50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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これを読んでくれた貴方の明日が、少しだけ楽になりますよーに⭐︎






一話 おじさんはネットアイドル。ネットアイドルはおじさん

 『中身おじさん、今日もバズる』

 

 目が覚めたら、女子高生だった。

 

 いや、待ってほしい。

 

 これは比喩ではない。寝起きで鏡を見たら、そこには寝癖のついた黒髪ロングの美少女がいた。肌はもちもち、目はでかい、声は高い。

 

「だれぇ!?」

 

 叫んだ声が可愛すぎて、俺は二度死んだ。

 

 俺の名は佐伯浩二。享年五十歳。しがない会社員だった。毎朝満員電車に揺られ、上司に詰められ、若手にパソコンの使い方を教わり、家では発泡酒を飲みながら野球中継を見る。

 

 そんな俺が、なぜか女子高生になっていた。

 

 名前は星野ひまり。十六歳の高校一年生。しかも顔面偏差値がバグっている。

 

 スマホの顔認証が通った瞬間、俺は悟った。

 

「これは俺の人生じゃなくて、どこかの誰かに生まれ変わったのか……?」

 

 しかし、星野ひまりとして生まれ育った記憶もちゃんとある。これはどうやら、最近になって前世の記憶が蘇ったパターンなのだろう。

 

 そして三日後。

 

 唐突だが俺は、ネットアイドルになっていた。

 

 理由は簡単だ。生活費がないからである。

 

 転生先の両親は海外出張中。家はある。飯もある。だが小遣いが少ない。

 

 五十歳のおじさんが、女子高生の財布に入っていた八百三十二円を見たときの絶望がわかるか?

 

 わからんだろうな。俺もわかりたくなかった。最近はキャッシュレスが主流だけど、色々あって最終的には現金に戻ってきたおじさんは、常に一万円は財布に入れていたというのに。

 

 星野ひまりとしての自分が叫ぶ。今時の学生は美容にファッション、友達付き合いでお金は無限に欲しいのだと。

 

 普通はバイトでも応募するのだが、前世の記憶を活かしてどうにかお金を稼げないかと思考の海に潜ってみる。

 

 そこで俺は思いついた。

 

「そうだ、配信しよう!」

 

 鏡越しの美少女星野ひまりは、左の手のひらに拳をポンと乗せる。今日日女子高生がやらないリアクションだった。

 

 前世で部下が言っていた。

 

『今は個人でも発信の時代っすよ』

『可愛い子が雑談してるだけで伸びます』

『大事なのはキャラっす』

 

 なるほど。

 

 今の俺にはキャラしかない。

 

 中身は五十歳、外見は十六歳。現代日本には二人といない唯一無二の存在なのだった。これはきっと、俺にだけしか不可能なキャラクターなのではないか!

 

 今時はスマホでお手軽に配信も可能だし、家にはパソコンもある。本格的な設備投資は先延ばしにして、まずは感覚を掴んでみよう!

 

 配信名は悩んだ末に、こうした。

 

【新人ネットアイドル☆ひまりん、初配信です!】

 

 開始ボタンを押す。んんっ、と咳払いをして。

 

「え、えーっと……こ、こんにちは。星野ひまりです。好きな食べ物は、焼き鳥と塩辛です」

 

 コメントが流れた。

 

『初手おっさんで草』

『女子高生の好きな食べ物じゃねえ』

『声かわいいのに中身が居酒屋』

『推せる』

『酒飲みの魂を感じる』

 

 おかしい。

 

 俺は可愛いアイドルとして売れる予定だった。

 

 なのに初配信から、コメント欄は完全に町内会の飲み会だった。

 

「いや、塩辛美味しいよね?白飯にも合うし……七味かけると更に」

 

『わかる』

『急に信頼できる』

『この子、人生二周目?』

『ひまりん、競馬とかやってそう』

 

 初配信だというのに、休日だからか数人の視聴者に恵まれたのは幸い。しかし、好きな食べ物を言っただけでこんな流れになるとは。ちょっとおじさんっぽい?くらいを目指していたというのに!

