50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
【黒崎レイ】
容姿【A】
配信実績【A】
話題性【A-】
将来性【A】
知性【B+】
判断力【A】
品行【B+】
家庭環境【B】
家柄【C】
娘への好影響【A】
専門能力(ゲーム)【A+】
「……問題なし」
女性はタブレットの画面を指先でなぞり、次の項目へ移った。
黒崎レイ。
娘とは比較的長い付き合いがある。
多少言葉遣いに難はあるものの、感情に流されにくく判断も早い。ゲーム配信者としての実績も十分。
先ほども、娘を庇うように自分の前へ立った。あの行動そのものは正直なところ気に入らない。
けれど。
「友人としては、むしろ優秀な部類ね」
少なくとも、りあらを無責任に煽るような子ではない。必要であれば娘を諫めることもできるだろう。
約束通り、りあらを早い時間帯に家まで送り届けてもくれた。
「ま。配信者夢乃りあらの足は引っ張らないでしょう」
女性は評価欄へ【A】と入力した。
続いて。
【小鳥遊みあ】
容姿【A】
配信実績【A】
話題性【A-】
将来性【B+】
知性【B+】
判断力【B-】
品行【A】
家庭環境【A】
家柄【A】
娘への好影響【A】
専門能力(ピアノ)【A+】
「この子も悪くないわね。むしろ、全ての項目が高水準だわ」
若いのに礼儀正しい。物腰も柔らかく、年長者に対する受け答えにも問題はない。
自己主張はやや弱いが、それは欠点というほどでもない。
何より、音楽方面の才能が突出している。
今後、娘が歌やライブ活動へ力を入れるのであれば、人脈としても価値があるだろう。
懸念があるとすれば。海外へ留学する意思を持っており、ピアノに重きを置くなら配信を辞めてしまう恐れがある。そればかりは現時点だと読めない。故に将来性はやや低く見積もった。
「小鳥遊……」
女性は名字を見つめた。
「名前の響きも悪くないわね」
数秒の沈黙。
「……いえ。名字の響きで家柄を判断するのは、さすがに違うわ」
自分で呟き、家柄の欄を要調査に変更した。
今の時代、家柄などと言えば笑われるだろう。本人もそれくらいは理解している。
だが。
誰と付き合うのか。どんな家庭で育った人間と交友関係を築くのか。それによって、人間の価値観が左右されることは少なからずある。
娘が普通の高校生なら、ここまで気にする必要もなかった。
しかし、夢乃りあらは違う。
既に多くの人間から注目を集める配信者。しかもこれから、さらに上を目指せる可能性がある。
交友関係一つ。不用意な発言一つ。たったそれだけで、何年もかけて積み上げたものが崩れる世界なのだ。危険の芽は早めに摘むに限る。
「親として確認しておくのは当然でしょう」
誰に言うでもなく、そう呟く。
小鳥遊みあの総合評価も【A】。
そして。
最後の名前を表示した。
【星野ひまり】
女性の指が止まった。
「…………」
本日、初めて直接会った少女。
まず最初に入力した項目は……
容姿【S】
そこだけは迷わなかった。顔立ちそのものが整っている。目鼻立ちは華やかなのに、決して派手すぎない。
画面越しでも十分目を引くが、実物はそれ以上だった。配信中は加工でもしてるのではと怪しんでいたものの、生で見ると周囲とは違うオーラを放っていた。
「勿体ないわねぇ……」
思わず声が漏れる。本人は、自分の容姿が持つ価値をあまり理解していないらしい。
化粧も薄い。髪型にもそこまで強いこだわりがあるようには見えず、服装も年相応。
にもかかわらず、あれだけ目を引く。
骨格。肌。髪。表情。
どれも素材としては申し分ない。
「きちんとプロに仕上げさせれば……」
少し考える。
専属のヘアメイク、衣装、撮影環境、立ち振る舞い。……そこまで整えてしまえば。
「下手なアイドルより目立つでしょうね」
容姿【S】の横へ小さく追記する。
(完成時予測)【S+】
自分で書いておきながら、女性は僅かに眉を上げた。
「……高校一年生に完成時予測って、何をしているのかしら。私は」
夢乃りあらさえ霞んでしまう美貌。そこにわずかな嫉妬も覚える。
削除しようとして……やめた。参考情報としては必要だ。
「次ね」
配信実績【C】
現時点では娘や黒崎レイほどではない。配信者として見れば活動期間も短く、今後継続出来るのかさえ怪しい。コラボや案件配信もまだまだ少ない。駆け出しも駆け出しだ。
しかし。
話題性【A】
これは高い。女子高生の人生相談。妙に会社員じみた発言。そして、残業への恨みを込めた歌。
変な方向で今現在バズっている。
「……どうしてこんな方向性で人気が出ているのかしら」
理解し難い。……理解し難いが。数字が伸びている以上、需要が存在するのは事実だ。
将来性【A】
ここも高く付けざるを得ない。星野ひまりは容姿だけではない。
妙に耳へ残る発言、人とは違う個性、動画に切り抜かれやすい言動。
本人が意識しているかどうかはともかく、配信者として非常に強い要素を持っている。
「……どうしてこの子、こんなに条件が揃っているのかしら」
少し面白くない。だが、評価に私情を挟むべきではない。ここは客観的に見なければ、そもそも評価する意味が揺らいでしまう。
知性【A】
