50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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五話 女子会、はじまる

 

『こんりあらー!今日も君に夢届け、夢乃りあらだよーっ!!』

 

 画面いっぱいに両手を広げ、リスナーに手を振るりあらちゃん。名乗りから愛嬌マックスだ。

 

『りあらー!俺だーっ』

『圧倒的可愛さ』

『夢、届いてます』

 

 さっきまで白湯で俺を弄っていたリスナー達も、りあらちゃんにメロメロだった。

 

 これだけ可愛いと、そりゃあそうだよね。

 

【こんりあら】っていうのは、どうやら【こんにちは】と名前を組み合わせた挨拶みたい。

 

『おつかレイー、黒崎レイです』

 

 レイちゃんも続いて、シンプルな挨拶を。

 

『おつかレイー』

『クールビューティー!!』

『レイ君イケメンすぎっ』

 

 このスパッと短い挨拶が、彼女のイメージに合っていて実に素晴らしい。

 

 レイ君……?今時のネットでは、クールな女の子をイケメンって褒めるのかな。

 

『みんなのお耳に幸せをっ!小鳥遊ぃぃ……みあだよっ!よろしくねーっ』

 

 最後はみあちゃんのキュートな自己紹介。

 

『みあみあーっ!!』

『この笑顔、俺が守護らねばならぬ』

 

 キラキラ、クール、キュート。この3人は実にバランスの取れた調和ユニットだった。

 

『そしてぇー!?』

 

 ここで、残る一人。

 

 コラボに参加させていただく俺のために、りあらちゃんが前振りしてくれた。

 

「お、お疲れ様ですっ。ひまりんだよ!今日も出勤しましたっ」

 

 ……うん。

 

 俺だけ出勤してるのってやっぱりおかしいよね!?

 

『お疲れ様です!!』

『お疲れ様です!!!』

『お疲れ様です!』

 

 ほらー!

 

 ここだけ社内なんですけどっ。

 

『今日はなんとっ!今人気急上昇の【人生相談系ネットアイドル】、ひまりんが来てくれてますーっ!』

 

 ハイテンションにりあらちゃんがピースして、レイちゃん、みあちゃんが拍手で迎えてくれる。

 

 出勤からの人生相談は、もうやってる事は人事部だよね。

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

 でも、歳下の女子達が盛り上げてくれる以上、こちらも本気で臨まなきゃ失礼だ。俺は精一杯の笑顔でカメラを見つめる。

 

『課長可愛い』

『客先向けの笑顔』

『会社のPR案件』

 

 人が一所懸命頑張ってるというのに、リスナー達ときたら!!

 

『さてさて、みんなの自己紹介が終わったところでぇー?ぶっちゃけ女子会スタートでぇーす!』

 

 りあらちゃんが拳を高く突き上げる。

 ついに始まったな……。

 

『まずはアイドリングトークっ!事前に、りあらのリスナーさんからトークテーマを募集していてねっ。……最初のテーマはこちら〜!』

 

 りあらちゃんが、ぱっと画面へコメントを表示する。

 

【最近キュンとしたこと!】

 

「うわぁ、女子会っぽい……」

 

 トークテーマの周囲には、沢山のハートや星が散りばめられている。

 

『嫌そうw』

『ひまりん、逃げるな』

『労働トーク禁止な?』

 

「いやいや!ちゃんとやるから!」

 

 俺は慌てて手を振った。

 

 しかし【キュン】かぁ……。

 

 前世の五十歳おじさんに聞くには、なかなか酷なテーマである。

 

『じゃあまずは、お手本にりあらからっ♡』

 

 りあらちゃんが頬へ手を当て、ふにゃっと笑う。

 

『この前ね〜、女性のコンビニ店員さんに【いつも配信見てます】って小声で言われてぇ』

 

『おおおお』

『それはキュン』

『凄い』

 

『しかも、そのあと照れて逃げちゃって!かわいかったぁ〜♡』

 

『店員、運使い果たしたな』

『レジ打ちしてて、りあら来たら昇天する』

『てぇてぇ……』

 

 うん、いきなり話題が強い。

 【今のネットアイドル】って感じだ。

 

 当然俺にはそんなエピソードは無い。

 

『次、レイちゃんっ』

 

『んー……』

 

 レイちゃんが少し考えてから口を開く。

 

『突発でゲーム配信した時に、いつものリスナーさんがすぐ来てコメントくれた時かな』

 

