50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
「やっぱり昔のゲームはドット絵が良いね」
レイちゃんが席に座る。俺は隣り合った筐体、対戦相手の席へ腰をかけた。
ブラウン管風のドット、シンプルなUI。今のゲームには無いこの無骨さが良いんだよね。
「ひまりんちゃん、操作方法とかわかるの? いきなりレイと戦うのは厳しいと思うけど。初めてやるゲームでも、レイは感覚で出来ちゃうとこあるし」
セコンドとしてりあらちゃんが横に立ち、基本的な心配からしてくれる。言われてみればまずそこだよね。ゲーマーなレイちゃんはまだしも、普通の女子高生な俺がこんな古いゲームをいきなりプレイ出来る方がおかしいし。
でも、心配ご無用。
「操作くらいならなんとか! レトロゲームは結構好きなんだ。格ゲーも好きで、学校の友達とスマシスやったりもするし」
主にボコられてたけど。
「へぇー、案外ゲーマーなんだねっ。それなら良い勝負になるかも! りあらやみあだと、弱すぎてレイの対戦相手にはならないから。ひまりんちゃんが強いとレイも喜ぶよ」
そんなに期待され過ぎてもどうだろう……
なんせブランクが途方もない。なんなら、女子高生一人分の人生を挟んでるし。
「レイちゃん、ひまりんさん! ファイトですよ」
みあちゃんが筐体のあっちこっちへ移動しながらエールを送ってくれる。ちょっと良いとこ見せられたらいいなぁ。
「それじゃあクレジットいれるよー」
「おっけー」
レイちゃんの合図で百円を投入。
「へぇ、キャラを三人も選ぶんだ」
りあらちゃんが俺の肩越しに画面を覗き込む。
「うん。このゲーム、一人倒したら終わりじゃないんだ」
カーソルを動かしながら説明する。
「三人でチームを組んで勝ち抜き戦。先鋒が全部倒せば、そのまま一人で勝っちゃうこともある」
「えー! 一人で三人抜きできるの!?」
「それが決まると気持ちいいんだよね」
一人で相手チームを三人とも倒す。いわゆる【3タテ】ってやつだ。
「ひまりん、詳しいじゃん」
レイちゃんが呟く。
「……三人選ぶってことは、組み合わせも結構大事なんだ」
鋭い。即座に核心にたどり着くとは。
「そうなの! 好きなキャラだけで組む人もいれば、性能重視の人もいるかな」
「……そっか。でも初見だし、私は好きなキャラでいこう」
迷いなくカーソルを動かすレイちゃん。
「あ、この子可愛い。この子も衣装が良いね」
「そこなんだ!?」
「大事でしょ。推しキャラとかさ」
ゲーム配信者らしく勝ちにはこだわるタイプかと思ったけれど、初プレイだからこそ好きなキャラを選ぶらしい。
「これなんて、スマシスに輸入されてるキャラじゃん」
金髪マッチョイケメンキャラを選ぶ。そういうところは案外ゲームを楽しむタイプなんだね。
「ひまりんちゃんは誰にするの?」
「え?」
「こういうので、ひまりんちゃんの好きなキャラ傾向がわかったりしてっ」
りあらちゃんがクスッと笑った。これだけ多種多様なキャラがいれば、確かに好きなアニメキャラやゲームキャラに類似するかもね。
……見た目だけで選べば。
残念ながら、俺の選択は性能も加味されている。
画面を見る。
とても懐かしい顔ぶれが並んでいた。前世で何百試合、何千試合と使い続けたキャラクター。
キャラ選択画面のどの辺に持ちキャラがいるか。レバーを握るだけで、自然と指が動くくらい身体に染み付いていた。
(久しぶりだな……)
カーソルを一人目へ、決定。
二人目、決定。三人目、決定!!
