50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

38 / 38
三十八話 赤い水星のシャー

 

 りあらちゃんはあれよあれよと配信の準備を整えた。むしろ俺の方がまだ歯を磨いていて口の周りが泡だらけである。

 今、俺の部屋には夢乃りあらが配信モードでモニターの前に。これは、なんだかドラマの撮影現場を見学しているような緊張感がある。自宅の自室がスタジオの撮影ブースになってしまったような、そんな錯覚。

 

「えへへー、ここでいつもひまりんちゃんは配信してるんだねぇ。なんだか不思議な感じ」

 

 チェアの背もたれに体重をかけてリクライニングするりあらちゃん。ほぼ水平になった状態から俺を見上げてくる。

 

 そうだね、お互い様だね。

 

「そういえばりあらちゃん、自分のアカウントでログイン出来たかな?」

 

 俺の部屋から配信する際の懸念事項の一つ。

 

 出来なければ俺のアカウントでの配信になってしまう。それは、今りあらちゃんの配信を待ってる人が困惑しちゃう。

 

「大丈夫!ちゃんと入れたよ」

 

「そっか。なら一安心だね!」

 

 では、後は配信開始をするだけだ。どうして俺の部屋からなのか。そこは真の理由をボヤかしつつシンプルにコラボとして説明すれば済む。

 

「さーてと。ひまりんちゃん、始めますか。みんなに夢を届けよう!」

 

「うん。口もゆすいだし、準備オッケーだよ」

 

 もっとも。俺は夢を届けているってよりかは……社会や人生の辛さを共感する、ある種現実をお届けしちゃってるような気もするけど。

 

「そいじゃ、配信スタート!マイクオンするね。さん!にぃ!いち……」

 

 そうして、定刻。

 夢乃りあらによる配信がスタート。

 

 マイクが入れば、物音一つに神経を使う。

 

「こんりあらー!今日も君に夢届け、夢乃りあらだよーっ!!」

 

 待機画面から、りあらちゃんの可愛い顔に切り替わる。そして、お決まりの挨拶から始まった。

 

『こんりあらー!』

『<¥10,000>今日も顔面最強』

『届きました、夢。』

『<¥5,000>りあら!りあら!』

『<¥50,000>愛してます』

 

 俺の配信とは比較にならないほどの、沢山のコメントが。配信者に投げ銭するのと同時に自分のコメントを目立たせるハイパーチャットも大量に届く。

 

 すごっ。

 

 配信開始直後の【ハイチャ】だけで幾らになるんだろう。見間違いじゃかければ、愛してますってコメント五万円じゃなかったか?

 五万円あればマッカランを何杯飲める?二千円としたら、二十五杯……先に肝臓が死ぬな。

 

 りあらちゃんはまるで動じておらず。

 これがトップ配信者なのか。

 

 同じ配信者でも、俺とは見ている景色が違う。これは確かに、あのお母様がマネージャーの役割に徹するのも頷けてしまうかも。

 

 俺が圧倒的なりあら人気に息を呑んでいると、背景に違和感を覚えた視聴者達がそこへ触れる。

 

『あれ?模様替えした?』

『いつもの部屋じゃないね』

『ん?なんか、昭和に詳しいJKみたいな部屋だな』

 

 最後のコメントは、百パー俺の配信見てくれてる人でしょっ。

 

「おやおやー?みんな気がついちゃったかな。りあらのいる場所、いつもと違うよねぇ??」

 

 両手を広げ、少し椅子を下げて部屋がカメラに映るように調整するりあらちゃん。

 

『言われてみれば』

『どこ?そこ?』

『ひまりんの気配がする』

『ざわ……ざわ……』

 

 バレるのが早い!それだけ、リスナーのみんなが俺たちを見てくれているってことかな。

 

「そうですっ、なんと今日は!緊急コラボ生配信っ!そのコラボ相手のお部屋にお邪魔しちゃっていまーす」

 

 画面外にいる俺へ、りあらちゃんが目配せして。

 

「さあそれでは!本日のコラボ相手、この部屋の主に登場してもらいましょー!」

 

 機械音とかじゃなく、口で「どぅるるるるる……」とドラムロールしてくれる。

 

 俺はサッと前髪だけ整えてからカメラに収まる。

 

