禁忌混成傭兵団   作:甘めのコーヒー

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第62話

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第六十章

 

《眠れ、団長》

 

 

朝日が昇っていた。

 

 

灰色だった空は少しずつ青みを帯び。

 

アメストリアの大地に暖かな光が降り注ぐ。

 

 

戦いは終わった。

 

 

怪物は滅びた。

 

 

惑星は守られた。

 

 

家族は生き残った。

 

 

そして今。

 

 

何千人もの兵士達が。

 

 

たった一人の男を見ていた。

 

 

ヴォルグラム・ケイン。

 

 

ネヴァーモーン団長。

 

 

何百年も戦い続け。

 

何百年も家族を守り。

 

何百年も死地へ先頭で飛び込んできた男。

 

 

その男は。

 

 

まだ泣いていた。

 

 

「頼むから……」

 

 

「死ぬな……」

 

 

「俺より先に行くな……」

 

 

涙でぐしゃぐしゃになった顔。

 

 

震える声。

 

 

肩を震わせる身体。

 

 

誰も笑わなかった。

 

 

誰も茶化さなかった。

 

 

何百年も見たことのない姿だった。

 

 

いつも笑う男。

 

 

いつも前に出る男。

 

 

いつも「死ぬな」と叫ぶ男。

 

 

その男が。

 

 

初めて弱音を吐いた。

 

 

初めて泣いた。

 

 

そして。

 

 

ようやく。

 

 

全てを吐き出した。

 

 

家族を失う恐怖。

 

 

仲間を失う悲しみ。

 

 

長く生きた者だけが抱える孤独。

 

 

何百年も心の奥へ押し込めていたもの。

 

 

それを全て吐き出した。

 

 

そして。

 

 

数千人の「生きる」という返事を聞いた。

 

 

皆が帰ると言った。

 

 

また宴をすると言った。

 

 

家族だと言った。

 

 

それを聞いて。

 

 

ようやく。

 

 

ヴォルグラムは笑った。

 

 

本当に。

 

 

安心したように。

 

 

小さく。

 

 

「……そうか。」

 

 

静かな声。

 

 

涙を拭く。

 

 

そして。

 

 

力が抜けた。

 

 

ドッグが気付く。

 

 

「おい?」

 

 

ヴォルグラム。

 

 

「なんか……」

 

 

「急に……」

 

 

視界が揺れる。

 

 

耳鳴り。

 

 

身体が重い。

 

 

肋骨。

 

 

肺。

 

 

内臓。

 

 

人工筋肉。

 

 

神経。

 

 

全てが悲鳴を上げている。

 

 

何時間戦った。

 

 

どれだけ出血した。

 

 

何度死にかけた。

 

 

どれだけ無茶をした。

 

 

限界など。

 

 

とっくに超えていた。

 

 

気力。

 

 

責任。

 

 

家族を守るという意思だけで立っていた。

 

 

それが今。

 

 

切れた。

 

 

ヴォルグラムがぼんやり呟く。

 

 

「……眠い。」

 

 

ドッグ。

 

 

「おい。」

 

 

カイウス。

 

 

「団長?」

 

 

ブラッドレイが眉をひそめる。

 

 

セトラが静かに立ち上がる。

 

 

そして。

 

 

ヴォルグラムは笑った。

 

 

「まぁ……」

 

 

「今回は……」

 

 

「頑張った……」

 

 

その言葉を最後に。

 

 

身体から力が抜ける。

 

 

ぐらり。

 

 

前へ倒れる。

 

 

ドッグ。

 

 

「おっと!!」

 

 

ブラッドレイが支える。

 

 

カイウスも腕を掴む。

 

 

しかし。

 

 

反応がない。

 

 

「団長?」

 

 

「おい。」

 

 

「ヴォルグラム。」

 

 

返事はない。

 

 

目を閉じ。

 

 

完全に意識を失っていた。

 

 

医療班が慌てる。

 

 

「運べ!!」

 

 

「血圧低下!!」

 

 

「出血量が多すぎる!!」

 

 

「今まで立ってたのが異常だ!!」

 

 

アメストリアの衛生兵も駆け寄る。

 

 

ドッグが呆れる。

 

 

「ようやく倒れたか。」

 

 

カイウス。

 

 

「遅すぎる。」

 

 

リリス。

 

 

「本当に馬鹿。」

 

 

グラッグ。

 

 

「団長寝タ。」

 

 

マルケウスは大笑いする。

 

 

「ガハハハハ!!」

 

 

「ようやく限界か!!」

 

 

ドッグ。

 

 

「普通はもっと前に倒れる。」

 

 

ブラッドレイは静かにヴォルグラムを見る。

 

 

眠っている。

 

 

子供のように。

 

 

苦しそうだった顔。

 

 

泣いていた顔。

 

 

その全てが消えている。

 

 

ただ。

 

 

疲れ果てて眠る男だった。

 

 

セトラが静かに近づく。

 

 

老王はその顔を見る。

 

 

何百年も共に歩いた男。

 

 

無数の戦場。

 

 

無数の死。

 

 

無数の宴。

 

 

その全てを共にした家族。

 

 

セトラは小さく呟く。

 

 

「よく頑張った。」

 

 

その言葉。

 

 

マルケウスも笑わない。

 

 

カイウスも黙る。

 

 

リリスも目を伏せる。

 

 

グラッグも静かだった。

 

 

周囲の兵士達。

 

 

数千人。

 

 

誰も騒がない。

 

 

誰も笑わない。

 

 

そこにあったのは。

 

 

呆れ。

 

 

心配。

 

 

そして。

 

 

暖かな視線。

 

 

「無茶しすぎだ。」

 

 

「いつものことだ。」

 

 

「団長だからな。」

 

 

「帰ってきたんだ。」

 

 

「ゆっくり寝ろ。」

 

 

若い兵士が毛布を持ってくる。

 

 

アメストリア兵が担架を用意する。

 

 

ネヴァーモーンの兵達が道を開く。

 

 

誰かが酒を供える。

 

 

誰かが笑う。

 

 

「起きたらまた説教だな。」

 

 

「三日は寝るぞ。」

 

 

「いや一週間だ。」

 

 

ドッグが煙草を咥える。

 

 

「起きたら酒飲むんだろうな。」

 

 

ブラッドレイが珍しく笑う。

 

 

「間違いない。」

 

 

グラッグ。

 

 

「肉モ食ウ。」

 

 

周囲が少し笑う。

 

 

そして。

 

 

担架に乗せられたヴォルグラムが運ばれていく。

 

 

朝日がその顔を照らす。

 

 

戦い続けた男。

 

 

家族を守り続けた男。

 

 

泣いて。

 

 

笑って。

 

 

ようやく眠った。

 

 

セトラはその背中を見送る。

 

 

そして。

 

 

静かに言う。

 

 

「眠れ。」

 

 

「今だけは。」

 

 

「団長ではなく。」

 

 

「一人の家族として。」

 

 

アメストリアの朝。

 

 

静かな風。

 

 

そして。

 

 

ネヴァーモーンの家族達は。

 

 

暖かな目で。

 

 

眠る団長を見送るのだった。

 

 

《WARHAMMER 40,000》

 

NEVERMOURN

 

第六十章 完

 

――最も安心した時、人は初めて眠ることができる。家族が無事だと知った時、ようやく英雄は目を閉じるのだ。――

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