50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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十七話 ふすま一枚隔てて

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 

 ゲームに熱中していると、もうそろそろ寝た方が良い頃合いに。

 仕事中、やる事も終わって定時までエクセルを開いたり閉じたりする時間は長いというのに。

 

「ねえ、二人とも。そろそろ寝る時間だよ」

 

 俺は時計を指差し、寝る準備を促す。

 

「あー、どうりで眠いと思ったわー」

 

 美璃が伸びをしてあくびを噛み殺す。そりゃ、今日は学校行って、一度帰宅してから買い物しつつたこ焼きパーティーだもん。疲れもするよ。

 

「夜更かしは美容に良くないからね。って、りあらちゃんも前に言ってた!」

 

 高橋さんもコントローラーを床に置き、ゲームの電源を落としてくれた。えらい。

 

 そのりあらちゃんは朝までゲーム配信とかしまくってる気がしなくもないけど!

 

「さっきお風呂にお湯ためといたから、二人から入っちゃって。俺は布団の準備しておくよっ」

 

 美璃と高橋さんが順番に入浴してる時間で、来客布団の用意をしとこう。六畳間の和室なら二人分敷けるし。

 

「二人からって、同時にってこと?お風呂のサイズによるけど、ちょっと狭いんじゃない?」

 

 高橋さんが美璃を見た。

 

 俺は順番に入れと言ったつもりが、一緒に入れって聞こえたのかな。

 

「順番にって意味でしょ。高橋っちのえっちぃー。そんなに私とお風呂入りたいのぉ?」

 

 美璃が大袈裟に身体を隠しながら高橋さんに満面の笑みを向けた。

 

「ちょ、人をスケベとかえっちとかキャラ付けしないで欲しいよっ!?」

 

「えー私は高橋っちとお風呂はいりたいのに?」

 

「はっ!?いやいやいや、まって。え、待って?それは友達としてどうなん??いや、ていうか……」

 

「はははっ。冗談だっての、んな焦んなよー」

 

「……もうっ!いつもそうやってからかって!!」

 

 からからと笑う美璃は、将来男を手玉に取りそうでおじさんちょっと心配。

 

「まあまあ。どっちからでも良いから入っちゃいな。俺は最後でいいから、ゆっくりしてきなよ」

 

 俺はリビングの隣にある和室へ移動し、押し入れを開ける。綺麗に畳まれた来客用布団を二人分床へ降ろした。

 すると、美璃もこちらへ来て

 

「ひまりだけに布団敷かせられないし、高橋っち先に風呂ってきなよ。私も布団手伝うから」

 

 一組分をテキパキと広げていく。

 

 この手慣れ具合、もしや美璃の家は布団派かな?毎日畳んで敷いてる動きだ。前世で万年床にしてた俺も見習わないとね。

 

「え、いいの?みんなで敷いた方が早いんじゃ」

 

 高橋さんがパジャマを手に持ちつつも、こちらを気にかけてくれる。

 

「いいからいいから!高橋さん、入浴剤も好きなのいれちゃって。何個か脱衣所に用意しといたので」

 

 日本各地の名湯気分になれるやつを。もちろん本物の温泉には敵わないけど、こういう入浴剤も十分テンションが上がる。

 

「ありがとー!それじゃ、はいってくるね!!」

 

 後がつかえているのを理解し、高橋さんは小走りで洗面所へと消えていく。そんなに焦らなくてもいいんだけども。

 

 三人とも入浴を済ませる頃には、時計は一時を回っていた。あのタイミングでゲームを切り上げていなかったら、何時になってたことやら。

 

「ふわぁ……」

 

 最初に入浴を済ませ、美璃と俺が出るのを待っててくれていた高橋さんが一番眠そうだ。

 

「今日はいっぱい遊んだねぇ」

 

 急なお泊まり会開催ではあったけど、すごく楽しかった。人を招く緊張もあるけど、やっぱり友達と一緒の時間はいいね。

 

 俺は二人が和室の布団に入ったのを確認してから自室に向かおうとすると。

 

「ゲームで負けっぱなしだった人もいたけどねぇ」

 

 美璃がぼそっと背中に呟いてきた。

 

「その話は禁止だってばっ!」

 

 俺が振り返って言い返すと同時に

 

「はい、おやすみーっ」

 

「おやすみ、ひまりんっ」

 

 和室は消灯されて、二人とも顔まで布団に隠れてしまった。

 

 ず、ずりー……

 

「まったくもう。……おやすみっ!!」

 

 俺はふすまを勢いよく閉めてやろうと高速でスライドさせてから、やっぱりそれは感じが悪すぎるので、そっと閉じ切ったのだった。

 

