放課後、達也と深雪と共に生徒会室へと向かう。
深雪のIDは既に登録されているらしく、生徒会室のセキュリティーを解除している。
「失礼します」
「邪魔するぜ」
入室と同時に何故か敵意に満ちた視線を感じる。俺というよりは達也に注がれている気がする。が、深雪が入室した瞬間にそれは薄まる。
「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、生徒会へようこそ」
多少神経質そうな声だが、結構うまく抑え込めている。
「よっ、来たな」
「いらっしゃい、深雪さん。達也くんもご苦労様」
「お、克人じゃん。元気してたか」
「あぁ。久しぶりだな千草」
七草、摩利、克人。今では三巨頭と呼ばれているらしい三人が生徒会室に会している。
「早速だけど、あーちゃん、お願いね」
「……ハイ」
気疲れしているように見受けられる。まぁ2年も過ごしてれば慣れっこだろうと手出しはしない
「じゃあ、あたしらも移動しようか」
「どちらへ?」
達也も話し方を気にするほど上品な育ちではない。簡潔に、告げられたことへだけ応じる。
「風紀委員会本部だよ。色々見てもらいながらの方が分かりやすいだろうからね。」
「この真下のにあんだよ。つっても、中でつながってるんだけど」
「……変わった造りですね」
「あたしもそう思うよ」
「俺も最初はそう思ってた」
そう言いながら席を立つ。が、腰を浮かせたところで制止が入った。
「渡辺先輩、待って下さい」
「何だ、服部刑部少丞範蔵副会長」
「フルネームで呼ばないで下さい!」
俺と達也は思わず七草の顔を見てしまった。
俺たちの視線に、真由美は「んっ?」という感じで小首を傾げる。
まさか「はんぞー」が本名だったとは予想外だった。
「じゃあ服部範蔵副会長」
「服部刑部です!」
「そりゃ名前じゃなくて官職だろ。お前の家の」
「今は官位なんてありません。学校には『服部刑部』で届が受理されています!……いえ、そんなことが言いたいのではなく!」
「お前が拘っているんじゃないか」
「まあまあ摩利、はんぞーくんにも色々と譲れないものがあるんでしょう」
「お前が言うな」
発言主の七草に対してつい口に出てしまった。が、服部はそれを無視するように話を続ける。
「渡辺先輩、お話ししたいのは風紀委員の補充の件です」
顔に上った血の気が一気に引いている。服部はコマ落としを見るように落ち着きを取り戻していた。
「何だ?」
「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」
「どっちの?」
言い方からして、服部の眼中にあるのは主として達也だ。だが、一応確認しておこうと思ったが無視された。
「おかしなことを言う。司波達也くんを生徒会選任枠で指名したのは七草会長だ。例え口頭であっても、指名の効力に変わりはない」
「本人は受諾していないと聞いています。本人が受け容れるまで、正式な指名にはなりません」
「それは達也くんの問題だな。生徒会としての意思表示は、生徒会長によって既になされている。決定権は彼にあるのであって、君にあるのではないよ」
摩利は、達也と服部を交互に見ながら言う。
服部は、達也を見ようとしない。あえて無視している。
そんな二人を、鈴音は冷静に、あずさはハラハラしながら、そして真由美は感情の読めないアルカイックスマイルで眺めている。
深雪は神妙な顔で壁際に控えていた。
俺はまだ黙っておく。これ以上はあまり深入りすべきではないと思ったからだ。白羽の矢が立ったならその限りではないが
「過去、ウィードを風紀委員に任命した例はありません」
「それは禁止用語だぞ、服部副会長。風紀委員会による摘発対象だ。委員長である私の前で堂々と使用するとは、いい度胸だな」
「取り繕っても仕方がないでしょう。それとも、全校生徒の三分の一以上を摘発するつもりですか?」
「ブルームとウィードの間の区別は、学校制度に組み込まれた、学校が認めるものです。そしてブルームとウィードには、区別を根拠付けるだけの実力差があります。風紀委員は、ルールに従わない生徒を実力で取り締まる役職だ。実力に劣るウィードには務まらない」
