50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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三十話 格付け

 

【黒崎レイ】

 

 容姿【A】

 配信実績【A】

 話題性【A-】

 将来性【A】

 知性【B+】

 判断力【A】

 品行【B+】

 家庭環境【B】

 家柄【C】

 娘への好影響【A】

 専門能力(ゲーム)【A+】

 

「……問題なし」

 

 女性はタブレットの画面を指先でなぞり、次の項目へ移った。

 

 黒崎レイ。

 

 娘とは比較的長い付き合いがある。

 

 多少言葉遣いに難はあるものの、感情に流されにくく判断も早い。ゲーム配信者としての実績も十分。

 

 先ほども、娘を庇うように自分の前へ立った。あの行動そのものは正直なところ気に入らない。

 

 けれど。

 

「友人としては、むしろ優秀な部類ね」

 

 少なくとも、りあらを無責任に煽るような子ではない。必要であれば娘を諫めることもできるだろう。

 約束通り、りあらを早い時間帯に家まで送り届けてもくれた。

 

「ま。配信者夢乃りあらの足は引っ張らないでしょう」

 

 女性は評価欄へ【A】と入力した。

 

 続いて。

 

【小鳥遊みあ】

 

 容姿【A】

 配信実績【A】

 話題性【A-】

 将来性【B+】

 知性【B+】

 判断力【B-】

 品行【A】

 家庭環境【A】

 家柄【A】

 娘への好影響【A】

 専門能力(ピアノ)【A+】

 

「この子も悪くないわね。むしろ、全ての項目が高水準だわ」

 

 若いのに礼儀正しい。物腰も柔らかく、年長者に対する受け答えにも問題はない。

 

 自己主張はやや弱いが、それは欠点というほどでもない。

 

 何より、音楽方面の才能が突出している。

 

 今後、娘が歌やライブ活動へ力を入れるのであれば、人脈としても価値があるだろう。

 

 懸念があるとすれば。海外へ留学する意思を持っており、ピアノに重きを置くなら配信を辞めてしまう恐れがある。そればかりは現時点だと読めない。故に将来性はやや低く見積もった。

 

「小鳥遊……」

 

 女性は名字を見つめた。

 

「名前の響きも悪くないわね」

 

 数秒の沈黙。

 

「……いえ。名字の響きで家柄を判断するのは、さすがに違うわ」

 

 自分で呟き、家柄の欄を要調査に変更した。

 

 今の時代、家柄などと言えば笑われるだろう。本人もそれくらいは理解している。

 

 だが。

 

 誰と付き合うのか。どんな家庭で育った人間と交友関係を築くのか。それによって、人間の価値観が左右されることは少なからずある。

 

 娘が普通の高校生なら、ここまで気にする必要もなかった。

 

 しかし、夢乃りあらは違う。

 

 既に多くの人間から注目を集める配信者。しかもこれから、さらに上を目指せる可能性がある。

 

 交友関係一つ。不用意な発言一つ。たったそれだけで、何年もかけて積み上げたものが崩れる世界なのだ。危険の芽は早めに摘むに限る。

 

「親として確認しておくのは当然でしょう」

 

 誰に言うでもなく、そう呟く。

 

 小鳥遊みあの総合評価も【A】。

 

 そして。

 

 最後の名前を表示した。

 

【星野ひまり】

 

 女性の指が止まった。

 

「…………」

 

 本日、初めて直接会った少女。

 

 まず最初に入力した項目は……

 

 容姿【S】

 

 そこだけは迷わなかった。顔立ちそのものが整っている。目鼻立ちは華やかなのに、決して派手すぎない。

 

 画面越しでも十分目を引くが、実物はそれ以上だった。配信中は加工でもしてるのではと怪しんでいたものの、生で見ると周囲とは違うオーラを放っていた。

 

「勿体ないわねぇ……」

 

 思わず声が漏れる。本人は、自分の容姿が持つ価値をあまり理解していないらしい。

 

 化粧も薄い。髪型にもそこまで強いこだわりがあるようには見えず、服装も年相応。

 

