50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
「さてと。大事な方針は対面で決めれたことだし、あとはリモートで煮詰めていけばいいよね」
りあらちゃんが伝票を持って立ち上がる。
「ここは遅刻しちゃったお詫びに、りあらにご馳走させてよっ。せっかく直接会えたんだし、会議だけじゃなく遊びに行こう! みんなで思い出つくろー!」
そうは言ってくれるも、俺は割り勘が染み付いてしまってる為慌てて背中を追いかける。
「そんなそんな。ここは割り勘にしときましょう、まだ初対面ですし」
財布を出しながら、つい敬語でりあらちゃんを引き止めてしまう。みあちゃんも、レイちゃんもお財布を用意しながらついてきた。
「みあも払いますよ! 自分の分は」
「私も、りあらより飲み物代高いし」
俺たち三人を見るりあらちゃんは、嬉しそうで、しかしちょっと困った風に笑う。
「いいってば、りあらが払いたいの。みんなをお待たせしちゃった罪悪感を減らしたい、そんな心境を察してはくれないかな?」
要するに、何かしらギブして償いたいってことね。まあその気持ちはわからないでもないけど。こんな若い女の子に奢って貰う経験がなかったもんだから、ちょっと複雑。これまではずっと、部下や後輩に奢る立場だったし。
遅れた理由も寝坊とかじゃないんだしさ。
「こうなったら、りあらは折れないし……ここはお任せしちゃおうか」
そうしてレイちゃんは財布を鞄にしまう。
「わかりました。今度機会があれば、みあが多くだしますからね!」
みあちゃんも。
なら、俺一人が粘るのもかえって和を乱してしまうか。りあらちゃんと親しいレイちゃんに倣っておくのが無難かな。
「ご馳走様です、りあらさん……!」
「むしろこっちがごめんねって感じだから、いいのいいの」
バーコード決済したりあらちゃんは、そのまま俺達を先導するように店の外へ出ていく。
「ご馳走様でしたー」
みんなお店の人へ頭を下げていくあたり、礼儀を弁えてていいねぇ。
「ありがとうございました!」
元気の良い喫茶店オーナーさんの見送り。
俺なんて、個人的にここの常連になろうかなって思えるくらい気に入ってしまった。今度はピザトーストやナポリタンも頼みつつ、他のゲームテーブルをやってみようっと。インベーダーやら、まだ違う卓にもあるようだし。
「良い雰囲気の喫茶店だったねぇ。このメンバーで集まった記念すべきお店だし、りあら一生覚えてると思う」
束の間の昭和へのトリップ。店を出れば、令和の街中は人で溢れんばかり。誰もがスマホ片手に道をゆく。そんなげんなりするような混み具合の中でも、りあらちゃんは嬉しい事を言ってくれる。
「みあもです。定期的にみんなで今のお店行くのとか、素敵じゃありませんか?」
「それエモじゃん。もうちょい麻雀勉強して、ゲームテーブルにリベンジしたいし全然アリ」
なんとなしに時間を潰す為入店した喫茶店。昭和生まれの俺にはどストライクだったんだけど、りあらちゃん達もみんな気に入ってくれたみたいで良かった。
「だったら今度は全員でナポリタン食べよっ! ああいう喫茶店のナポリタンは別格なんだから。粉チーズとタバスコかけて食べるやつ」
昭和の喫茶店文化が令和っ子に認められて、おじさんテンション上がっちゃうよ。するとどんどん他の昭和の良さを教えたくなってくるから困る。あまりこっちから押し付けるんじゃなく、喫茶店を機にみんなから昭和文化を知りたくなってくれたら最高かな。
ケロリン桶山積みの銭湯とか、久しぶりに行きたいなぁ。富士山の絵があればいう事なし。
俺は勿論男湯……もまずいのか。どうしよう。
レイちゃんがお腹をさするジェスチャーをして
「今そんな話されたらナポリタン食べたくなっちゃうでしょ。ひまりんのせいでさっきの喫茶店戻りたくなってきた」
ジト目で見つめてくるし。
「……飯テロひまりん」
「飯テロひまりん!?」
更にボソッと人を飯テロリスト呼ばわり。レイちゃんは案外こういう子供っぽい一面があるなぁ。不名誉すぎるよそのあだ名!