「お疲れ様ですっ!ひまりんだよ。本日も出勤しました!!」

 

「はーい!星野ひまりんちゃんですっ、みんな拍手拍手ー!」

 

『888888』

『か、課長ぉぉぉ!』

『可愛い、流石課長可愛い』

『ひまりん!ひまりん!』

 

 すんごい受け入れて貰えてる。なんの告知もせず、アナウンスも無く。ともすればりあらちゃんのソロ配信が見たかった人には邪魔にもなりかねない俺の登場は、案外歓迎コメントが多かった。

 

「えーっ、本日はコラボさせていただき光栄です。皆様、何卒よろしくお願いします」

 

「わあー、ひまりんちゃん緊張でガチガチじゃんっ。自分の部屋なんだからもっとリラックスしてよ」

 

 高額ハイパーチャットのせいですっかり萎縮してしまう俺であった。りあらちゃんが背後にまわって肩を揉んでくれる。

 

「だって!いつもよりリスナーの数が多いし、しょうがなくない?」

 

「うーん、そうは言ってもレイ達とコラボした日もりあら目線では同じくらいの視聴者さんだったよ?ひまりんちゃん、知らないところで沢山の人に見られてたんだから」

 

「言われてみると……そうなんだけどねぇ」

 

 それどころか、レイちゃんやみあちゃんのリスナーさんまで含めるととんでもない人数に見られていたのだ。少しは今更かな?と思えてきた。

 

「ではでは。改めてひまりんちゃんのお部屋に来たわけですけれどもぉ。みんな、どんな感じか気になるよねぇー」

 

『私、気になります!』

『ガンプラとかありそう』

『裸電球??』

 

 ちょっと待ってよ。そんな、部屋に興味持たれても困るんですけど!大物配信者みたいに超レアなグッズやら高価なグッズなんて無いんだけれど。

 

 裸電球とかも絶対昭和をイメージしてのコメントだろうけど、時代がまわっていっそオシャレじゃない?残念ながら我が家はLEDの照明だけども。

 

 りあらちゃんはコメントをチェックしつつ、部屋を見回す。それから、部屋の隅のカラーボックスに鎮座するプラモデルに気がつくと。

 

「あ!あれってガンプラ??」

 

 ガンダムのプラモデルかどうかを確認してきた。……バレてはしょうがない。

 

「よくわかったね」

 

「やっぱり!なんかガンダムみたいだなって。公安警察の安室さんが乗ってるやつでしょ?」

 

 わかっているようで、わかっていないようだった。別の漫画の登場人物と色々ごっちゃになっていた。

 

「いや、アレはサザビーだから厳密にはガンダムでは無いんだけどね。あと、安室さんって名探偵のキャラだよね?だとしたら全然違くて、むしろそれだと赤井さんが乗ってるとでも言うべきかな!」

 

「……あ、そうなんだねぇ」

 

 あれ、なんだろう。

 

 さっきまで元気いっぱいだったりあらちゃんの相槌が、急に簡素になった気がする。

 

「ちなみにガンプラって言っても、別にガンダムだけを指すわけじゃなくてね。【ガンダムシリーズのプラモデル】だからサザビーもガンプラなんだよ」

 

「へ、へぇー」

 

「ジオンのザクとかドムもガンプラだし、もちろんジオングもそう。だから【ガンプラなのにガンダムじゃない】っていうのは別に矛盾してないんだよね」

 

「あー、ははは。そうなんだ……?」

 

 先ほどからりあらちゃんの目が泳いでいる。しかし俺は止まらない。いや、止まれなかった。

 

「それでね?このサザビーは【逆襲のシャア】に出てくるシャア・アズナブル専用のモビルスーツで……」

 

「ちょ、待って待って!」

 

 りあらちゃんが俺の眼前で右手を広げた。

 

「ひまりんちゃん、急に喋るじゃん」

 

「え?」

 

『草』

『早口で喋ってた』

『オタク特有のやつ』

『課長、好きな話になると止まらないタイプか』

『りあら、どん引いてるwww』

 

 気がつけばコメント欄まで笑っている。

 

 いやいやいや!?

 ……別にそんな早口で喋ってないよね?