「早っ!」
りあらちゃんが思わず声を上げた。
「全然迷わなかったね!?」
「えっと……なんとなくこのキャラがいいかなって」
危ない危ない。
【前世で使い続けたから】なんて、言えるはずもない。
「ひまりん、実は既プレイだった?」
レイちゃんが少しだけ驚いたように言う。
「まるで使うキャラが決まってたかのよう」
……見るところは見てるなぁ。
ゲーム配信者だからか、対戦相手のそういう癖まで観察しているらしい。
いや、あまりに俺が迷わな過ぎたのか。
画面が暗転し、対戦のステージが映し出される。軽快なBGM。ドット絵で滑らかに動くキャラクターたち。
胸の奥が高鳴る。しかしレバーへ添えた左手は、不思議なくらい落ち着いていた。
「それじゃ」
レイちゃんがレバーを軽く動かす。
「よろしくね」
「こちらこそ」
試合開始のゴングが鳴り響いた。
レイちゃんが選んだのは、金色の長いポニーテールを揺らす筋骨隆々の男性。スマシスにも参戦している人気キャラクターだ。
対する俺は、使い慣れた金髪の道着姿。飛び道具も対空も揃った、まさに王道の格闘家だった。
「あれ。思ったより操作感悪くないかも」
キャラクターを小刻みに前後移動させて、まずは感触を確かめるレイちゃん。
「新しいゲームでも、これよりモッサリした動きのやつ多いのに」
「だよねー!?」
古いからと侮るなかれ。時を超えて愛され続けるのには理由があるのですよ! 自分がやりこんだゲームが若い子に褒められると嬉しいっ。
「制限時間もあるし。いくよ、ひまりん!」
動作を確認しながらも、レイちゃんがジリジリと近づいてきて。
『パワーウェイッ!!』
牽制も兼ねた飛び道具を放つ。
『
地面を走る衝撃波に、俺も飛び道具で返した。二つの飛び道具が中央でぶつかり、互いにかき消えた。
その一瞬の静寂。
お互いに一歩ずつ踏み込む。
次の瞬間、レイちゃんのキャラクターの長い右足が鋭く伸びた。リーチを活かした攻撃に、俺はガードしながら間合いを取る。
「おおー! なんか、達人同士の斬り合いみたいでかっこいい」
「本当!? やったね」
俺はりあらちゃんの感想に、ほぼ何も考えずに返事をした。レイちゃんは他のゲームをやりこんでいるだけあって、センスが良い。画面から目を離すのは勿論、会話に脳のリソースを割くのさえ敗因となりそうだ。
レイちゃんの、遠目からのキックが続く。初見でその技が強いと見抜くなんて。やるじゃないか!
このままではジリ貧なので、こちらからも飛び道具を返す。レイちゃんはガードしたり、その場でジャンプで避ける。そして、段々とお互いの間隔が狭くなってきたタイミングで。
痺れを切らしたレイちゃんは、俺の飛び道具を斜めジャンプで避けつつ攻撃に転じてきた。
回避と攻撃を兼ね備えたジャンプ攻撃。
しかしそれこそ俺が求めた展開だった。
レイちゃんが飛ぶより前に、昇竜コマンドを先行で入力しておいて。
「そこっ!」
実際にジャンプを見てからパンチボタンを押す。
対空技、【虎咆】が真っ直ぐ天へ突き上がる。
カウンターヒットし、レイちゃんは迎撃された。
「反応早い! レイがジャンプ攻撃してから、上に攻撃したの?」
「いやいや、見てからじゃ間に合わないよ」
俺は画面から目を離さず笑う。
「飛びそうな距離だったから、先に準備してただけ」
「えぇー!? そんなこと出来るの!?」
「意外とねっ!」
りあらちゃんは「すごーい!」と目を丸くする。
一方で、レイちゃんは驚いた様子もなく、画面を見つめたまま静かに口を開いた。
「……そっか」
キャラクターが起き上がる。
レバーを軽く倒しながら、小さく頷いた。
「ひまりんの反応が速かったんじゃない」
一拍置いて、こちらを見る。
「私が飛ぶように誘われてたんだね」
「おお……」
思わず息を呑む。
たった一度の攻防で、そこまで見抜くとは。
「私に飛び道具を何回か見せて【次は飛ぶしかない】って思わせたんだ」
レイちゃんは苦笑する。
「まんまと乗せられた」
「え、そういうことなの!?」
りあらちゃんが俺とレイちゃんを交互に見る。
「うーん……そうかも?」
俺は肩をすくめて笑った。
「格闘ゲームって、相手に【この行動しかない】って思わせた方が勝ちやすいから」
「うわぁ……心理戦なんですねぇ」
みあちゃんが感心したように呟く。
「確か格闘ゲームって、将棋に似てるって言われることもありますよね」
「なるほど」
レイちゃんは一度だけ頷くと、レバーを握り直した。
「次は読ませないよ、ひまりん」
その声は静かだった。けれど、その一言だけで空気が変わる。さっきまで試しに動かしていた初見プレイヤーの目じゃない。
「格ゲー……それも、このゲームやってる動きだよね。その前提で戦うから」
攻略法を見つけたゲーマーの目だった。飲み込みが、本当に早い。普通なら【対空された】で終わる場面だ。
なのにレイちゃんは、その原因にまで辿り着いてしまった。俺がこのゲームをプレイしていた事も見抜かれたし。
やっぱりこの子はゲームが強いんだなぁ。
「……どうだろうね?」
俺は笑って誤魔化す。
その返事だけで十分だったのか、レイちゃんは小さく口角を上げた。
「図星でしょっ」
試合は再開される。
さっきまでとは違って、レイちゃんは一切飛ばない。
遠距離では長い足で牽制し、こちらの飛び道具は丁寧にガード。無理だと判断したら素直に下がる。
もう対応してきた……!
