50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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十六話 【覇王翔吼拳(はおうしょうこうけん)】を使わざるを得ない

 

 たこ焼きパーティーに少し不安があったとしたら、うまく焼けるかとか以前にお腹が満たせるかという点だった。

 だけどそこは流石粉物。女子三人が食べれる総量は知れており、なんなら材料が少し余るくらいで限界を迎える。

 

「これ以上食べたら……破裂するかも」

 

 残るたこ焼きは三個。一人一つがノルマだ。

 

 俺はコーラで流し込もうとするも、今はその甘さや炭酸さえキツイ。星野ひまりの胃袋が小さいんじゃないか?明日の夜までお腹が空かないのではって気がする。そのくらいお腹パンパンだ。

 

「ひまりん、破裂する時は一緒だよ!」

 

 高橋さんも満腹で「ぷふーぅ」と苦しそうに息を吐きつつ、残るたこ焼きから目を逸らす。

 

 一緒に破裂て、そんなボンバーマンみたいな。

 

「ったく、残り一個くらい気合いっしょ。逆に二人とも時間経つほどキツくなるくない?」

 

 言いつつ美璃はパクッとラスト一個を平らげた。これで残るは我々のノルマのみとなる。ノルマ未達って表現しちゃうと……なんか嫌な気分。

 

「確かに。タコは噛む回数も多いし、満腹中枢が刺激されちゃうからね」

 

 俺はノルマを達成するべく、まずはたこ焼きに串を刺しておく。あとは美璃の言う通り気合いだ。

 

 脳内で、前世の上司がぼんやりと浮かぶ。

 

「佐伯くぅん。君……まさか今月もノルマいかないつもりじゃないよねぇ?」

 

 手を後ろで組みながら、人の背後でうろつく上司。

 

「は。ですが、まだ月末までありますので」

 

「うん。だから聞いてるんだよ。あと三日でどう数字を作るの?」

 

「そうですね。どうにか頑張って……」

 

「頑張ります、じゃなくてさ。方法を教えてほしいわけよー」

 

 困り眉で唇を尖らせる上司。

 

「はい……来月予定の案件で前倒しできるものがないか、お客様に相談します。それと既存のお客様にも追加提案をして、少しでも数字を積み上げます」

 

「相談します、ねぇ。で?君の中では何件取れそうなの?」

 

「それは……」

 

「佐伯ぃ。やりますって口先じゃなく結果出せや」

 

 数多の人材を鬱や退職に追い込んだ前世上司が段々と鮮明に思い起こされ、嫌な気分になる。ねっとりと責めてくる口調だったのに、最後は本性出してヤンキーみたいな口上になるんだから。

 

 気がつくと、俺はたこ焼きを頬張りながら

 

「じゃあ結果出るまで待ってから言ってよぉー!」

 

 佐伯浩二だった頃、一度も口にできなかった言葉が思わず口をついて出た。

 

 昭和気質な前世上司に、遥か未来……令和の女子高生となって反論してしまっていた。そのまま数口噛んでたこ焼きを飲み下す。

 

「なっ!?ひまり、いきなりなした?」

 

 佐伯浩二のかつての叫びに、美璃と高橋さんがビクッと肩を動かす。

 

 あ……ごめん。

 

「ラスイチのたこ焼き、そんなにキツかった?」

 

 高橋さんも心配そうに目を合わせてくる。

 

「う、うん。ある意味でキツかった……かな」

 

 ノルマ到達はいつだってキツイものさ。何故、毎月や毎年の目標を前年の120パーセントとかに設定しだすのか。五年後には約2.5倍になっちゃうよ?

 

 けど。

 

 空になった皿を見て、佐伯浩二は満足です。

 

 これで今月はノルマ達成ということでっ!

 

 

 たこ焼きを食べ終わり、俺たちは協力して後片付けをしてからだらだらとテレビを眺めていた。

 

「ねーねー、バラエティつまんなくない?サブスクとか配信見ようよー」

 

「おお。賛成!りあらちゃん、今ゲーム配信してるよ?」

 

 現代っ子な美璃と高橋さんは普段からテレビをあまり見ないようで。ただ垂れ流していたバラエティに苦言を呈した。

 バラエティ番組って、面白さも大事だけどさ。とりあえずBGMとして流しておく……みたいな感覚なんだけど。

 

 今の子は違うらしい。地上波そのものをあまり見ないという。もう、八時に全員集合はしないんだなぁ。これも時代だね。

 

「そうか……。あ!相棒とか録画してあるけど、見る?」

 

 俺は昼間再放送されていた刑事ドラマを提案する。朝学校行く前に予約して、ブルーレイに録っていたはず。

 

「相棒……て、なに?つか誰??」

 

 コーラを飲みながら美璃が言う。

 

 わかる。誰が相棒の時代かで結構雰囲気変わるよね。

 

「えっと、亀山くんのシーズンだったかな?」

 

 今日は確かシーズン4くらいの話だったかなぁ。初代相棒だし、安定の面白さだとは思うけど。

 

「や、ガチで誰だし。てかそういう意味で誰?って聞いたんじゃないからっ。興味ないって意味だから!」

 

 あ、そうだったのか。

 

 てっきり、亀山くんなのか、神戸くんなのか……って意味で聞かれたのかと!

