50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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二十三話 逆境無頼ヒマリ

「人混みの中、ただ二十分待つのもあれだね」

 

 レイちゃんが帽子のつばを少し下げる。

 

「もし私達を知ってる人がいたら、ちょっと面倒だし」

 

 なるほどね。

 配信者がリアルで集まれば、そういう心配もあるのか。

 

 一人だけなら『似てる人かな?』で済むかもしれない。

 

 でも三人集まっていたら、『あれ、本物じゃない?』と気付かれる可能性はぐっと高くなる。

 

「ひまりんなんて、まんまひまりんだし」

 

「うっ」

 

 あれだけ服装で悩んだというのに、正体を隠すなんて発想は一ミリも無かった。

 

 美璃達とのお泊まりでも普通に買い物して、ファミレスにも行ってたし。その延長線で来ちゃったよ。

 

「ふふっ。それじゃあ喫茶店に入りましょうか。りあらちゃんにも、場所だけ送っておけば安心ですし」

 

 そう言うみあちゃんも、画面のまんまなのに。

 

 というかレイちゃん、俺にだけ当たり強くない? 

 いや、みあちゃんに厳しいことを言えない気持ちは、すごく分かるけどさ。

 

「それがいいね」

 

 レイちゃんはスマホを取り出す。

 

「りあらも、みんなが外で待ってるより気楽だろうし」

 

 そう言いながら、駅近くの喫茶店を検索し始めた。

 

「ここなんてどう? 昭和レトロな喫茶店だって」

 

 レイちゃんが画面を見せてくれる。ちょっと遠目で詳細までは読めないけど、昭和レトロにハズレなし! 

 

「いいんじゃない」

 

 お店を探してもらっておきながら選り好みはしないよ。いずれにしても、りあらちゃんが来るまでの間だけだし。

 

「昭和レトロ、楽しみですっ」

 

「りょ。じゃあ行こっか。こっちだからついてきて」

 

 駅前から少し歩いた路地裏。

 

 表通りの喧騒が嘘みたいに静かな場所へ、一軒の喫茶店があった。

 

 木製の看板には、少し掠れた筆記体で店名が書かれている。ガラス越しに見える店内は暖色の照明で照らされ、外の暑さとは別世界みたいな落ち着いた空間だった。

 

 カラン、と軽やかなベルの音。

 

 ドアを開けた瞬間、ふわりとコーヒーの香ばしい香りが鼻をくすぐる。

 

「わぁ……いい匂いですねぇ」

 

 みあちゃんが思わず声を漏らした。

 

「落ち着くね」

 

 レイちゃんも店内を見回し、小さく頷く。

 

 壁には古いジャズミュージシャンの写真や、色褪せた映画のポスターが飾られている。店内にはピアノジャズが小さな音量で流れ、休日の昼下がりらしい穏やかな空気が漂っていた。

 

「いらっしゃい。三名さまですか?」

 

 店主のおばさんがレジ奥から出てきた。

 

「後からもう一人きます」

 

 レイちゃんが答えると。

 

「ちょっと狭いけど、窓際の奥にお願いします。今お冷やを持っていきますから」

 

 そうして、指定された窓際奥の席に向かってみれば。

 

「げ、ゲームテーブルだー!?」

 

 俺は思わず口から漏れる。

 

 ゲームテーブルとは。

 

 その名の通り、テーブルがゲームなのである。ガラスの天板の下にはゲームの液晶があり、百円を入れればプレイできる。

 

「なんですか? これ」

 

 みあちゃんが不思議そうにテーブルを触る。

 

「ゲームで遊べるテーブルだよ。昔の喫茶店によく置いてあったんだ。最初はインベーダーゲームが大流行して、その後は花札とか麻雀とか、いろんなゲームが遊べるようになってさ」

 

「へぇー!?」

 

「令和になっても残ってるお店があるなんて、ちょっと感動するなぁ」

 

 インベーダーブームの頃だったから、もう半世紀近く前の話になるのか。

 

 チェーン店のカフェも気軽で好きだけど、こういう昔ながらの喫茶店には独特の居心地の良さがある。

 

