50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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四話 配信前打ち合わせ(アイスブレイク)

 

 翌日、あっという間に迎えたコラボの日。

 

 配信開始ニ十分前。

 俺は通話ルームに一人で待機していた。

 

「……早く入りすぎたなぁ」

 

 完全に社会人時代の癖だった。

 

 会議は五分前集合。

 取引先との打ち合わせは十分前到着。

 オンライン会議でも、先に入ってマイク確認まで済ませる。

 

 そういう生き方を二十年以上してきた人間なのだ。

 

 しかし現在。

 通話画面には、まだ誰もいない。

 

「若い子って、みんな時間ぴったりに来るんだなぁ……」

 

 俺は湯呑みに入れた白湯をすすった。

 喉から食道へ伝播していく熱さが心地いい。

 

「あー、落ち着くぅ」

 

 最近はもう、配信中でも普通に湯呑みを使っていた。

 映えさせる為に星柄の可愛いマグカップとかも一応買った。

 

 ……買ったのだが。

 

 最終的に戻ってきたのは、近所のスーパーで売ってた渋い湯呑みだった。

 何故なのか。

 

 魂が和風なのかもしれない。なんなら、味さえ美味しくなった気もする。

 海原雄山だって食器にはこだわっていたし、きっと重要なのだ。

 

 すると配信待機コメント欄が流れる。

 

『まーた白湯飲んでる』

『JK配信者の待機画面じゃない』

『大河ドラマのワンシーンかとおもた』

『わこつ』

 

「……違うからね! 喉のケアだから!冷えは万病の元だしっ」

 

『こないだ、ばっちゃが同じ事言ってた』

『漢方とか詳しそう』

『うおw』

 

「ねえって。なんで女子高生配信者から養命酒の気配を感じてるの!?」

 

 コメント欄が笑いで流れる。

 

『でも実際、白湯って健康にいいらしいぞ』

『ひまりんのせいで俺も白湯飲み始めた』

『最近朝白湯飲んでるわ』

 

「白湯はオススメ。 ただ、女子高生配信者の影響で白湯文化広がるのは複雑なんだけど!?みんな、このチャンネルで白湯にハマったことは秘密だよっ」

 

『もう健康番組なんよ』

『次は青汁案件待ってます』

『味しない!もう一杯!』

 

「ここは、可愛らしいアイドルの配信なんだってば!」

 

『はいはい』

『確かに、今日はコラボで可愛らしいアイドル配信者が来ますね』

 

 もう。俺のことは弄りまくって良いと思われちゃってるな。

 ……まあ、この雰囲気嫌いじゃ無いんだけども。

 

 まだ時間もあるし、電気ケトルで新たに白湯を補充しようかと椅子を引いたタイミングで。

 

 通話ルームへ一人入室した。

 

『あっ! ひまりんちゃんだ〜♡』

 

「わわっ!」

 

 夢乃りあらちゃんだった。

 

 ふわふわした声。

 いかにも人気配信者って感じの可愛い喋り方。

 

『りあらたそキター!!』

『これぞアイドル配信者』

『湯呑みとか使わなさそう』

 

 超人気キラキラアイドル系配信者の登場に、さっきまで俺を散々弄っていたリスナーが沸き上がる。

うん、君たちはリアラちゃんの配信に移ったら良いと思うよ、おじさんは。

 

『えっ、てかもう居たの?』

 

 顎に人差し指を当てて、首をかしげる。

 仕草一つが、もう俺には真似の出来ない可愛さだった。

 

「え、はい……人を待たせるのが苦手で」

 

『はやーい!偉ーい!!』

 

 白い歯を見せて微笑んでくれる。

 

「まぁ、その……」

 

 俺は少し迷ってから答える。

 

「普段から、会議とかも早めに入っちゃうタイプで……」

 

『会議?』

 

「しまった」

 

 思わず口を押さえた。女子高生は会議とかしないよねっ!うん。

 

『ふふっ、やっぱひまりんちゃん面白い〜♡』

 

 危ない。

 

 最近、本当に中身が漏れやすくなっている。

 慣れてきたせいだろうか。星野ひまりを演じなきゃといった気負いが薄れて来たのかも。

 

『ていうか、本当に白湯飲んでるんだ〜。湯呑みも渋くて良いねぇ』

 

「えっ、あ、うん」

 

『女子力高〜い♡ひまりんちゃんって、モデルさんみたい』

 

「いや違うの。これはもう習慣というか……」

 

 俺は少し遠い目をした。おじさんみたいって言わないでくれて、ありがとね。

 