「あのねぇ。午後一時集合だったし、レイも昼ごはん食べてきてるでしょ? ひまりんちゃんの素敵なプレゼンにケチつけるんじゃないのっ。夜中のコラボ配信中に言われたならともかく」
りあらちゃんがレイちゃんを叱り、俺の味方になってくれた。さっきは親御さんの件で珍しく意気消沈していたものの、今はすっかりお姉さんっぽい。
「ケチつけてるわけじゃなくて、ガチで食べたくなっただけだよ。ひまりんは飯テロ配信者の才能あると思う」
「飯テロ配信者!? 人生相談系といい、なぜ不名誉な称号ばっかりなのさっ」
「むしろそういう配信ばかりする人さえいるよ。美味しそうなご飯をサムネにしてさ」
「え、そうなんだ」
知らなかった。
ピアノ配信者もいれば飯テロ配信者もいる時代かあ。これだけ簡単に自分を発信出来る世の中、どんなにニッチな題材でもメインに据えてる配信者がいそうだね。
「結構良いものですよ? ご飯を食べてる動画って。自分が食事する時とかに見ると、一緒に食事してる気分にもなりますし」
みあちゃんはご飯の時に飯テロ動画を見るのね。【孤独なグルメ】とかが人気な理由もそのあたりにあるのかもだし、案外需要があるんだなぁ。
待てよ。だとしたら……この美少女軍団がご飯食べる動画も一定の層には刺さるんじゃないか?
「次の配信、みんなでご飯食べるのも良いかもね。可愛い女の子が楽しく食事する光景。これはなかなか再生されそうじゃない?」
雑談枠も兼ねれるし一石二鳥では。
「ご飯食べる配信かー。意外と良いかもね? リスナーさん達って、普段の配信でもご飯食べながら見てくれてたりするし」
りあらちゃんが頷く。
「ひまりんって、そこそこあざといんだね。自分が可愛いのを武器にするとは」
「うぐぅ……」
またまたレイちゃんの強めなお言葉。
星野ひまりは自分であって、本当の自分では無い。ゆえに容姿の良さを利用するのに自画自賛的な考えは微塵もないんだけど。
そんな複雑な俺の事情を明かすわけにはいかず、俺はうめくことしかできなかった。
「おや!? ちょっとみんなっ。とりあえず適当にブラブラしてたら、いつの間にかゲーセンにたどり着いてたみたいだよ」
なんかうまい言い訳が無いか探していると、りあらちゃんが突如駆け足になる。
「ゲーセン!? リアルにゲーセンじゃんっ!!」
そして、さっきまで飯テロだなんだと囁いてきたゲーム系配信者が別人のような大声で反応した。なんならりあらちゃんを追い抜いて店内に消えてしまう。
「こらっ、レイ! 走ると危ないよっ」
保護者目線のりあらちゃんも後を追う。
「えっと、普通はゲーセンに入るかどうかで話し合う場面じゃないかな?」
恋は盲目というけど、レイちゃんにとってはそれがゲーセンなんだね。
「あはは、ゲームとなるとレイちゃん元気ですねぇ。特にどこか予約してるわけでもありませんし、ゲームセンターで遊ぶのも良いんじゃないですか」
ポツンと取り残された片割れ、みあちゃんは小さいのにとても大人な見守りスタイルでいらっしゃった。むしろみあさんだった。
「……だね。あそこまでハイテンションになったレイちゃんを連れ戻すのも可哀想だし、ここでちょこっと遊んでいくとしようか」
「はい! かなり大きめなゲームセンターですし、クレーンゲームなんかもたくさんありそうですね。みあ、対戦ゲームは苦手なんですけど、ぬいぐるみ取ったりは好きなんです」
そうなんだねぇ。あのピアノを聴かせてくれた対価に、何度でもクレーンゲームを遊ばせてあげたくなっちゃうじゃないか。
「見てくださいひまりんさんっ。*1ちーきゃわのぬいぐるみがいっぱいです! 可愛いですねぇ」
ぬいぐるみはなるほど可愛いが、それで喜ぶみあちゃんもまた可愛い。つまりここには可愛いしかない。佐伯浩二がみあちゃんを可愛いって言えば通報されかねないけど、ひまりんの今なら許されそうで助かる。
「クレーン、やってみる?」
俺は財布から百円玉を数枚取り出す。コイン投入口を見ると、キャッシュレス決済にも対応してるようでちょっと驚きだ。ゲームセンターにまで最新化の波がきているのね。さっきまでレトロな喫茶店にいたものだから麻痺ってるけど、ゲーセンはあの頃とは比較にならない近未来感があった。
「やります! ひまりんさん、そのお金は……」
「これは先日のピアノ演奏のお礼って事で」
みあちゃんの返事を待たずにコインを投入。軽快な音楽を奏でながら、クレーンゲームの機体が操作を促してきた。
「いいんですか!? ありがとうございますっ。絶対にゲットしてみせますね」
正面から、真横から。何度も視点を変えてはクレーンの位置を調整し、挑むみあちゃん。ぬいぐるみのタグを狙ったりしてるのでなければ、このタイプは数回に一度アームの力が強まるのを待つしかないのだが。あんまり一生懸命な姿には、無粋なことは言いっこ無しだよね。
みあちゃんは舌をちょこんと出しながら、真剣な眼差しでレバーを動かす。
「えいっ……!」
アームはゆっくりと下降し、ちーきゃわのぬいぐるみを挟み込む。
「おっ!」
一瞬持ち上がる。
けれど次の瞬間。
ぽとっ。
「あぁぁぁ……!」
惜しいねぇ、本当にあと少しだった。
「惜しかったですねぇ……」
ガックリ肩を落とすみあちゃん。そんなに?