先ほどの応対を見る限り、低く見積もる理由はなかった。突然意見を求められたにもかかわらず、感情的に反発しなかった。
まず自分の支えを認めたうえで。その後に、娘を休ませるべきだと主張した。高校一年生とは思えないほど、言葉の選び方が上手い。大人と話す経験も豊富に持っていそうな落ち着きだった。
「んー。賢そうではあるのよねぇ」
判断力【A】
これも同様。問題は次。
品行【B】
「好きな食べ物が塩辛に、残業の歌……」
少しだけ眉を寄せる。素行が悪いわけではない。……むしろ直接会った印象は礼儀正しい。
ただ。
女子高校生として、何かがおかしい。どこがと聞かれると非常に説明しにくいが。
「……まあ、問題行動ではないわね」
【D】や【C】では無く、【B】。合格点だ。
次。
家庭環境【要調査】
両親。職業。教育方針。経済状況。確認できる情報はまだ多くない。配信でもあまり触れられない話題。りあらを介してその内聞き出す必要がある。
家柄【|】
女性の指が止まる。
一度は【C】と入力した。
が、数秒後に削除する。
「情報がないものを低く評価するのは公平ではないわ」
こんな行為をしておきながらも、本人なりに公平であるつもりだった。
そして最後。
娘への好影響【|】
「…………うーん」
星野ひまりの言葉が蘇る。
『友達と遊ぶことや、趣味なんかを配信のために我慢しなきゃいけないなら……いつか配信そのものまで嫌いになっちゃうかもしれません』
『配信のことを考えずに、ただ親子として過ごす時間があってもいいんじゃないでしょうか』
あの時。
娘は星野ひまりの言葉を聞いていた。それどころか、どこか救われたような顔をしていた。
女性は評価欄へ指を置く。
娘への好影響【D】
入力したのは、女性の中で最低ランクの【D】。
だが。
「……違うわね」
削除。
【C】
「うーん」
これも違う。再び消す。
……悪影響。
そう断言してしまうのは、どう考えても不公平だ。星野ひまりが言っていること自体は、決して間違っていない。
むしろ。娘自身のことを考え、あれだけ冷静に言葉を選べる友人は貴重だろう。
ならば。
娘への好影響【B】
女性はそう入力した。
そして。
「…………そうねぇ」
しばらく考えてから。その下へ、新しい評価項目を追加した。本来ならば、配信者によって得意な項目をユニークスキルっぽく打ち込む欄。レイならゲーム、みあならピアノ。
だが。
母親への危険度【S】
自分で入力した文字を見つめる。
「危険度って……これ、専門能力ではないわね」
数秒考えた。
さすがに大袈裟ではないだろうか。高校一年生の少女に対して。削除ボタンへ指を伸ばす。
しかし、途中で止まった。
「……いえ」
やはり残しておこうと。
星野ひまりは危険だ。素行が悪いからではない。娘へ悪い遊びを教えるからでもない。
その逆。礼儀正しく、頭が回り、容姿にも恵まれ、配信者としての将来性も高い。
そして何より娘から好かれている。もし、ただの素行の悪い少女なら簡単だった。
「あの子とは距離を置きなさい」
そう言えばいい。しかし星野ひまりには、それを言うだけの明確な理由がない。
むしろ、友人として見れば優秀。
配信者仲間として考えても、今後大きな利益をもたらす可能性がある。
だからこそ。
「……厄介なのよねぇ」
正しい言葉ほど、人を動かす。娘があの少女の考え方に強く影響されれば。これまで自分が正しいと思って続けてきた方針そのものへ、疑問を抱くかもしれない。
女性は最終評価を入力する。
【星野ひまり】
容姿【S】(完成時予測)【S+】
配信実績【C】
話題性【A】
将来性【A】
知性【A】
判断力【A】
品行【B】
家庭環境【要調査】
家柄【要調査】
娘への好影響【B】
母親への危険度【S】
補足:要警戒。
「一旦完成したわね」
一覧を眺める。
どう考えてもおかしい。母親への危険度という項目を高くすると、総合評価を決める際に訳がわからなくなってしまう。
女性はしばらく無言になった。
「……私情は入れていないはずなのだけれど」
入っている。盛大に入っている。だが、それを指摘する人間はこの部屋にはいなかった。
やはり【母親への危険度】は削除する。代わりに、本来の欄へ入力した。
専門能力(人生相談)【S】
「……これならいいわね」
女性は満足そうに頷いた。結局、意味するところは大して変わっていないのだが。
【星野ひまり】
容姿【S】(完成時予測)【S+】
配信実績【C】
話題性【A】
将来性【A】
知性【A】
判断力【A】
品行【B】
家庭環境【要調査】
家柄【要調査】
娘への好影響【B】
専門能力(人生相談)【S】
補足:要警戒。
「ひまりさんについては少し、調べておいた方がよさそうね」
タブレットを閉じる。
その女性……夢乃りあらの母親は。
娘の友人三人を採点した一覧表を、何の疑問もなく保存した。
三人の過去配信については、公開されているアーカイブを全て等倍で視聴済み。総視聴時間、五百三十七時間二十二分。
「娘の交友関係を把握するためなら、この程度は当然でしょう」
大切な娘とコラボさせるからには、それ相応の格というものが必要なのだ。
どれだけ的外れで、余計なお世話な行いなのか。指摘してくれる人は、今はどこにもいないのであった。