50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
月曜日は人生何度やり直しても憂鬱。
と、考えるのは実は学生や一般的なサラリーマンくらいな事に最近気がついた。世の中には月曜が休みの人も沢山いるし、こうして月曜に嫌なイメージを植え付けるのはある種学校教育のデメリットなのかもしれない。決まった曜日に決まった行動が出来る力を養うって意味で、メリットでもあるのかもだけど。
そして、俺がただでさえ嫌だなぁと思いつつも頑張って登校してみれば。ある待ち人によって更なる月曜への悪感情を植え付けられることに。
その待ち人とは。最近よくランチを共にしだした、お泊まり会も経てお近づきになれた高橋さんだ。
俺が靴箱に到達するや
「おはよーう、ひまりん」
ガシッと肩を組まれた。この絡まれ方は珍しい。
「おはよう、高橋さん」
「それじゃ行こっか」
どこへ? と聞く前に、そのまま教室方面へ連れて行かれる。
これではまるで、不良漫画で体育館裏に連行されるシーンそのものじゃないか。目的地が教室っぽいから全然大丈夫そうだけど。
「ねぇ。一昨日、クロくんと行った焼肉屋さんってどこ? 座った席も教えて欲しいなー。ほら、同じ席で焼肉食べたら間接的に一緒に食事した事になるでしょ?」
やはりというか。
高橋さんがおかしくなるのは、決まってレイちゃん絡みだね。
ならないよ?
全然ならないよ。
「ていうか高橋さんっ。レイちゃん絶ち、ちゃんと続けなきゃ。いつまでも会わせられないよ?」
「ぐっ。……だってぇ」
理解はしていても我慢が利かないみたい。
「私、つまり身近なクラスメイトが推しとリアルで会ってきたのがそんなに気になる?」
「当たり前でしょっ!?」
肩組んで顔が近い状態で、耳元であんまり叫ばないで欲しい。
高橋さんはフリーな方の手で拳を握り、プルプルと小刻みに震えさせる。
「これまでは、りあらちゃんやみあちゃんとコラボしてても全ては画面の中でしかなかったの。触れたくても触れられない、映画の世界とそう差はなかった。それが、今はどう!? ひまりんという友人を通じてクロくんが一気に現実になったの。単なるファンから、友人の友人へ一気にランクアップしたのっ!」
元々レイちゃんも現実だが……友人の友人も、微妙に遠いってば。なんて事実を述べても高橋さんの耳には入らないだろうなぁ。今の彼女は聞きたいことを聞きたいように聞くだけモードっぽいし。
「で、行った焼肉屋と座った席がわかれば満足なわけ?」
しばらくレイちゃん断ちしたなら、いずれは学園祭や何かで会わせようって考えていたのに。この調子だと道のりは険しそう。
目先の利益に捉われて、遠くの勝利を自ら手放してしまうとは。レイちゃんに会うってだけなのに、なんだか投資みたいな話になってきたなぁ。
「ひとまず、ね。できたらクロくんが何を食べてたとか、飲んでたとかも聞きたいけど。あとは遊んだゲーセンも知りたいなぁ。QOFでクロくんが座った台とかもついでに教えてくれない?」
駄目だこの子……早くなんとかしないと……
ドラマやアニメーションの聖地巡礼みたいなレベルになってるじゃん。
禁断症状ってやつなのかな……俺も、前世で禁酒しなきゃと思い頑張ったりしたものの、いつの間にか我慢するほど美味しいビールが味わえるって方向に目的が変化してしまっていた。
人間って、どこまでも自分を誤魔化せる生き物なんだよねぇ。ま、現状の俺は星野ひまりとなって強制禁酒中なわけだけれど。四年後が恐ろしい!
「んー。直接レイちゃんに会わせろってわけでもないし、それくらいなら良いか。今度時間合う休日に、一緒に行ってみようか」
「ほんとーっ!? やったぁぁぁ!!! ひまりん大好きぃぃ!!!」
俺に抱きつきながらピョンピョン飛び跳ねる高橋さん。
ちょっ、落ち着いて!
髪の毛乱れるー! 制服崩れるー!
前世では絶対気にしなかったポイントが気になってしまう。
ハイテンションな高橋さんをどうにか制御しつつ教室までようやくたどり着けば。
「来たわねっ。ひまりちゃん!!」
「うっ!?」
腕を組み、仁王立ちした女子ダンス部副部長が待ち構えていた。なんという風格。
月曜の朝にどれだけマイナスイベントを盛り込むのですか神様っ。
「瀬戸前先輩……懲りませんね」
瀬戸前千夏。ありがたくも俺にダンスの才能を見出し、部活動に勧誘してくる美璃の知人だ。
「ふっふっふ、ひまりちゃん。アタシの情報網によると、ピアノ系配信者の小鳥遊みあに音ゲーで敗北したそうね? リズム感を鍛えてリベンジするには、我が女子ダンス部はうってつけ……彼女に勝つことを目指し、入部するべきじゃない!?」
情報網て。大げさですね。
ただ配信見てくれただけじゃないですか?
「別に、みあちゃんに勝ちたいとかは思ってませんから。それに彼女は彼女で、日々ピアノを頑張っています。追いかける対象がいわば成長する背中なので、追いつく事は不可能でしょう」
絶望的な努力差、才能差が既にあり。みあちゃんは俺が追いかける速度より早く成長を続けるだろう。音ゲーで勝つためだけなら、まだゲーセンに入り浸った方が可能性あるよ。
みあちゃんに音ゲーで勝つためだけに二度目の青春をゲーセンに費やすのもちょっと……ね?
