幻想からの帰還者   作:兼永一真

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模擬戦

模擬戦、とは行っても俺がやるわけではない。ただ双方の実力を俺は知らない。そういう意味ではちょっと楽しみな対戦カードである。

 

「まぁ、気楽にやれよ。怪我してもさせても俺が治すから」

 

いざという時の為、という名目で俺もCADを持ってきている。四肢の欠損くらいならこれで治せる。もっともそんな事態、起こる前に止めるが

 

「俺は深雪の眼が節穴じゃないと証明したいだけだ」

 

ふーんである。あまり嫌いな考えではないが

 

 

 

中では審判役の摩利が待っていた。

 

服部たちはまだ来ていない

 

「変わってないんだなここは」

 

口で収まらなければ力で白黒つける。今も前も俺みたいな人間にとってはひどく生きやすい場所である。

 

「自信はあるのか」

 

摩利が達也にささやくように言う。

 

「服部は当校でも五本の指に入る実力者だ。どちらかと言えば集団戦向きで、個人戦は得意とはいえないが、それでも一対一で勝てるヤツはほとんどいない」

 

「正面から遣り合おうなんて考えていませんよ」

 

それが達也の回答だった。

 

「じゃ、頑張れよ」

 

それ以上は何も言う気はない。どうせ今の俺は観客である

 

 

そう言う間にも達也はCADケースを開いていた。中から現れたのは拳銃形態のCAD二丁。そのうち一丁を取り、達也は慣れた手つきでカートリッジを抜き換えた。

 

 

 

模擬戦が始まる。

ルールは一般的なものだった。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障害を与える術式も禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止。但し、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。

武器の使用は禁止。但し、素手による攻撃は許可する。蹴り技を使いたければ靴を脱ぐこと。

勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。

双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。

このルールに従わない場合は、その時点で負け。

 

俺がやるんだったら武器の使用ぐらいは解禁してほしいところである。

 

 

 

両者、5mの距離を開け向き合う。

 

達也は拳銃形態の特化型CADを右手に。

服部は汎用型CADに手を添える。

 

「始め!」

 

その言葉と共に、服部はCADに手を走らせる。動きに無駄がない、確かに実力者だ。

 

確かに速い、でも遅い。

 

起動式の展開が完了し、発動に移ろうとした刹那、達也が近い。

 

重心と足の運び方から考えるにおそらく忍びの動きだ。どっかで教わったんだろうか

 

服部が座標を修正するよりも速く、達也は服部の死角へと移動する。

 

そして服部を波としか表現できない衝撃が揺らした。

 

次の瞬間には勝負が終わっていた。

 

「……勝者、司波達也」

 

口をはさむまでもない完勝。その言葉はそれをより印象付けた

 

当の達也は何事もなかったかのようにそそくさとCADをしまう。

 

それを摩利が待て、と制止した。

 

「今の動きは……自己加速術式を予め展開していたのか?」

 

七草も鈴音もあずさも、そこで初めて、何が起きたのかを頭の中で繋ぎ直し始めたらしい。克人は多分、動きから気付いている。少なくとも俺と似たような動き、ということは分かっているはずだ。

 

「そんな訳がないのは、先輩が一番良くお分かりだと思いますが」

 

「しかし、あれは」

 

「正真正銘、肉体的なものだ」

 

俺が口をはさむ。

 

「あれは忍びの動きだろう?」

 

「わたしも証言します。あれは、兄の体術です。兄は、忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」

 

その名に摩利の表情が変わる。俺もちょっとばかり表情を変える。あの男には以前何度か出会っている。

 

「じゃあ、あの攻撃も忍術ですか?私には、サイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったんですが」

 

七草の問いに、達也は淡々と答える。

 

「正解です。あれは振動の基礎単一系統魔法で、サイオンの波を作り出しただけですよ」

 

似たような忍術はうちにもある。俺たちは基本的に掌底で発生させるのだが、

 

起き上がった服部は頭を下げた。

 

「さっきは、その、身贔屓などと失礼なことを言いました。目が曇っていたのは、私の方でした。許して欲しい」

 

「わたしの方こそ、生意気を申しました。お許し下さい」

 

深雪もまた、きれいに頭を下げる。

 

これで模擬戦も終わり、

 

ーーとはならないのがここである。

 

「千草」

 

摩利に呼ばれる。大体察した、だがその上で乗ることにした。

 

「模擬戦だろ?受けてやる」

 

再び模擬戦が始まった。審判は克人だ

 

「ルールはさっきと同じ、いやお前は武器を解禁した方がいいか」

 

「別にいらん」

 

克人の問いにそう返す。俺にはCADがあるからな。

 

「そうか、なら行くぞ。始め!」

 

その言葉が発された瞬間に摩利は間合いを潰してきた。

 

右の拳、左の掌底、そして膝。いい動きだ、2年前とはくらべものにならない

 

だが、それは俺も同じだ。

 

逆に間合いを詰め、両腕と膝の初動を抑え込む。

 

「いいんじゃない?」

 

反撃として飛んでくる逆の膝を躱し、跳び上がって距離をとる。

 

着地の隙への攻撃は来ない。もっとも隙など作っていないのだが

 

「本気で来いよ。じゃなきゃつまらん」

 

人差し指をくいくいっとやって挑発する。

 

瞬間、摩利の手がCADに触れた。自己加速式だな

 

今までと明らかに違う踏み込み、そこから放たれる蹴り。当たればただじゃすまないだろうそれに俺は動かない。

 

摩利は構わず蹴りを続行する

 

蹴りが当たるまで、あと10㎝もない。その瞬間、俺の右腕のCADが流体金属として変形し、防壁となる。

 

蹴りはそのまま防壁へとぶつかり、凄まじい音を響かせる。だが、防壁にはひび一つ入らない

少なからぬ動揺を摩利も含めた周囲の人間全員が感じる

 

それを見逃す俺ではない。すかさず踏み込み、首を掴んで押し倒す。勢い良く頭を床にたたきつけられた摩利は気を失う。

 

「ーー勝者、雨夜千草!」

 

克人が声を張り上げる。帰って来てから模擬戦も実戦もそこそこやってきたが、やっぱり強くなっているんだと実感する。

 

背後で摩利が立ち上がる。脳震盪ぐらいは起こしていると思っていたが、復帰がはやいな

 

「それはなんだ?」

 

「なにって俺の盟友が作った液体金属製汎用型CADだよ。」

 

ガチャガチャとCADを刀や槍などに変形させる。それを全員が興味深そうに眺めている。

 

「どういう仕組みなんだそれ」

 

「水遁の応用。強度とかの微調整は酔夢想(密度を操る程度の魔法)でやってる。」

 

それを聞いた達也は頭を抱えている。実際、だいぶめちゃくちゃやってる自覚はある

ちなみに酔夢想は萃香の能力を参考に作った魔法である。結構万能なので使用頻度も多い。

 

「それじゃ、模擬戦は終わりでいいか?」

 

「そうだな。CADを返したら生徒会室に来てくれ。続きはそこでしよう」

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