 しばらく、コメント欄の流れがゆっくりになる。

 

 レイちゃんはそのコメントを読んだ時を思い出すように目を閉じて。

 

『なんか、レイを見るために時間合わせてくれたんだと思うと嬉しかったな』

 

『レイ様〜!!』

『イケメンすぎる』

『少し泣く』

 

 クールだ。

 でも、その目の奥には優しさがある。

 

 なるほど。

 

 人気が出るのめちゃくちゃわかる。

 レイちゃんはファンをとても大事にする子なんだ。

 

『じゃあ、みあはですね……』

 

 みあちゃんがおっとり喋り始める。

 

『路上ピアノ弾いてた時に、小さい女の子が隣でずっと聴いてくれてて……』

 

『かわいい』

『ほのぼの』

 

 照れたようにはにかんで

 

『演奏が終わってから、最後に「お姉ちゃんのピアノ、好き」って言ってくれたのが、すごく嬉しかったです……』

 

 聞いてるこちらの心まで温まるエピソード。

 

『浄化された』

『みあちゃん優しい世界すぎる』

 

 本当に、優しい世界だなぁ。

 

 このコラボ、空気が良すぎる。同じ配信者って括りでも、それぞれに異なる思い出、エピソードがあってとても面白い。

 

 そして。

 

『じゃあ最後、ひまりんちゃんっ!』

 

「えっ、俺もっ!?」

 

『当たり前でしょー♡』

 

 りあらちゃんが笑う。

 俺の番が来て、コメント欄も一斉に流れ始める。

 

『有給が付与された時?』

『残業が44時間に抑えれたとか?』

 

 リスナーさん達が予想してくる。

 

「いやいやいや!」

 

 俺は慌てた。それ、全然キュンじゃないじゃん!

 

 えっと、可愛い感じの話をすればいいんだよね?

 

「えーっと……」

 

 考える。考えて。そして。

 

「あ!前に終電で帰った時、駅員さんに【お疲れ様です】って挨拶されたこと……かな?」

 

 一瞬、沈黙。

 

『wwwww』

『サービス残業後でつか?』

『わかるのが悔しい』

 

「あれは、駅員さんとお互いの苦労を分かち合えた気がしたなぁ……」

 

 家に帰っても誰もいない暮らしで。

 他人との触れ合いがあんなにも心を癒してくれるとは思わなかった。

 

『キュンではないw』

『女子高生はもっと早く帰らなきゃ』

 

 俺は流れるコメントで、そういえば女子高生が終電に乗る状況がそもそもまずい事に気がついた。

 

「あ!その時は母親も一緒だったからね?」

 

 ……これでどうにか誤魔化せただろうか。

 

『ひまりんママのママとか激アツ』

『娘さんを我が社にください』

 

 りあらちゃんが机に突っ伏して笑っている。

 

『ひまりんちゃん、ほんと面白い〜!!』

 

『なんか……深いですよね。私も、駅員さんに共感出来るくらい頑張らなきゃですっ!』

 

 みあちゃんまで笑いながら言う。

 

『いやでも、そういうエモいの……良いよね』

 

 レイちゃんがフォローしてくれた。

 優しい。

 

 この子、本当に気遣いできるなぁ。これは確かに、王子様的なカッコ良さもあるよ。

 

『じゃあ次のテーマいこっか〜!』

 

 りあらちゃんがコメントを拾う。

 俺は、さっきの話題が終わってホッとひと息。

 

【付き合うなら年上?年下?】

 

『きた』

『恋愛トーク』

『課長逃げろ』

 

「逃げるなと言ったり、逃げろと言ったり……どっちなのさっ!?」

 

 コメント欄が笑う。

 

『りあらはねぇ〜、甘やかしてくれる人がいいっ♡』

 

『はいかわいい』

『養いたい』

 

 ほわほわとした、りあらちゃんっぽい答え。

 こういう発言が出来れば、俺も少しはアイドルっぽくなれるのかな?

