50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
「ただいまー」
「「おじゃましまーす」」
買い物を終えて、三人で帰宅する。誰かと一緒に自宅へ戻ったのはいつぶりだろうか。
「わー。ひとんちの香りがするね」
そう言う美璃の顔は何故だか嬉しそう。なんかわかるかも。俺も前世で友人や親戚の家に行くとそう感じたからね。自分家はほぼ無臭に感じるのも、また不思議なんだよ。
「二人とも、どうぞあがって!」
玄関から廊下を抜けてリビングへ。
「わっ。オシャレなリビングだね」
高橋さんは居間を見渡し、家具や観葉植物なんかを見て呟く。
「だよねぇ」
俺も同意する。なんか、さっき片付けしてる時も感じたけどモデルルームをそのまま再現したみたいな。
「自分ち褒められてるのに、他人事みたいじゃん」
美璃はケラケラと笑い、買い物袋をキッチンに置く。ある意味他人事だし、当たってる。両親は褒められて嬉しいだろうけど……
「ひまり。冷蔵庫開けちゃっていい?」
美璃は飲み物や、冷蔵保存が必要な食材を取り出して確認してくる。わざわざ断ってくれるあたり、親御さんからしっかりした教育を受けてるなぁ。
「勿論いいよ!ありがとうっ」
俺も食材整理を手伝うべく、キッチンへ。
ガチャ。
美璃は冷蔵庫のドアを開けて。
「えっ。なにこの塩辛たちは!?多すぎんだろ……」
2リットルのコーラをしまおうとし、塩辛と対面した美璃は固まった。
「……そんな多いかな?」
よくスーパーでも見かける、小さめの袋に入った商品を数個ストックしてるだけだけど。白米にのせて食べたり、対レイちゃんを想定してゲームの練習してる際につまんでいるのだが。
「他にも。きゅうりやナスの漬物に……たこわさ、メンマ、チーズって!あんたねぇ」
うっ。
その辺やっぱし問い詰められちゃうよね。お買い物中の美璃の倹約っぷりときたら。
「若いからって、塩分の過剰摂取は良く無いよ?」
そっちかー!
漬物とかは日持ちするし、買いだめしているのを責められるのかと思ったら。シンプルに身体の心配をしてくれた。
「どれどれ?」
高橋さんもピョコっと俺の横から乗り出し、冷蔵庫を覗く。
「……おつまみしか無いよ?ひまりん!」
友人二人になんとも言えない視線を向けられ、ちょっと居心地が悪い。いや……でもさぁ。
俺はコホンと咳払いして。
「よくわからないけど、おつまみってお酒に合うんだよね?で、お酒ってお米とかから出来てるじゃん?つまり、おつまみは白米にも合うんだよ!!」
ご飯のおかずとしてこれらの品をストックしていたのだと説明する。
「……ほぉーん。まあそういうことにしとくか」
一応は納得してくれたかな。
「ねえ。早速たこ焼き食べる?もうお腹空いちゃった!」
現在、17時。
これから準備すれば丁度ご飯どきになる。高橋さんはお腹がすいちゃってるみたいだし。
「良いんじゃ無い?美璃、作り方詳しそうだよね」
俺は調理を手伝うため手を洗う。
「まぁねぇー。何回か家でたこ焼きパーティーやってるから、任せてっ」
ギャルピースでとっても頼もしい。
「よーしっ!みんなで準備しよう!」
高橋さんも腕まくりしてやる気満々。
いいね、この友達みんなで集まって料理する感じ。共同作業で一体感ある。
「役割分担どうする?」
俺は美璃に指示を仰ぐ。船頭多くして、なのでここは料理スキルが一番高い美璃に仰ごう。
「私は切る係やるねぇー」
そう言うと美璃はまな板と包丁を取り出した。
タコを一口サイズに切りながら、青ネギや紅生姜も手際よく刻んでいく。
すごい。慣れてるなぁ。
「美璃って普段から料理するの?」
「するする。そこまで上手くはないけどね」
いやいや。包丁さばきだけで初心者じゃないのはわかるよ。
「じゃあ私は何すればいい?」
高橋さんが挙手する。
「高橋っちは生地をお願い」
「了解!」
高橋さんは、元気に返事をしたものの生地の袋を持ったままフリーズしてしまう。
「パッケージの裏に書いてる手順でやれば簡単だからねっ」
トントンと食材を刻みながらも、的確に助言もしてくれる。ううむ、手を動かしつつ周囲の状況も把握出来るのは得難い人材だぞ。
