50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
「お疲れ様です! ひまりん、本日も出勤しました!」
カメラへ向かって両手を振る。
昨日は一日中遊び歩いていたこともあって、今日は日曜だというのにずっと自宅でのんびりしていた。
……いや、日曜だからこそ自宅でのんびり出来たとでも言おうか。子供の頃は日曜といえば何かやったりどこかへお出かけする日だった。それがいつの間にか、歳を重ねるほどに家でまったりくつろぐ日へと変化していった。
大人になってもアクティブに活動できる人って尊敬するよ。
そんなわけで、現在は日曜の夕方。もう少しで国民的アニメが全国の学生、社会人に明日は月曜だと伝えるべく放送を始めるだろう。
『ひまりんきたー』
『課長お疲れ様です』
『今日も人生相談?』
『昨日とか配信なかったけど何してたの?』
『サボり?』
『ひまりん! ひまりん!』
「サボりじゃないからね!」
早速とんでもない濡れ衣を着せられた。
「昨日はお休みしてたけど、元々その予定だったから!」
確かに俺の配信の挨拶は【出勤しました】だ。配信していない日は出勤していないとも言えるけど。サボタージュでは無く、事前に休み希望を出してるからセーフでは?
「昨日はね、仲良くしてもらってる配信者のみんなと遊びに行ってきたんだよ」
『おお』
『俺呼ばれてないぞ』
『誰?』
『りあらたそ、レイたそ、みあたそ?』
あっさり当てられた。
「そうそうっ。りあらちゃん、レイちゃん、みあちゃんね」
名前を出すこと自体は、昨日みんなに確認済みだ。
むしろりあらちゃんなんて
【いっぱい話していいよー! 宣伝して宣伝!】
くらいの勢いだった。
『どうだったん?』
『みんなと遊べるとか裏山』
『ひまりんそこ代わって』
ジェラシーなコメント欄。やっぱり、あの三人は人気あるよなぁ。
「いやぁ、楽しかったよー。喫茶店行って、ゲームセンター行って、それから焼肉!」
『食べてばっかじゃない?』
『りあらと焼肉とか嫉妬で狂いそう』
『また食ってる』
『太った??』
「太ってないし、違うから! ちゃんとゲーセンでも遊んだから!」
そう言って、スマホを操作する。
「証拠にこちらをご覧ください」
昨日りあらちゃんから送ってもらったプリクラ画像を画面に表示した。
四人で肩を寄せて笑っている写真。
俺だけ両手全部を使ってハートを作っている。
そして。
【↓飯テロ配信者】
ご丁寧に矢印まで俺の頭へ向いている。
『草』
『飯テロ配信者www』
『誰だ書いたの』
『ひまりんだけハートでかくない?』
『手どうなってんのこれ』
『祈ってる?』
『百式観音使えそう』
「百式観音使えないし、これまでの全てに感謝してはいないから!」
やっぱりそう見えるよね!? ……自分でも思ったもん。
「これはねぇ、ピースハートっていうポーズらしいんだけど……みんな指二本ずつで作るのよ。指示は受けたものの、それが瞬時に理解出来なくてさぁ。結局、りあらちゃんとレイちゃんに手伝って貰った結果がこれだよ」
『若者の中に放り込まれたおじさん』
『プリクラって初めて?』
「プリクラくらい昔から知ってるよ! プリント倶楽部の頃だって」
そこは知ってる。前世でも存在していたんだし。問題はプリクラそのものより、ポーズの名称だと思うの。
それでいうと。
「あとね。【ちゅきちゅき】っていうポーズも撮ったんだけど……」
『ちゅきちゅきひまりん!?』
『見せろください』
『絶対かわいい』
「いや、それがねぇ」
別の画像を表示する。
りあらちゃん、レイちゃん、みあちゃんは綺麗に頬の横へ指を添えている。
俺だけポーズの変遷中。ブレて、残像みたい。
『wwwww』
『ブレてる』
『残像だ』
『はーつっかえ。ちゅきちゅきひまりん見たかった』
「ポーズの名前の由来を考えてたら時間切れになったんだよぉ!」
『なんで撮影中に考察始めるんですかねぇ』
『そういうとこだぞ』
『若者言葉は考えるな、感じろ』
だって気になるでしょ。なんで、あれがちゅきちゅきなのか。
「まあでも、プリクラって結構楽しいねぇ。最初の頃はお絵描き機能とか無かったよね? 確か」
スマホ一つで綺麗な写真が撮れる時代。にも関わらず令和でも生き残っているのは様々な進化があったからに他ならない。
お絵描き機能もそのうちの一つだ。
『昔は?』
『ん?』
『課長ー!!』
しまった。
「子供の頃ね! 子供の頃は全然撮らなかったから!」
……最近この言い訳使いすぎじゃない?