 にもかかわらず、あれだけ目を引く。

 

 骨格。肌。髪。表情。

 

 どれも素材としては申し分ない。

 

「きちんとプロに仕上げさせれば……」

 

 少し考える。

 

 専属のヘアメイク、衣装、撮影環境、立ち振る舞い。……そこまで整えてしまえば。

 

「下手なアイドルより目立つでしょうね」

 

 容姿【S】の横へ小さく追記する。

 

(完成時予測)【S+】

 

 自分で書いておきながら、女性は僅かに眉を上げた。

 

「……高校一年生に完成時予測って、何をしているのかしら。私は」

 

 夢乃りあらさえ霞んでしまう美貌。そこにわずかな嫉妬も覚える。

 

 削除しようとして……やめた。参考情報としては必要だ。

 

「次ね」

 

 配信実績【C】

 

 現時点では娘や黒崎レイほどではない。配信者として見れば活動期間も短く、今後継続出来るのかさえ怪しい。コラボや案件配信もまだまだ少ない。駆け出しも駆け出しだ。

 

 しかし。

 

 話題性【A】

 

 これは高い。女子高生の人生相談。妙に会社員じみた発言。そして、残業への恨みを込めた歌。

 

 変な方向で今現在バズっている。

 

「……どうしてこんな方向性で人気が出ているのかしら」

 

 理解し難い。……理解し難いが。数字が伸びている以上、需要が存在するのは事実だ。

 

 将来性【A】

 

 ここも高く付けざるを得ない。星野ひまりは容姿だけではない。

 

 妙に耳へ残る発言、人とは違う個性、動画に切り抜かれやすい言動。

 本人が意識しているかどうかはともかく、配信者として非常に強い要素を持っている。

 

「……どうしてこの子、こんなに条件が揃っているのかしら」

 

 少し面白くない。だが、評価に私情を挟むべきではない。ここは客観的に見なければ、そもそも評価する意味が揺らいでしまう。

 

 知性【A】

 

 先ほどの応対を見る限り、低く見積もる理由はなかった。突然意見を求められたにもかかわらず、感情的に反発しなかった。

 

 まず自分の支えを認めたうえで。その後に、娘を休ませるべきだと主張した。高校一年生とは思えないほど、言葉の選び方が上手い。大人と話す経験も豊富に持っていそうな落ち着きだった。

 

「んー。賢そうではあるのよねぇ」

 

 判断力【A】

 

 これも同様。問題は次。

 

 品行【B】

 

「好きな食べ物が塩辛に、残業の歌……」

 

 少しだけ眉を寄せる。素行が悪いわけではない。……むしろ直接会った印象は礼儀正しい。

 

 ただ。

 女子高校生として、何かがおかしい。どこがと聞かれると非常に説明しにくいが。

 

「……まあ、問題行動ではないわね」

 

【D】や【C】では無く、【B】。合格点だ。

 

 次。

 

 家庭環境【要調査】

 

 両親。職業。教育方針。経済状況。確認できる情報はまだ多くない。配信でもあまり触れられない話題。りあらを介してその内聞き出す必要がある。

 

 家柄【|】

 

 女性の指が止まる。

 

 一度は【C】と入力した。

 

 が、数秒後に削除する。

 

「情報がないものを低く評価するのは公平ではないわ」

 

 こんな行為をしておきながらも、本人なりに公平であるつもりだった。

 

 そして最後。

 

 娘への好影響【|】

 

「…………うーん」

 

 星野ひまりの言葉が蘇る。

 

『友達と遊ぶことや、趣味なんかを配信のために我慢しなきゃいけないなら……いつか配信そのものまで嫌いになっちゃうかもしれません』

 

『配信のことを考えずに、ただ親子として過ごす時間があってもいいんじゃないでしょうか』

 

 あの時。

 

 娘は星野ひまりの言葉を聞いていた。それどころか、どこか救われたような顔をしていた。

 

 女性は評価欄へ指を置く。

 

 娘への好影響【D】

 

 入力したのは、女性の中で最低ランクの【D】。

 

