50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
ある日の金曜日のこと。
「ひまりんち、行きたくね?」
昼休みの教室で美璃が言い出した。
「行きたいね!!」
高橋さんが即答する。
「即答!?別に、うち来ても何も無いよ?」
共に食卓(机)を囲んでいた俺と高橋さんは対照的な返答をした。だって……行きたくね?って言われたところで俺にとっては自宅なわけだし。
ちなみに、【ひまりの家】で【ひまりんち】らしい。これが【ひまりんの家】なら【ひまりんんち】なのだろうか。
凄くどうでも良いポイントだけど。
「ご両親が海外ってことは、ご迷惑にもならないっしょ?じゃあワンチャンお泊まりだってありじゃね?」
確かに星野ひまりの両親は、父親が海外出張で母親もそれについてってるけど……
「二人がそんなに来たいなら良いけどさ。あんまり期待しないでよ?」
「ひまりの家ってだけで楽しいから大丈夫!」
ウインクしてサムズアップする美璃。
「適当だなぁ」
俺は冷凍食品のシャケを頬張ってから、白米を二口ほどかき込む。
「配信の機材とかも興味あるしっ!……て、別にクロくんがどうとかじゃ無く、シンプルに面白そうだなって。当然ひまりんのファンでもあるからさ!」
配信に関係する話題はどうしたってレイちゃんと紐付けされそうな高橋さんだが、ここ最近は頑張ってレイちゃん断ちしているそう。我々と会話する時も話題にしないことから、本当に意識して依存を辞めているのだろう。
「わかってるよ。ありがとうね、高橋さん」
「お礼なんていいってば!ひまりんが配信してくれてるから見れてるだけだし。むしろこっちがありがとうだし」
俺が配信も見てくれている感謝を伝えると、高橋さんもお礼で返してくれた。クロくん……つまりレイちゃんさえ絡まなければ彼女はこんなに良い子なんです。
本当に。
「んじゃー放課後、一旦家帰ってお泊まりセット準備してからひまりんち集合しよっか。あ!せっかくだしスーパーで晩ご飯の材料みんなで買っちゃお!」
美璃は手を叩き、名案を思いついたふうに。
「もう決定なんだね、お泊まりはっ!?」
さっきまで*1ワンチャンスだったのに、いつの間にか*2ノーチャンスになったのかな?
「鍋パ、タコパ、手巻き寿司パ、悩むねぇ」
高橋さんは腕を組み、可愛く眉間に皺を寄せる。
「あーね。チーズフォンデュもアリより」
二人して女子会のメインを真剣に考えている。この子達、よく昼ごはん食べながら晩ご飯について考えられるなぁ。
お腹がいっぱいの時に食べ物のことを考えたく無いってのは、おじさんの感性なのかしら。
鍋なら焼酎かチューハイ、たこ焼きならハイボール、チーズフォンデュはやはりワインかな?
……いかんいかん。
先日、太田と居酒屋に行った夢を見たせいで前世の俺に思考が引っ張られてる!