 自室で、そういえば当たり前だけど今日は配信しなかったなぁ……なんて思った。

 いつか、美璃や高橋さんにゲストで出演して貰ったりも楽しそうだ。

 

 ベッドに寝転び、暗い部屋で天井を見つめる。

 

 明日はダラダラっと午前中に起きて、ファミレス行って解散かな。

 スイーツをごちそうしなきゃだし、昼過ぎまで寝ないよう気をつけよう。

 

 俺も和室で寝て、三人で夜更かしするのも楽しそうだったかな。

 

 まあ、焦らずともお泊まり会はまたあるだろうし、大本命の修学旅行もいずれあるはず。

 

 ……とはいえ。

 

 家の中に自分以外の人間がいるのに、自室の扉で隔たれると一人ぼっち。

 

 この、繋がってるようでちょっと寂しい感覚は配信を終了した瞬間に少しだけ似てるなぁ。

 

 目を閉じると。

 

 金曜日の夜らしく、疲れがドッときてすぐに夢の世界に旅立ってしまった。

 

 

「ひまりーん!!」

 

 ガチャ。

 

「ん?」

 

 なんだ。目をちょっと閉じてたら、いきなり高橋さんが部屋のドアを開け放ってきた。

 

 まだ夜中だというのに、どうしたんだろう。

 

「なにー?やっぱ俺も和室で寝た方がいい?」

 

 二人もやっぱり寂しくなっちゃったかな。仕方ない、掛け布団と枕だけ持って和室に移動するか。

 

 上半身を起こし枕を抱えて、ベッドから立ちあがろうとすると。

 

「……いや、もう朝の十時なんだけど。ひまりんがいつまでもリビング来なくて、部屋からいびき聞こえてるから起こしに来たよ」

 

 急に真顔の高橋さん。

 

「……またまたー」

 

 俺はついさっき七時にアラームをセットしたスマホを確認すると。

 

 現在時刻は十時四分。

 

「ほんとじゃん」

 

 アラームは履歴として表示されていた。つまり、俺は寝ながらアラームを止めていたようだな。

 

「昨日、昼過ぎまで寝ないよう気をつけなきゃって考えていたのに……」

 

 やっぱり休日は睡眠を確保して【寝貯め】する社会人時代のクセがついちゃってるなぁ。もっとも、医学的には寝貯めなんて出来ないみたいなのだけど。

 

 体感的には数分しか寝ていないのに朝だと、全然疲れが取れた気しないよ。

 

「へーっ!ここで配信してるんだぁ。あ!このマイクりあらちゃんのと似てる!リングライトとか、実物初めて見たー!!」

 

 俺のデスク周りを見て、高橋さんのテンションがぶち上がった。

 

「歌う時もここ!?吸音材って効果あるの?コメントはこの画面で見られるのっ!?」

 

 ツンツンと機材を触ってみたり、実際に椅子に座ってみたり。職場体験に来た子供みたいだった。

 

「……んん。寝起きでそのテンションはついていけないよぉ」

 

 俺がどうにか目をこすりながら部屋を出ると、洗面所でバッチリメイクする美璃と遭遇した。

 

「おはよ、ひまり。朝食と昼食兼ねてファミレスいくっしょ?私達は荷物持って行って、その流れで帰ろうかって話してたんだー」

 

 仕上げのリップを塗り終え、「よしっ」と鏡の自分と見つめ合うギャル。今日もきまってるねぇ。

 

「うん、いこいこー」

 

 俺はボンヤリする頭で返答し、電動歯ブラシを手に取った。

 

「ひまりって朝弱い系?いつもよりボーッとしてて、なんか新鮮で良いかも」

 

 はて、朝強い人とか存在するのだろうか。

 

 まだ眠たいだけなのに、なんか褒められたし。

 

「私と高橋っちはもう出かける準備オッケーだから、リビングで待ってるねん」

 

 俺のボサボサ頭を撫でてから、美璃は洗面所を出て行った。

 

 くっ。この寝癖は強力そうだ。

 

 まずは洗顔。

 

 化粧水と乳液で肌を整えて、日焼け止めを塗る。

 

 ベースメイクと眉だけ軽く済ませ、最後にリップ。

 

 ヘアアイロンで頑固な寝癖を伸ばせば準備完了だ。

 

 元おじさんのくせに、それなりにスキンケアは欠かさない。

 

いや、正確には元おじさんだからこそ、か。

 

 何もケアせず四十代ともなると、スキンケアを頑張った同年代と若さがかなり違う。

 今は星野ひまりとして、毎日のケアも自然と続けられている。

 

「おまたせー」

 

 着替えてリビングへ行く。

 

「じゃあ早速行こっか」

 

 美璃がソファから立ち上がる。

 