 

「あははー。私はお父さんが刑事ドラマ好きだから見たことはあるけど、せっかくの初お泊まり会で視聴するのは微妙かな?殺人事件とかちょっと暗いし」

 

 高橋さんも苦笑い。

 今は乗り気じゃ無さそうだけど、視聴したことはありそうで俺は満足だよ。

 

「やっぱひまりの感性は高橋っちパパと同年代ってことで」

 

「いや、相棒は何歳が見ても面白いからねっ!?」

 

 俺は反論しつつも、テレビを配信サイトへ切り替える。

 

「それじゃあ、りあらちゃんの配信見てみようか」

 

 ポチッとな。

 

 リモコンを操作して検索し、りあらちゃんのライブ配信をつけてみた。

 

『えーと、ここに温泉を作って、こっちは外気浴スペースにしちゃおうかな……』

 

 画面に映ったのは、なにやらブロックみたいなものを並べて建物を作るキャラクター。

 

「おー。今流行りのゲームだね」

 

 高橋さんが言う。

 

 どうやら、りあらちゃんは街づくりゲームをしてるみたいだった。今は温泉施設を作ってるらしく、浴槽のスペースなどを検討していた。

 

『温泉いきたいなー。ひまりんとか絶対好きだよね、温泉。今度みんな誘ってみよっかなぁ』

 

 凄いタイムリーに、俺の名前を出してくれた。温泉は確かに好きだよ。

 

『いいねぇ』

『露天風呂におぼん浮かべて日本酒呑む?』

『温泉配信キター!』

『ひまりんもいます』

 

 りあらちゃんのコメント欄は異様な速さで流れていく。【ひまりんもいます】て、俺が日本酒コメントしたと思われてる!?

 

「ひまり。りあらちゃんの配信でも名前出るとか、すっかり有名になったのぅ」

 

 ニヤニヤと頬杖ついて俺を見る美璃。

 

「そんなことないよ。こないだコラボしたばっかりだからでしょ」

 

 とはいえ、名前を出して貰えているのは少し嬉しかったりもする。

 

『温泉といえば。確か……先月くらいかな?レイと二人でスーパー銭湯いってさぁ。サウナにどのくらい入っていられるか軽く勝負して、結局二人とも三分でギブアップしちゃったんだよねぇ』

 

 りあらちゃんが温泉からの銭湯トークを始めた。レイちゃんとはリアルで銭湯に行く仲なんだね。最近はサウナを愛する人達も多いみたいだし、俺も久しぶりにサウナに行きたくなってきたぞ。

 

 うちの近くにスーパー銭湯なんてあったかな?と、俺が何気なく地図アプリを眺めている横で。

 

「く、クロくんと、おふ……お風呂?お風呂!?ていうか、ひまりんも、ひまりんも今度クロくんとお風呂入るってことなの!?」

 

 レイちゃんと銭湯という単語で、高橋さんが勢いよく身を乗り出した。

 

「クロくんの白い素肌見ちゃったり、温泉で火照って赤みがかった、汗ばんだ顔も見れちゃうじゃん!」

 

「高橋っち、興奮しすぎ」

 

「だって!クロくんと一緒に裸で同じお湯に浸かるとか、それもう恋人でしょっ!?」

 

 顔を真っ赤にする高橋さんは、どうやら真剣に発言してるみたい。りあらちゃんの配信を見るのは、このリスクがあったか。

 

「ひまりがおっさんだとして、高橋っちもスケベオヤジみたいだなぁ」

 

「スケベオヤジ!?」

 

 女子高生が最も敬遠する生物に例えられ、高橋さんは赤かった顔を一気に白くさせる。

 

「俺もちょっと思った。高橋さんオヤジみたいって」

 

「ひまりんまで!?ひまりんに言われたらおしまいじゃん……」

 

「ちょ、失礼だなぁ!?」

 

 これでもスケベオヤジよりはマシな存在だったと自負してるよ!?

