50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
りあらちゃんはあれよあれよと配信の準備を整えた。むしろ俺の方がまだ歯を磨いていて口の周りが泡だらけである。
今、俺の部屋には夢乃りあらが配信モードでモニターの前に。これは、なんだかドラマの撮影現場を見学しているような緊張感がある。自宅の自室がスタジオの撮影ブースになってしまったような、そんな錯覚。
「えへへー、ここでいつもひまりんちゃんは配信してるんだねぇ。なんだか不思議な感じ」
チェアの背もたれに体重をかけてリクライニングするりあらちゃん。ほぼ水平になった状態から俺を見上げてくる。
そうだね、お互い様だね。
「そういえばりあらちゃん、自分のアカウントでログイン出来たかな?」
俺の部屋から配信する際の懸念事項の一つ。
出来なければ俺のアカウントでの配信になってしまう。それは、今りあらちゃんの配信を待ってる人が困惑しちゃう。
「大丈夫!ちゃんと入れたよ」
「そっか。なら一安心だね!」
では、後は配信開始をするだけだ。どうして俺の部屋からなのか。そこは真の理由をボヤかしつつシンプルにコラボとして説明すれば済む。
「さーてと。ひまりんちゃん、始めますか。みんなに夢を届けよう!」
「うん。口もゆすいだし、準備オッケーだよ」
もっとも。俺は夢を届けているってよりかは……社会や人生の辛さを共感する、ある種現実をお届けしちゃってるような気もするけど。
「そいじゃ、配信スタート!マイクオンするね。さん!にぃ!いち……」
そうして、定刻。
夢乃りあらによる配信がスタート。
マイクが入れば、物音一つに神経を使う。
「こんりあらー!今日も君に夢届け、夢乃りあらだよーっ!!」
待機画面から、りあらちゃんの可愛い顔に切り替わる。そして、お決まりの挨拶から始まった。
『こんりあらー!』
『<¥10,000>今日も顔面最強』
『届きました、夢。』
『<¥5,000>りあら!りあら!』
『<¥50,000>愛してます』
俺の配信とは比較にならないほどの、沢山のコメントが。配信者に投げ銭するのと同時に自分のコメントを目立たせるハイパーチャットも大量に届く。
すごっ。
配信開始直後の【ハイチャ】だけで幾らになるんだろう。見間違いじゃかければ、愛してますってコメント五万円じゃなかったか?
五万円あればマッカランを何杯飲める?二千円としたら、二十五杯……先に肝臓が死ぬな。
りあらちゃんはまるで動じておらず。
これがトップ配信者なのか。
同じ配信者でも、俺とは見ている景色が違う。これは確かに、あのお母様がマネージャーの役割に徹するのも頷けてしまうかも。
俺が圧倒的なりあら人気に息を呑んでいると、背景に違和感を覚えた視聴者達がそこへ触れる。
『あれ?模様替えした?』
『いつもの部屋じゃないね』
『ん?なんか、昭和に詳しいJKみたいな部屋だな』
最後のコメントは、百パー俺の配信見てくれてる人でしょっ。
「おやおやー?みんな気がついちゃったかな。りあらのいる場所、いつもと違うよねぇ??」
両手を広げ、少し椅子を下げて部屋がカメラに映るように調整するりあらちゃん。
『言われてみれば』
『どこ?そこ?』
『ひまりんの気配がする』
『ざわ……ざわ……』
バレるのが早い!それだけ、リスナーのみんなが俺たちを見てくれているってことかな。
「そうですっ、なんと今日は!緊急コラボ生配信っ!そのコラボ相手のお部屋にお邪魔しちゃっていまーす」
画面外にいる俺へ、りあらちゃんが目配せして。
「さあそれでは!本日のコラボ相手、この部屋の主に登場してもらいましょー!」
機械音とかじゃなく、口で「どぅるるるるる……」とドラムロールしてくれる。
