転生したらミュトスの身体でテイワットにいた件 作:dark9486
「さて、着いたよ。ここで今回の実験を行いたいんだ。」
そうアルベドに言われ後を付いてきたクライヴが見たものは、先程の工房があった場所とはまた違う洞窟だった。だが明らかに漂う空気が違う……臭いだ。思わず鼻をつまんでしまいそうになるほどの悪臭が漂っている。血液、糞便やらの混じった腐敗臭だ。
「……ここは、魔物の巣か?」
「その通りだ。でもただの魔物じゃないよ?ヒルチャールの中でも『王』と呼ばれる個体の巣だ。本来のヒルチャールは群れで行動し、『集落』と呼ばれる巣を作るのだけどここにいる彼は珍しく単独なんだ。」
アルベドは嬉々とした表情で語る。
「……『氷霜の王』か、まさかそいつと戦えと?駆け出しの冒険者にさせるようなことじゃないな」
「早い話そうだね、でもアンバーが言うには君の実力は今までの冒険者を遥かに凌ぐと聞いたよ?それに僕が本当に見たいのは君のその能力の本質だ。」
「どういうことだ…?」
「君から一応説明は聞いたし、この目で見てはいたけど、君はまだ全力を出していないよね?君の実力だとその辺の魔物じゃ相手にもならないと思うし、それだと実験の成果が不充分になる。だから君の相手になり得る対象が必要なのさ」
つまりは「お前強すぎて雑魚じゃろくに記録できないからしゃあないけど強敵用意したる。だから本気でやれや」ということである
「それに…ここの洞窟前はかなり開けていて辺りには遺跡もないから思う存分に動けると思うよ。さて、それじゃこれをあそこに置いてきて欲しい」
アルベドはクライヴに一つの小袋を渡す。手に取った感じ、重さはないがここの空気に負けないほどの悪臭が袋から漂う
「…これはなんだ?」
もう片方の手で鼻をつまみながらクライヴは尋ねる
「このために調合した特性の撒き餌さ、狂暴な魔物ほど食い付きがいいんだ。これの中身を置いて少しすれば寄ってくるよ。じゃあ僕はこの上から観察するから、君は出てきた魔物の相手をお願いするよ」
「……わかった。」
言われた通りにクライヴは洞窟の前に行き、周囲に中身をばらまく。中はパッと見丸薬のような見た目だが袋から出した途端とてつもない臭いが辺りにたちこめる。
「(くっっっっっっっっっっっっっっさ!?比喩じゃなくてマジで鼻が曲がるわこんなの!)」
心の中で悪態を吐きながら待っていると、やがて洞窟の奥からズシンッ!ズシンッ!と大地を揺らすかのごとき足音が響き始め、入り口から巨大な魔物『ヒルチャール 氷霜の王』が姿を現す
「Guoooooooooooo!!」
自らの縄張りを荒らされ、怒り狂った王は雄叫びをあげる。その声は地の底まで響くかのように低く、常人ならその場で腰を抜かすだろう。
「(不思議だ…これほど威圧感があるのに、俺自身は足が竦むどころか無意識に構えてしまう…これもあの人の肉体だからだろうか)」
どこか冷静な面持ちでクライヴは剣を手にとり、構えをとる
「Gaaaaa!」
そんな彼の心境などどうでもいいかのように王は拳を構え、渾身の右ストレートを突き出す
ガキィィンッ!
「!?」
本来ならば柔らかい肉が潰れ、骨が砕ける快音が聞こえるはずだが、実際は何か硬いものに触れたかのような感覚を覚える。
その直後に王の視界に入ったのは……己を遥かに越える巨大な剛腕が自らの顔面に向かってくる瞬間だった
「タイタン!」
『ワインダップ』
ドゴオオオォン!
ゆうに5メートルはあるであろう巨体がまるで紙のように遥か後方へ飛ばされる。
「Guu…Gaaaaa!」
だがダメージはあるものの、依然として立ち上がる。それは曲がりなりにも『王』としての誇りか、未だかつてない敵への高ぶりに高揚しているのか…
「流石に硬いな…やはり炎元素でシールドを剥がさないとダメージは薄いか…『フェニックス!』」
クライヴは全身に力を込める。やがて背中から徐々に不死鳥の羽が生え始め、辺りに火の粉が散り出している。王は警戒しているのか一歩も動かずにそれをただ見つめる
「…凄いね、雪山のはずなのに少し、いやかなり暑くなってきた。なんて濃度の炎元素だ。」
アルベドは静かに言葉を溢す。そしてクライヴの羽が完全に生え、見るも美しい両翼が開くと地面から火柱がほとばしる
「こいつならどうだあああああ!」
『転生の炎』
ゴオオオオオオ!