たった一度の対空で、戦い方そのものを変えてきた。飲み込みの速さは本物だ。……それでも。
「そこっ!」
牽制の隙へ小さく差し込み、連続技へ。
体力が尽き、レイちゃんの先鋒が倒れた。
『K.O.!』
「うわぁ、倒しちゃった!」
りあらちゃんが身を乗り出す。
「四六時中ゲームしてるレイをっ」
「それでも、初見でここまで動けるのがおかしいんだよ」
俺は苦笑する。
倒れた先鋒に代わり、二人目のキャラクターが画面へ飛び込んでくる。超能力使いの女の子だ。
「まだ終わってないし」
そう、勝負は最後の一人が負けるまでわからない。野球が九回スリーアウトまでわからないように。
今度のレイちゃんは手強かった。
不用意に飛ばない。無理もしない。俺の飛び道具には、ガードでずっと忍耐。
「これって、ずっとガードしてたら無敵なんじゃないの?」
りあらちゃんの素人目線の問い。
この状況、誰しもそう思うよね。
「いや……大抵、こういう格ゲーはガード続けていたらペナルティがあると思う」
流石レイちゃん、わかってるね。
「そう、ガードゲージが無くなったら強制クラッシュだよ!」
「……やっぱりか」
俺の助言に、静かに息を吐くレイちゃん。ずっとガードはダメ、飛ぶのもダメ。
となると、近づくには歩くしかない。
そこをうまくついて、俺はコンボを決めてレイちゃんの二人目を撃破した。
「くっ。地力が違うってこと……?」
俺はまだ先鋒のキャラクター。対するレイちゃんはラスト一体。自分でも驚くほど、圧倒出来ている。
「けど一人くらいは倒すから!」
横目で俺の顔を捉えてくる。
「そうはさせないよっ」
自然と笑みがこぼれる。勝負の空気なのに、不思議と楽しい。
レイちゃんの三体目は格ゲー好きなら誰もが知る人気のくノ一。扇子を持った過激な衣装に身を包む。他の格ゲーにも参戦してるから、もしかしてレイちゃんも使用した事あるのかも。
「レイ、ゲーム系配信者の意地で頑張れー!」
「二人ともファイトです!」
りあらちゃんとみあちゃんの声援が重なる。
どちらも超必殺技が使えるだけのゲージは溜まっている。
先に仕掛けたのはレイちゃんだった。
鋭く踏み込み、中段と下段を織り交ぜながら攻め立てる。
俺は必死にガードを続ける。
上手いなぁ……!
初めて触るゲームとは思えない。あと一発でも食らえば一人目の体力が終わる。
その緊張感の中、レイちゃんが一瞬だけ前へ踏み込み過ぎた。ほんの僅かな隙。
いける!!
弱パンチ。からのそのまま連続技へ繋ぐ。
最後の入力だけは、何年経っても忘れていなかった。
前世で何千回も使用したコマンド。
レバーを半回転。拳を突き出す。
『
巨大な気弾が画面いっぱいに膨れ上がる。
『
轟音と共に放たれた気弾が、レイちゃんのキャラクターを飲み込んだ。
画面いっぱいに炸裂するエフェクト。
一瞬遅れて、
『K.O.!!』
勝利の文字が大きく表示された。
「おおおぉぉ!」
りあらちゃんが思わず拍手する。
「最後、映画みたいだった!」
「すごいです……!」
みあちゃんも目を輝かせる。
レイちゃんは少しだけ悔しそうに笑ってから、筐体から手を離した。
「負けた。3タテされるとか恥ず過ぎるし」
そしてこちらを見る。
「でも、すごく面白かった」
その一言が、何より嬉しかった。古いゲームを知ってもらえたことも、この対戦を楽しんでもらえたことも。
「こちらこそ。レイちゃんがちょこっと練習したら、すぐ追い越されそうだよ」
「……どうだろう。ひまりんの動き、普通にランカーレベルじゃない? このゲームにオンライン機能とかは無さそうだけど」
学生時代に夢中で遊んだ一本が、令和の女子高生たちにもちゃんと通じた気がした。
「絶対経験者でしょ、ひまりんちゃーん」
りあらちゃんに肩をモミモミされる。
「実は昔ちょっとね」
「昔って、いつの事ですか?」
「あ!? いやー、子供の頃って意味だよっ。お父さんと遊んでてね!」
ゲーム激うまと評されるレイちゃんに勝利し舞い上がった俺は、ついつい誤魔化さずに答えてしまった。みあちゃんの吸い込まれそうな瞳で見つめられると、なんだか前世を自白しちゃいそうで困る。
「それにしては強すぎるけど。……これは自宅で練習してからリベンジかな、ひまりんに」
レイちゃんは自販機でコーラを買い、喉を潤す。
そう遠く無いうちに、弟子に追い抜かれる亀仙人の気持ちを味わいそうだな、俺……