「歳を取るとね、朝起きた時の胃腸コンディションが大事になってくるんだよ」

 

 しばしの沈黙。

 りあらちゃんが、元々大きな目を更に丸く広げて

 

『歳?』

 

「あっ」

 

 またも小首をかしげられてしまった。

 

『草』

『出た』

『また中身漏れてる』

 

「設定だからね!?」

 

 コメント欄が爆笑する。

 

『ひまりんちゃんって本当に可愛くって面白いね〜♡』

 

 夢乃りあらがケラケラ笑う。

 

 こういうタイプ、本音を言うと前世だと少し苦手だった。

 距離感が近い。テンションが高い。会話の速度が速い。

 

 でも今は。

 ……意外と嫌じゃない。

 

 星野ひまりとなった今、俺の受け取りが変化したのだろう。

 今なら、前世では話せなかった色々なタイプの人と話せそうな、そんな気がした。

 

 するとまた一人入室。

 

『お疲れ、よろしくね』

 

 黒崎レイちゃんだった。

 

 声が低めで落ち着いている。

 クール系ってやつだろう。実際、クール系ゲーム配信者らしい。

 

『……って、もう二人いるの?』

 

「お疲れ様です」

 

『挨拶が会社なんよ』

 

 レイちゃんがクスッとクールでありつつも、可愛らしく微笑む。

 一見怖そうな印象が、途端に親しみやすそうになる。

 

 ギャップ萌えって、こう言うことか。

 

「あっ」

 

『草』

『お疲れ様ですwww』

『ひまりん課長、会議室入りました』

『レイたその笑顔破壊力ヤバすぎワロチ』

 

 しまった。

 どうにも、またいつもの癖で出てしまった。

 

 ……いや。お疲れ様ですはそんなにおかしいかなぁ?

 

『ふふっ。ひまりんちゃんって、ほんと社会人みたいだよね〜』

 

『みたい、じゃない感あるけど』

 

 りあらちゃんとレイちゃんが俺を女子高生じゃなくそうとしてくる。

 

「そう、そういう設定だからね?」

 

『設定便利すぎるだろ』

『なんでも設定で逃げる女』

『身体は女子高生、中身はおじさん』

 

 コメント欄が盛り上がる。

 するとレイちゃんが、堪えきれないといったふうに少し笑った。

 

『でも正直助かる。コラボ前って、変に緊張するし。ほぼ絡みない人とだと尚更』

 

「え?」

 

『なんか空気柔らかいんだよね、ひまりんは』

 

 その言葉に、少しだけ胸が詰まった。

 

 まただ。最近、よく言われる。

 

 安心する。話しやすい。空気が柔らかい。

 前世でも、後輩によく言われていた

 

『佐伯さんいると、なんか場が落ち着くんですよね』

 

 居酒屋。会社帰り。休憩中。

 

 そんな記憶が一瞬だけ脳裏をよぎる。

 

「……そう思ってくれてるなら、嬉しいなぁ」

 

 俺は誤魔化すように白湯を飲んだ。ちょこっとぬるい。

 

『また白湯飲んでる〜♡』

 

 りあらちゃんもオシャレ可愛いマグカップで何かを飲んだ。

 

 両手で丁寧にマグカップを口につける仕草は、俺と全然違った。おかしい。

 星野ひまりである俺は、見た目だけならりあらちゃんに負けないくらい可愛いのに。 

 

 やっぱりマグカップ、必要か。

 

 絶対コメント欄で比較されてるだろうなぁとチラ見すると。

 

『湯呑みの広告とか似合いそう』

『旅館コラボいける』

『選ばれたのは白湯でした』

 

「女子高生アイドルに求める方向性がおかしいって!」

 

『ひまりんちゃん!?』

 

 コメントについツッコミを入れてしまい、りあらちゃんを驚かせてしまった。

 

「あ!ごめん。ちょっとリスナーが俺の湯呑みを弄ってきたから」

 

『そゆことか!ひまりんリスナーさんは、多分だけど湯呑みひまりんちゃんが好きだからこそ弄ってるんじゃないかなー』

 

「……なら良いんだけどさっ」

 

 りあらちゃんがそう言うなら、そう言うことにしておこうか。

 

 すると、最後の一人が入室した。

 

『あっ、すみませんっ、遅れました……!』

 

 小鳥遊みあ。

 

 ASMR系配信者らしく、声がめちゃくちゃ落ち着いている。

 なんか色々なボイスとか、出してるみたい。シチュエーションボイス?とか。

 おじさん、ASMRは詳しくなくてごめん。

 