 

 ……りあらちゃんに温泉誘われたとしても断るからね。中身がおじさんの俺が女湯に入るわけにはいかないでしょ!

 

「高橋っち、クールダウンしよ。りあらちゃんの配信見てたらレイちゃんの話題になっちゃうかもだし、ここはゲームでもしよっか」

 

 美璃はテレビの横にあったゲーム機を操作し、画面を切り替える。確かに、このまま配信を見ていては高橋さんの暴走が止まらない可能性もあったので良いアイデアかも。

 

「やっぱお泊まりにはゲームだよね。ということで、私も家からコントローラーとゲームカード持って来たんだー!」

 

 用意の良い美璃は、みんなでゲームが出来るよう色々と持参してくれていた。

 

「美璃、ありがとう!ところで、なんのゲームやるの?」

 

「ふふん。まずは小手調べにスマッシュシスターズからいこう!」

 

 スマッシュシスターズとは。様々な人気ゲームのキャラクターが垣根を越えて集い、戦う愉快なパーティーゲームだ。若年層にはお決まりのタイトルらしく、知らない人の方が少ないらしい。

 

「あ、丁度スマシスやりたかったんだ。手加減しないよー?」

 

 すでに高橋さんはゲームモードに脳を切り替えた様子。こりゃあ、二人とも小さい頃からやりこんでるな?

 あんまりプレイしたことなくても、戦えるだろうか。星野ひまりの記憶では、小学生の頃友達とやってたんだけど……自宅にあったわけじゃないから操作方法さえ怪しい。

 

「私、スマシス強いよー?なんせ四歳からやってるからね!」

 

 美璃がプレイ歴の長さをアピールし、戦う前から牽制してくる。これがいわゆる盤外戦術?

 

「ふふん、私だってデパートのゲームコーナーで開催されてたスマシス大会で一回戦突破したんだからっ!」

 

 高橋さんも負けじと強さを誇示した。

 

 ……うん。

 

 四歳からやっていたり、ゲームコーナーでの大会で勝つにはどれだけの実力が必要か俺にはわからない。

 

 だとしても。

 

「じゃあ俺も、帰り道にゲーセン寄って*1QOFやって鍛えた実力を見せますか!」

 

 格ゲーはそれなりにやり込んでいる。こちとら格闘ゲームブーム真っ只中を生きてきてるのよ。君たちが生まれる前からねっ!

 

 そう易々とは負けてあげられない。格ゲーの経験値が、どれほどスマシスに活きるかは謎だけど。

 

「ええー。ひまりって案外ゲーセンとか行くんだ」

 

「まあ、ほどほどにね」

 

 格ゲーの知識、そして、星野ひまりの反射神経。これが合わさればそこそこ良い勝負になるんじゃないかなぁ。

 

「これ、勝った人は明日の昼ごはんを他の二人に奢ってもらえることにしない!?スイーツでもいいけど」

 

 キャラクターを選択しながら高橋さんが賭けを持ちかけて来た。

 

「おもしろいじゃん。ちょうどデラックスチョコレートパフェ、食べたかったんだよねぇ」

 

 腕に自信がある美璃は勿論受けてたった。

 

 どうしよう。

 

 さっき、ゲーセンで鍛えた実力云々言っちゃったから断りづらいなぁ。

 だって賭けになるとは思わなかったんだもん!

 

「お、おもしろいじゃん……」

 

 ええい、ままよ!

 

 最初は感覚を掴んで後半に勝てばいいや!

 

 

 それから一時間後。

 

「やったぁー!また勝ったーっ!」

 

「高橋っち、そのコンボ反則じゃん!」

 

「反則じゃありませんっ!仕様です!」

 

 結論から言おう。

 俺の一人負けだった。

 

 美璃と高橋さんの勝ち数は同じ。

 

「ひまりん、二人分のスイーツごちそうするお金……ある?」

 

 あまりの負けっぷりに、高橋さんが俺の懐事情を考慮してくれる。

 

「あー、奢りだなんだはゲームを真剣にやる材料ってだけだから、別に約束守らなくてもいいよ?」

 

 美璃まで。

 

「やめて!これ以上敗者を辱めないでぇ!」

 

 この二人をここから倒すには、ゲームを変更して【覇王翔吼拳(はおうしょうこうけん)】を使わざるを得ない。

 

 それは大人気ないからやらないでおいてあげるけどねっ

*1
QOF:正式名称クイーンオブファイターズ。1990年代半ば、格闘ゲームブームの中で発表された今なお人気が高い作品。ひまりこと佐伯浩二はアラサーの頃、食事も忘れてプレイしていた。

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