「初めて見たかも。この上で紅茶とか飲むの?」

 

 レイちゃんが椅子に腰掛け、ツンツンとガラスの天板をチェックした。

 

「そうだよ! それこそ待ち合わせまでコーヒー飲みながらゲームしたりね」

 

「なんか贅沢ですねぇ」

 

 贅沢……か。

 令和世代から見たら、そう映るのかな。でも娯楽の数で言えば、今の方がずっと恵まれている気もする。

 

「ひまりん、まるで見てきたみたいに語るね」

 

 少しだけ口元を綻ばせるレイちゃん。 

 しまった。あまりに久しぶりにゲームテーブルを目にしたものだからテンションが上がっちゃって。

 

「や、実物見たのは初めてだよぉ。昔の漫画やドラマで登場するものだから、知識として存在を知ってたの」

 

 あぶないあぶない。

 

「お冷です。ご注文はどうしましょっ」

 

 おばさんがくれた、キンキンのお冷。

 レイちゃんの鋭い指摘で熱くなった俺は半分ほど一気に飲んだ。

 

 それから、メニューを見る。といっても、少し汗ばむ時期に喫茶店で頼むものは実は決まっている。

 

「アイスコーヒーをお願いします」

 

「はい、アイスコーヒーね」

 

 みあちゃんはクリームソーダを。レイちゃんはオレンジジュースをそれぞれ注文した。

 

「あの、ちなみにこのゲームってまだ動きますか?」

 

 メモを取るおばちゃんに、興味本位で聞いてみる。

 

「うん、動きますよ。もし遊ぶなら電源いれましょうか?」

 

 まさか。半世紀近くも過ぎてまだ現役だとは。

 

「お願いします!」

 

 ただ、大きい声で返事をしたのは俺じゃなくてレイちゃんだった。

 

「れ、レイちゃん!? そんなにプレイしたかった?」

 

 俺は初めて聞く大声に、彼女のゲーマー魂を感じた。昭和のゲームテーブルを前にその血が騒いだのかな。

 

「当たり前だよ。こんな昔のゲーム、今やらなきゃ永遠にプレイ出来ないかもだし」

 

 確かにね。壊れたら修理も不可能だろうし。

 

「みあも、興味あります。昭和の人たちがどういう風に喫茶店で過ごしていたのか。それを体験出来るだなんて、なんだかロマンチックじゃないですか」

 

 おばさんが電源を入れてくれて、レイちゃんが百円玉を投入。

 

 そういえば、昔はゲームテーブルが人気すぎて、百円を入れるボックスが満杯になることもあったなぁ。店員さんに、【早く百円を取り除いてください】ってお願いしたり。

 

『一発大逆転!!』

 

 我々のお冷を照らすようにゲーム画面が映し出された。ドットの懐かしいタイトル。この筐体は麻雀が遊べるみたいだ。

 

「「おおー」」

 

 レイちゃんもみあちゃんも、ゲームが起動しただけで感銘を受けていた。80年代からタイムスリップし、令和女子を感動させるゲームテーブル。これもまたロマンチックと言えるね。

 

「レイちゃん、麻雀出来るんですか?」

 

 みあちゃんが聞くと、レイちゃんが小さく頷く。

 

「麻雀は最近アプリでもやってるし、昭和のAIには負けていられないかな」

 

 どうやら気合い十分。

 レイちゃんが真剣な顔でゲーム画面に集中した。

 

 配牌は良く、混一色から清一色まで狙える手牌。これは勝てるかも……俺がそう考えて観戦していると。

 

 変なタイミングでレイちゃんの手が止まる。

 

「レイちゃん、どうかしたの?」

 

 フリーズしたレイちゃんに声をかけると。

 

「これ、チーとかポンの表示出ないんだけど。壊れちゃってるのかな?」

 

 令和の親切な麻雀ゲームに慣れてしまっていて、適切なタイミングで自ら鳴く必要がある昭和の麻雀ゲームに困惑していたみたい。

 

