50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
親と子の衝突。
人間というやつは、どれだけ文明が発展しても感情をコントロール出来ないのかもね。
昔は頑固オヤジや体育教師が子を体罰するなどは当たり前だった。言うことを聞かなかったり駄々をこねればげんこつ。教師は竹刀を装備。授業態度が悪ければ、水を汲んだバケツを両手に持たせ廊下に立たせる。……人権侵害も甚だしい。
その反動で、不良生徒が御礼参りといって学校卒業と同時に教師へ仕返しする事件もしばしば。
今となってはあり得ない、しかし確かにあった時代。
そんな昭和に育った俺からすると。
りあらちゃんママが常に子供を監視して、配信活動の方針で揉めるなんてかなり未来に生きてるなって印象。親に殴られて家出するのが昭和なら、親に勝手にSNS投稿されて家出するのが令和なのだ。
便利になったはずなのに、親子の距離感は相変わらず難しいらしい。
「経緯はわかったよ。きっと、りあらちゃんは自分でも気づかないくらい精神的に辛かったんだと思う。私にはその辛さは想像しかできないけど」
人の心の痛みは当事者にしかわからない。同じ精神的苦痛を与えられても、許容量は人によるので本人以外が【気持ちはわかる】とは軽々しく言えない。
りあらちゃんはティーカップのふちを指でなぞる。
「かも、しれないね。だってお母さんに逆らって家を飛び出したなんて、昨日までの自分なら絶対しないもん」
「うん」
「だけどこのまま我慢をし続けていたら、きっといつか大爆発してたと思う。それこそ、家出なんかじゃ済まなかったかもしれないの」
母親から離れたりあらちゃんは、改めて自分を客観視しているらしい。
家出なんかじゃ済まなかった、か。
軽い口調だけれど、その言葉まで軽く受け取ってはいけない気がした。口論の末に事件に発展したりってのは結構ニュースになっているし。親に干渉されるくらいで何を大袈裟な、という考えは厳禁。世の中、他者からみれば【その程度で?】くらいの理由が大きな意味を持つものなのだから。
ただ、なんにせよ今こうして無事でいることは、お母さんにも知らせておいた方がいい。
「それはなんというか、このタイミングで一度お母様に意思を伝えられて良かったのかもね。何事も無理は禁物だし」
「でしょ!?ひまりんちゃんにそう言って貰えると、心が軽くなるよ」
「けど。ここに居ることはお母様知らないんだよね?連絡くらいは入れたほうが良いよ」
「えーっ?どうせ位置情報アプリで調べれば……って、今はOFFにしてるんだっけ。でもなぁー」
あからさまに不服そう。家出の一因はりあらちゃんママなんだし、連絡を取りたくないのは納得できる。位置情報アプリにオンオフ機能なんかあるのね。考えてみれば当然か。
とはいえ。
「なら尚更、お母さん的には気が気じゃないと思うよ。もしかしたら警察に捜索依頼出されちゃうかもしれないし、ひとまず居場所だけでも伝えるべきだって。電話が嫌ならメッセージでもいいからさ」
俺が親の立場だとして。喧嘩した娘が家を飛び出し行方がわからなくなれば、警察のお世話になる事も辞さない。
後から誘拐だ監禁だと疑われるのも嫌なので、家にあげた俺としてもお母さんには連絡してあげて欲しい。
「面倒だけど、しょうがないなぁ。ひまりんちゃんの言うとおりなのは理解できるし」
お母さんと連絡を取りたくない気持ちはあるのだろう。それでも、りあらちゃんはスマホを取り出してくれた。
「メッセージにしよっと。【お母さんへ。ひまりんちゃんの家に来てるので心配無用です。今日の配信は休みます。数日休んで気分転換出来たら帰ります】……こんなんでいいかなっ。あ!証拠にツーショット撮っても良い?」