「あ、うん!わかったよ」
手順を熟読してから高橋さんは行動に移った。
ボウルにたこ焼き粉を入れ、水と卵を加える。それからシャカシャカと泡立て器を動かし始めた。
……動かし始めたのだが。
「高橋さん?」
俺は一所懸命な高橋さんの手を一度止めた。
「ん?」
「勢い、良すぎない?」
ボウルの縁から生地が飛び散っている。
「あっ!!!」
白い液体がテーブルに一滴。
「あっじゃないよ!?やっぱり気づいてなかったんだね」
「ご、ごめんっ!」
慌ててキッチンペーパーを取りに行く高橋さん。
……うん。高橋さんは切る係じゃなくて正解だった気がする。
「ひまりは?」
「俺はホットプレートかな」
棚から取り出したホットプレートをリビングのテーブルへ設置する。たこ焼きプレートを装着し、コードを伸ばしてコンセントへ。
スイッチオン。
赤いランプが点灯した。
「おー」
生地を混ぜつつも、高橋さんは目をキラキラさせてプレートを眺める。俺は箸でキッチンペーパーを掴み、サラダ油を染み込ませてプレートへ塗っていく。
「なんかテンション上がるね」
たこ焼き器って、どうしてこうワクワクするんだろう。大人になっても。
……いや、今は高校生だけど。
「ひまりん?」
「なに?」
「なんで小皿に醤油とわさび用意してるの?」
高橋さんが不思議そうに見ていた。たこ焼きをわさび醤油で食べると勘違いさせちゃったかな?
「まず、タコ切り終わりましたーっ」
美璃がタコの入ったボウルをテーブルへ運んできた。
「おお!どれどれ」
俺はそのうち一切れを箸でつまみ、わさび醤油で刺身としていただく。
「んー!ぷりぷりだっ」
新鮮なタコの、噛めば噛むほどにじみ出る旨み。刺身醤油の清涼な風味と、わさびのアクセント。
……美味い。
日本酒でいきたくなる。
たこ焼きも楽しみだけど、一切れくらいは刺身も食べないと勿体無いよね!
「……ぷりぷりだっ、じゃないっての!!つまみ食いしたらデブっちゃうよー?いつの間にわさび醤油用意したんだし」
醤油の小皿を美璃に回収されてしまった。
「ひまりんって、子供みたいだね」
高橋さんは俺と美璃のやり取りを見て、クスッと微笑む。
ガビーン!!
自分より精神年齢五十歳も下の子に子供と言われてしまった……
いや、無理もないか。つまみ食いには違いない。
ただ、食材をいろいろな食べ方で楽しみたいのは酒飲みの性ではないでしょうか。
「はいはい、焼き始めるから課長はちょっとどいてくださいねー」
俺の肩をおしりで弾き飛ばすように美璃がホットプレート前を陣取った。
えっ。勝手にタコ食べたから怒ってますか……?俺が課長呼びされるの嫌がるのを知った上で呼んでくるし!
「課長呼び!?ていうか、女の子がおしりで人を押し退けるのはやめた方が……」
「部下が苦労して切ったタコをつまみ食いするからですーっ!」
ごめんって。
「生地投入、いくよーっ!」
美璃が宣言し、ジュワーっ!とたこ焼きプレートに生地が注がれていく。一気に良い香りがリビングへ広がった。
「わー!もう美味しそうっ!」
高橋さんは調理の様子をムービーで撮影する。
「でしょ?タコもこうやって入れてっと……」
手際よく、全ての生地に切り身を入れる。
そして、よく屋台で見るクルクルとひっくり返す工程へ移った。
「上手……!美璃、すごいね!?」
気がつけば俺は、その技に唸っていた。九十度ずつたこ焼きを回転させていき、その手は休まることは無い。
はみ出た生地も、うまいこと球体になっていく。
お見事っ!
「これで終わりじゃないよっ。ひまり、表面に油塗っていって。そうする事でカリッと仕上がるから」
「はいっ!?俺ですか」
「そうだよ」
「承知しましたっ!」
「や、いきなり取引先出てくんなし」
すっかり油断していたところに仕事を与えられ、条件反射で背筋が伸びる!
なるほど。言われてみると、たこ焼きって表面カリッとしてるよね。そんな一工夫があったとは。
「ひまりん、ファイト!」
高橋さんもエールをくれる。
コーティングするように、丁寧にかつ素早く油を塗布していく。仕上げの段階だ、ミスるわけにはいかないぞっ!
