50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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三十七話 これぞ夢乃りあら!

 

 先ほどまでのキャピキャピした顔は鳴りを顰め、りあらちゃんは無表情で電話に出る。

 母親の声は聞き取れないが、何も伝えずに家を出たのを責められているみたいだ。

 

「だからぁ、ひまりんちゃんちにいるんだって! 写真もさっき送ったでしょ!?」

 

 頭を強めに搔くりあらちゃん。手入れされた髪の毛がほのかに乱れる。どうやらお母様はどこにいるのかから再度確認してきたらしい。証拠写真まで送っているのに疑われては声を荒げたくもなるか。

 

「うん。大丈夫、カレー食べさせてもらった。うん」

 

 所在確認が終われば、次はご飯はちゃんと食べてるかの心配かな? こうして会話を横から聞いていると、どこにでもいる普通の親子だ。

 

「それより、早く配信中止してよ! このままじゃリスナーさん達が混乱しちゃうでしょ」

 

 それから話題は本日の配信について移行した。我が家にりあらちゃんがいる以上、今日の配信は中止にするしかない。なのにお母様が強硬手段で配信待機中にし続けている。こうなるとリスナーさん達は定刻通り配信がスタートすると思い待ち望んでしまう。散々待たされた挙句中止されてはりあらちゃんのイメージを損なうと思うのだけれど。

 

 どちらにせよキャンセルするのなら一秒でも早くそのアナウンスをするべきだ。

 

 俺がりあらちゃんママ……つまりマネージャーの立場であれば、ここは今すぐにでも中止する。

 

 リスナーからの不信感、ネットニュース、娘との対立。

 

 あらゆるリスクを最小限にするには傷が浅いうちに決断すべきだ。それが出来ないあたり、りあらちゃんママも冷静では無いのかもね。娘に家出されては無理もないけど。

 

「もー、お母さんが勝手に配信の段取りしたんじゃん。りあらのふりしてSNSに投稿もしてるし……こっちの気持ちなんて微塵も考えてくれてないよね」

 

 おお。

 

 正面からズバッといったね。

 

 お母様がもうちょっとだけ娘に寄り添っていれば、今回の逃避行は無かっただろう。

 

 電話越しからは、俺の耳にも届くほどの金切り声が。りあらちゃんから不満をぶつけられ、自身のマネジメント能力を否定された気分なのかもなぁ。

 しかし、先日の焼肉前にした俺との会話……適度に休んだり気分転換しないとりあらちゃんが保たないって助言は無意味だったのか。

 

 結局彼女は不満が爆発し避難してきてしまった。

 

「そうやってキンキン怒鳴ればウチが言うこと聞くと、まだ思ってるわけ!? いい加減、上から押さえつけてコントロールしようとするのやめてよっ」

 

 ……うん。

 俺、ここにいない方が良いかもな。

 

 部屋にこもって、親子喧嘩が終わるまで

 待機してようかしら。

 

 その旨を伝えるべく、スマホで文字を打ち込みりあらちゃんに見せようとしたタイミングで。

 

「えっ、ひまりんちゃんと話したい? ……別にいいけど」

 

 りあらちゃんママが俺との会話を所望したそうな。こちらはあまり話したくないけれどね! 仕方ないので、スマホに入力しかけた文字は全て消して画面を閉じる。

 俺は何もやましい事はしてないわけだし。普通に、りあらちゃん……つまり友達のお母さんにお泊まり会を了承して貰えるよう話せば良いだけだ。それこそ美璃や高橋さんのお母さんと話すようなイメージでいこう。

 

「じゃ、代わるね」

 

 そうして、りあらちゃんがスマホを差し出してきた。

 

 大丈夫だ。

 

 数多のクレーム処理をこなしてきた俺ならば、彼女の母親からどれだけ詰められようと対応してみせるぞ。

 

「お電話代わりました、星野です」

 

『もしもしひまりさん? 先日、偶然お会いして以来ね。うちの娘がご迷惑かけているようで、ごめんなさいね? すぐ帰るように説得するから』

 

 やっぱりこの間の出会いは偶然と言う。

 