 

「やってないよ! 競馬は見るだけ!」

 

 実際、星野ひまりは競馬なんかやらない。ちょっとアプリのゲームを知ってるくらいだ。前世ではガッツリお金かけてやってはいたけど。

 

『やってる側の返答』

『草』

『推し確定』

 

 その日、俺は登録者三千人を獲得した。

 

 理由は謎だった。

 

 翌日、切り抜き動画がバズった。

 

【新人美少女アイドル、初配信で塩辛を熱弁】

 

 再生数、二十万。

 

 俺はスマホを持ったまま固まった。

 

「日本、大丈夫か?」

 

 しかし、バズったものは仕方ない。俺は方向転換した。

 

 清楚系アイドルはやめた!中身おじさん系女子高生アイドルで行く。

 

 いや、言葉にすると終わっている。 だがネットでは、終わっているものほど強い。次の配信タイトルはこうだ。

 

【ひまりんの人生相談室:上司の機嫌は天気予報より当たらない】

 

 開始五分で同接一万人。

 

「えー、今日のお悩み。『職場の先輩が話を聞いてくれません』。んー、困りましたねぇ」

 

 俺は画面に向かって頷いた。

 

「そうだねっ。聞いてくれない先輩にはね、まず結論から言おう!人間、年を取ると前置きに耐えられなくなるのよっ」

 

『重い』

『経験者の言葉』

『十六歳とは』

『ひまりん先生って呼んでいい?』

 

「あと、メールの件名に【ご相談】って書くのはお勧めしないよ。【確認依頼:〇月〇日まで】って書くと目を引くし、おじさんは締切がないと読まずに後回しにしちゃうからっ」

 

『有能』

『弊社に来て』

『この女子高生、管理職経験ある?』

『魂が課長』

 

 俺は気づいた。この世界、若くて可愛いだけでは足りない。だってそうだろう?若くて可愛い子はどんどん出てくる世の中だし。もう一味、みんなは欲してるんだ。

 

 若くて可愛いのに、発言が疲れた会社員。それが刺さっている。そして俺は伸びた。そもそも可愛いというのは親から与えられた超絶アドバンテージではあるんだけどね。

 

 朝は高校へ行き、昼は購買で焼きそばパンを買い、夜は配信で社会人の心を救う。しばらくは順調なネットアイドルライフが過ぎていった。

 

 クラスメイトにはバレていない。

 

 ……はずだった。

 

「ねえ星野さん」

 

 ある日、隣の席のギャル、白石さんが声をかけてきた。

 

「昨日の配信見たよ」

 

 終わった。

 人生二周目、早くも終了。ちょっと迂闊だったかぁ……

 

 おじさん、少しネットリテラシー無かったわ。

 

「な、何のことかな?」

 

 とりあえず誤魔化そうとしてみるけど。

 

「ひまりんでしょ?」

 

「チガイマス」

 

「声そのまんまじゃん」

 

 俺は机に額をつけた。

 

「頼むよ……黙っていてくれない?私、親が海外にいっててさ。生活費が欲しいのよ……バイトでも良いんだけどさぁ」

 

「ははっ。別に言いふらしたりはしないよ。それにあんだけバズってたらその内私以外にも見つかるって」

 

 白石さんは笑った。

 

「でもさ、面白かったよ。うちのお母さんも見てた。『この子、会社の嫌な人間を知ってる目をしてる』って言ってた」

 

「お母様、鋭いなぁ……」

 

 白石さんが机に身を乗り出して。

 

「ねえ、今度コラボしない?」

 

「えっ」

 

「うち、ダンス得意だし。ひまりん、歌とか踊り弱いでしょ?」

 

 ぐさり。

 

 痛いところを突かれた。

 そう。俺はネットアイドルなのに、歌もダンスも壊滅的だった。

 

 初めて歌枠をやったときなど、コメント欄がこうなった。

 

『音程が通勤電車』

『サビで肩こりが悪化した』

『でも味がある』

『スナックの二次会』

『ひまりママ?』

 

 ママではない。俺はおじさんだ。

 

 もっと悪い。

 

 だが、白石さんの協力で事態は変わった。彼女は俺にダンスを教えてくれた。

 

「違う違う! そこで腰を入れる!」

 

「腰はもう長年のデスクワークで死んでるの!」

 

「十六歳でしょ!?」

 

「魂の腰が五十歳なんだよ!」

 

 放課後の教室で、俺は汗だくになりながら踊った。体は軽い。めちゃくちゃ動く。なのに脳が拒否する。

 

 前世の俺は、忘年会の余興でラジオ体操を踊っただけで拍手された男だ。アイドルダンスなど、もはや異次元の存在である。何故アイドルが激しいダンスをするのか?昭和では軽い振り付けくらいだったのにさっ。