「ひまりんちゃん、諦めないで!」
スルーして教室に入ろうとする俺に、コウ・ウラキみたいになる瀬戸前先輩。俺はバニング大尉じゃないですよ。
「諦めるとかじゃなく。そもそもみあちゃんに音ゲーで勝ちたい欲は無いので」
「じゃあわかったわ。小鳥遊みあちゃんは一旦置いといて……。そうだ! 夢乃りあらちゃんよりダンスが上手くなりたい欲はない? 今度コラボしたり一緒にステージする時、彼女よりキレのあるダンスで注目を浴びたくない!?」
やれやれ。
今度はりあらちゃんを引き合いに出してくるか。それこそ、厳しいだろう。徹底的にあのお母様にスケジュールを管理されていれば、ダンスの練習も余念がないはずだ。
「むしろ、りあらちゃんファンに怒られそうですね。自分の推しより上手く踊るんじゃない! って」
「ふんっ、そんなのは負け犬の遠吠えよ。ひまりちゃんより下手なダンスを踊る推しが悪いんだもん」
そう単純なもんでもないし、登録者数的には俺の方が圧倒的に引き立て役なんですよ。
「クロくんより歌やダンスが上手いひまりんとか、ちょっと敵かも」
ここで口を挟む黒崎レイ過激派。もとい高橋さん。
「ほら! 黒崎レイファンもこう言ってます。夢乃りあらファンだって、少なからずそう思うでしょう。つまり、ダンスが上手くなりすぎるとコラボするにあたって不都合が生じるリスクがあるんです」
高橋さんの意見を元にそれらしく反論する。ダンス部を否定してるわけでは無いのだけれど。配信しながらダンス部で活動して、という二足の草鞋が俺には向いていないんだ、そもそも。
どっちつかずでダンス部やリスナーさんの両方に迷惑をかけるのは嫌だからね。
「ふーん。……黒崎レイに関しては、すでにひまりちゃんよりダンス下手だけれどねぇ」
セトゥーちゃん先輩っ!? その発言は高橋さんの前でしちゃ駄目です。
「えーと、先輩? 今の言葉、よく聞こえませんでした。クロくんが、ひまりんよりダンスが下手……? とか言いましたか」
バッチリ聞こえてますよね、高橋さん。
「うん。言ったけど?」
「そんなわけないですぅ!! クロくんは、クロくんはダンスも上手いんですー! もしも下手に見えるとしたら、先輩の見る目がないか、あえて下手に踊ってるんですぅ」
ダンス部にダンスを見る目が無いとは。そして、あえて下手に踊る意味ってなんだろう。
や、俺がレイちゃんよりダンスが上手いとは思ってないけどね?
「はぁー……色眼鏡とはこの事ね。ひまりちゃん、別に毎日顔出せとは言わないわよ? 来られる日……例えば配信しない日とか。サラッと練習するだけで良いの。そのうちにダンスの楽しさに気がついて貰える自信があるから」
部活に顔を出す日に、ある程度の裁量を与えてくれるわけか。……そこまでして星野ひまりが欲しいか?
とはいえ。俺だって、また配信で踊る機会があれば下手よりは上手い方が良いと思う。部活動で無料でレッスンを受けられるなら、そう悪い話じゃないのかも……?
「毎日じゃなくていいって、正直惹かれます。下手なダンスでリスナーさんの期待を裏切るのは避けたいですし」
「でしょー!? ダンスの上達は、配信者にとってプラスしかないのよっ」
俺の反応が好意的になった途端、瀬戸前先輩の勢いが増す。
「けど私はやっぱり、クロくんは現時点ではひまりんよりダンス上手いと思いますけどねぇ」
「貴女、まだそこで話止まってるの!?」
高橋さんの執心っぷりに、あの瀬戸前先輩すらちょっと引いてるし。
「廊下がうるさいと思ったら、みんな何してんのよ! セトゥーちゃん、まーたひまりに絡んでんの?」
そろそろ授業の準備したいのに……なんて俺が思い始めたタイミングで救いの神。美璃が教室から出てきた。
「美璃……アタシは何度でもやって来るわ。ひまりちゃんだけじゃない。お前も我がダンス部に入れてやるんだからっ!」
「あーはいはい。つーかもう予鈴だし、さっさと二年の教室戻りなよ」
美璃にあしらわれ、瀬戸前先輩は「覚えてなさい!」と三下っぽく去っていった。アイルビーバックしそう。
「ねぇ、白石さん。ひまりんよりクロくんの方がダンス上手だと思わない?」
「高橋っち。その話、とりま一時間目終わったら聞くわ」
厄介なレイちゃんファンと化した高橋さん。そして、熱量全開な瀬戸前先輩。この二人を軽く御せる美璃って、何気に凄くないだろうか?
ただ登校するだけでこんなに疲れるだなんて。俺はやっとの思いで一時間目の準備を始めるのだった。
今後、土日に配信するたびにこんな月曜日が待っているのかしら……
高橋さんや瀬戸前先輩を対策するとなると、全然自由に喋れなくなってしまうぞ。
いっそのこと月曜日だけ、美璃と一緒に登校するようにしちゃおうかな。
瀬戸前先輩に限っては、週に何回かダンス部に顔を出せば勧誘も無くなるだろうから解決するかな?
これは自分勝手だけど、どうせそうするなら美璃もダンス部に来て欲しい……
彼女が何故、ダンスを離れたのか。そこをもっと深く聞くまでは気軽に誘うべきではないのかもしれないが。