50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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三話 これが若さか……

「俺だけジャンルがおかしいんだよなぁ……」

 

 気をつけようとした矢先、また独り言が漏れてしまった。

 

「ひまりん、最近独り言多くない?」

 

 白石さんが不思議そうにこちらを見る。

 

「あぁ、ごめんごめん。長く一人暮らししてると、どうしてもね」

 

「長く……?一人暮らし始まったのは高校進学してからだったよね?」

 

 ごもっともだった。まさか前世で20年以上独り身だったとは言えないし。

 

 俺は慌ててスマホを閉じる。

 だが問題はそこではない。

 

 超大型コラボ。人気女性配信者グループ。

 

 そして……

 

【人生相談系ネットアイドル:ひまりん】

 

 いや、だから誰だ?最初にそんなジャンル付けしたやつ。

 ……完全に保険会社の窓口みたいになってるじゃないか。

 

「ごめん、ちょっと画面見えちゃった。……それ、受けるの?」

 

 白石さんが覗き込んでくる。

 

「えぇ〜……」

 

 正直怖い。今までは、自分が中心の配信だった。コメント欄も温かい。

 リスナーはだいたい社会に疲れた人達しかいない。

 

 だが、コラボは違う。相手には相手のファンがいる。つまり。

 

「若者文化の最前線に放り込まれるんだよなぁ……」

 

 歳を取るにつれて、若いコミュニティとは自然と距離ができてた。

 老兵は去るのみって言うけど、まさか今さら最前線に放り込まれるとは。

 

 や、肉体は新兵だけども。

 

「急に老けたねぇ」

 

 白石さんが笑う。

 

「でも、考え方によっては良い機会じゃん?」

 

「そうかなぁ」

 

「ひまりん、今かなり注目されてるし。これを機に他のチャンネルリスナーを取り込めるかもしんないよ?」

 

「んー。キラキラした配信者を見る層が、中身おっさんの女子高生に興味なんてあるのかなぁ」

 

 ……確かに最近、数字は伸びている。炎上の影響もあって登録者は十万人目前。

 

 だが。

 

 俺の配信、コメント欄がほぼ会社の休憩時間なのだ。

 本当にアイドルカテゴリで合ってる?

 

 すると、白石さんがニヤニヤしながら言った。

 

「ていうか、相手みんな若い女の子なんでしょ?」

 

「うん」

 

「ひまりん、もしかして普通に緊張してる?」

 

「そりゃするよ!」

 

「なんで?」

 

「女子高生達の会話って、いかんせん情報量が多いんだもん」

 

「は?」

 

 いや本当に。最近つくづく思う。

 女子高生同士の会話、処理速度が速すぎる。

 

 話題が飛ぶ。共感で進む。オチがない。

 

 前世のおじさん達みたいに、

 

「で、結論としては何が言いたいの?」

 

 にならない。

 昼休みなんか特にそうだ。

 

「昨日さー、マジでやばくて」

「え、待って。めちゃわかる」

「しかもさー」

「それな〜」

「待って、えぐーい」

「てか聞いて」

「それよりこれ見て!」

 

 五秒ごとに話題が変わる。全く脳が追いつかない。

 おじさん、会議なら議題と進行表が欲しい。

 

 あとみんな、ちょっと待たせすぎな気もするよ。すぐ「待って」じゃん。

 

 歳をとると、待つのがどんどん得意になっていくから良いんだけれども。

 おじさん的には。

 

「いやでも最近は慣れてきたよ?」

 

「へぇ?」

 

「返事に困ったら、それな!って言えば大体いける」

 

「ちょっ、今度ひまりんにそれな!って言われたら複雑なんだけどっ」

 

 白石さんが腹を抱えて笑う。

 

 俺は真顔だった。

 

 だって、『社内で一度検討します』くらい万能なワードを発見したのに笑われてしまったから。

 

 その日の放課後。

 

 帰宅した俺はパソコンの前で頭を抱えていた。

 

「コラボかぁ……」

 

 送られてきた資料を見る。

 

【配信テーマ:ぶっちゃけ女子会!】

 

「帰りたい」

 

 だがここは自宅だった。

 

 ぶっちゃけ女子会ねぇ。

 

 今一番俺が苦手そうな単語だ。ナウなヤングに混ざるのはやっぱり、ね。

 

 参加メンバー一覧を見る。

 

【夢乃りあら】

 ふわふわ系人気配信者。

 

【黒崎レイ】

 クール系ゲーム配信者。

 

【小鳥遊みあ】

 ASMR系。ピアノ系配信者。

 

 そして。

 

【星野ひまり】

 人生相談系ネットアイドル。

 

「やっぱ俺だけおかしいって!」

 

 ジャンル欄を二度見した。人生相談系って何?ホットラインの窓口かな?