「ねえひまりん、今度は実際に配信してるとこ見たいなぁ。あ!勿論画面には映らないよう気をつけるからさっ」

 

 玄関で靴を履きながら、チラチラと俺の部屋を見つめる高橋さん。

 本当はもっと色々と見たかったのだろう。

 

「うん、いつでも来てよ。お泊まり会第二弾だって良いからね」

 

「約束ねっ!」

 

 ……ひとつだけ。

 

 その際にはレイちゃんが休みなのを確認しておく必要があるだろうなぁ。

 

 

近所のファミレスに着く頃には、お昼前ということもあって店内はそこそこ賑わっていた。

 

「三名様ですねー」

 

 店員さんに案内され、窓際の席へ。

 

「さてさてー」

 

 メニューを開いた美璃が、にやりと俺を見る。

 

「ひまり。約束、覚えてるよねぇ?」

 

「……はい」

 

 忘れるわけがない。

 

 昨日、スマシスで見事にボコボコにされた罰ゲーム。

 

 勝者二名へのスイーツ奢りですよね。

 

「遠慮なく一番高いのいっちゃおっかなー」

 

「私はデラックスチョコレートパフェ!」

 

 高橋さんが嬉しそうに指差す。

 

「高橋っち、それ昨日から狙ってたもんね」

 

「うん!」

 

 二人とも満面の笑み。

 

 対する俺はメニューの値段を見て静かに息を呑む。

 

「最近、ファミレスも結構するねぇ……」

 

「出たよ」

 

 美璃が吹き出した。

 

「その感想、お父さんと全く一緒」

 

「いやいや!昔はもっと安かったんだって!」

 

「ほらぁー!」

 

「ひまりんの昔っていつなのさっ!」

 

 二人が笑う。

 

 ……いや、本当に昔は安かったんだよ。

 

 ハンバーグとドリンクバーでワンコインみたいな時代もあったんだから。

 

「じゃあ私はこれー」

 

「私もこれ!」

 

 注文を済ませ、しばらくするとパフェが運ばれてきた。

 

「おおー!」

 

 高橋さんが目を輝かせる。

 

 しかし、すぐにはスプーンを取らない。

 

「待って待って!」

 

 スマホを取り出し、角度を変えながら何枚も写真を撮り始めた。

 

「こっちの方が映えるかなぁ」

 

「その文化、未だによく分からないんだよねぇ」

 

 俺が呟くと、美璃が苦笑する。

 

「食べる前に撮るのが大事なんだって」

 

「冷める前に食べる方が大事じゃない?」

 

「ふふっ。その考えがひまりらしいわー」

 

 結局、写真撮影会は三分ほど続き、ようやく三人で「いただきます」となる。

 

 一口食べた高橋さんが、幸せそうに目を細める。

 

「おいしいぃ……!」

 

「ひまり、ごちそうさま!」

 

「ありがとうございましたっ!」

 

 二人にぺこりと頭を下げられる。

 

「いやぁ……財布は軽くなったけど、まあ約束だからね」

 

「またゲームしようね!」

 

「それは……スマシスじゃなければ、いいかな」

 

 QOFとか……アヴェニューファイターとかね!

 

「えー!スマシスが盛り上がるのに」

 

「……まあ?格ゲーはやり込んでるし、今度やれば勝てちゃうかもしれないけどさっ」

 

「いや、昨日もそう言ってたよね?」

 

 美璃が肩を震わせながら笑う。

 

「ひまり、途中から本気で勝てると思ってたじゃん」

 

「思ってました」

 

「結果は?」

 

「……全敗です」

 

「一勝もしてないっけ!うけるっ!!」

 

 三人で声を上げて笑った。

 

 なんだか負けたことさえ、良い思い出になってしまった気がする。

 

 

 昼食を終え、店の前まで来る。

 

「それじゃ、私達このまま帰るね」

 

 美璃が荷物を肩に掛け直す。

 

「今日はありがと、ひまり」

 

「こちらこそ。楽しかったよ」

 

 急に決まったお泊まり会だったけど、やって良かった。

 

 家に誰かを招くなんて前世ではほとんど無かったし、こんな何気ない休日も悪くない。

 

「ひまりん!」

 

 高橋さんが一歩近づく。

 

「また遊ぼうね!」

 

「うん。またいつでも」

 

「お泊まり会第二弾も!」

 

「もちろん!」

 

「やったぁ!」

 

 嬉しそうに小さくガッツポーズをする高橋さん。

 

 ……レイちゃんから連絡こなさそうな時期に。でないと、お泊まりそっちのけでまた暴走しかねない。

 

「じゃあねー!」

 

「また月曜日!」

 

 二人が手を振りながら帰っていく。

 

 俺も大きく手を振り返した。

 

 こうして、初めてのお泊まり会は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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