 

「だってりあらちゃんがガンプラについて聞いてきたのに……」

 

 俺はそれに答えただけなのに……。

 

「や、りあらは【あれガンプラ?】って聞いただけだよぉ!?」

 

 うん。

 

「だから説明を……」

 

「そこからシャーさんの話まで行くとは思わないじゃん!」

 

 シャーさん。

 

 なんだろう、アが伸ばし棒になるだけでちょっとカッコ悪く感じちゃうのは何故。

 

「でもシャアって言えば有名じゃない? 赤い彗星のシャア」

 

「あー!?なんかそれは知ってるかも!」

 

「そうそう、通常の三倍ね。まあサザビーは厳密には赤一色というよりかは……」

 

「あっ、また始まりそう!?」

 

「まだ何も言ってないよ!?」

 

「一旦ドクターストップで、ひまりんちゃん」

 

「ドクターストップ!?」

 

『止められてて草』

『赤の色味について語ろうとしたな今』

『めんどくさいオタク出てきた』

『16歳……?』

『まだ終わらんよ!』

 

 いかんな。これ以上喋ると、また人生二周目疑惑が加速してしまう。俺は咳払いを一つして、サザビーから視線を外した。

 

「まあ、そんな感じのプラモデルですねっ」

 

「急に雑っ!」

 

「まだ素組みだからね。そのうち一回バラして、合わせ目消して、表面処理してから塗装しようかなって」

 

「あわせめけ……ひょうめんしょり?」

 

 首を傾げられる。

 

「りあらちゃん?」

 

「今の言葉、一個もわかんなかった」

 

「ええっ!?」

 

『正常な反応です』

『りあら安心しろ、俺もだ』

『合わせ目消しとかJKの口から出る言葉じゃない』

 

 それじゃあ俺がオタクみたいじゃん。最近は女の子だって普通にガンプラくらい作るんだから!

 

 ……たぶん。

 

「というわけでぇ」

 

 りあらちゃんが俺の肩を両手で掴み、ぐいっとカメラの正面へ戻す。

 

「ひまりんちゃんのお部屋には、よくわかんない赤いロボットがあります!」

 

「サザビー」

 

「はいはい、さざびぃね!」

 

「それと、ロボットっていうかモビルスーツ……」

 

「はーい、次行きまーす!」

 

「ちょっとぉ!?」

 

『強制終了www』

『りあらナイス』

『語らせたら一時間いくぞ』

『ガンプラ配信待ってます』

『むしろ組み立て配信やってくれ』

 

 ほんとはもっと語りたいんだけど、まあいいか。今日のリスナーさんはりあらちゃんを見にきてるんだし……俺があまり古いアニメを語るのも、ね。

 

「それにしてもひまりんちゃん」

 

「ん?」

 

「緊張、もうすっかり解けたみたいだね!」

 

 本当だ!気がつけば、肩から力が抜けていた。好きなものについて語ったからだろうか。

 

「ふふふっ。ひまりんちゃんがリラックス出来たのなら、さざびぃに感謝しなきゃ!」

 

「サザビー、ね」

 

『まだ訂正するの草』

『そこだけは譲れない課長』

 

 ガンプラ一つで随分と盛り上がってしまった。

 

 確かにりあらちゃんの言う通り、さっきまでの緊張はどこへやら。気づけばいつもの調子でコメント欄を眺められている。

 

 そんな中。

 

『黒崎レイ:なんでひまりんの家にいるの?』

 

 俺とりあらちゃんの視線が、同時にコメント欄へ向いた。

 

『黒崎レイちゃん!?』

『本人きたwww』

『それ俺も気になってた』

『<¥5,000>レイちゃんのゲーム代です』

『たしかに、なんで??』

『説明求む』

 

 レイちゃんに悪気はない。本当に一ミリもない。

 

 ただ純粋に疑問に思っただけなんだろう。

 

 だけど、今それはタイミングが悪い。こんなことなら、今日の配信についてメッセージしておけば良かった。お母様とりあらちゃんの問題は俺より詳しいレイちゃんだ。きっと全てを察してくれていたに違いない。

 

 つまり、今はただ俺らが二人だけでコラボしたとしか思っていないのだろう。

 

 なんでりあらちゃんが俺の家にいるか。何かしら言わざるを得ない。

 

「あっ、レイ見てるー!こんりあらー!」

 

 対するりあらちゃんは一切動じない。

 

「なんでってぇ……」

 

