50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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二十七話 何度生まれ変わっても忘れないモノ

 

「やっぱり昔のゲームはドット絵が良いね」

 

 レイちゃんが席に座る。俺は隣り合った筐体、対戦相手の席へ腰をかけた。

 

 ブラウン管風のドット、シンプルなUI。今のゲームには無いこの無骨さが良いんだよね。

 

「ひまりんちゃん、操作方法とかわかるの? いきなりレイと戦うのは厳しいと思うけど。初めてやるゲームでも、レイは感覚で出来ちゃうとこあるし」

 

 セコンドとしてりあらちゃんが横に立ち、基本的な心配からしてくれる。言われてみればまずそこだよね。ゲーマーなレイちゃんはまだしも、普通の女子高生な俺がこんな古いゲームをいきなりプレイ出来る方がおかしいし。

 

 でも、心配ご無用。

 

「操作くらいならなんとか! レトロゲームは結構好きなんだ。格ゲーも好きで、学校の友達とスマシスやったりもするし」

 

 主にボコられてたけど。

 

「へぇー、案外ゲーマーなんだねっ。それなら良い勝負になるかも! りあらやみあだと、弱すぎてレイの対戦相手にはならないから。ひまりんちゃんが強いとレイも喜ぶよ」

 

 そんなに期待され過ぎてもどうだろう……

 なんせブランクが途方もない。なんなら、女子高生一人分の人生を挟んでるし。

 

「レイちゃん、ひまりんさん! ファイトですよ」

 

 みあちゃんが筐体のあっちこっちへ移動しながらエールを送ってくれる。ちょっと良いとこ見せられたらいいなぁ。

 

「それじゃあクレジットいれるよー」

 

「おっけー」

 

 レイちゃんの合図で百円を投入。

 

「へぇ、キャラを三人も選ぶんだ」

 

 りあらちゃんが俺の肩越しに画面を覗き込む。

 

「うん。このゲーム、一人倒したら終わりじゃないんだ」

 

 カーソルを動かしながら説明する。

 

「三人でチームを組んで勝ち抜き戦。先鋒が全部倒せば、そのまま一人で勝っちゃうこともある」

 

「えー! 一人で三人抜きできるの!?」

 

「それが決まると気持ちいいんだよね」

 

 一人で相手チームを三人とも倒す。いわゆる【3タテ】ってやつだ。

 

「ひまりん、詳しいじゃん」

 

 レイちゃんが呟く。

 

「……三人選ぶってことは、組み合わせも結構大事なんだ」

 

 鋭い。即座に核心にたどり着くとは。

 

「そうなの! 好きなキャラだけで組む人もいれば、性能重視の人もいるかな」

 

「……そっか。でも初見だし、私は好きなキャラでいこう」

 

 迷いなくカーソルを動かすレイちゃん。

 

「あ、この子可愛い。この子も衣装が良いね」

 

「そこなんだ!?」

 

「大事でしょ。推しキャラとかさ」

 

 ゲーム配信者らしく勝ちにはこだわるタイプかと思ったけれど、初プレイだからこそ好きなキャラを選ぶらしい。

 

「これなんて、スマシスに輸入されてるキャラじゃん」

 

 金髪マッチョイケメンキャラを選ぶ。そういうところは案外ゲームを楽しむタイプなんだね。

 

「ひまりんちゃんは誰にするの?」

 

「え?」

 

「こういうので、ひまりんちゃんの好きなキャラ傾向がわかったりしてっ」

 

 りあらちゃんがクスッと笑った。これだけ多種多様なキャラがいれば、確かに好きなアニメキャラやゲームキャラに類似するかもね。

 

 ……見た目だけで選べば。

 

 残念ながら、俺の選択は性能も加味されている。

 

 画面を見る。

 

 とても懐かしい顔ぶれが並んでいた。前世で何百試合、何千試合と使い続けたキャラクター。

 

 キャラ選択画面のどの辺に持ちキャラがいるか。レバーを握るだけで、自然と指が動くくらい身体に染み付いていた。

 

(久しぶりだな……)

 

 カーソルを一人目へ、決定。

 二人目、決定。三人目、決定!! 