 

 すると通話通知。やはりというか、相手は白石さんだった。

 

『やあやあ、コラボに向けて準備してるー?』

 

「してるけど、不安しかないって」

 

『いうて、ひまりんなら大丈夫でしょ』

 

「いや絶対浮くってば!」

 

『んー、逆に浮いてるから人気なんじゃん?』

 

「……むぅ」

 

 それを言われると弱い。

 最近ようやくわかってきた。

 

 普通に可愛い女の子は、この世界に山ほどいる。

 

 歌が上手い子も。ダンスが上手い子も。トークが面白い子も。

 

 でも……

 

 可愛い顔で労働問題を語る女子高生は、たぶん俺しかいない。

 というか若くて可愛い子は社会経験もそんなに無いからね!

 

「唯一無二って、ちょっとズレると単なる変人になりかねないよなぁ」

 

『まあ、ひまりんはところどころ変だけどね』

 

「ねぇ否定して?」

 

『えー?無理ぃ』

 

 即答だった。

 

 その夜。

 

 俺は珍しく、少しだけ配信前に緊張していた。理由は明日がコラボだから。

 

「なんというか……」

 

 今までの【居場所】から一歩外へ出る感じがする。

 

 前世でも、知らないコミュニティへ行くのは苦手だった。

 会社の飲み会もそう。取引先との交流会もそう。

 知らない人達の輪に入るのって、妙に疲れる。

 

 だから今、少し怖い。

 

 十六歳の身体なのに、中身だけ五十歳だから困る。

 俺は白湯を飲んだ。転生しても、白湯の味は変わらない。

 

「……落ち着くなぁ」

 

 女子高生の机に置かれた湯呑み。絵面が完全に旅館だった。

 

「さてと、ともあれまずは……出勤しないとなっ」

 

 配信開始。

 

【ひまりん、本日も出勤しました】

 

「お疲れ様ですっ! ひまりん、本日も出勤しましたー!」

 

『お疲れ様です!』

『本日も生存確認』

『課長きた』

『今日も会社辞めたい』

 

「だから初手コメントから重いのよ!リアル上司や先輩にも相談してみて!それは」

 

『ここまで様式美』

『リアル上司よりひまりん課長の方が頼れる』

 

 コメント欄を見ると、少し安心する。

 ここはもう、二周目の人生なんて突拍子も無い暮らしの中で、変に落ち着く場所になっていた。

 

「えー、明日は、なんとコラボなんだけどね?」

 

『おっ』

『ついに』

『キラキラ女子会デビュー』

 

「やめて?おじさん、その言い方されると今から胃が痛い。キラキラとかさ」

 

『中身出てる』

『またおじさん言ってる』

 

「だって女子高生達の会話って、情報量多いんだもん!」

 

 白石さんにも言ったけど、また繰り返す。

 

『草』

『何その感想』

『ひまりんも女子高生なんやで』

 

 俺は真顔で訴えた。

 

「みんな会話飛びすぎなの! 何故一つの話題に結論を言わないの!?」

 

『おじさんすぎる』

『共感してほしいだけなのよ』

 

「話にはオチが必要でしょ!朝のスピーチでもさっ」

 

『朝礼当番かよwww』

『草』

『ひまりんと会話するの、息苦しいよ……』

 

 コメント欄が爆笑で流れる。

 

 すると赤スパ。

 

【ひまりん、若い子苦手なの?】

 

「いや、苦手ではないんだけどね?」

 

 俺は少し考える。

 

『ひまりんは若くなかった?』

 

 うるさいコメントはあえてスルーして。

 

「なんというか……眩しい?」

 

『おっ』

『急にエモい』

『これが若さか』

 

「みんな当たり前のように、楽しそうに未来の話するじゃない? あれがすごいなぁって」

 

 前世の俺は、楽しみな未来の話なんてほとんどしなかった。

 

 来月の納期。来週の会議。次の仕事。

 

 そんな話ばかりだった。

 目の前にある問題を、その日その日で解決していく日々。

 

 明日なんて来なければ良い。朝、目覚めずにそのまま眠るように消えたいとさえ、何度考えたことか。

 

 でも今のクラスメイト達は違う。

 

 卒業後。夢。恋愛。旅行。

 明るい未来の話をしている。

 

「青春って、未来を楽しみにできる時間なんだなぁって」

 

 コメント欄の流れが少しゆっくりになる。

 

『刺さる』

『やめろ、その話は俺に効く』

『課長……』

 

「課長じゃない!」

 

 俺は慌てて空気を戻す。

 

「とにかく明日は頑張る! まわりから浮かないように!」

 

『いやもう既にラピュタ並に浮いてる』

『存在が唯一無二』

『なら、明日は可愛い顔で労働語るなよ?』

 

「好きでこうなったわけじゃないの!」

 

『でも、浮いたとしてもひまりんらしいよ』

『おじさん全開で浮いてるひまりんが好きです』

 

 そのコメントに、少しだけ笑った。

 

 ……不思議だ。

 

 前世の俺は、誰かに「好き」なんて言われる人生じゃなかった。

 でも今は。

 