 

 そして一週間後。

 

 新曲配信の日が来た。

 

 タイトルは、

 

【ひまりん新曲『残業なんてしたくない』初披露!】

 

 白石さん考案の可愛い振り付け。俺作詞の地獄みたいな歌詞。

 

『定時のチャイムが鳴ったなら

 わたしの心は帰宅済み

 上司の「ちょっといいかな」は

 だいたい全然よくないな☆』

 

 コメント欄が爆発した。

 

『神曲』

『労働者の国歌』

『女子高生が歌う内容じゃない』

『明日から会社で流す』

『泣いた』

『かわいいのに歌詞が労基』

 

 翌朝、動画は百万再生を超えた。

 

 学校では白石さんが親指を立てた。

 

「ひまりん、バズってるよ」

 

「怖い。ネット怖い」

 

「喜びなよ」

 

「五十歳にもなると、急な成功は不安材料なんだよぉ」

 

「はいはい、おじさんネタおつー」

 

 その後、俺の人気はさらに伸びた。驚くことに案件も来た。

 

 最初に来た案件は、エナジードリンクだった。俺は配信で台本を読んだ。

 

「疲れた現代人のみんなー! これを飲んで元気出してねー!」

 

 コメント。

 

『ひまりんが言うと重い』

『飲んでも残業は減らない』

『真理』

『案件なのに現実を突きつけるな』

 

 俺は慌てて付け足した。

 

「でも寝不足なら寝てよ! 体が資本!」

 

 スポンサーからはなぜか感謝された。すごく売れたらしい。

 

 世の中、何が正解かわからない。そんなある日、俺は配信でぽろっと言ってしまった。

 

「若いうちはね、失敗してもいいんだよ。俺くらいの年になると、失敗の前に膝が痛いから」

 

 コメント欄が止まった。

 

『俺くらい?』

『年?』

『膝?』

『ひまりん何歳?』

 

 しまった。中身が漏れた。

 

 俺は冷や汗をかいた。だが、ここで慌ててはいけない。社会人はトラブル時こそ平常心である。

 

「設定です」

 

『設定w』

『便利』

『中身おじさん設定、公式だった』

『ひまりん、魂の年齢だけ開示して』

 

「魂の年齢は……まあ、織田信長が人生これくらいって例えた年かなぁ」

 

『草』

『やっぱりおじさん』

『でも好き』

『むしろ安心する』

『突然の信長』

 

 バレている。たぶん、完全にバレている。だが誰も本気にしない。ネットとは不思議な場所だ。おじさんが子供の頃には無かった存在。

 

 本当のことを言うほど、ネタだと思われる。嘘をつくほど、考察される。

 

 そして恐ろしいことに、今の俺は美少女なので、だいたいの失言が「味」で処理される。可愛いって、凄いのだ。

 

 俺は画面の向こうに笑いかけた。

 

「じゃあ今日も、ひまりん先生の人生相談やるよぉー!」

 

『待ってました』

『先生!』

『今日も救われに来た』

『定時退社祈願』

 

 俺は咳払いをした。

 

「まず大事なことを言います。嫌なことから逃げてもいい。ただし、家賃からは逃げるな」

 

『名言』

『現実』

『急に刺すな』

『家賃は強敵』

 

「あと、人間関係で悩んでる人。全員に好かれようとするな。全員に好かれるのは、唐揚げとフライドポテトくらいだから!」

 

『唐揚げも嫌いな人いるぞ』

「そいつとは距離を置こうね!」

 

『草』

『過激派』

『唐揚げ原理主義者』

『推せる』

 

 配信が終わるころ、俺は不思議と満たされていた。前世では、誰かに必要とされている実感なんて、ほとんどなかった。

 

 会社では代わりがいる。家庭もない。趣味も薄い。

 

 ただ働いて、疲れて、眠るだけ。でも今は違う。

 

 画面の向こうに、俺のくだらない話で笑う人がいる。明日ちょっと頑張ろうと思う人がいる。それは、思ったより悪くなかった。

 

 まあ、女子高生になってネットアイドルをやっている五十歳男性の感想としては、だいぶ終わっているが。

 

 翌日、俺のもとに大型企画の依頼が来た。

 

【人気ネットアイドル合同ライブ出演のお願い】

 

 出演者一覧には、歌うま、ダンスうま、顔面つよつよの本物アイドルたちが並んでいる。その中に俺。

 