「いえいえ、迷惑じゃありませんよ。私は一人暮らしですし、なんなら時間も遅いし泊まって貰っても大丈夫ですから」

 

 俺への気遣いを理由にりあらちゃんを退去させようとするので、まずはそれを封じる。この親子の問題を解決せずに自宅へ帰せば今より状況は悪くなる。

 それはりあらちゃんにとっても、お母様にとっても良くない。

 

『そうなの? でもねぇ、りあらは今日配信する予定もあるの。待ってくれているファンの為にも、娘には帰ってきて貰わないと困るのよ』

 

 顔がくっつくくらい近くで通話を聞いているりあらちゃんは、此度の根本的原因を未だ認識していない母の言動に拳を握りしめる。

 ファンを盾にされ、親に配信を【やらされている】と感じてしまうのが嫌なんだろうに。

 

「あの、差し出がましいようですが……配信するかしないかの決定権は娘さんにあるんじゃありませんか?」

 

『……そうね、確かにそうだわ。ひまりさんの言う通りね』

 

「そこに納得するのなら、どうして?」

 

『だけど、夢乃りあらは沢山の企業から案件を受けているのよ。一回の配信がどれだけ大切なのか、駆け出しのひまりさんには想像もつかないでしょうね。ちょっとした雑談一つから新たな案件に繋がったり、マスメディアに取り上げられたりするのよ。経済効果を考えれば、りあらの気分だけで身勝手に配信を休めるステージはとっくに過ぎてるわけ。酷なようだけれど、娘は既にワガママが許されない社会的地位にいるの! 何も私だって強制したいわけじゃないのよ? ただ、世間が、立場がそれを許さないんだから仕方が無いじゃないっ』

 

 なるほど。

 

 この母親は既に、世間と娘の板挟みになっていたのか。こちらを立てればあちらが立たず。典型的なステージママと化してしまっている。

 

 言い分はわかる。夢乃りあらを売り出すなら配信は中止したくないのだろう。

 

 けど。

 

「だとしても。無理矢理配信させてもパフォーマンスは発揮出来ませんよ。無理に作った笑顔や努めて明るく振る舞ったとして、リスナーがそれに気がつかないとは思えません。いつものりあらちゃんじゃなければ、それこそ配信する意味は無いんじゃありませんか?」

 

 ファンの方々は天真爛漫な夢乃りあらに元気を、希望を貰っているはずだ。母親にやらされた空元気なりあらちゃんを見れば、きっと違いに気がつく。ある意味で、それはファンに不誠実とも言えるんじゃないか。

 

『……そうなのね。ひまりさんは、こっちの事情を理解した上でりあらを庇うわけ』

 

 りあらママは声のトーンを数段下げる。否、これが地声か? 

 

『でもね。貴女が思っているより、夢乃りあらには沢山の人が関わっているの。スタッフも、企業も、今日の配信を楽しみにしているファンもいる』

 

「はい」

 

『今日一日休んだから全部終わる、なんて言うつもりはないわ。でも、一度穴を開ければ説明が必要になる。先方に頭を下げるのは私。スケジュールを組み直すのも私なの』

 

 なるほど。

 

 そこまで言われると、俺も簡単に【休めばいいじゃないですか】とは言えない。

 

 りあらちゃん一人で完結する趣味の配信では、もうないということか。完全に個人でやっている俺とは明確に違う。

 

『もちろん、だから何をしてもいいとは思ってないわよ』

 

 一瞬だけ、電話口の声が弱くなる。

 

『……私だって、娘を壊したいわけじゃないもの』

 

 隣のりあらちゃんが僅かに俯いた。

 

『でも、あの子がここまで頑張って積み上げてきたものを、簡単に失わせたくないのよ』

 

「……それは分かります」

 

 一度積み上げたものは、壊すのは簡単だ。そして、そこから再度積み上げるのは最初より遥かに難しい。

 

『だったら、ひまりさん』

 

「はい」

 

『お願い。今日だけは帰るように説得してくれないかしら』

 

 お願い、か。初めて命令ではなく頼まれた気がする。

 

 ……だけど。

 

「すみません。それは出来ません」

 

 どう頼まれても俺の答えは決まっている。

 

『……そう』

 

「ただ、今日の配信については、りあらちゃん自身ともう一度話してみます」

 

 しばらく沈黙したあと。

 

『分かったわ』

 

 意外にも、それ以上は食い下がってこなかった。

 

『ひまりさん』

 

「はい?」

 

『貴女、やっぱり要注意人物ね』

 

「……はい?」

 

『この間会った時から思ってたのよ。りあらが貴女の話ばかりするようになったから』

 

 なんですかそれ。

 というか、りあらちゃんがそんなに話題にしてくれているとか。普通に照れるんですけどっ!? 