俺はサッと前髪だけ整えてからカメラに収まる。
「お疲れ様ですっ!ひまりんだよ。本日も出勤しました!!」
「はーい!星野ひまりんちゃんですっ、みんな拍手拍手ー!」
『888888』
『か、課長ぉぉぉ!』
『可愛い、流石課長可愛い』
『ひまりん!ひまりん!』
すんごい受け入れて貰えてる。なんの告知もせず、アナウンスも無く。ともすればりあらちゃんのソロ配信が見たかった人には邪魔にもなりかねない俺の登場は、案外歓迎コメントが多かった。
「えーっ、本日はコラボさせていただき光栄です。皆様、何卒よろしくお願いします」
「わあー、ひまりんちゃん緊張でガチガチじゃんっ。自分の部屋なんだからもっとリラックスしてよ」
高額ハイパーチャットのせいですっかり萎縮してしまう俺であった。りあらちゃんが背後にまわって肩を揉んでくれる。
「だって!いつもよりリスナーの数が多いし、しょうがなくない?」
「うーん、そうは言ってもレイ達とコラボした日もりあら目線では同じくらいの視聴者さんだったよ?ひまりんちゃん、知らないところで沢山の人に見られてたんだから」
「言われてみると……そうなんだけどねぇ」
それどころか、レイちゃんやみあちゃんのリスナーさんまで含めるととんでもない人数に見られていたのだ。少しは今更かな?と思えてきた。
「ではでは。改めてひまりんちゃんのお部屋に来たわけですけれどもぉ。みんな、どんな感じか気になるよねぇー」
『私、気になります!』
『ガンプラとかありそう』
『裸電球??』
ちょっと待ってよ。そんな、部屋に興味持たれても困るんですけど!大物配信者みたいに超レアなグッズやら高価なグッズなんて無いんだけれど。
裸電球とかも絶対昭和をイメージしてのコメントだろうけど、時代がまわっていっそオシャレじゃない?残念ながら我が家はLEDの照明だけども。
りあらちゃんはコメントをチェックしつつ、部屋を見回す。それから、部屋の隅のカラーボックスに鎮座するプラモデルに気がつくと。
「あ!あれってガンプラ??」
ガンダムのプラモデルかどうかを確認してきた。……バレてはしょうがない。
「よくわかったね」
「やっぱり!なんかガンダムみたいだなって。公安警察の安室さんが乗ってるやつでしょ?」
わかっているようで、わかっていないようだった。別の漫画の登場人物と色々ごっちゃになっていた。
「いや、アレはサザビーだから厳密にはガンダムでは無いんだけどね。あと、安室さんって名探偵のキャラだよね?だとしたら全然違くて、むしろそれだと赤井さんが乗ってるとでも言うべきかな!」
「……あ、そうなんだねぇ」
あれ、なんだろう。
さっきまで元気いっぱいだったりあらちゃんの相槌が、急に簡素になった気がする。
「ちなみにガンプラって言っても、別にガンダムだけを指すわけじゃなくてね。【ガンダムシリーズのプラモデル】だからサザビーもガンプラなんだよ」
「へ、へぇー」
「ジオンのザクとかドムもガンプラだし、もちろんジオングもそう。だから【ガンプラなのにガンダムじゃない】っていうのは別に矛盾してないんだよね」
「あー、ははは。そうなんだ……?」
先ほどからりあらちゃんの目が泳いでいる。しかし俺は止まらない。いや、止まれなかった。
「それでね?このサザビーは【逆襲のシャア】に出てくるシャア・アズナブル専用のモビルスーツで……」
「ちょ、待って待って!」
りあらちゃんが俺の眼前で右手を広げた。
「ひまりんちゃん、急に喋るじゃん」
「え?」
『草』
『早口で喋ってた』
『オタク特有のやつ』
『課長、好きな話になると止まらないタイプか』
『りあら、どん引いてるwww』
気がつけばコメント欄まで笑っている。
いやいやいや!?
……別にそんな早口で喋ってないよね?
