50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
昼休みを知らせるチャイムが鳴り響き、日直が授業終了の挨拶をする。美璃と高橋さんが俺の元へやって来て、昼ごはんを各々机に広げ出す。
「おつー。ようやっと昼休みね。月曜はなんか時間流れるの遅いわー」
美璃がグデっと椅子の背もたれに体重を預ける。気持ちはわかるよ。
ただ、社会人として毎日十時間労働はしてた身からすれば、昼休みイコール一日もそろそろ終わりって感覚だけれども。部活動やバイトをしている人からすれば、社会人と同様にまだ折り返し地点って感じなのかな。
「ねぇねぇ。ひまりんってダンス部入るの?」
高橋さんがお弁当の卵焼きを飲み込んで、朝の件を振り返ってきた。俺が瀬戸前先輩に勧誘され、レイちゃんよりダンスが上手いとされたのがまだ引っかかってる?
「あ、止めたいとかじゃなくてね! やっぱり、あのダンス部のひと……」
「瀬戸前先輩?」
「そう、瀬戸前先輩の評価は正しいかもって気はしててさ。ひまりんがこれ以上ダンス上手くなると、クロくんが下手に見えるかもじゃない?」
高橋さんは小さな声で「ガチれば一番上手いんだけど」と挟んで。
「りあらちゃんもダンスは超上手いし、小鳥遊みあちゃんもリズム感は天性のものがあるし。相対的に、ひまりんがダンス部入る理由も無いんじゃないかなって」
ここにきて、レイちゃんより俺の方がダンス上手いとした上で、推しが恥をかかないよう舵取りしたいみたい。
「だから、私はレイちゃんよりダンス上手くは無いけどね? その前提がまず間違ってるからね?」
「それはどうかな。ひまり、センスは良いよ? ガチで。黒崎レイはダンスに全振りしてるわけでも無いし、そこはセトゥーちゃんと同意見だわ」
「そ、そう? ……ありがとう。それは美璃のお陰でしかないけどっ」
俺のダンスの先生、美璃も同じ所感とのこと。客観的な意見だし、ここは一旦そうだとしよう。
「でも、だとしたら女子ダンス部に入る理由は無くなっちゃうかな。高橋さんの言う通り、レイちゃんと対等以上に踊れてるなら満足だし」
これは本心。みんなの足手まといになっていなければ俺としては合格でしょ。
「良かったぁ。クロくんは抜きにしても、ひまりんが部活始めちゃったら遊ぶ機会も減っちゃうだろうし、お泊まり会ももっとやりたいからね」
高橋さんがホッと一息。確かに、一緒に帰ったり休日遊んだりが今より難しくなるのは明白だ。レイちゃん云々も大事なんだろうけど、この三人で遊ぶ機会が減ってしまうのも嫌だったんだね。
「まったく、高橋っちは素直じゃないなぁ。最初から、ひまりともっと一緒にいたいから部活入らないでって言いなし」
「は、はいぃ?」
美璃にからかわれ、杉下右京みたくなる高橋さん。
「あんまりいい加減なこと言わないでよっ。そりゃ、ひまりんとは遊びたいけどさ! それじゃあ私がひまりん好きすぎみたいじゃんっ」
顔を真っ赤にしてまくしたてる。
えっ、俺ってあんまり好かれてなかったのか?
高橋さんに否定され、俺がややうつむくと。
「違うってひまり。高橋っちがひまりを嫌いなわけないじゃん。ね、正直になんなよ」
美璃が高橋さんに向き直って
「好きすぎとはいかなくても、ひまりのこと好きではあるんでしょ?」
イタズラっぽく微笑む。ちょっと! これで否定されたら立ち直れないんだけどっ。そういうのって本人の前で聞くもんなの? 令和ってそうなの?
バクバクと脈打つ心臓を感じながら、俺は恐る恐る高橋さんに視線を移す。なんでこんな告白の返事待ちみたいな心境にならなきゃなんないのか。
高橋さんと視線が合う。お互い、なんか気まずくて自然に逸らす。
それから数秒おいて。
「好き……に決まってるじゃん。友達なんだし」
横を向いたまま、高橋さんは答える。
人からの好意を目の前で直接伝えられ、こっちもドギマギしちゃう。
こう言う場合って、こちらも気持ちを伝えないと誠実じゃ無い……のかな?
「あ、ありがとう高橋さん。私も高橋さんのこと、好き……だからね?」
は、恥ずかしいー!