そして、この言い訳には大きな弱点がある。
『今もまだ子供な件』
『ひまりんの子供時代にはお絵描き機能あったと思われ』
うん。ひまりんは十六歳なわけで、子供の頃って言ってもたかが十年前になっちゃうのね。ここらへんのコメントはスルーしちゃおっと。
なんせ危険だ。この視聴者たち、俺の発言を覚えすぎているよ。それだけしっかり見てくれてるのは素直に嬉しいんだけどね?
「そうそう! そういえば格ゲーもやったんだよ!」
『あ、逃げた』
『話題そらした』
『何やった?』
ここは強引にでも話題を変えることに。
「昔の格ゲーが置いてあってねぇ。レイちゃんと対戦したんだけど」
ふふん。
ここは少しくらい自慢してもいいだろう。
「まあ、結果だけ言えば……圧勝しました」
『???????』
『レイに?』
『嘘乙』
まったく信じてもらえなかった。
『ひまりんって格ゲー強いの?』
「いやぁー。スマブラは弱いんだけど、QOF98ならそこそこ戦えるかな」
『古い!?』
『レトロゲーを超えた何か』
おっと。
「お父さんがやってて!!」
食い気味に訂正する。
「お父さんと遊んでいたゲームだったから! 身体が覚えてたんですね!」
『ちょっと無理筋か』
『ハワイで親父に教わってる?』
くっ……自分のことを語るほどボロが。
『レイちゃんリベンジしたがってそう』
ここでも都合の良いコメントだけ拾わせてもらうとしよう。
「そうそう! ブレイブルーってゲームに連れて行かれそうになったよ」
『レイのホームじゃん』
『それもやった?』
「やってない!」
俺は胸を張る。
「その時は私とレイちゃん二人だけで格ゲーしちゃってたから、りあらちゃんが止めてくれました!」
『勝ち逃げされて、レイちゃん可哀想』
『命拾い』
『ホーム専用ひまりん』
「なんでみんな私が負ける前提なの!?」
やったことないゲームなんだから、多分負けるけど!
でも、一応格ゲー経験者としては触ってみたい気持ちもある。
今度レイちゃんに教えてもらおうかな。
『焼肉の話も聞きたい』
『焼肉配信は?』
もう俺の人生相談より需要あるんじゃないの? 食べ物。
「焼肉ねぇ。昨日はすごかったよー?」
『何が?』
「カルビ」
『普通』
『焼肉だもんな』
『何がすごいのか』
みんなわかってないなぁ。
「何枚食べても胃が重くならないの!」
あの脂たっぷりカルビを食べてももたれなかった胃をさする。
『そう……』
『品質改良カルビかな?』
『やっぱり普通では』
「違うんだって!」
これは本当に感動したんだから!
