結局、勧誘期間はそれ以上の騒動が起きずに終わった
ただ、あの熱気はまだ燻っている。
「壬生先輩が?」
「あぁ、なぜか呼ばれた」
なぜか呼ばれた。理由は分からないし、正直変なことを考えてるんじゃないかと疑ってしまう。ブランシュにつながっている可能性のある壬生先輩と会うのは多少のリスクは感じる
ーー逆に言えば、ブランシュにつながっている可能性がある壬生先輩と接触すれば何かを得られるかもしれない。
「分かった。行こうか」
「……えっと、改めて司波君、雨夜君。先週はありがとう」
「礼には及びません。あれは風紀委員として必要な対応でした」
「そうですよ、壬生先輩。あれは風紀委員の業務ですからそんなにかしこまる必要ないですって」
相術での感覚から考えるのならまぁ、普通の人だ。
「桐原君の件だけじゃないの。君たちなんでしょ、大事にしないように処理してくれたの」
「騒ぎ立てるほどの事じゃなかっただけです」
「それに、その後いろいろとありましたからね。あれをやったの司先輩なんじゃないかって摩利から聞いたんですけど、何か知りませんか?」
「ーーそれに関しては....ちょっと....分からないわね」
「そうですか。」
噓だ。俺から尋問されたことを知ってる、である以上司甲と壬生先輩はおそらくブランシュとの関わりを持っている。
ーー本来ならばここで拘束すべきなのだが、捨て駒二人捕まえたところでトカゲのしっぽきりだ。今はまだ泳がせておく
「武道をやっていればあれくらいの衝突は珍しくないわ。君たちにも強さを認めてほしいとか試したいとか、そういうことに覚えはない?」
「……分かります」
「ないと言えば嘘になりますね」
うっそだろお前、と思いながら達也の方を向く。ただ頷いただけだ、こいつがそういう性格じゃないのは顔を見ただけでわかる
「それなのに風紀委員は何でもかんでも問題にして」
壬生先輩の声に熱がこもる。
それに関しては一度目の風紀委員の時から問題だったから何も言えない。
「点数稼ぎみたいに摘発して騒ぎを大きくする。そう言う姿勢が嫌いなの」
「俺たちだって風紀委員ですよ」
「違うの。君たちの事を言ってるんじゃなくてね」
慌てたように声を重ねてくる。
矛盾してる。風紀委員は嫌い、でも俺たちは違う。
怒りもある、不満もある。
その上でそれを向ける先が分からない。
考えていないのではなく考えた末にこうなっている。
だから危うい。どうりでブランシュなんかに関わるわけだ
「司波君、雨夜君剣道部に入る気はない?」
「せっかくですがお断りします」
「申し訳ないですが俺も」
即答。あまりに早い返答に壬生先輩は一瞬、言葉を失った
「理由を聞かせてもらってもいい?」
「寧ろ俺を誘う理由の方が分かりません。系統が違うことぐらい分かるはずです」
「俺は忍びですから剣もやってましたし、知り合いの庭師から習ったこともありますよ。でもやっぱり俺は忍びなんで剣だけやるわけにはいかないんですよ」
戦力じゃない、一科生を超える二科生。そういう肩書が欲しいだけ、ならばここは明確に拒絶すべきだ
「魔法科高校だから魔法の成績が重視される。それは分かってたし、納得して入学したつもりだった」
壬生先輩の声が低くなる
「でも学校生活の全てが魔法の腕で決まるなんておかしいと思わない?授業ならまだしもクラブ活動まで魔法競技中心で、非魔法競技は軽く見られてる」
「ーー入学してすぐ後くらいの時、私はある一科生の人の技に見惚れて手合わせをお願いしたの」
「そしたら、お前じゃ相手にならないって。私は悔しかった。二科生だからって、魔法の腕が劣っているからって、剣の腕まで否定されたの。だから、」
「だから....そうですか」
壬生先輩の言いかけた言葉にため息を挟む
「あなたが剣士だというのなら剣で自分の価値を示してください。傷のなめ合いの言葉なんかじゃなくてね」
「剣士とは剣を使うもの。ならば魔法を超える価値を示せなければ意味はない。俺の知り合いの庭師ならあんな
「そんなの....」
無理だとそう言いたいのだろう。でも、
「俺にとっての剣士ってのはそういうものです。剣を振るだけなら俺にだってできる」
「そんな中で剣士名乗るならもっと強くなってから出直してきてください」
カップに注がれていたコーヒーをグイっと飲み干しカフェテリアを後にする。
「コーヒーごちそうさまでした」
「一科と二科の差別についてどう思う?」
家での料理中、そんなことを菫子に聞いてみた。
菫子はいじっていた端末から目を上げ、少し考えこむ
「実力によった区別に関しては賛成よ。でも、だからってあれはね」
差別はあの高校に通っていればいやでも認識する。
ブルームとウィード、あれはやりすぎだろうとは思う。でも多くの一科生、いや二科生の多くもそれを消極的に肯定し受け入れている。今はそれが多数派だ
「今日、壬生先輩から差別撤廃を求める連合を組織しているって聞いた」
「それで達也君とチグサッチを旗頭にって?」
「断ったけどね。俺には分からないんだよね、剣士ってのは魔法よりも剣が強いから剣士を名乗ってるもんじゃないの?」
「それは....幻想郷に浸りすぎなんじゃない?魔法ができないから剣士名乗ってる人間が大半でしょ。こっちは」
そこにきて思い出す。剣で弾幕飛ばせるやつを基準にするのは間違ってるなと
「ーーそうだな。だとしても無理だと思うけどな、あの方法で格差をなくすのは。」
今の政策には付け入る隙は普通にある。でもそこまで頭が回っているようには俺は見えなかった
「魔法だけが自分たちの価値じゃない。そういったってその価値が魔法以下なら話になんないだろ」
「ーーこれ見て」
言われたとおりに端末をのぞき込む。
「掲示板か」
校内の匿名掲示板、生徒が自由に書き込んでいるそれ。大半は学校への愚痴だが何かが変だ
「今までは部活連、学校、生徒会、いろんなところへの愚痴が書かれてた。まぁ当然よね、一人一人事情が違うんだから」
「ーーでも、それが変わった。怒りの矛先が一つへと向かっている。まるで燻ってる火種に息を吹きかける誰かがいるみたいに」
「それがブランシュ。だとしても何が目的なの?いくら一高生だからって二科じゃ意味がないでしょ」
「二科生とは言え付属高校の生徒がテロにかかわったとなれば影響はある。それに一高にはあるだろ。大亜がこんな回りくどい方法を使ってでも手に入れたいものが」
「ーー魔法大学の機密文書ね。確かにあれならここまでしてでも手に入れる価値がある」
「明日資料と共にこのことを校長に話す。セキュリティーの強化くらいならやってくれるだろ」
それが今できる最適解。ブランシュの潜伏場所が見つからない以上防衛線の準備を固めるしかない