「またお母様のヘイトが私に向きそうだけれど……まあ良いよ」
りあらちゃんが困っていたから家に招待しただけなのに、普通にツーショットを撮っては俺が唆したみたいでは。文章だけよりも安心しては貰えるだろうが。
「送信完了!あとはお母さんが配信を取り消してくれれば良いんだけど……楽しみにしてくれてた皆んなには申し訳無いなぁ」
これでお母さんのケアは完了。もう一つの大きな問題は、このあと予定されていた配信のほうだ。
「配信の管理はお母さんなの?」
俺はぬるくなった紅茶を飲み干す。
「ていうか、家のPCだから現状お母さんしか操作出来ないってとこだね」
それもそうか。
りあらちゃんからのメッセージが届き、配信枠がキャンセルされれば解決だな。キャンセルされなかったとしても、りあらちゃんが居ないんじゃどうしようも無いけどね。
「さーて、カレー作ろうよひまりんちゃん!お母さんのせいでカロリー消費したから、もうお腹ペコペコだよぉ」
「うん。後はお母様に委ねるしか無いし、煮込む時間も必要だからそうしよっか」
俺たち二人は台所へ移り、役割分担をしながらテキパキとカレーを調理する。りあらちゃんは実家暮らしと思えないほど、手慣れていた。
失礼ながら、ちょっと意外。
「りあらちゃんって普段料理するの?」
「しないよー?あ、さてはりあらが手際良いので怪しんでるでしょ」
うん。
一人暮らしが長いとかならわかる。
「これもお母さんの影響だよ。今だと人気のコンテンツで、料理系配信者や食べ歩き配信者は多いでしょ?そこへりあらが切り込めれば更なるファン獲得に繋がるんじゃないかってさ。元々料理は好きなのに、なんでもかんでも数字に結びつけられると……ねぇ」
しまった。全ての話題がお母様へ通じてしまう。ローマへ通ずじゃないんだからさぁ!
「そ、そっか。キッカケはなんであれ、料理が上手な人は良いと思うよ。将来自炊する時役立つしっ」
今はひとまず、配信やお母さんからりあらちゃんの意識を遠ざけねば。
「てなわけで、具材焼いていきまーす」
カレー用の深いお鍋で肉を焼き、色が満遍なく変化したら一度取り出す。
残された肉汁にバターを投入。そこへクミンを加えて、香りを立ててから切った野菜達を焼く。一通り油がまわったら、水を加えて煮込むのみ。赤ワインやビールを水の代わりに何割か入れるとより美味しいんだけど、未成年ゆえに今回は水で我慢。コンソメ顆粒やローリエがあれば更なる奥行きや香りを与えられる。
マッシュルームやセロリなんかを擦りおろし、追加すると味わい深くなるのでオススメ。
「ひまりんちゃん、なんか凄いね!まるで何度も作ったみたいに澱みないし。いつもカレー食べてたりする?」
「そんな、凄くもないって!カレーはよく作るけど、変にこだわり過ぎてりあらちゃんのハードル上げちゃってるかも」
勿論前世の話、俺は一時期カレーにこだわっていた時期がある。自炊経験が豊富な人には必ず訪れるカレーへのこだわり期間。妙に手慣れてたとしたら、そのカレーハマり時期が原因なのだろう。
野菜や肉は二十分ほどコトコト煮込む必要がある。丁寧にアクを取り除くほど、カレーは澄んだ味わいで応えてくれる。
「よし、じゃありあらお味噌汁作るね!」
中々手伝うタイミングが無いと思ったのか。
りあらちゃんが冷蔵庫からネギと豆腐を見つけて味噌汁の作成にとりかかる。
「ありがとう!ルゥ溶かす時に味噌もわずかにいれたいから、小皿に少し出しておいて」
「えっ!?カレーに味噌……合うの?」
合わないと思うよね?
ちょっと気持ち悪いと思うよね?