 だが。

 

「……違うわね」

 

 削除。

 

【C】

 

「うーん」

 

 これも違う。再び消す。

 

 ……悪影響。

 

 そう断言してしまうのは、どう考えても不公平だ。星野ひまりが言っていること自体は、決して間違っていない。

 

 むしろ。娘自身のことを考え、あれだけ冷静に言葉を選べる友人は貴重だろう。

 

 ならば。

 

 娘への好影響【B】

 

 女性はそう入力した。

 

 そして。

 

「…………そうねぇ」

 

 しばらく考えてから。その下へ、新しい評価項目を追加した。本来ならば、配信者によって得意な項目をユニークスキルっぽく打ち込む欄。レイならゲーム、みあならピアノ。

 

 だが。

 

 母親への危険度【S】

 

 自分で入力した文字を見つめる。

 

「危険度って……これ、専門能力ではないわね」

 

 数秒考えた。

 

 さすがに大袈裟ではないだろうか。高校一年生の少女に対して。削除ボタンへ指を伸ばす。

 

 しかし、途中で止まった。

 

「……いえ」

 

 やはり残しておこうと。

 

 星野ひまりは危険だ。素行が悪いからではない。娘へ悪い遊びを教えるからでもない。

 

 その逆。礼儀正しく、頭が回り、容姿にも恵まれ、配信者としての将来性も高い。

 

 そして何より娘から好かれている。もし、ただの素行の悪い少女なら簡単だった。

 

「あの子とは距離を置きなさい」

 

 そう言えばいい。しかし星野ひまりには、それを言うだけの明確な理由がない。

 

 むしろ、友人として見れば優秀。

 

 配信者仲間として考えても、今後大きな利益をもたらす可能性がある。

 

 だからこそ。

 

「……厄介なのよねぇ」

 

 正しい言葉ほど、人を動かす。娘があの少女の考え方に強く影響されれば。これまで自分が正しいと思って続けてきた方針そのものへ、疑問を抱くかもしれない。

 

 女性は最終評価を入力する。

 

【星野ひまり】

 

 容姿【S】(完成時予測)【S+】

 配信実績【C】

 話題性【A】

 将来性【A】

 知性【A】

 判断力【A】

 品行【B】

 家庭環境【要調査】

 家柄【要調査】

 娘への好影響【B】

 母親への危険度【S】

 

 補足:要警戒。

 

「一旦完成したわね」

 

 一覧を眺める。

 

 どう考えてもおかしい。母親への危険度という項目を高くすると、総合評価を決める際に訳がわからなくなってしまう。

 

 女性はしばらく無言になった。

 

「……私情は入れていないはずなのだけれど」

 

 入っている。盛大に入っている。だが、それを指摘する人間はこの部屋にはいなかった。

 

 やはり【母親への危険度】は削除する。代わりに、本来の欄へ入力した。

 

 専門能力(人生相談)【S】

 

「……これならいいわね」

 

 女性は満足そうに頷いた。結局、意味するところは大して変わっていないのだが。

 

【星野ひまり】

 

 容姿【S】(完成時予測)【S+】

 配信実績【C】

 話題性【A】

 将来性【A】

 知性【A】

 判断力【A】

 品行【B】

 家庭環境【要調査】

 家柄【要調査】

 娘への好影響【B】

 専門能力(人生相談)【S】

 

 補足:要警戒。

 

「ひまりさんについては少し、調べておいた方がよさそうね」

 

 タブレットを閉じる。

 

 その女性……夢乃りあらの母親は。

 

 娘の友人三人を採点した一覧表を、何の疑問もなく保存した。

 

 三人の過去配信については、公開されているアーカイブを全て等倍で視聴済み。総視聴時間、五百三十七時間二十二分。

 

「娘の交友関係を把握するためなら、この程度は当然でしょう」

 

 大切な娘とコラボさせるからには、それ相応の格というものが必要なのだ。

 

 どれだけ的外れで、余計なお世話な行いなのか。指摘してくれる人は、今はどこにもいないのであった。

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