 画面の向こうに、俺の言葉を待ってくれている人がいる。

 それは、思ったより悪くない。

 

 配信終了後。

 俺はベッドへ倒れ込む。

 

「……コラボかぁ」

 

 天井を見上げる。

 

 緊張する。怖い。でも、少しだけ……

 

「楽しみにしてる……のか?自分よ」

 

 するとスマホが震えた。

 

【夢乃りあら:明日よろしくお願いしますっ♡】

 

 可愛いメッセージだった。

 

 その直後。

 

【黒崎レイ:配信見てます。普通にひまりんが好きです】

 

「えっ」

 

 さらに。

 

【小鳥遊みあ:人生相談、ちょっと受けたいかもです……】

 

「なんで!?」

 

 俺は思わず叫んだ。

 

 いや待って。やべ、クラスの女子みたいに待たせてしまったぞ。

 

 ……じゃなくて、おかしいって。

 

 俺は一応ネットアイドルだ。

 

 歌ってる。踊ってる。可愛い衣装も着てる。

 

 なのに何故、同じ配信者からしても【相談窓口】扱いなのか。

 

 スマホが震える。

 

【夢乃りあら:ひまりんちゃんって、なんか安心感あるよね〜♡】

 

「同年代から出る感想じゃないのよ」

 

 しかも安心感って。……女子高生アイドルに求めるものか?

 

 さらに通知。

 

【黒崎レイ:コラボで炎上対策教えてもらおう】

 

「火災保険かな?」

 

 俺はベッドの毛布を丸めて抱きしめる。

 

 完全に配信者仲間からも、【なんか話を聞いてくれる存在】として認識されている。

 

 終わっている。これでは、おじさん要素を隠すのが無理じゃん。相談されればおじさんの社会経験で助言しなきゃなんだし。

 

「いや、むしろ始まっているのか……?」

 

 その時。

 

 通話通知。

 

【夢乃りあら】

 

「うわ!?」

 

 俺は慌てて姿勢を正した。ベッドの上で正座する。

 

 なぜか知らないが、【若い女の子との通話】は今でも緊張する。

 見た目は同年代なのに、中身がおじさんだからだろうか。

 

「も、もしもし?」

 

『あっ、ひまりんちゃん!?』

 

 ふわふわした声だった。

 

 THE・人気配信者。という感じの声。

 

『明日はよろしくねぇ〜♡』

 

「こ、こちらこそ……っ!」

 

 緊張する。

 社会人時代、取引先との電話ですらここまで緊張しなかった。

 

『ねぇ。ひまりんちゃんって、普段からあんな感じなの?』

 

「えっ?」

 

『なんか、【人生二周目感】あるっていうかぁ』

 

「なっ!?」

 

 心臓が止まりかけた。

 

『そう言うふうに、コメント欄でも言われてるよね〜!』

 

「あ、あはは……まあ、そういう設定だからねぇ……」

 

 危ない危ない。

 この世界の人たちは、時々こうして核心に近づいてくる。

 

『でも私、ひまりんちゃん好きだよ〜』

 

「へ?」

 

『なんか、一緒にいると安心しそう!』

 

 その瞬間。

 前世の記憶が、少しだけ蘇った。

 

『佐伯さんいると、空気柔らかくなりますよね』

 

 会社の後輩。飲み会帰り。居酒屋。

 

 そんな記憶。

 俺は少しだけ黙る。

 

『……えっと、ひまりんちゃん?』

 

「あっ、ごめんごめん!」

 

 危ない。

 

 最近、前世を思い出す時間が増えてきた。

 星野ひまりとして生きているはずなのに。

 

 時々、佐伯浩二が顔を出す。

 

『もしかして緊張してる?』

 

「……ちょっとだけ。あんまり知らない人と通話とか、しないから」

 

『えー?かわい〜♡』

 

「中身は全然可愛くないよ?」

 

『またそれ言ってる〜!』

 

 通話越しに笑い声が響く。不思議だった。

 

 前世の俺なら、若い女の子との会話なんて疲れるだけだった。

 何を話せばいいかわからない。

 

 変に気を遣う。でも、今はちょっと違う。

 

 同じ目線で話せる。

 それが少しだけ、新鮮だった。

 

『じゃあ明日、楽しみにしてるねぇ!』

 

「う、うん。よろしく」

 

 通話が切れる。

 静かになった部屋で、俺はスマホを見つめた。

 

「……これは、ひょっとして青春してるのかもなぁ」

 

 ぽつりと漏れる。前世では、こんな時間は無かった。

 

 仕事して。帰って。酒飲んで寝るだけ。

 でも、今は違う。

 

 コラボ相手から連絡が来て。学校で友達がいて。明日の予定が少し楽しみで。

 

 そんな普通のことが、少しだけ嬉しかった。

 十六歳の身体は軽い。

 

 でも。

 

「まさか、この俺がねぇ」

 

 五十歳のおじさんだった俺の心も、少しずつ軽くなっている気がした。

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