「だってりあらちゃんがガンプラについて聞いてきたのに……」
俺はそれに答えただけなのに……。
「や、りあらは【あれガンプラ?】って聞いただけだよぉ!?」
うん。
「だから説明を……」
「そこからシャーさんの話まで行くとは思わないじゃん!」
シャーさん。
なんだろう、アが伸ばし棒になるだけでちょっとカッコ悪く感じちゃうのは何故。
「でもシャアって言えば有名じゃない? 赤い彗星のシャア」
「あー!?なんかそれは知ってるかも!」
「そうそう、通常の三倍ね。まあサザビーは厳密には赤一色というよりかは……」
「あっ、また始まりそう!?」
「まだ何も言ってないよ!?」
「一旦ドクターストップで、ひまりんちゃん」
「ドクターストップ!?」
『止められてて草』
『赤の色味について語ろうとしたな今』
『めんどくさいオタク出てきた』
『16歳……?』
『まだ終わらんよ!』
いかんな。これ以上喋ると、また人生二周目疑惑が加速してしまう。俺は咳払いを一つして、サザビーから視線を外した。
「まあ、そんな感じのプラモデルですねっ」
「急に雑っ!」
「まだ素組みだからね。そのうち一回バラして、合わせ目消して、表面処理してから塗装しようかなって」
「あわせめけ……ひょうめんしょり?」
首を傾げられる。
「りあらちゃん?」
「今の言葉、一個もわかんなかった」
「ええっ!?」
『正常な反応です』
『りあら安心しろ、俺もだ』
『合わせ目消しとかJKの口から出る言葉じゃない』
それじゃあ俺がオタクみたいじゃん。最近は女の子だって普通にガンプラくらい作るんだから!
……たぶん。
「というわけでぇ」
りあらちゃんが俺の肩を両手で掴み、ぐいっとカメラの正面へ戻す。
「ひまりんちゃんのお部屋には、よくわかんない赤いロボットがあります!」
「サザビー」
「はいはい、さざびぃね!」
「それと、ロボットっていうかモビルスーツ……」
「はーい、次行きまーす!」
「ちょっとぉ!?」
『強制終了www』
『りあらナイス』
『語らせたら一時間いくぞ』
『ガンプラ配信待ってます』
『むしろ組み立て配信やってくれ』
ほんとはもっと語りたいんだけど、まあいいか。今日のリスナーさんはりあらちゃんを見にきてるんだし……俺があまり古いアニメを語るのも、ね。
「それにしてもひまりんちゃん」
「ん?」
「緊張、もうすっかり解けたみたいだね!」
本当だ!気がつけば、肩から力が抜けていた。好きなものについて語ったからだろうか。
「ふふふっ。ひまりんちゃんがリラックス出来たのなら、さざびぃに感謝しなきゃ!」
「サザビー、ね」
『まだ訂正するの草』
『そこだけは譲れない課長』
ガンプラ一つで随分と盛り上がってしまった。
確かにりあらちゃんの言う通り、さっきまでの緊張はどこへやら。気づけばいつもの調子でコメント欄を眺められている。
そんな中。
『黒崎レイ:なんでひまりんの家にいるの?』
俺とりあらちゃんの視線が、同時にコメント欄へ向いた。
『黒崎レイちゃん!?』
『本人きたwww』
『それ俺も気になってた』
『<¥5,000>レイちゃんのゲーム代です』
『たしかに、なんで??』
『説明求む』
レイちゃんに悪気はない。本当に一ミリもない。
ただ純粋に疑問に思っただけなんだろう。
だけど、今それはタイミングが悪い。こんなことなら、今日の配信についてメッセージしておけば良かった。お母様とりあらちゃんの問題は俺より詳しいレイちゃんだ。きっと全てを察してくれていたに違いない。
つまり、今はただ俺らが二人だけでコラボしたとしか思っていないのだろう。
なんでりあらちゃんが俺の家にいるか。何かしら言わざるを得ない。
「あっ、レイ見てるー!こんりあらー!」
対するりあらちゃんは一切動じない。
「なんでってぇ……」
一瞬だけこちらを見る。そして、にっこり笑った。
「ひまりんちゃんに会いたくなったから、遊びに来ちゃいましたっ!」
『かわいい』
『それだけ!?』
『突然家凸したのかよw』
『ひまりん羨ましい』
『黒崎レイ:へえ。楽しんでね』
へえって。
「レイってば、自分から聞いといてリアクション薄くない!?」
『黒崎レイ:聞いただけだから』
「あははー、自由だなぁ」
『草』
『レイちゃんは平常運転』
『マジで何も考えず聞いてそう』
うん。りあらちゃんのキャラで、いきなり凸ってきたで通ったな。……まあいきなり凸ってはきたんですけどね!
レイちゃんは何かを察してくれた……のだろうか。いや、あの子の場合、本当に聞いただけな気もするな。