 一瞬だけこちらを見る。そして、にっこり笑った。

 

「ひまりんちゃんに会いたくなったから、遊びに来ちゃいましたっ!」

 

『かわいい』

『それだけ!?』

『突然家凸したのかよw』

『ひまりん羨ましい』

 

『黒崎レイ:へえ。楽しんでね』

 

 へえって。

 

「レイってば、自分から聞いといてリアクション薄くない!?」

 

『黒崎レイ:聞いただけだから』

 

「あははー、自由だなぁ」

 

『草』

『レイちゃんは平常運転』

『マジで何も考えず聞いてそう』

 

 うん。りあらちゃんのキャラで、いきなり凸ってきたで通ったな。……まあいきなり凸ってはきたんですけどね!

 

 レイちゃんは何かを察してくれた……のだろうか。いや、あの子の場合、本当に聞いただけな気もするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TS転生おっさん物語(作者:すすぺっと)(オリジナル:現代/日常)

▼社会に疲れた元おっさんは、死後、丸い蛍光灯のような神様によって、現代日本によく似たパラレルワールドへ女の子として転生する。▼赤ちゃんから成長し、高校生になった彼女――**高遠透花**は、180cm前後の高身長と整った容姿を持つ無気力系JK。▼本人はただ平穏に過ごしたいだけだが、前世の社会経験から来る落ち着きや距離感が、周囲には妙に大人びた魅力として映ってし…


総合評価:2240/評価:7.75/連載:25話/更新日時:2026年09月28日(月) 00:01 小説情報

あさおん!〜48歳のハゲ散らかしたおっさんですが、朝起きたら超絶美少女でした。15億円の資産で「奇跡の歌姫」として二度目の青春を謳歌する〜(作者:高山 虎)(オリジナル:現代/日常)

【完結済み!】▼ある朝目覚めると、48歳・独身・ハゲ散らかした総務部長の佐藤卓は、誰もが振り返る【15歳の超絶美少女】に変貌していた!▼原因は、勤務先の超巨大企業、そのカリスマ社長が異世界技術で作らせた「性別反転&若返り」の魔導具。▼赤ん坊まで若返って男に戻るか、美少女として生き直すか。▼究極の選択を迫られた卓だが――▼「今まで本気で頑張ったことがなかった。…


総合評価:4417/評価:8.52/完結:89話/更新日時:2026年09月12日(土) 20:11 小説情報

転生してイージーモード!(作者:ハニラビ)(オリジナル:現代/日常)

普通に生きて普通に死んだ男がチートを得て現代日本にTS転生したお話。作者はバカだからよぉ、難しい話は無しにしねーか?(ただのバカ)


総合評価:4573/評価:8.67/連載:22話/更新日時:2026年09月27日(日) 11:10 小説情報

底辺配信者、スキル〈TS(爆乳)〉でおっぱい系ダンジョン配信者になりバズる 〜できればおっぱいじゃなく戦いを見てほしいんですが〜(作者:夏川優希)(オリジナル:現代/コメディ)

【戦いを見てほしいTS(爆乳)配信者VSおっぱいしか見ないリスナー ファイッ!】▼男子高校生、相模原カオルは底辺ダンジョン配信者だ。▼ユニークスキル〈TS(爆乳)〉で手に入れた体はダンジョンのモンスターを容易く屠ることができる。しかしその代償として美少女(爆乳)化してしまうのだ。▼そんな姿を晒したくない、純粋に戦闘センスを評価してほしいと姿をさらさず配信を続…


総合評価:1769/評価:8.08/完結:32話/更新日時:2026年07月22日(水) 21:06 小説情報

居場所をなくしたTS聖女は魔法少女と出会う(作者:綺羅星瑠奈)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

世界統治の為、象徴として利用されたTS転生聖女のルナ。▼かつての仲間だった魔法使いによって前世の現代日本に転移する。▼しかしそこは魔法少女がいる世界だった。▼前世の妹にも信じてもらえず、死んだ方が楽なのではないか思っていたところで、死にかけの魔法少女に出会う。▼異世界でも現代でも居場所をなくしたサポート特化のTS聖女と困っている人を見捨てられない近接特化魔法…


総合評価:1540/評価:8.42/連載:30話/更新日時:2026年09月26日(土) 12:45 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>