幻想からの帰還者   作:兼永一真

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プロローグ
幻想入りとその顛末


毎日、毎日、鬱屈だった。

 

だから、弟が次期当主だと言われても何も感じなかった。

 

何かが変わると思って、東京の高校へときたが変わらなかった。

 

結局、七草も摩利も克人も、いい友人以上にはならなかった。

 

 

 

7月特有の初夏の風が俯いた頬を撫でる。風と共に悲鳴が聞こえた気がした

 

向かおうとして一瞬、足が止まった。

 

「ーーチっ」

 

そんな自分が嫌になって、また鬱屈としながら走り出す。

 

しばらく走った森の中、そこにパラサイト(妖怪)がいた。

 

ガキゴキと音を立てている。多分、さっきの悲鳴の主だろう

 

手裏剣を投擲し、気を引く。こっちを向いた瞬間に、背後へと回り首を落とす

 

現代だとこれでも対パラサイトはうまい方なのだろうが、上には上がいる。

 

「結局、出来損ないにはこれがお似合いってことかよ」

 

辺り一帯に血の匂いが充満する。悲鳴の主は結局、助けられなかった

 

ふと視界の端に何かが映った。

 

目を凝らすと古びた神社のように見える。

 

「随分とぼろいな」

 

かろうじて神社の体裁を保てている。そんな感じだ

 

やることもないし去ろうとするが、

 

「ーー!あ、が!」

 

頭が割れるような痛みに襲われる。サイオンノイズ?何らかの魔法?そのどれとも違うような感触だが、とにかく痛い、

 

 

 

ーー意識が落ちる

 

 

 

「どこだ?」

 

眼を開け、体を起こす。

 

神社の境内ではないが、森の中ではある。しかし、近くに神社らしきものはない。

 

どうなっているんだと考えていると、弾幕が飛んでくる

 

「あっぶね。俺以外ならワンちゃん死んでたぞ」

 

回避し、飛んできた方向へと向き直る。

 

「天狗?」

 

最初に思い浮かんだのはそれだった。空飛んでるし、山ん中だし、なんかうちわ持ってるし

 

「この妖怪の山に入ってきたこと、後悔させてやる」

 

うちわから風が巻き起こり、再度弾幕が展開される

 

「マジで殺す気かよ」

 

まともに戦えば、普通に死ねるだろう。ここは逃げさせてもらう

 

「”四方髪の術”」

 

幻覚を見せ、天狗たちを四方八方に散らせる。人以外には効き目が薄いのだが、まぁ

関係あるまい

 

「時間は稼げたな。”猿飛の術”」

 

枝を揺らさず、葉を落とさず、木の間を縫うように移動する

 

「待ちなさい」

 

上空から声が聞こえた。と同時にバク転で隣の木へと移動する。さっきまで立っていた木は弾幕で粉々になっていた。

 

「ーー相手は、」

 

巫女服?を着た少女、黒と白の魔女服に身を包んだ少女、そしてさっきの奴らより強そうな天狗。

正直、勝てそうな相手ではない

 

「あぁ......降参なんだが、ここはどこだ?」

 

「あんた外来人かしら?」

 

「外来人?」

 

「その反応はやっぱりね。私は博麗霊夢。この世界、幻想郷にある博麗神社の巫女よ」

 

「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ」

 

「私は射命丸文です」

 

「ーー雨夜千草だ。ここには気がついたらいた」

 

忍びであることは言わないでおく

 

「ここは幻想郷。簡単に言うなら結界で隔離された土地で人間だけじゃなく、妖怪、幽霊、神、妖精なんかの色んな種族の人間が住んでるのよ」

 

「ーーなるほどね」

 

なんとなく曼荼羅に似てる気がした。

 

ーー曼荼羅とは、雨夜家(うちの家)が代々語り継いできた場所。忍術の原型、遁甲術の到達点。

 

曰く、遁甲術は逃げるための術であり、その極地。現世から逃げた先にある場所だそうな

 

「あと、一ついいか?」

 