 

「早っ!」

 

 りあらちゃんが思わず声を上げた。

 

「全然迷わなかったね!?」

 

「えっと……なんとなくこのキャラがいいかなって」

 

 危ない危ない。

【前世で使い続けたから】なんて、言えるはずもない。

 

「ひまりん、実は既プレイだった?」

 

 レイちゃんが少しだけ驚いたように言う。

 

「まるで使うキャラが決まってたかのよう」

 

 ……見るところは見てるなぁ。

 ゲーム配信者だからか、対戦相手のそういう癖まで観察しているらしい。

 

 いや、あまりに俺が迷わな過ぎたのか。

 

 画面が暗転し、対戦のステージが映し出される。軽快なBGM。ドット絵で滑らかに動くキャラクターたち。

 

 胸の奥が高鳴る。しかしレバーへ添えた左手は、不思議なくらい落ち着いていた。

 

「それじゃ」

 

 レイちゃんがレバーを軽く動かす。

 

「よろしくね」

 

「こちらこそ」

 

 試合開始のゴングが鳴り響いた。

 

 レイちゃんが選んだのは、金色の長いポニーテールを揺らす筋骨隆々の男性。スマシスにも参戦している人気キャラクターだ。

 

 対する俺は、使い慣れた金髪の道着姿。飛び道具も対空も揃った、まさに王道の格闘家だった。

 

「あれ。思ったより操作感悪くないかも」

 

 キャラクターを小刻みに前後移動させて、まずは感触を確かめるレイちゃん。

 

「新しいゲームでも、これよりモッサリした動きのやつ多いのに」

 

「だよねー!?」

 

 古いからと侮るなかれ。時を超えて愛され続けるのには理由があるのですよ! 自分がやりこんだゲームが若い子に褒められると嬉しいっ。

 

「制限時間もあるし。いくよ、ひまりん!」

 

 動作を確認しながらも、レイちゃんがジリジリと近づいてきて。

 

『パワーウェイッ!!』

 

 牽制も兼ねた飛び道具を放つ。

 

虎煌拳(こおうけん)!!』

 

 地面を走る衝撃波に、俺も飛び道具で返した。二つの飛び道具が中央でぶつかり、互いにかき消えた。

 

 その一瞬の静寂。

 

 お互いに一歩ずつ踏み込む。

 

 次の瞬間、レイちゃんのキャラクターの長い右足が鋭く伸びた。リーチを活かした攻撃に、俺はガードしながら間合いを取る。

 

「おおー! なんか、達人同士の斬り合いみたいでかっこいい」

 

「本当!? やったね」

 

 俺はりあらちゃんの感想に、ほぼ何も考えずに返事をした。レイちゃんは他のゲームをやりこんでいるだけあって、センスが良い。画面から目を離すのは勿論、会話に脳のリソースを割くのさえ敗因となりそうだ。

 

 レイちゃんの、遠目からのキックが続く。初見でその技が強いと見抜くなんて。やるじゃないか! 

 

 このままではジリ貧なので、こちらからも飛び道具を返す。レイちゃんはガードしたり、その場でジャンプで避ける。そして、段々とお互いの間隔が狭くなってきたタイミングで。

 

 痺れを切らしたレイちゃんは、俺の飛び道具を斜めジャンプで避けつつ攻撃に転じてきた。

 

 回避と攻撃を兼ね備えたジャンプ攻撃。

 

 しかしそれこそ俺が求めた展開だった。

 

 レイちゃんが飛ぶより前に、昇竜コマンドを先行で入力しておいて。

 

「そこっ!」

 

 実際にジャンプを見てからパンチボタンを押す。

 

 対空技、【虎咆】が真っ直ぐ天へ突き上がる。

 

 カウンターヒットし、レイちゃんは迎撃された。

 

「反応早い! レイがジャンプ攻撃してから、上に攻撃したの?」

 

「いやいや、見てからじゃ間に合わないよ」

 