美璃の手際には遠く及ばず。それでも、美味しくしたい一心で全力で油を塗りました。
「うん。良い感じ!……完成だねぇ」
美璃が頷き、みんなのお皿に出来立てたこ焼きを盛り付けてくれた。
「まずはソース、鰹節、青のりにしとく?一旦」
「いいね!なんなら、それが一番好きだよ」
「だね。シンプルイズベストでっ」
オーソドックスな味付け。高橋さんと俺も同意し、トッピングした。
焼いてる間に高橋さんが持ってきてくれた缶のコーラで、乾杯の準備をする。
「ひまりんちなんだし、ここはひまりんが音頭で!」
お泊まりの言い出しっぺは美璃なんだけど……まあいいかっ。
「えー、たこ焼き冷めちゃうから手短に!第一回お泊まり会に、かんぱーい!!」
「「かんぱーい!!」」
コーラの缶を掲げて、しかしまずみんなが口にしたのは出来立てほやほやたこ焼き。
外はカリッ!中はトロッ!!タコもぷりぷりで最強すぎるっ!!
「お、我ながら美味しいじゃん!!」
ハフハフと熱さと戦いつつも、美璃が満足げに頷く。
「屋台のたこ焼きに負けないよ、これならっ!」
高橋さんも、小さい口にたこ焼き一個まるまる頬張って堪能している。
うーむ。
お泊まり会ごとにメインの食事を変更していきたいと思ってたけど、ずっとたこ焼きパーティーだっていいのかもしれない。
それくらい美味しくて、結構感動した。
このメンバーで、みんな成人したらその時はハイボールで乾杯しようね。
俺は一人未来のタコパを思い描きつつ、今はコーラで喉を潤すのだった。
「そろそろ次の回焼いちゃう?」
美璃が生地の残り具合をチェックしつつ、みんなに問いかけたタイミングで。
俺のスマホが着信を知らせてきた。
「ん?メールじゃなくて通話かな」
ちょうど俺と高橋さんの間に置いていたものだから、相手が誰なのか見えてしまったのだろう。
「あ……ああ?ああ〜!?」
高橋さんが壊れる。壊れすぎて、なんだか血を抜きながら麻雀するようなキャラになってるよ!
そう、電話の相手は……タイミングが悪くレイちゃんだった。
よりによって高橋さんがお泊まりに来てるのに!
「ひっ、ひまりんっ!?」
「なに!?」
「れ、れれれれれっ」
「高橋さん、落ち着いて!?」
たこ焼き食べながら会話する内容じゃない。高橋さんは両手で頬を押さえ、深呼吸を始める。
「すぅー……はぁー……」
「偉い偉い」
「まだ何もしてないよっ!」
いや、してる。以前の彼女ならスマホを奪いかねない勢いだった。
それが今は、ちゃんと自分を制御しようとしている。立派な成長である。
「てか、出ないの?」
「あ、そうだねっ」
美璃に言われ、俺は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あ、ひまりん?今大丈夫だった?』
いつもの落ち着いた声。
「うん。友達来てて、たこ焼きパーティー中だけど」
『えっ、そうなんだ』
一瞬だけ沈黙。
『じゃあ手短にするね』
レイちゃんも空気を読んでくれたらしい。
『中古屋でスーファミ安くなっててさ、ゲーマーとしてはやってみたいんだけど、最新機種のサービスではプレイ出来ないソフトでおすすめとかある?』
お。レイちゃん実機でやるつもりなんだ!これは、近々スーファミで対戦があるかも?
しかし、実機でしか出来ないソフトでおすすめかぁ……急に言われても困るけど……。
あ!そうだ。
俺は昔やりこんだソフトを思い出す。
「ダービースターレイル96かな?ダビスタ96!」
『ダビ……スタ……96と。メモしたよ。知らないけど、調べてみるわ。パーティーの邪魔してごめん』
「いや、大丈夫!」
『ありがとう、また連絡するよー』
「うん。じゃあねー」
そのやり取りを聞きながら、高橋さんは両膝の上で拳を握り締めていた。
喋りたい。でも邪魔しちゃダメ。そんな葛藤が顔に全部出ている。
「……通話、終わった?」
高橋さんが天井を見上げた。
「うん。お疲れ様」
俺はスマホを置いて、終了をアピールする。
「……頑張った」
「ん。頑張ったね」
「頑張ったよぉ……!!」
ちょっと涙目だった。けれど以前みたいな暴走は無い。彼女はちゃんと自分でブレーキを踏めている。
「高橋っち、ガチ偉いじゃん!!」
美璃がそう言うと。
「褒めないで。普通のことなんだからっ!」
ちょっとだけ困ったように笑った。
そうだけど、この短期間でここまで変われるなんて凄いことだよ。