50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
りあらちゃんはアイスカフェラテをおかわりし、それを飲み切る頃には落ち込んでいた気分も晴れたみたい。
「よーしっ、喉も潤ったところで、今日の本題の一つに行こう!」
タブレットを取り出し、メモを起動するりあらちゃんはすっかりキラキラを取り戻している。
「次はどんなコラボ配信しようかっ。みんなはコレがやりたいとか、アレがしたいとかあるかな?どしどし話し合おーっ」
またこのメンバーで配信するとして、何をやるか意見を募り始めた。みんなとならどんな内容でも面白くなりそうだね。
「そうですねぇ。前回はひまりんさんとの初めましても兼ねてのリモート配信でしたから、今回はリアルで集まって配信するのはどうでしょうか」
みあちゃんは顎に手を当てて可愛らしく悩む。その意見をりあらちゃんがタッチペンで画面に書き込んだ。
【リアルで集まって配信!】
と、白紙だったタブレット画面に丸い文字で記入される。
「良いねっ。遠隔だとゲームや雑談みたいにやれる事が限定されちゃうけど、こうして集まれるなら選択肢は無限だし!」
更に【可能性無限大】と追記する、進行兼書記のりあらちゃん。とりあえず書きたいことを書いてくスタイルみたいね。
「てことは、ゲームは今回やめとくべき?ゲーセンとかは撮影許可取るのも面倒そうだし」
レイちゃんのションボリ顔にみあちゃんが慌てて首を横に振る。
「ゲームでも良いと思いますよ!でも、リアルで集合している強みは欲しいかもです。例えばボードゲームとか、リモートじゃ出来ないものとか」
うーん。
みんな、これだけ真剣に意見を出し合うとは。配信者ってもっと勢いでやるものかと思っていたけど……そんな行き当たりばったりなのはもしや俺だけ?
自分より若い子達が、自分よりも高い意識で配信に臨んでいてちょこっと恥ずかしい。
「ひまりんちゃんはどう?遠慮せずに、思った事あればどんどん発言しちゃってね」
りあらちゃんが俺に聞いてきた。
「そうだねぇ」
平等に会話に参加させてくれるとは、なんて素晴らしい議事進行っぷりだろう。
みんなよりは配信経験も浅く、若者のニーズにも疎い俺だが……社会人としてのノウハウは持ってるつもりだ。恥ずかしがってる場合じゃなく、ここはしっかり考えないとね。
脳を社会人モードに切り替えれば、自然と佐伯浩二の思考が降りてくる。思い返せば、昔は何の意味も無い会議をよくやったもんだ。時間だけが過ぎていく中で、何も決まらないみたいな。最初はポツポツ意見が出るも、次第に誰も挙手しなくなっていくような地獄の空間。
あるいは、はじめから結論が決まっているのに形だけは会議するなんてことも。
前者のような会議を避けるべく、まずは軸を決めたいかな。
次のコラボ配信を経て、何を達成したいのか。そこが定まれば、その為にはどうするべきかが見えてくる。
新しい視聴者を増やしたいのか。あるいは、今いるリスナーとの距離を縮めたいか。
四人それぞれのリスナーさんに楽しんでもらうのも大事だし。各々、案件を貰ってる以上はスポンサーや企業のイメージを損なわないようにしなくちゃいけない。
リスナーが見たいものと、自分達がやりたいもの。どっちも大事だけど、片方だけじゃ長く続かない。……仕事でもそうだった。
お客さんの要望だけ聞いても現場が潰れる。かといって、現場の都合だけ優先してもお客さんは離れる。真ん中を探すのが一番難しいんだよね。
「俺はまず、何を目的にするか決めた方が良いと思う」
三人の顔を順に見ながら考えを伝える。
「目的?」
りあらちゃんがそのまま【目的?】とタブレットに書き込んだ。
「例えば、新しい視聴者を取り込みたいとか。若しくは今いる視聴者にもっと楽しんでもらう配信にするのか。または俺たち四人の思い出作りをメインに据えるか。目的が違えば、やることも変わってくるでしょ?」
俺の発言に、三人ともしばらく真顔で考え込んで。
「すごいね、ひまりんちゃんっ。ドラマで見る、会社の会議シーンみたい!」
パチパチとりあらちゃんが拍手してくれる。
「確かにその通りですねっ。ゴールを先に決めておけば、迷いも少なくなりそうです」
「流石ひまりん。おじさんは伊達じゃないね」
みあちゃんとレイちゃんも拍手に加わり褒めてくれた。いや、レイちゃんのは褒めてるのか半分怪しいけどっ。
JKの今、おじさんは伊達であってほしい。
「ではでは、ひまりんちゃんの貴重なご意見を参考にした上で。一回これだけは決めておこうっ」
さっき意味もなく書いたであろう【目的】の二文字をぐるぐると円で囲むりあらちゃん。
「ずばり次のコラボ配信で一番達成したいことは何かな?ちなみに、りあらは初めて見てくれた人達にも楽しんで貰いたいな」
トップバッターとして。
キラキラ系配信者である彼女は初見さんに重きを置く方針を見せた。新規顧客を獲得するのは基本中の基本だもんね。
「それは大事。でも、自分達も楽しめないと長続きしないかも」