 星野ひまり。

 

 肩書きは……

 

【人生相談系ネットアイドル】

 

「俺だけジャンルがスナックの占いママなんだよなぁ……」

 

 俺が頭を抱えていると、白石さんが言った。

 

「いいじゃん。ひまりんらしくて」

 

「私らしさって何?」

 

「可愛い顔で現実を殴るところ」

 

「アイドルとは」

 

「新時代だよ」

 

 新時代。便利な言葉である。何でも許される気がする。

 

 ライブ当日。俺はステージ袖で震えていた。

 

 観客席にはペンライトの海。若者だらけかと思いきや、スーツ姿の社会人も多い。なかには作業着のおじさんもいる。みんな疲れているのに、貴重な時間を割いてくれているんだ。

 

 俺は胸が熱くなった。同胞よ。

 

 いや、今の俺が言うとややこしい。

 

 そうして出番が来た。俺はステージに立つ。

 

 ライトが眩しい。マイクを握る手が震える。だが、客席から声が飛んだ。

 

「ひまりん先生ー!」

 

「かわいいー!!」

 

「定時退社させてー!」

 

「課長が帰らないー!」

 

 俺は笑った。なんだこのライブ。

 ガード下の居酒屋かな?

 

 音楽が流れる。俺は歌った。この人生になってから急激に上達した歌を。

 

『残業なんてしたくない

 だけど明日も生きていく

 お弁当には唐揚げを

 小さな幸せ詰め込んで』

 

 観客が笑って、手を振って、少し泣いていた。俺も泣きそうになった。

 

 五十年生きてきて、まさか女子高生の姿で、残業の歌を歌うとは思わなかった。

 

 人生はわからない。いや、転生している時点で、もう何もわからない。

 ライブ後、俺は配信をつけた。

 

「みんな、今日はありがとう。ひまりん、無事に歌い切りました」

 

 コメントが流れる。

 

『最高だった』

『泣いた』

『明日会社行けそう』

『ひまりん先生ありがとう』

『中身おじさんでも推す』

 

 俺は固まった。

 

「おい、最後!!次おじさんっていったら、月曜の朝締切の仕事を金曜夕方に依頼しちゃうぞ⭐︎」

 

『草』

『公認でしょ』

『魂がおじさんなだけ』

『外見美少女、中身課長、これが令和』

 

 俺はため息をついた。

 

「もういいよ。それで」

 

 コメント欄が歓喜した。

 

『公式きた』

『中身課長アイドル爆誕』

『ひまりん課長!』

『昇進おめでとう』

 

「昇進じゃない。むしろ降格だって。もし中身の魂がおじさんなら、いきなり十六歳だぞ?新卒ですらないじゃない!」

 

『若返りは人生では昇格』

『福利厚生が強すぎる』

『前世の有給使えますか?』

 

「ブラックなので前世の有給は使えませんっ。使えたらまず寝ます」

 

 笑いながら、俺は思った。たぶんこれでいいんだよ。

 

『草』

『寝て終わる1日あるある』

 

 俺は完璧なアイドルにはなれない。清楚でもないし、歌もうまくないし、発言はだいたい居酒屋だ。

 

 でも、誰かが笑ってくれるなら。誰かの明日が、ほんの少し軽くなるなら。

 

 星野ひまりとして生きるのも、悪くない。俺は画面に向かって、満面の笑みを作った。

 

「それじゃあみんな、明日も無理せず生きていこうな。嫌な上司には心の中でミュート機能を使うんだぞー!」

 

『はーい』

『先生ありがとう』

『推しが人生の先輩すぎる』

『おやすみ、ひまりん課長』

 

「課長って呼ぶな!」

 

 こうして俺は今日も、女子高生ネットアイドルとして活動している。

 ファンネームは【社員】。配信の挨拶は【お疲れ様です】。

 

 グッズ第一弾は、なぜかタイムカード風アクリルキーホルダー。令和にタイムカードも少なくなってきてるでしょうに。

 けれど、売れ行きは好調。ありがたいねぇ……。

 

 人生二周目。見た目は女子高生。中身は五十歳。

 肩書きはネットアイドル。そして今日も俺は、コメント欄に向かって言う。

 

「お疲れ様です。ひまりん課長、本日も出勤します」

 

 コメント欄が、一斉に流れた。

 

『お疲れ様です!!!』

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