「カルビってさ、ある年齢から三、四枚くらい食べると、こう……脂が胃にズシッと来るようになるんだよ!」
『ある年齢とは』
『健康診断の話?』
『胃もたれ基準で焼肉を語るJK』
「昨日は十枚くらい食べても全然平気だったの!」
『そりゃ……若いから』
『自分で言ってんじゃん』
『若さを初体験する16歳』
中々意図を汲んでくれないコメント欄。ここで俺も流石におかしいと気がついた。
「……改めて言われると変だね?」
十六歳なんだから、十六歳の胃袋しか知らないのが普通なのか。五十歳の胃袋を全国の高校生は知らずに生きてるんだったね。
『何頼んだの?』
「えーと。タン、カルビ、ロース、ガツ、ミノ、ホルモン……あと白米大盛りにキムチとわかめスープ。最後に冷麺」
『食いすぎ』
『育ち盛りだねぇ』
『ガツw』
『また渋いの入ってる』
『肥満りん』
「肥満じゃないし! ガツ美味しいから!」
ここは譲れない。
「りあらちゃんにも食べてもらったけど、美味しいって言ってたよ!」
『夢乃りあらにガツ食わせたんか笑』
『ガツをオススメしてくる女子高生……』
『アイドルのオフ会とは』
『仮に不味くても、りあらは美味しいって言える子』
た、確かにー!? りあらちゃんが食べ物を不味いなんて言うわけないじゃん。
流石にリスナーさんは俺よりりあらちゃんに詳しいなぁ。
……とはいえ、本心で美味しいって言ってくれてたとは思うけどね。思いたい。
「でも、みんなで食べる焼肉っていいねぇ。お肉焼きながら喋って、誰の肉か分かんなくなって、たまに人のカルビ食べちゃったり」
『盗みダメ、絶対』
『飯泥棒』
「ちゃんとガツで弁償したから!」
『等価交換では無い希ガス』
『カルビで返せ』
『ガツ食べさせる為の作戦??』
酷い言われようすぎない?
でも。
昨日のことを思い出すだけで、自然と頬が緩んだ。
ゲームで勝ったこと。プリクラで笑われたこと。みあちゃんが太鼓の達人で無双していたこと。焼肉を食べながらくだらない話をしたこと。
どれも楽しかった。美璃達とのお泊まり会も楽しかったし、ああいう休日なら歳をとっても過ごしたい。
その途中で。
『他に何かイベントあったん?』
リスナーからの何気ないコメント。
「ん?」
一瞬だけ。語っていなかったエピソードが脳裏をよぎる。
夕暮れの歩道で邂逅した、りあらちゃんのお母さんの顔が浮かんだ。
位置情報の監視、りあらちゃんの強張った表情。
……そして、あの親子の会話。
「……んー」
話そうと思えば話せる。
【りあらちゃんのお母さんと偶然会った】
それくらいなら、ただの出来事だ。リスナーもりあらママの登場を喜ぶかもしれない。
……けれど。
(やめておこう)
りあらちゃんが配信で話していない家庭の事情を、俺が勝手に面白話へ変えていいはずがない。
「特にないよ、それくらい!」
焼肉を食べて解散。
楽しい楽しい休日の思い出。
それで良いじゃないか。
「みんな、りあらちゃんがそろそろ配信始めるよ! ひまりんのターンはここいらで終了しようかな」
別に配信時間が被ったって何の問題も無いけれど。ここはむしろ、俺自身がりあらちゃんの配信をリアタイしたい。昨日の今日で彼女の様子が気になってしまう。
『お疲れ様でした』
『りあらちゃんの配信で二次会ですね』
『お疲れ様でした!』
「はーい、お疲れ様でした!」
配信終了ボタンを押して、りあらちゃんの配信枠へ移動する。
りあらちゃん、お顔が浮腫んで無いと良いけどっ。
◇
夢乃りあらの自宅。
リビングのソファに腰掛けた女性は、タブレットに映る星野ひまりの配信を無言で見つめていた。
『特にないよ、それくらい!』
その発言を聞いて。
「……そこは話さないのね」
母親は小さく呟いた。昨日、自分と娘が言い争った件。位置情報の件。どちらも配信で触れれば、十分な話題になったはずだ。
とりわけ、過干渉な母親という話題は視聴者が好みそうでもある。ネットニュースや切り抜きなんかで炎上する恐れさえあった。
『他に何かイベントあったん?』と、単なるリスナーを装ってコメントしたのはりあら母だ。これは危うい賭けでもあった。
しかし星野ひまりは、話さなかった。
りあら母は手元のタブレットを操作する。
【星野ひまり】
品行【B】
「…………そうねぇ」
一度、指が止まる。そして。
品行【B+】
変更。
「まあ。この点については、評価してもいいでしょう」
保存。
「……念のため、暫くはリアタイでチェックはしておかないといけないわね」
タブレットを片付けて、すくっと立ち上がると。
「りあらー! そろそろ配信の準備は終わったかしら?」
自室にいる娘へと声をかけに行った。
「はーい、お母さん」
今日も今日とて、母親による夢乃りあらのプロデュースが始まるのだった。