を守ろうとする一人の男だった。

 

 

セトラは静かに呟く。

 

 

「良き団長だ。」

 

 

朝日が昇る。

 

 

新しい一日。

 

 

家族達は笑い。

 

 

泣き。

 

 

生きることを誓う。

 

 

その中心。

 

 

ヴォルグラム・ケインは。

 

 

涙を流しながら。

 

 

家族達に囲まれていた。

 

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第五十九章 完

 

――最も強い男とは、泣かない男ではない。大切な家族を失うことを恐れ、涙を流せる男こそ、本当に強い。――

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