 

『レイは?』

 

『……対等がいいかな。ま、年齢より話合う方が大事だと思う』

 

 髪をかきあげながら本質をつく、クールなレイちゃん。

 段々と、彼女が少女漫画のお姉様枠に見えて来た。お蝶夫人的なカッコ良さもあるね。

 

『みあは……』

 

 みあちゃんが少しだけ悩むように視線を泳がせる。

 

『一緒にいて、静かな時間でも気まずくならない人がいい……かもです』

 

『あー……』

『わかる』

『俺のことか』

 

 うん、リスナーさんの事では無いと思う。

 

『無理に盛り上げなくても、同じ空間にいられる人って安心するので……』

 

 小さく笑ってから、さらに続ける。

 

『あと、いっぱい寝てても怒らない人……』

 

『かわいい』

『生活不規則な配信者っぽい回答』

 

『年上とか年下より、【優しい空気の人】が好きです』

 

 好きなタイプを話すのが照れくさそうにはにかんだ。

 

『浄化された』

『天使』

 

 そして。

 

『ひまりんちゃんはー?♡』

 

「えっ」

 

 来た。

 ……来てしまった。

 

 女子会最大の難所である。

 

「えーっと……」

 

 どうする。

 

 女子高生っぽい答え?

 いや、無理だ。

 

 俺、前世含めても恋愛経験ほぼ無いし。

 

「無理をし過ぎない人とか……?もしもキャパオーバーしそうになったら、お互いにフォローしあえたら長持ちしそうかな」

 

 良い事言えたんじゃないかっ、これは。

 コメントを読んでみると。

 

『36協定ですね』

『さっきまでのキラキラ女子会はいずこへ?』

『報告、連絡、相談は基本!』

 

「みんな仕事から離れようよっ!?普通に、良い回答だったと思うけどっ」

 

 俺は思わず叫ぶ。

 

 コメント欄が爆笑の渦になる。

 

 りあらちゃんなんて、声を出して笑っていた。

 

『ひまりんちゃん、ほんと唯一無二だねぇ……』

 

『恋愛トークで36協定の文字初めて見た』

 

 レイちゃんも肩を震わせている。

 

「なんでこうなるのっ!?」

 

『えっと、みあは素敵な回答だったと思います!』

 

 ……ありがとう。みあちゃんが味方してくれただけで嬉しいよ。

 

 その瞬間。

 

 コメント欄に赤スパが流れた。

 

【今日も仕事で怒られて辛かったけど、なんか元気出ました】

 

 空気が少し変わる。

 俺は自然と、そのコメントを読んでいた。

 

「……そっか」

 

 気づけば、いつもの声になっていた。

 

「今日もお疲れ様。ちゃんと頑張ってるじゃん」

 

 コメント欄の流れが少しゆっくりになる。

 

「怒られるのってさ、その時だけが辛いんじゃないんだよね。帰宅後に思い出しては、一人反省会始まるし」

 

『わかる』

『今それ』

 

「でも、今日ちゃんと仕事行った時点で偉いからね?」

 

 ぽつりと言う。

 

「社会人って、それだけでも結構すごいんだよ」

 

 しばらく、コメント欄が静かだった。

 そして。

 

『課長ぉぉぉ……』

『染みる』

『なんで女子会配信で泣いてるんだ、自分』

 

「あっ」

 

 しまった!!!

 

 俺、また普通に人生相談モードへ入ってた。

 

「いや違うの!今のは女子会的な流れで!」

 

『無理あるwww』

『女子会配信で人生相談しとる』

 

 コメント欄が一気に笑いへ戻る。

 でも。

 

『……いつも元気をありがとう、ひまりん』

 

 そんなコメントも、ちゃんと流れていた。

 元気を与えられたなら、脱線した甲斐があったよ。

 

「ご、ごめんみんなっ!ちょっとお話し逸れちゃったみたい」

 

 俺は三人に頭を下げる。自分のリスナーさんとやり取りして、コラボ配信を邪魔してしまった。

 

 ……申し訳ない!

 

『……良いんだよ。ひまりんちゃんの言葉、りあらのリスナーさんにも届いてるみたいだし』

 

 え?

 

 ゆるふわキラキラりあらちゃんのファンが、こんな俺の発言を……?

 

『だね。ひまりんちゃんの言葉は、頑張る人に響くものがあるんだよ』 

 

 レイちゃんまで。

 

『みあも、生でひまりんの相談を見られて嬉しいっ!』

 

 みあちゃん……!

 

 コラボ生配信で流れを切るのは許されないと思うけど、みんなのリスナーさんにまで声が届いたのは嬉しい。

 

「みんなも、みんなのリスナーさんも……ありがとうございます」

 

 一旦、けじめとして謝罪しておく。

 

『いいっていいって。コメント欄で、みんな【ひまりん部長素敵っ!】とか盛り上がってるよぉー!』

 

 部長!?

 

 ……無駄に昇進しなくていいってば!!

 

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