「Gaaaaaaaaaa!?」
寒い雪山に暮らしてきた王にとって炎とは己の体温を保つものであり癒しでもあった存在、それが今は己が身を骨まで焼き尽くさんとばかりに襲いかかっているのだ。
「Guuuuu…」
「シールドが剥がれた…!一気に決める!はあああああっ…!」
再びクライヴは力を込め始めるが、今度はクライヴ自身が炎に包まれていた。だが不思議と焼かれる様子はない
「……それが君の本来の力なんだね…さあ、この結果を残さず記録しないと」
「(この力を使いこなせるせっかくの機会だ…思い出すんだ…!練習したあの時の感覚を…!)」
クライヴは目を閉じ、集中する。そしてしばらくして見開き、叫ぶ
「うおおおおおおおお!」
『リミットブレイク』
クライヴの身体全体は燻るように燃え、瞳は青く変わり、腕は獣を思わせるかのように変形している。
『フェニックスシフト』
クライヴが踏み出した瞬間その身体は一瞬に王の懐へ飛び込む
ドスッ
ミシィ…!
「Gaa!?」
王が気付く間もなくその腹に剣を突き刺す、力も増してるのか自分よりも大きく、堅牢なはずの王の腹筋をいとも簡単に貫いた。
「Guooooooo!」
たまらず王は拳を振り回すがその拳は当たることなく無情にも空を切る。王が獲物を探そうと辺りを見渡す瞬間
ザシュッ!
がら空きな背中をクライヴは一瞬にして回り込み斬りつける
「Gaaa!?」
今までつけられたことのない背中への痛みに王は驚愕の声をあげた。そこからは最早処刑といってもいいほどだった。王は何度も拳を振るがどれもかすりもせず、その度に死角から攻撃を喰らい徐々に疲弊していき、遂に膝を付いたところで
「終わりだ!くたばれえええええええええ!」
ドゴオオオオオオンッ!
メキメキッ…
クライヴの渾身の一撃が王の頭蓋を砕いた、即死だったのであろう。糸が切れた人形のように慣性に従うまま王の身体は抵抗なく吹き飛び、岩盤に叩きつけられピクリとも動かなくなった。
「終わったぞ…!これで協力してくれるか?!」
元の姿に戻ったクライヴはアルベドに向かって叫ぶ、それを確認したアルベドは直ぐ様降りてくる
「ああ、約束だからね。おかげでいい記録が取れたよ。しかし驚いた。君の本気があそこまでとはね…」
「だがこの力はそうポンポン使えるものじゃないんだ。消耗が激しいからな(まあ、召喚獣の顕現よりは燃費が良いけど)」
『リミットブレイク』、ドミナントは召喚獣の器であるためその姿に顕現することが出来る。だがそれは同時に器の寿命を削る行為に等しく、そこでその力を人の身のままに保てるために編み出された技である。
ちなみに本来の呼び名は『半顕現』らしい
「それよりも、策があるんだろ?早く教えてくれ」
「そう焦らなくてと教えるさ、まずは手伝ってくれないかい?終わったら僕の工房で話そう。」
そう言われ、クライヴは渋々ながらも解体作業に手を貸す。これほどの巨体を運ぶのは骨が折れるだろうなと内心思いながら数時間かけて肉や毛皮、内臓を切り出してタイタンの力を使って工房まで運び、それが終える頃には夕暮れ時になっていた。
工房にて
「さて、風魔龍のことについてだけど…解決する手はあるよ」
「本当か?なら一刻も早く解決させたい」
アルベドはゆっくりとクライヴを指差し
「それも、君さ」
「…何?」
また自分なのか?というクライヴの疑問に対してアルベドは答える
「君が持ってる力の一つである『フェニックス』、これの伝承には死を迎える時に自らを灰にして、そこから復活するという逸話がある。モンドの子供達も知っている御伽話さ…」
また長話が始まったな…とクライヴは露骨に面倒な顔をするが
「つまりフェニックスは『破壊と再生』その両方の側面を持つんだ。騎士団の報告によれば君は負傷した団員たちを手をかざしただけで治療したらしいね?」
「ああ、おかげで西風教会に毎日ことあるごとに勧誘されるハメにはなったが…」
「それだよ、その『再生』の力。それを使えば風魔龍の体内にある「アビスだけ」を燃やして浄化することが出来るかもしれない」
「『かもしれない』…か、そんな不確定な要素を信じていいのか?」
クライヴは至って冷静な表情だが
「(いやいやいやいや!そこは後々来る旅人に任せた方がいいだろ!?旅人ならリスク無しに浄化出来るし危険も少ないよ!)」
内心はめちゃめちゃ焦っていたのだった。
「他に手はないからね、それに君の性格上モンドの民のことは放っておけないだろう?」
凄い爽やかな笑顔でアルベドはクライヴに問いかける。
ちっっくしょう顔が良すぎるだろとクライヴは思いながらも
「……わかった。ならやるだけやってみるさ。」
覚悟を決め、そう答えるのであった。
ある程度のストーリーというか筋書きは考えてあるのですが如何せんそれを起こす文才が無さすぎる…
次回は作戦会議です。