「うん、今のは取れそうだったね」
明らかにアームが弱かったんだけど、俺はなんとか神妙な面持ちを保つ。
しかし、クレーンゲームって不思議だよ。自分がやってるわけでもないのに、あと少しで取れそうになると他人事とは思えなくなる。
「すみません、もう一回だけ!」
みあちゃんは自分で百円玉を入れた。今度も慎重に位置を合わせる。持ち上げられて落ちたちーきゃわぬいぐるみの笑顔が、なんだか不敵に見えてきた。
「お願い……!」
アームが降りる。さっきより少しだけ奥。ぬいぐるみを押すように持ち上げると、そのまま景品がくるりと回転した。
「これはっ」
取れるんじゃないか。
俺が言葉にするより早く
ごとん。
「……取れたぁ!」
景品口へ落ちた瞬間。
「やりましたぁ!」
みあちゃんが子供みたいにぴょんっと飛び跳ねた。両手でぬいぐるみを抱きしめ、満面の笑み。
「ありがとうございます、ひまりんさん!」
「いやいや、取ったのはみあちゃんだから」
「でも最初の一回は、ひまりんさんのおかげです」
こういう時、素直にお礼を言える子っていいなぁ。なんだかこちらまで嬉しくなってしまう。
「みあ、おめでとー!」
いつの間にか戻ってきたりあらちゃんが拍手する。その手には、缶ジュースが一本。
「レイがね、格ゲーコーナーで集中顔してたから放ってきちゃった!」
「放ってきたの!?」
「だって画面見ながら、ゲームテーブル麻雀だけじゃなく昔の格ゲーも履修しとくか……とか一人でブツブツ言ってたし」
りあらちゃんが苦笑する。……ん?
「昔の格ゲー?」
「うん。なんか、ひまりんがさっき喫茶店でやってた麻雀ゲームでレトロゲーの良さが知りたくなったらしいよ。りあらを待ってる間にやってたんでしょ?」
最新の格闘ゲームじゃなくて、レトロゲームを? 俺は少し気になって格ゲーコーナーへ目を向ける。
そこには、筐体の前で腕を組み、真剣な顔をしているレイちゃんの姿。
画面には大きく表示されているタイトル。
【THE QUEEN OF FIGHTERS ’98】
……そうか、あったのか。
思わず足が止まる。まさか令和になっても現役で稼働しているとは。胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。
学生時代、社会人時代。
ゲームセンターへ通っていた頃の記憶が一気によみがえった。必死にコマンド練習したあの当時を。
「……ひまりん?」
レイちゃんがこちらに気付き、少しだけ口元を緩めた。
「格ゲー、やる? QOFって聞いた事ないかな。これはその古いバージョンだけど」
どうやらQOF98は単に古そうって理由でチョイスしたらしい。QOFの最新作ならゲーマーレイちゃんは知ってるだろうけど。
レイちゃんの一言に。お泊まり会で美璃と高橋さんにボコられた記憶が蘇る。
【スマシスは負けたけど、QOFなら負けないのに】
相手はゲーム系配信者、黒崎レイ。新しいゲームでなら勝ち目はない。
とはいえ。これは俺に一日の長がある。
「受けて立つよ」
ひまりん「参ったね。その目で誘われたら断れない」コノメニウー