「確かに風紀委員会は実力主義だが、実力にも色々あってな。」
摩利が諭すように話し始める
「力づくで抑えつけるだけなら、私がいる。相手が十人だろうが二十人だろうが、私一人で十分対処できる。この学校で私と対等に戦える生徒は七草会長と十文字会頭、........そして千草だけだからな」
2年会ってなかったというのに随分とした高評価である。実際そうだし復学試験の成績の事もあるのだろうが
「君の理屈に従うなら、実戦能力に劣る秀才は必要ない。それとも、私と戦ってみるかい、服部副会長」
「……私のことを問題にしているのではありません。彼の適性の問題だ」
「実力にも色々ある、と言っただろう? 達也くんには、展開中の起動式を読み取り発動される魔法を予測する目と頭脳がある」
「……何ですって?」
「つまり彼には、実際に魔法が発動されなくても、どんな魔法を使おうとしたかが分かる。
当校のルールでは、使おうとした魔法の種類、規模によって罰則が異なる。
だが真由美がやるように、魔法式発動前の状態で起動式を破壊してしまうと、どんな魔法を使おうとしたのかが分からなかった。だからといって、展開の完了を待つのも本末転倒だ。起動式を展開中の段階でキャンセルできれば、その方が安全だからな。
彼は今まで罪状が確定できずに、結果的に軽い罰で済まされてきた未遂犯に対する強力な抑止力になるんだよ」
「……しかし、実際に違反の現場で、魔法の発動を阻止できないのでは……」
「そんなものは、第一科の一年生でも同じだ。二年生でも同じ、魔法を後から起動して、相手の魔法発動を阻止できるスキルの持ち主が一体何人いるというんだ?それに、私が彼を委員会に欲する理由はもう一つある」
「…………」
「今まで第二科の生徒が風紀委員に任命されたことはなかった。それはつまり、第二科の生徒による魔法使用違反も、第一科の生徒が取り締まってきたということだ。
君の言うとおり当校には、第一科生徒と第二科生徒の間に感情的な溝がある。
第一科の生徒が第二科の生徒を取り締まり、その逆はないという構造は、この溝を深めることになっていた。
私が指揮する委員会が、差別意識を助長するというのは、私の好むところではない」
「はぁ〜……すごいですね、摩利。そんなことまで考えていたんですか?私はてっきり、達也くんのことが気に入っただけかと」
「会長、お静かに」
「七草、今はいったん黙れ」
七草によって空気が壊れかかったが、鈴音と俺が制止した。
「会長……私は副会長として、司波達也の風紀委員就任に反対します。
渡辺委員長の主張に一理あることは認めますが、風紀委員の本来の任務はやはり、校則違反者の鎮圧と摘発です。
魔法力の乏しい二科生徒に、風紀委員は務まりません。この誤った登用は必ずや、会長の体面を傷つけることになるでしょう。
それに、その目的であれば雨夜千草、彼を風紀委員にするだけでもいいはずです。
どうかご再考を」
まさに正論!である。俺の実技の腕に関しては七草も摩利も、克人も保証してくれる。それを疑う気はないということなんだろう。
「ーー実際問題達也の実技が足りてないのは成績から考えるなら事実だし、二科の風紀委員を作りたいなら俺一人でいいのも事実だろ。魔法の読み取りだってサードアイ使えば俺もできるし」
「でしょう?それに彼は心が読めるといいます。ならば術式破壊を行った後でも何を使おうとしていたか分かるわけです。彼一人で十分じゃないですか?」
ますます達也を採用する理由がなくなってくる。が、ここで一つの声が響く
「待ってください。兄は試験での成績は悪いかもしれませんが、実戦ならばだれにも負けません」
確信に満ちた声。その言葉に俺たちは真面目な眼差しを向ける。服部を除いては
その雰囲気を察したのか、今まで黙っていた克人が口を開く。
「なら、模擬戦をやればいいだろ。そうすれば実力がはっきりする」
その鶴の一声で模擬戦が決まった