 ピアノも上手みたいで、路上ピアノ?ってやつもやってるとか。

 

『みんなもう居たんですね……』

 

「いやいや、全然大丈夫だよっ。時間には間に合ってますし!」

 

 反射で答える。

 

『社会人のフォロー』

『取引先かな?』

『新人に優しい課長』

 

「だから課長じゃない!」

 

 コメント欄が爆笑する。

 

 そのまま、軽い打ち合わせが始まった。

 

『今日はぶっちゃけ女子会ってテーマだからぁ〜、ゆるーく雑談って感じで!』

 

『OK』

 

『よろしくお願いします……』

 

「えーっと、議題とかは……」

 

 全員が止まった。

 

「あっ」

 

 しまった。

 

 コメントの流れが早くなる。

 

『議題?』

『会議かな?』

『ぶっちゃけ女子会だってば、課長!』

 

 わかってるよっ!

 

「……いや違うの! なんとなく流れとかあるのかなって!」

 

『ひまりんちゃん、ほんと真面目だよね〜♡』

 

「うぅ……」

 

『そーゆう堅苦しいのは抜きにして、適当にお話ししちゃおうって感じかなっ』

 

 ううっ、顔が熱い。

 これだからおじさんは。

 

『ひまりんって、学生時代どんな感じだったの?』

 

 黒崎レイちゃんが聞いてくる。

 

「えっ」

 

 危ない質問だった。

 

 星野ひまりとしての記憶はある。

 あるけど。どうしても、前世の感覚が混ざる。

 

「まさに今、学生時代なんだけど……」

 

 しかしここは!自分がまさに女子高生であると忘れずに返答出来た。

 

『レイちゃんにも社会人だと思われてらwww』

『黒崎さん、わかってて言ってるだろ笑』

 

 またコメントは好き勝手言い続ける。

 

『あ!ごめん。中学生とか小学生の頃の話。今の学校でのポジションとかでも。勿論、言いたくなければ言わなくても大丈夫だよ』

 

 レイちゃんが気を遣いながら補足してくれる。

 

 うん。まあここは俺の実体験でも違和感は無いよね。

 

「……割と地味?」

 

 変に嘘をついて矛盾するよりは、前世の学生時代を伝えてみた。

 

『へぇ〜! 意外!そんなに可愛いのにっ』

 

 りあらちゃんが、本心で驚いたように言う。

 

「いやほんとに。目立つタイプじゃなかったし、目立ちたくもないし」

 

 前世の俺なんて、会社でも存在感薄かった。

 

 飲み会でも端っこ。営業成績も普通。趣味も薄い。

 

 ただ毎日働いて、疲れて帰るだけ。

 

 だから今でも不思議なのだ。

 

 こんな風に、

 誰かに待たれる側になるなんて。

 

『でも今めっちゃ人気じゃん』

 

「それが未だに意味わかんないんだよなぁ……ありがたいけど」

 

『でもひまりんちゃん、可愛いし面白いし』

 

『安心感あるし……』

 

『社会人に刺さりすぎてますよ!』

 

 三人とも褒めてくれた。

 ただ、俺としては最後の小鳥遊みあちゃんの言葉に最も思うところがある。

 

「そこなんだよね!?」

 

 俺は思わず叫ぶ。

 

「なんで女子高生アイドル見に来て、みんな労働相談して帰るの!?」

 

 俺の叫びに、リスナー達が

 

『草』

『それがひまりんだから』

『管理職の仕事じゃん』

 

「アイドルだってば!」

 

 でも。

 少しだけわかる気もする。

 

 前世の俺も、疲れていた。

 

 毎日しんどかった。未来なんて考えられなかった。

 だからもしあの頃。

 

 誰かが、

 

『今日もお疲れ様』って言ってくれていたら。

 

 少しだけ救われていたのかもしれない。

 

『それだけ、ひまりんさんが頼りになるってことですよ!』

 

 小鳥遊みあちゃんが小さくガッツポーズし、励ましてくれた。

 優しい……

 

『そろそろ本番いこっか〜♡』

 

『了解』

 

『が、頑張ります……』

 

 俺は深呼吸した。

 

 怖い。

 

 でも。

 

 ……少しだけ楽しみだった。

 

 前世では無かった時間。前世では出会わなかった人達。

 

 人生って、本当にわからない。

 

 五十歳で終わったと思ったら。

 次は女子高生アイドルとして、コラボ女子会に参加してるのだから。

 

「……よし」

 

 俺はマイクを握り直した。熱々の白湯もおかわりした。

 準備オーケー!

 

「ひまりん、本日も出勤しますっ!」

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