 

『マネージャーとしては……危険度、かなり高め』

 

「いやいやいやいや」

 

『ふふ。じゃあ、りあらに代わって』

 

 なんだ、今の笑い声。

 

 この人なりの冗談……なのかな? 

 

 俺は言われたとおりスマホをりあらちゃんに返す。後は親子、そして配信者とマネージャーでもある二人が話すしかない。

 

「お母さん、りあらだよ」

 

 さっきは母親に叱られる子供みたいな雰囲気だったりあらちゃんが、いつもの様子に戻っていた。

 

「うん、今日は泊まらせてもらおうかなって。うん、うん……配信? それは自分で考える。……うん。わかった。それじゃあね」

 

 喋り疲れた俺は一旦テーブルのお茶を飲みつつも、りあらちゃんの言葉には耳を傾ける。

 

「はーい、おやすみー」

 

 あれ? 

 

 ここからどう二転三転するのか心配していれば、通話はあっさりと終了した。

 

「……今日は泊まっていくって事でOKなのかな?」

 

 俺はコップをテーブルに置きつつ確認する。

 

 りあらちゃんも椅子に座って、美味しそうにお茶を飲み干してから

 

「うん! それとね、配信もしようかなって」

 

 晴れやかな笑顔。

 

「えっと。一回家に戻ってから配信して、またうちに泊まりに来るってこと?」

 

 やりたい事は全てやる。それが夢乃りあららしいと言えばらしいけど……ちょっとハードスケジュール過ぎない? 

 

「あははは! 家には帰らないよっ」

 

「そうなの?」

 

「配信なら……ひまりんちゃんちでだって可能でしょ?」

 

 言いながらウインクする。

 

「なるほど。それなら確かに配信は出来るけど」

 

 自宅にも帰らず、配信も出来る。一挙両得だ。

 

「りあらねぇ、やっぱりリスナーさん達はガッカリさせたくないの。でも、今日は家に帰りたくもない。……だったら! ひまりんちゃんと緊急生配信コラボ、やるっきゃないでしょ!!」

 

 ビシッと天井を指差すりあらちゃん。

 

「えっ!? コラボって、私も??」

 

「あったり前じゃん! ひまりんちゃんの配信部屋なのに、りあらだけで配信するとか意味不すぎでしょっ」

 

 ケラケラと笑われる。

 

 確かにそれはそうだけども! 

 

「と言うわけで、今から配信の準備始めよっか! 軽くメイク直して……ひまりんちゃんも着替えた方がいいかな?」

 

 俺の部屋着をジッと見つめる。

 

「そ、そうだね。配信するなら着替えるよ」

 

「うん! 初のひまりんちゃんちコラボだし、せっかくなら可愛い服にしよっ」

 

 今日はりあらちゃんの配信を見ながらダラダラするつもりだった俺。それがカレーを共に食べ、更には緊急コラボ配信する展開になるとは。

 

 全てを巻き込むパワフルさ。

 

 これこそまさに夢乃りあらって感じだね。カレーのお皿を洗ったりメイクしたり……忙しくなってきた!

 

 配信部屋……というか自室なんだけど。軽く掃除したほうがいいかな。

 

 当のりあらちゃんはお母さんとの衝突なんてどこへやら。持ち歌を口ずさみながら、持参した鏡スタンドでメイクのチェックをしている。

 

 配信を前に、緊張や憂鬱そうな雰囲気は感じさせない。

 

 この子はきっと、配信そのものは大好きなのだ。














首都高を走ってたら一日が秒で終わりますね。
久遠のポラリスちゃん(R35)にR33で勝ちたい…
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