「どれも捨てがたいねぇ。けど、ひまりんちにたこ焼きプレートとかある?無ければ持参するか、別メニューが良いよね」
美璃に聞かれて、俺は懸命に自宅のキッチンを思い出す。たこ焼きのホットプレート……あったかな?最近はホットプレートを買うとオプションで付いてくるみたいだけれど。星野ひまりの記憶では、自宅でたこ焼きを焼いた覚えはない。
「探してみないとわからないけど、もしかしたら無いかも?」
あるかも、とは言えないよね。下手に期待させては悪い。
「そっかぁー。じゃあ私達が一度帰宅してる間に、軽く探してみてよ。無さげなら違うメニューにしよっ」
「おっけー」
そう返事して、まず部屋も片付けなきゃいけない事実に気がつく。……そんなに汚れてはいないけど、掃除機でもかけておこうっと。
……そして、放課後。
「ほんじゃ、ひまり。たこ焼きプレートの確認よろー!」
美璃が手を振りつつ教室を出て行った。
高橋さんもカバン片手に近づいてくる。
「昼間お母さんにメールして、お泊まりの許可はもらえたから。私も家帰って着替えとか色々用意して、ひまりんの家向かうね!」
二人ともテンション高いなー。
けど、そうだよね。
友達の家にお泊まりってだけでも楽しみなのに、両親も不在なんだから。ちょっと大人ぶりたい高校生からすれば自由に過ごせる点もかなり嬉しいのだろう。
アラフィフ目線からしたら、子供達だけでお泊まりするのはちょこっと心配になっちゃう。
俺が、見た目は子供頭脳は大人なのでセーフとしよう。
「……やばっ」
二人をのんびり見送ってる場合じゃない!俺も急ぎ足で帰宅し、たこ焼きプレートの確認や掃除をしなければ。
二度目の人生では自分の家でもどこか人の家みたいな感覚がして、綺麗めに使用してたのが助かった。
家に着くなり、俺はリビングを見渡した。
「ヨシっ!」
基本の基本、指差し確認をする。
綺麗。問題なし。
モデルルームかな?ってくらい。
続いては自室。
「ヨシっ!」
まずまず綺麗。ここも問題なし。
「けどあの二人なら、色々と物色しかねないよなぁ」
……念の為、本棚もチェック。
「んー、どうだろう」
やや問題あり。
【嫌われない勇気】
【イシューからスタート】
【Excel関数大全】
【ドラゴソボール】
【うるさい奴ら】
「これ、女子高生の本棚じゃないな?」
前世の記憶が蘇ってから、本屋に行くとついつい自己啓発本や昔の漫画を買ってしまうのだ。これでは凄く意識高い系の女子高生だと思われちゃうぞ。漫画はまだ、【父親が好きでぇ……】みたいな言い訳も可能かな?
社会人が読むような本も、全部父親のってことにしとこう。決して片付けが面倒なわけじゃない。
大切なのはキッチンだ。
たこ焼き用のプレートがあるかないか、チェックして美璃に報告しなきゃいけない。
ホットプレートやお鍋が収納された棚を開けてみると。
「あったわ」
ホットプレートの上に、重ねるようにたこ焼き用のプレートが鎮座していた。
スマホを取り出し美璃へコール。
『もしもし、ひまり?どーだったぁ?』
「あったよ!たこ焼きプレート」
『ガチ?やったじゃん!私も荷造り終わらせて、そろそろ向かおうとしてたとこ。ひまりんちの最寄りスーパーで待ち合わせてさ、材料買おうよ』
「了解!近くなったらメッセージしてくれれば、家出るよ!」
『ういー。ほんじゃーねー!』
これで今夜はたこ焼きパーティーが可能だね。
忘れない内に高橋さんにも、近所のスーパーへ来てもらうよう伝えておく。
俺も制服から部屋着に着替えて、エコバッグを用意。美璃達からの連絡を待ち、スーパーへと向かった。
自宅から徒歩十分ほどの距離には、スーパーやドラッグストアが入った地域密着型の商業施設がある。ここに来れば一通りなんでも揃うので非常にありがたい。
スーパーの風除室にあるベンチで待つことしばらく。美璃と高橋さんが二人揃って現れた。
「おまたせー。駅で高橋っちと一緒になってさ」
手を振る美璃は、制服姿とはまるで別人だった。
艶のある長い髪は胸元まで真っ直ぐ伸び、前髪は綺麗に揃えられている。
身体のラインが出るグレーのショート丈トップス。ウエストが少し覗くくらい短く、胸元にはシルバーのジッパーが走っていた。
黒いショートパンツには大きな銀バックルのベルト。足元は膝下まである黒のロングブーツ。
肩には大きな黒のバッグを提げ、首元ではシルバーのアクセサリーが光っている。
全体的に黒とグレーで統一されているのに、不思議と地味には見えない。
むしろ街中でもかなり目立つ。韓国の……KPOPアイドル?みたいな格好だ。
「お、おお……」
「なにー?その反応」
「いや、その……」
言葉を探す。可愛いとか綺麗とかより先に浮かんだのは
「最近の女子高生って、芸能人みたいな格好するんだ」
「ひまり、うちの親みたいなこと言うよね」
白石さんはケラケラ笑った。しかし、実際そうなのだから仕方ない。
昭和の時代。
少なくとも俺が生きてきた五十年の記憶の中に、休日にこんな格好で街を歩く女子高生はいなかった。
「白石さん、派手派手だよね!」
高橋さんは少し羨ましそうに言った。そんな彼女は対照的だった。
淡い水色のオーバーサイズシャツに白いプリーツスカート。足元はシンプルな黒のスニーカー。肩には小さなキャンバス地のトートバッグを提げている。
髪も特別巻いたりせず自然に下ろしていて、前髪を留める小さなヘアピンだけが控えめなアクセントになっていた。
派手さはない。けれど、妙に高橋さんらしい。
白石さんがファッション雑誌から飛び出してきたみたいなら、高橋さんは休日の大学キャンパスを歩いていそうな雰囲気だった。
「高橋さんも十分オシャレじゃない?」
「そう……かな?」
「うん!」
「えへへ」
ちなみに俺は灰色のパーカーにジャージ。
……完全に近所のコンビニへ行く格好である。ちょっと恥ずいかな?