「ああ。それはね、昔のゲームだからそういう仕様なんだよ……」

 

 俺はお冷を飲み干しつつ答える。

 するとレイちゃんは

 

「ええー。表示出ないと、ちょっと無理かな」

 

 そう言って、席を俺に譲ってきた。

 

「えっ。代打ち!? ていうか、私が麻雀できる前提なのもどうなのさ」

 

 昭和のAIどころか、不親切なUIに負けてしまったレイちゃん。……ま、百円が勿体無いしここは代わっておくとしよう。

 

「代わるけどもねっ」

 

 先ほどまでレイちゃんがいた席に座れば。本当に、前世に戻った気分になる。

 

「さすがひまりん。おじさんっぽい事はなんでも出来るんだね」

 

「すんごい心外だよ!? それ」

 

 世の中のおじさん全員が麻雀知ってるわけでも無いだろうし。

 

 レイちゃんは昭和のAIはショボい、みたいなイメージを持ってるようだけど。昔の麻雀ゲームはAIとかじゃない、理不尽なツモをしてくるので手がつけられないんだよ。

 

 けど、今は令和だ。

 昭和のゲームで、相手は所詮コンピューター。令和の麻雀AIみたいに何百万局も学習した怪物じゃない。昔のCPUなら、落ち着いて打てばそうそう負けることは無い。

 

「よーし、昭和のコンピューターに令和の麻雀を教えてあげようか」

 

 順調に手牌を整理し、俺は勝負に出る。

 

『リ────チ!!!』

 

 静かな喫茶店に響く、とてつもなく大きい音声。そうだった、昔のゲームって無駄に音量がデカいんだった。

 

「ひ、ひまりんさん。お客さん全員見てくるんですけど……ちょっと恥ずかしいです」

 

 みあちゃんが照れながらクリームソーダを飲む。それを言ったら、俺だって恥ずかしいよ! 

 

 リーチをかけて、勝負に出た俺だった。

 

 だが、しかし……

 

『ロ────ン!!!』

 

 またも店内に響く爆音。

 

 勝負のために捨てた牌は、まさかのコンピューターが欲しがっていたものだった。

 

『国士無双十三面待ち』

 

 レイちゃんの百円は、コンピューターの無慈悲なアガリによって消え去ってしまった。勝てば百円を追加せずに再戦出来るんだけど、一戦目でまけちゃったのだ。

 

「えっ、これってひまりんさんの負けです?」

 

「……そうみたいだね。これは仕方ないよ」

 

 いまいちルールがわかってないみあちゃん。そして、俺がどれほど完膚無きまでに負けたかを理解し同情してくれるレイちゃん。

 

「ぐ、ぐが……国士無双13面待ち……!? 通るか、そんなもんっ……!」

 

 今生では美少女女子高生だというのに、俺ときたら逆境無頼みたいな口調で今の一局に文句を言ってしまっていた。

 

 絶対に、令和の女子高生が言わないであろうセリフなんだなぁ。

 

 ぐにゃぁー……と歪む視界。

 

「まあまあ、ひまりん。コーヒーでも飲んで落ち着こうよ」

 

 そう言って、レイちゃんはグラスを手渡してくれた。

 

「あ、ありがとう。ちょっと熱くなりすぎちゃったよ」

 

 昭和のコンピューターに負けて我を失うようじゃ、俺にはとても血液を賭けた麻雀は出来ないなぁ。美璃たちにもスマシスで大敗したし、なんだか最近ゲームにいい思い出が無い気がする。

 

 もう、ゲームなんかこりごりだよぉー!

 

「あー、コーヒーおいしっ」

 

 クリアな苦味のアイスコーヒーでどうにか冷静さを取り戻すと。

 

 カランカラン! 

 

 喫茶店のドアが開く。

 

「みんなぁ、遅れてごめんねぇーっ!!」

 

 俺の敗北を吹き飛ばすように、キラキラ全開のりあらちゃんが到着したのだった。

 

 









コンピューターの天和にしようかと思いましたが、それはあまりにひまりんが可哀想なので国士にしました(無慈悲)
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