「いいわよ」

 

「日が暮れかけてるんだが、どっか寝床とかないか?」

 

「ーー仕方ないから、うちに来ていいわよ」

 

霊夢の言葉に甘えることにする

 

「ーーただし、家事はやってもらうから」

 

「任せろ」

 

忍びならばその程度はできて当然である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなこともあったな」

 

そう朝食の際に振り返っていると、霊夢が声をかけてくる

 

「いや、ここに来た時のことを思い返しててね」

 

「かれこれ数年はいるものね。あんた」

 

そう聞くと、なにか元の世界が恋しくなってきた。なんのかんの理由をつけて帰っていなかったが潮時かもな

 

「紫に会いたい」

 

そう言うと、霊夢はハッとしたような顔をする。多分、意味が分かったのだろう

 

「分かったわ」

 

 

 

その日の夜は宴だった。

 

外に行けば、しばらくは酒が飲めない。だからしこたま飲むことにした

 

 

 

翌朝、準備していた荷物を持って紫に会う。

 

CAD、情報端末、身分証。全部持っている

 

「後悔、はしてないわよね」

 

「もう、逃げるのは辞めにしたんだ。」

 

それでも、いつかはここに骨を埋めることになるだろう。ここはもう、俺の故郷だから

 

スキマを通り、外へと戻る

 

 

 

スキマを通った先は森だった。

 

「冬か」

 

少々肌寒いため、上着を着る。少し歩いて道路に出たタイミングで情報端末を起動する。

 

「ーー2095年ね」

 

俺が幻想郷に来たのが2093年だったから、約2年か

 

「そんなもんか」

 

体感時間はもうちょいあった気がしたが、まぁそんなもんか

 

 

 

しばらく歩いて実家へと戻る。

 

「ーーすまないが、父さんと母さんはいるか?」

 

掃除していた使用人にそう声をかけると10cmくらい跳び上がった。その後、奥へと向かっていった。

 

しばらくして、家へと通される。しかし、2年ぶりの再会とはいえボディチェックすらしないのはどうなんだ?

 

「お久しぶりです。父さん」

 

「ーー今までどこにいた」

 

重厚な声に重苦しい顔。怒っているというわけではないだろう。多分、困惑を隠すためなんだろうな

 

「ーー曼荼羅に」

 

そう言うと、流石に困惑を隠せなくなっている

 

「お前は、何を言ってる?」

 

「事実ですよ。でもホームシックで戻ってきました」

 

「ーーお前はこれから何がしたい?」

 

そう聞かれると、少し困る。色々とやりたいことはあるし。でも、一番最初に思い浮かんだそれを言ってみることにした

 

「一校に復学したいです」

 

二年いないのなら再入学とでも言った方が近いとは思うが、

 

「ーー分かった。手配しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

それからは結構大変だった。

 

国防軍に工作員を疑われ、諸々の検査があったり、

 

2年間分のニュースを頭に入れたり、

 

一校への復学のために試験を受けたりとだ。

 

ちなみにただでさえ悪かった筆記は実技でかばいきれなくなり、二科に落ちた。反面、実技の方は幻想郷での経験からか、底上げされ歴代最高をたたき出した。

 

そんなこんなで社会復帰を果たし、無事に一校へと行けることになった。

 

 

 

 

 

「ーー警戒ですか」

 

「そうだ。この男は工作員である可能性がある」

 

ピンク色の髪をした男。名前は雨夜千草、百家の一つである雨夜家の長男らしい

 

「ーー2年間の行方不明?」

 

「本人が言うにはその時期の記憶がないらしい。検査の結果からも特に異常なものはなかった」

 

つまりは、根拠薄弱。だが、それで片づけるにはあまりにも不可解だ

 

「分かりました。注意を払っておきます」

 

「そうしてくれ」

 

再び写真を見る。雨夜は古式の中でも、忍術を得意とする家系。それにしては髪色が派手すぎないかと思っていると背後から冷気が漂ってくる

 

「お兄様が、男性の写真を」

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