ところがどっこい。
美味さが詰まった味噌はカレーとの相性も抜群。気になる人は、今度お試しあれ。
ルゥを溶かして、味噌やウスターソースを追加。十分程度煮込んでとろみがつけば完成。
「よしっ、完成!!りあらちゃん、食べられる分だけお米盛ってね!」
浩二特製カレーならぬ、ひまりん特製カレーとでもしておこうか。
「わーい!すごく美味しそうで楽しみっ」
炊飯器から炊き立てのご飯を結構よそうりあらちゃん。焼肉の時も思ったけど、この子は見た目の華奢な印象とは裏腹に沢山食べるタイプみたい。カレーを作った俺としては、ちょこっとしか食べられないより嬉しい。
「おうちだとお母さんに食べ過ぎって言われるけど……今日は関係ないから!」
俺の視線に気がついたのか、りあらちゃんは微笑む。
日頃、自宅だとりあらちゃんママがストップをかけるそう。毎日の食事量まで厳しく管理されているのもストレスとなっていたのだろう。
「うん。うちならお母様の目も届かないし、好きなだけ食べて食べて!」
お互いのカレーと味噌汁、福神漬けをテーブルに用意し着席。お口に合うといいなぁ。
「ひまりんちゃん特製カレー、写真撮って後で投稿しよっと。良いかなっ?」
映えを意識しながらカレーを撮影するりあらちゃん。
「勿論!でも、その量のカレーを食べたってお母さんにもバレちゃうけど大丈夫そう?」
心配はそこだけ。せっかく親の目が光らないのに、わざわざ自分から申告しなくても……
「いいの。毎日の食事量に関しても改善して欲しいっていう小さな抵抗って事で」
スプーンを持ちながらニヤッとするりあらちゃん。
そうか、確かに。この際言いたいことは全てぶちまけるべきだな。
「なるほどね。そしたら、今日はお腹いっぱい食べようね!」
「うん。ひまりんちゃん特製カレーいただきます!」
「いただきます」
礼儀正しく手を合わせる。俺も続けた。
擦りおろした野菜を含むルゥはトロッとご飯に絡む。熱々の白米とカレー。一口食べれば、野菜の旨みとスパイスの香りがブワッと広がる。味噌によるコクもあり、中々上出来だ。
「美味しいー!!えっ、ひまりんちゃん天才過ぎん!?」
大きな目を丸くする。嘘偽り無くそう思ってくれたようで、二口三口と続け様にカレーを運ぶ。
「良かったぁ。りあらちゃんに美味しいって感じてもらえて、きゃっほるんるんだよ!」
「きゃっほるんるん?」
耳慣れない単語に首を傾げられた。
「あ、嬉しいって意味だよ!バッチグーみたいな」
「バッチグー??」
全然伝わらない。
これがジェネレーションギャップ!
「ごめん、ちょっと死語だったかも。アツい、だね」
「ああ!なるほどぉ。りあらも今度から配信でバッチグーとか使ってみようかな。なんか可愛いし。きゃっほるんるんも!」
うん。良いと思うけれど、りあらちゃんが昭和や平成なキャラを取り入れると、俺のアイデンティティが少し……
というか。りあらちゃんママが古い映画やドラマを教えて語らせようとしたのって……
自意識過剰かもしれないが、俺とキャラを被せに来てたりしてる?
まさかね。
俺のこういうところにも需要があると見て、りあらちゃんにも取り入れさせようとしたのかな。
……だとしたら、お母様。研究熱心にもほどがあるよ。
「ひまりんちゃん、どうかした?」
スプーンが止まっていた俺の顔を覗き込んでくる。
「や!なんでもないよ。りあらちゃんのお味噌汁、美味しい!!」
誤魔化すようにネギと豆腐の味噌汁を飲む。味噌を溶かしてからは煮立たせないよう配慮されたそれは、風味を損なわず美味だった。
「ありがとー!今度、レイやみあも呼んでお料理配信ありかもね?」
自作の料理を褒められ、りあらちゃんは上機嫌だ。その発言から、配信そのものが嫌なわけでも無いのかな。
カレーをそろそろ完食しそうな頃合いに。
ブーッ、ブーッ。
テーブルの端に置いてあったりあらちゃんのスマホが振動する。
「あー、やっぱ電話くるかぁ」
着信相手は当然、りあらちゃんのお母さんだった。配信枠も取り消されず、もうじき開始の時刻だ。
てっきりこれも無視するのかと思えば。
「はい、もしもし?」
りあらちゃんは当然といった風にお母さんとの通話を開始した。