レイちゃんは同調しつつも、配信する我々のやり甲斐や楽しさの大切さを主張した。
うんうん、やりたく無い事を無理矢理続けるのは苦痛だし、俺もどうせやるなら皆んなで楽しみながらが理想だ。
「みあは、四人全員に見せ場を作りたいですっ。リスナーさんの中には、誰か一人を応援してる人もいると思うんです。その中でコラボを見て誰かの出番が少ないと、そうした人たちが悲しんじゃうんじゃないかなって」
そう言うみあちゃんはコラボ配信の根幹を理解している。
「なるほど。みあちゃん、良いこと言うね」
「本当ですかっ!?」
俺が賛同すると、みあちゃんはとても嬉しそうにはにかんだ。
りあらちゃんとレイちゃんに向けて、良かったと思うポイントをもう少し整理してみる。
「現状、俺たちにはそれぞれにファンがいて、コラボしたのはまだ一回だけだから四人全員を網羅している人は少ないよね。だとすると、まずは皆んなの固定ファンに満足して貰うのが大切になる。その上で違うメンバーを少しずつ知ってもらい、【この子も素敵だな】って感じてくれたら大成功じゃない?」
そうすれば、いわゆる箱推しになってもらえるかもしれない。
「いいねいいねぇ!りあらのリスナーさんがみんなのファンに。みんなのファンがりあらのリスナーさんになったら最の高すぎだよっ」
「うん。そうなったら確かに最の高だ」
りあらちゃんもレイちゃんもメリットを理解してくれた。まだまだ利点はある。
「もっといえば。【この四人なら面白い】って企画そのものに価値が付くのもあるし、推しが配信してなければ他のメンバーを見よう、みたいにファンが定着しやすい。これは企業でいうところのブランド力ってやつだよ」
更に良い点を説明したところで
「そうなったら素晴らしいですね、ひまりんさんっ」
みあちゃんは俺の手を取って上下に振る。もう決まりですね!と言わんばかり。
「ただ、デメリットもあるんだけどね」
喜ぶみあちゃんに正面きって伝えるのは心が痛む。
「えっ、そうなん……ですか?」
案の定。俺の手を離して、視線をテーブルに下げたみあちゃん。なんかごめんね。
「デメリットって、例えば?」
りあらちゃんも身を乗り出して聞いてくる。
「本当に例えばだけど。【あの人が好き】が【四人組が好き】ってなると、ソロ配信の同接や再生数が落ちるかもしれない。【四人揃ってないなら今日は見なくていいや】なんて人も出てくるかも」
「えーっ!?コラボ配信以外は見なくなっちゃうのぉ?」
あくまでも、かもしれないってだけだけど。りあらちゃんは目を見開く。
「リスナーさんの中にはそうした人もいるってだけだからっ。全員では無いよ」
「だよね、だよねっ?それなら良いんだけど」
多分。エビデンスがあるわけじゃないから、俺も手探りだけどさ。
「あとは、今後もコラボしたいのに日程が合わなかったり。四人の中で【この子だけ喋ってない】とか【この子ばかり目立ってる】みたいな比較がされやすいのはあるかなぁ」
概ね、今考えられるデメリットはこんなところか。さっきまで賛成決定!みたいな雰囲気だったけれど、少しみんな尻込みモードに。しかしこういうのは最初に検討しておかないとね。
「ひまりんの語るデメリットは、確かにコラボあるあるかも。実際、コラボしてる配信者を見て私も似たような印象受けた事あるし。一視聴者としてね」
会議の場では、レイちゃんのような常に冷静な人はありがたい。
「でも、だからこその【四人全員に見せ場を作りたい】なんです!誰か一人が目立つんじゃなくて、みんなが主役になればいいんですよっ」
ここでみあちゃんが拳を握って声を大きくする。俺も、さっきのみあちゃんの発言に繋げようとしてたから助かるよ。
「そうだね。箱推しは強いけど、一人一人にちゃんと魅力があるから箱は強くなるんだ」
他のメンバーに依存しないのは立派な強みだし。
「……ソロでも見たいし、コラボでも見たいってなるのが理想ってことか」
「そういうこと!」
このメンバーでコラボしていくにあたって。メリットとデメリットはみんな理解してくれたかな。
「じゃあ、【りあら可愛かった!】【みあに癒された】【レイかっこよかった!】【ひまりん面白かった】って、みんなに思ってもらえるコラボを目指そう!」
両手を合わせてパンッ!と音をたて、りあらちゃんが方針を定めた。これで、四人の意見が綺麗にひとつの目標にまとまったな。
企画はまだ白紙なのに、不思議と成功する気しかしなかった。負ける気がいたしませぬ。
でも。ひまりんは面白い枠なのね……?つまらないと思われるよりは百倍良いんだけども。
「ひまりんさんは面白いだけじゃありません!頼りになるし、優しいですっ」
みあちゃん……!
録音するからもう一度言ってくれないかな。
「私たちはひまりんを頼りにしてるし優しさもわかってるけど。リスナー目線ではやっぱ面白いが一番じゃないかな」
みあちゃんにフォローされて喜んでたところで、レイちゃんはクールに言い放つ。
うん、わかってはいるから。わかっては……ね!