 俺は画面から目を離さず笑う。

 

「飛びそうな距離だったから、先に準備してただけ」

 

「えぇー!? そんなこと出来るの!?」

 

「意外とねっ!」

 

 りあらちゃんは「すごーい!」と目を丸くする。

 

 一方で、レイちゃんは驚いた様子もなく、画面を見つめたまま静かに口を開いた。

 

「……そっか」

 

 キャラクターが起き上がる。

 レバーを軽く倒しながら、小さく頷いた。

 

「ひまりんの反応が速かったんじゃない」

 

 一拍置いて、こちらを見る。

 

「私が飛ぶように誘われてたんだね」

 

「おお……」

 

 思わず息を呑む。

 たった一度の攻防で、そこまで見抜くとは。

 

「私に飛び道具を何回か見せて【次は飛ぶしかない】って思わせたんだ」

 

 レイちゃんは苦笑する。

 

「まんまと乗せられた」

 

「え、そういうことなの!?」

 

 りあらちゃんが俺とレイちゃんを交互に見る。

 

「うーん……そうかも?」

 

 俺は肩をすくめて笑った。

 

「格闘ゲームって、相手に【この行動しかない】って思わせた方が勝ちやすいから」

 

「うわぁ……心理戦なんですねぇ」

 

 みあちゃんが感心したように呟く。

 

「確か格闘ゲームって、将棋に似てるって言われることもありますよね」

 

「なるほど」

 

 レイちゃんは一度だけ頷くと、レバーを握り直した。

 

「次は読ませないよ、ひまりん」

 

 その声は静かだった。けれど、その一言だけで空気が変わる。さっきまで試しに動かしていた初見プレイヤーの目じゃない。

 

「格ゲー……それも、このゲームやってる動きだよね。その前提で戦うから」

 

 攻略法を見つけたゲーマーの目だった。飲み込みが、本当に早い。普通なら【対空された】で終わる場面だ。

 

 なのにレイちゃんは、その原因にまで辿り着いてしまった。俺がこのゲームをプレイしていた事も見抜かれたし。

 

 やっぱりこの子はゲームが強いんだなぁ。

 

「……どうだろうね?」

 

 俺は笑って誤魔化す。

 

 その返事だけで十分だったのか、レイちゃんは小さく口角を上げた。

 

「図星でしょっ」

 

 試合は再開される。

 

 さっきまでとは違って、レイちゃんは一切飛ばない。

 遠距離では長い足で牽制し、こちらの飛び道具は丁寧にガード。無理だと判断したら素直に下がる。

 

 もう対応してきた……! 

 

 たった一度の対空で、戦い方そのものを変えてきた。飲み込みの速さは本物だ。……それでも。

 

「そこっ!」

 

 牽制の隙へ小さく差し込み、連続技へ。

 体力が尽き、レイちゃんの先鋒が倒れた。

 

『K.O.!』

 

「うわぁ、倒しちゃった!」

 

 りあらちゃんが身を乗り出す。

 

「四六時中ゲームしてるレイをっ」

 

「それでも、初見でここまで動けるのがおかしいんだよ」

 

 俺は苦笑する。

 

 倒れた先鋒に代わり、二人目のキャラクターが画面へ飛び込んでくる。超能力使いの女の子だ。

 

「まだ終わってないし」

 

 そう、勝負は最後の一人が負けるまでわからない。野球が九回スリーアウトまでわからないように。

 

 今度のレイちゃんは手強かった。

 

 不用意に飛ばない。無理もしない。俺の飛び道具には、ガードでずっと忍耐。

 

「これって、ずっとガードしてたら無敵なんじゃないの?」

 

 りあらちゃんの素人目線の問い。

 この状況、誰しもそう思うよね。

 

「いや……大抵、こういう格ゲーはガード続けていたらペナルティがあると思う」

 

 流石レイちゃん、わかってるね。

 

「そう、ガードゲージが無くなったら強制クラッシュだよ!」

 

「……やっぱりか」

 