女の子同士の友情を確かめてるだけなのに、なんでこんなに羞恥心マックスなの? こんな状況にしたのは美璃だ。俺と高橋さんがキッと美璃の顔を見ると。
「お熱いねぇ、お二人さんっ。告白しあうとか、こっちまでテレるじゃんか。ひょっとしてお邪魔かな?」
ニヤニヤと豆乳飲料を口にする。明らかに楽しんでるよね!? 意地悪だなぁ。
「とにかく、ダンス部にはひとまず入らないから。瀬戸前先輩が勧誘して来たら、また美璃に対応して貰えると助かるよ」
「えー、セトゥーちゃん、台所の汚れよりしつこいじゃん? 普通に面倒なんですけど。……ひまりにダンス部入られるのは困るし、引き受けるけどさぁ」
よし! 美璃を味方につけられたのは大きい。俺は街角のセールスなどをノーサンキューするのは得意でも、部を盛り上げたいという情熱から来る瀬戸前先輩の誘いを拒み続けるのは心苦しい。掛け値なしの想いっていうのは、それだけ人の心に響くんだよね。
「私とひまりんをいじってニヤついてたんだし、それくらいしたってバチは当たらないと思いまーす!」
高橋さんが仕返しとばかりに小悪魔な笑い。
「それにぃ、美璃ちゃんだってひまりんのこと好きでしょ?」
こちらのターン! とばかりに美璃を挑発しだす。これは……美璃を照れさせつつ、俺を好きだって言わせようとしてる? だから、もしここで嫌いだけど? とか言われたらこっちがトラウマなんだよぉ。
戦々恐々。美璃の横顔を、祈るように見つめるしか出来ない俺。
「ん? 好きに決まってんじゃん。好き好き、ちょー好きだね」
そんな俺の心境など知らんとばかりに。美璃ときたら目を合わせながら好きを連呼してきた。
嫌いって返事じゃなくて良かった半分、そんな連呼されたら逆に落ち着かない。
「それ! こっちまで恥ずかしくなるでしょっ」
周囲にクラスメイトだっているんだから! 鏡が無いから確認できないけど、絶対俺の顔は赤い。こんな若い女の子相手に、我ながら情けない。
「そぉ? んで、ひまりは私のことどう思ってんの? ここまで言わせたんだから……わかるでしょ?」
ここでまたニヤッと口角を上げる美璃。
あのですね、君達は同性同士のおふざけ混じりって感じなんだろうけど……俺の前世は男なんですよ。年端も行かない子供相手とはいえ、異性に好きって伝えるのは緊張するわけ。
なんなら、ジェンダーレス的な考えが広まるこの時代。同性同士でもこうした悪ふざけは慎重になるべきだと思います!
「ねぇねぇ。私のこと好きなのぉ?」
……これが、令和ギャルか。
からかい上手にも程があるよっ。
「好き」
俺にしては頑張った。短くそう伝えただけ偉いと、自分を褒めたい。
「えー嬉しい。両思いじゃーん」
そうやってさ! 将来、なんか色々と手玉に取りそうでおじさん心配になるから!
しかし。
こちらをイジるだけイジって満足したのか、美璃は何事もなく唐揚げを口へ放り込んだ。
いや、こっちはそれなりの覚悟で口にしたんですけどね。
美璃によってなんだか微妙な空気感になった我々も、そろそろ完食が目前となってきた頃。
「そーいや、隣のクラスの山岸さん。彼氏に位置共有アプリ入れるの断られたらしいよ」
美璃が新たな話題を。
位置共有アプリって。確か……りあらちゃんがママに居場所を把握されてるって言ってたやつでは。
「マジで? それって、絶対彼氏さん浮気するじゃん」
高橋さんがティッシュで口を拭きながら。位置情報を恋人同士で把握し合うとして、なるほどそれはやましい事は出来なくなるね。だから高橋さんの返しになるわけか。
「プライバシーとかってどうなの?」
そもそも、そのアプリの用途がわからず俺は気になる点を聞くことにした。今の認識は、りあらちゃんママが娘を監視するため利用してたモノだ。親子間、恋人間であってもやりすぎな面が無いだろうか。
「んー。好きな人が相手なら良いんじゃない? やましい事が無ければ、断る必要も無いだろうし」
美璃は割とアプリに好意的らしい。
「だよねー。それで断ってくる男とか、ちょっと信用出来ないかも」
高橋さんも。女子目線だとそうなのかな? だったら、親が娘を監視するのは割とあるあるなのか。
「へえ。だったら、二人とも親に位置情報把握されてるのかな? なんか事件とかに巻き込まれたら確かに有用だろうし」
りあらちゃんは監視されてるのが嫌そうだった。けれど、美璃と高橋さんは彼女が彼氏の動向を把握したいのは当然みたいな言い分。そこに齟齬を感じていると。
「はあー!? 親が子供の位置監視するとかキショいんですけど。所有物じゃないっての」
「だよね! 入れるとしても小さい……小学生までとか、連絡返さなかったらチェックするくらいじゃない? その用途でも本当は入れたくもないけどっ」
「言ってる事全然違うじゃん!?」
この分だと、自分は良くて彼氏はダメって言い出しても不思議じゃなかった。
やはり、りあらママは少しやり過ぎている部分があるのかもなぁ。
実際、俺たちがオフ会で集まっていたその場にやって来たのも位置情報をチェックしていたからみたいだし。
「つまり、二人とも例えば親に位置情報アプリ入れてくれって強制されたら嫌なわけだよね?」
俺の前世、昭和の学生時代には携帯電話すら無かった。なので門限やらで子供の帰り時間などを管理するのが自然だった。
それが今、どこで何をしてるか遠隔でわかるならだいぶ安心出来ると思う。俺が親の立場だとすれば位置情報を把握しておきたいと考えてしまう。大人から見れば、高校生なんて子供でしかないんだし。
でも。
「嫌でしょ、常識的に考えて。ひまりだって二十四時間監視生活したいかって話」
子供目線では、当然この回答だよねぇ。
なんとなくだけどメリットとデメリットはわかった気がする。
親子の形なんてのは、その数だけあるものだとは思うし、俺から何か言うことはしない。
それでも、もし今後りあらちゃん絡みで何か相談された際には、今の美璃と高橋さんの考えを参考にさせてもらうとしよう。