「早速、たこ焼きの材料買おうよ!ジュースとお菓子も必須っしょ」
カートとカゴを用意してくれた美璃が先導してくれる。この感じ、普段からお買い物を手伝っていそうだな。
アイドルみたいな格好の女の子がスーパーでカートを押す姿はちょっと不釣り合いで、けどそこが良い……みたいな感じもする。家庭的なのは素晴らしいことだよね。
「あ!ひまりん、お酒コーナーあるよ?」
高橋さんがニヤニヤと俺を見る。
「お、余市が置いてるのか。いいねぇ」
ウイスキーのコーナーにはリーズナブルなものから、高級なものまで。近所のスーパーにしては品揃え豊富で嬉しくなる。
白州もあるし。
「なんで知ってる風なのっ!?いつもみたいに、おっさん扱いしないでってツッコミ待ちだったのに」
………危なっ!!
誰かとお買い物なんて久しぶりすぎて、普通に【飲みてえー】とか口走るとこだったよ。高橋さんのトラップは危険だ。
「や。昔ほら、朝の連続ドラマでやってなかった?北海道の余市が舞台のやつ!」
どうにか誤魔化さないと。
「……んっと?そんなドラマあったっけ」
高橋さんも、美璃までキョトンとする。
しまった。
アレはもしかして、今の高校生が物心つく前に放送してたか……?
「ウチのお父さんがウイスキー好きでね!!!ドラマも、再放送か録画で一緒に見たんだっ!!!」
こうなったら、高橋さんの両肩を掴んで勢いで乗り切ろう。
「わ、わかったよ!わかってるよっ!?そんな必死にならなくても大丈夫だってばぁ」
俺の圧でどうにかなったみたい。
「はいはい、高橋っちにひまり。おふざけはそのくらいにして、お買い物続けるよー」
ママみたいな対応をしてくる美璃のおかげで軌道修正もできた。
ありがとう。
「って、高橋っちお菓子入れすぎじゃねっ!?」
美璃がたこ焼きの材料やトッピングを選んでくれている中、ドサドサとお菓子をカゴに入れまくる高橋さん。
ポテチにクッキー、グミにチョコ……駄菓子やマシュマロ……?
これ、一泊で食べる量じゃないよ?
「あはっ、バレた……?」
「何個か選んで、残りは元の場所に戻してきなさいっ!」
「……はぁい、美璃ママぁ」
「ママじゃないしっ!」
もしや美璃には下の兄弟とか親戚がいるのかな?子供ムーブする高橋さんの扱いは、普段から子供の対応に慣れてそうだ。
「ひまりも、さりげなく入れたカルパスと茎わかめ、戻してきなさいっ!高橋っちが厳選したポテチとクッキーあれば充分でしょ!」
ひ、ひええ。
「これは、別に二人とのお泊まり用じゃ無いんだけどー!俺んちにストックする為に……」
「じゃあ私らが帰ってから改めて買いな。次スーパー来るまでの間に必要じゃ無いものは買わない、節約の基本だからっ」
「は、はいぃ」
この感じ。
もしや、家着いてからキッチンのカップ麺やおつまみのストック見られたら終わりじゃね??
その後もアイスやジュースで同じやり取りをする高橋さんと美璃を見ながら、俺は背中に冷や汗が伝うのを感じたのだった。