 俺の助言に、静かに息を吐くレイちゃん。ずっとガードはダメ、飛ぶのもダメ。

 

 となると、近づくには歩くしかない。

 

 そこをうまくついて、俺はコンボを決めてレイちゃんの二人目を撃破した。

 

「くっ。地力が違うってこと……?」

 

 俺はまだ先鋒のキャラクター。対するレイちゃんはラスト一体。自分でも驚くほど、圧倒出来ている。

 

「けど一人くらいは倒すから!」

 

 横目で俺の顔を捉えてくる。

 

「そうはさせないよっ」

 

 自然と笑みがこぼれる。勝負の空気なのに、不思議と楽しい。

 

 レイちゃんの三体目は格ゲー好きなら誰もが知る人気のくノ一。扇子を持った過激な衣装に身を包む。他の格ゲーにも参戦してるから、もしかしてレイちゃんも使用した事あるのかも。

 

「レイ、ゲーム系配信者の意地で頑張れー!」

 

「二人ともファイトです!」

 

 りあらちゃんとみあちゃんの声援が重なる。

 

 どちらも超必殺技が使えるだけのゲージは溜まっている。

 

 先に仕掛けたのはレイちゃんだった。

 

 鋭く踏み込み、中段と下段を織り交ぜながら攻め立てる。

 

 俺は必死にガードを続ける。

 上手いなぁ……! 

 

 初めて触るゲームとは思えない。あと一発でも食らえば一人目の体力が終わる。

 

 その緊張感の中、レイちゃんが一瞬だけ前へ踏み込み過ぎた。ほんの僅かな隙。

 

 いける!! 

 

 弱パンチ。からのそのまま連続技へ繋ぐ。

 最後の入力だけは、何年経っても忘れていなかった。

 

 前世で何千回も使用したコマンド。

 

 レバーを半回転。拳を突き出す。

 

覇王(はおう)……』

 

 巨大な気弾が画面いっぱいに膨れ上がる。

 

翔吼拳(しょうこうけん)っ!!』

 

 轟音と共に放たれた気弾が、レイちゃんのキャラクターを飲み込んだ。

 

 画面いっぱいに炸裂するエフェクト。

 

 一瞬遅れて、

 

『K.O.!!』

 

 勝利の文字が大きく表示された。

 

「おおおぉぉ!」

 

 りあらちゃんが思わず拍手する。

 

「最後、映画みたいだった!」

 

「すごいです……!」

 

 みあちゃんも目を輝かせる。

 

 レイちゃんは少しだけ悔しそうに笑ってから、筐体から手を離した。

 

「負けた。3タテされるとか恥ず過ぎるし」

 

 そしてこちらを見る。

 

「でも、すごく面白かった」

 

 その一言が、何より嬉しかった。古いゲームを知ってもらえたことも、この対戦を楽しんでもらえたことも。

 

「こちらこそ。レイちゃんがちょこっと練習したら、すぐ追い越されそうだよ」

 

「……どうだろう。ひまりんの動き、普通にランカーレベルじゃない? このゲームにオンライン機能とかは無さそうだけど」

 

 学生時代に夢中で遊んだ一本が、令和の女子高生たちにもちゃんと通じた気がした。

 

「絶対経験者でしょ、ひまりんちゃーん」

 

 りあらちゃんに肩をモミモミされる。

 

「実は昔ちょっとね」

 

「昔って、いつの事ですか?」

 

「あ!? いやー、子供の頃って意味だよっ。お父さんと遊んでてね!」

 

 ゲーム激うまと評されるレイちゃんに勝利し舞い上がった俺は、ついつい誤魔化さずに答えてしまった。みあちゃんの吸い込まれそうな瞳で見つめられると、なんだか前世を自白しちゃいそうで困る。

 

「それにしては強すぎるけど。……これは自宅で練習してからリベンジかな、ひまりんに」

 

 レイちゃんは自販機でコーラを買い、喉を潤す。

 

 そう遠く無いうちに、弟子に追い抜かれる亀仙人の気持ちを味わいそうだな、俺……

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