昼食後、午後の見学時間は射撃場に向かった。
3-Aの実習中だったこともあり、かなりの人だった。
見知ったやつらもかなりパワーアップしていたが、とくに七草は凄かった。
姿勢、照準、術式の起動と、どれも無駄がない。あら探しならいくらでも出来るが、すばらしいと褒められるだけのものはあった。
放課後、正門前で達也が足を止める。俺も菫子エリカも美月もレオも同じく足を止める。
この一日で育まれた妙な連帯感がまだ持続していた。
やがて深雪が現れる。
だが、一人じゃない。同じクラスの生徒に囲まれるようにしてこちらへと向かってくる。
それを見た瞬間、面倒だとそう思った。というかその場にいた全員が同じことを思っただろう
「お兄様」
だが、一科生の一人が二人を呼び止める。
「司波さん、今日はちょっと…」
「申し訳ありません。今日は兄と帰りますので」
そう言って言葉を遮る。ここで終わればよかったのだが、
「少しくらいいいでしょ?」
「相談したいことがあるのよ」
「別に、ずっと引き止めるわけじゃないから」
口調だけを拾えば穏当だった。
けれど、深雪の意思を優先するつもりがないのは明らかだった。
達也は静かに見ている。
深雪も口調を崩してはいない。
俺もこの面倒ごとをどうしようかと考えている。
その均衡を破ったのは、美月だった。
「いい加減にしたらどうなんですか」
その場にいた全員が、美月の方を向いた。
普段の柔らかな雰囲気のまま、美月は一歩だけ前へ出る。
「深雪さんは、さっきから何度もそう仰っています。お兄さんと一緒に帰りたいって。それなら、それでいいじゃないですか」
相手の生徒たちは驚いている。まぁ、どう見ても最初に出るのは俺か、レオか、エリカだ。すなくとも、最初に強く出るのが美月だとは思っていなかったのだろう。
「お話があるなら、別の時でもできるはずです。深雪さんが嫌だと仰っていないからって、それを都合よく受け取るのは違うと思います」
「僕たちは彼女に相談があるんだ!」
男子生徒の一人が言い返した。
「相談なら、本人の都合を聞いてからにしなさいよ」
エリカが即座に返す。
「深雪ちゃんの意思、全然関係ないみたいに聞こえるますけど」
「自活中に時間はあるだろ」
菫子とレオも吐き捨てた。
「うるさい!」
別の男子生徒が叫ぶ。
「他のクラス、しかもウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
その一言で、空気が変わった。
美月が口を開く。
「同じ新入生じゃないですか」
「今の時点で、あなたたち一科生が何をそんなに誇れるんですか?」
達也がわずかに目を細めた。
美月の言うことは正しい。普通の一科生と普通の二科生の間に、この時点での差などほとんどな
い。だが、その理屈は相手の一番痛いところをついている。
こういう連中はプライドだけ無駄に高いんだから。
「……どれだけ優れているか、教えてやる」
案の定、だ。森崎がそう吐き捨て、腰のホルスターから特化型CADを抜く。
狙いは真っ先に前へ出ていたレオだった。
「レオ!」
達也が声を発した、その瞬間には、もうレオ自身が先に動いていた。
だが、そのレオよりさらに先に、横から別の影が飛び込んだ。
エリカが伸縮警棒を振り抜き、特化型CADが、森崎の手から弾き飛ばされていた。
「この間合いなら、魔法使うより動いた方が早いのよね」
「それは同感だがテメエ今、俺の手ごと叩き落とすつもりだっただろ!」
危ういところで巻き込まれかけたレオが怒鳴る。
「そんなことしないわよ」
エリカは涼しい顔だった。
一瞬、その場の全員が呆気に取られた。が、一人の男子生徒が焦った顔のまま腕輪型CADへ指を走らせている。
組み上がりかけていたのは、局所加重の術式だった。
二人の脚へ一時的な荷重をかけ、体勢を崩す。殺傷目的ではない。だが、転倒させるには十分だ。
「念力 サイコキネシスアプリ!」
菫子が普段はものを操るそれを、ただの力としてぶつけ、男子生徒を吹き飛ばす。それを見てもなお、
「乱破 小さき夜」
今度のは幻術じゃない。闇そのものが一科生たちを覆う。あっちは周囲が真っ暗闇に見えているのだろうが、こっちから見れば多少の靄がかかっているだけなのであそこまで困惑しているのはなかなかにシュールだ。
「バカかあいつら」
一科生が魔法を発動しようとしている。でも、この校内でうかつに魔法を使えばどうなるかなんてわかりきっているのに。
案の定、展開中の魔法式がサイオン弾によって打ち消される。ついでにそのタイミングで小さき夜を解除する。
「やめなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は犯罪行為ですよ!」
「風紀委員長の渡辺摩利だ!事情を聞きます、全員ついてきなさい。あと千草、何があった」
「OKオーケー。説明する」
深雪への強引な引き留めを俺たちが止めた事、森崎の差別発言の事。そして俺たちが魔法を使ったこと。
「なるほど。しかし混乱していたとはいえ自衛目的以外の魔法の使用というのはな」
「ーー魔法といっても、編成されていたのは閃光系の目眩ましと局所加重でした。危険がないとは言いませんが、致命的なものではありません」
摩利の目が細くなる。
七草も、面白いものを見るような顔で達也を見た。
「ほう?……どうやら君は、起動式が読めるらしいな」
「実技は苦手ですが、分析は得意です」
達也は事もなげに返した。ちなみに起動式から魔法の種類を判別するのは基本無理だ。
「ーーあ、ホントだ」
その言葉には先ほどと違い二人も多少は驚いた。確かに俺は起動式から魔法を判別することはできない
「あぁ、言ってなかったけ。俺、心読めるんだよね」
その言葉に、二人以外も驚いたような顔をする。してないのは事情を知っている菫子ぐらいだ。
「……そんなこと聞いていないが?」
「言ってないからね。俺だってなにも無意味に2年生きてたわけじゃないのよ。名付けて、サードアイってね」
それを聞くと摩利と七草が顔を見合わせ、なにか小声で話している。
「…今回は不問にする。以後気を付けるように」
今回は引き下がってくれた。まぁ最悪記憶消して終わらせたけど
そうして帰ろうとすると、2人の女生徒から声を掛けられる。
「あの…私、光井ほのかって言います」
「私、北山雫」
さっきの魔法を発動した女子生徒とその隣にいた女子生徒。
「さっきは……取り乱してしまって、ごめんなさい。魔法まで使おうとしてしまって……本当に、すみませんでした」
「気にすんな。七草と摩利がおさめてくれたんだ。これ以上はいらんだろ」
おずおずとそういいだしてくる。お礼もしたいからと
「あの、途中までご一緒してもいいですか?」
「いいよ」
「私も構いません」
全員異論はなさそうだ。しばらくは沈黙が続いたが、謝罪は済んだ。
「心が読めるって本当なんですか?」
「本当だよ。まぁ使い勝手が悪くてほぼ使わないけどね」
ほのかの質問にそう答える。
「使い勝手が悪いって?」
「発動中視認したやつの心の声が永遠と流れ込んでくんだぞ。戦闘中に使ってみろ死ぬほどうざったい」
「じゃあ、彼女のは?」
「菫子のことだろ?あいつはーー」
「稀代のサイキッカーだからね。当然だよ」
「超能力者ってこと?」
「当り前じゃないか」
割と見ないからな超能力者。物珍しい目をされるのは当然だろう。
「達也、一つ忠告をしておこう」
「なんだ」
「七草があの目をしてるってことはなんか面倒事に巻き込まれるぞ」