50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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六話 来世でも……

 

『でもさぁ〜?』

 

 りあらちゃんが、にやにやしながらこちらを見る。

 

『さっきも言ったけど、ひまりんちゃんって、なんか本当に【社会人】って感じするよねぇ。コラボしてみて、改めてそう思う』

 

『わかるー』

 

『包容力の塊ですよねぇ』

 

 レイちゃんとみあちゃんも賛同してきた。

 

「あのね、これでも女子高生なんだよ?なんなら、学生証もあるんだよ?」

 

 俺は思わずツッコんだ。

 

『だってぇ、普通【最近キュンとしたこと】で駅員さんとの労働共感エピソード出てこないもんっ』

 

『女子高生の皮を被った社会人』

『孤独なグルメとか好きそう』

 

 ぐぐ……リスナーがかなり俺の正体に近づいてしまっているぞ!ネタで言ってるんだろうけどさ。

 

 あと、孤独なグルメは別に社会人じゃなくても好きだよね?

 

『でも、そういうところ好きだよ』

 

 不意に、レイちゃんがぽつりと言った。

 

「へっ?」

 

 変な声が出た。

 

 コメント欄も色めきたつ。

 

『おっ』

『告白!?』

『ここにキマシタワーを建てよう』

 

 人に真正面から好きって言われて、俺もリスナーさん同様、凄くドギマギしてるよ。それも、カッコ可愛い女の子から。

 

 レイちゃんは少しだけ照れたように視線を逸らしながら続ける。

 

『なんていうか……ちゃんと現実見てる人って、安心するんだよね。無理にキラキラしてないっていうか、若さに甘えてない感じがさ』

 

「うっ……」

 

 なんだろう。

 

 褒められてるのに、女子高生アイドル配信者を目指す身としては素直に喜べないかも。

 

『うっ……』

 

 そして何故か、りあらちゃんまで小さく呻いたような……気のせいか?

 

 俺の聞き間違いかも。

 

『ひまりんちゃんって、コメント拾う時もさ』

 

 今度はみあちゃんが柔らかく笑う。

 

『否定しないで聞いてくれるから、相談しやすいんだと思います』

 

「そ、そうかなぁ……」

 

 なんだか急に褒められ始めて照れる。

 こういうの、あまり慣れていないのよ。

 

『りあらもわかるー!』

 

 少しうつむき気味だったりあらちゃんが、元気よく頷いた。

 

『なんかね、ひまりんちゃんって【ちゃんと生きてきた人】って感じする!』

 

「や、やめて!?急に人生の重みを感じるワード並べないでっ!?」

 

 りあらちゃんは年齢不詳だけど、間違いなく星野ひまりよりは歳上の筈。

 そのりあらちゃんに言われると、なんだか本当に年齢差を感じるから!

 

『でも実際、リスナーさん救われてると思うよ?』

 

 レイちゃんが真面目な声で言う。

 

『今日の赤スパの人も、たぶんコメント送るだけで勇気いったと思うし』

 

 その言葉に、俺は少しだけ黙った。

 

 確かに。

 

 匿名のコメント一つでも、【辛い】って言葉を誰かに投げるのって勇気がいる。

 誰かにSOSを出す大変さは、前世の俺が身をもって理解してる。

 

 だからこそ。

 

「……だったら、良かった」

 

 自然と、小さく笑っていた。

 

「少しでも元気出たなら、配信した意味あるしね」

 

 コメント欄がゆっくり流れる。

 

『ひまりん……』

『優しい世界』

『なんだこの配信』

『女子がキャピキャピしてるのを見に来たと思ったら、課長と面談した気分』

 

「リスナーのみんな、ごめん!今日はそういう趣旨じゃ無いからねっ!?」

 

 俺は慌てて否定する。

 

 すると。

 

『じゃあ次のテーマ、【最近やらかしたこと】いこーっ!』

 

 りあらちゃんが元気よく切り替えた。

 

『待ってました』

『【やらかしフォルダ持ち】のひまりんのターン』

 

「なんで俺がやらかし担当みたいになってるの!?」

 

 コメント欄が爆笑する。

 

 いや、確かに前世では色々やらかした記憶はあるけど!誰しもがやらかしフォルダを持ってるって話もしたけどさぁ。

 

『まずはりあらからっ♡』

 

 りあらちゃんが元気よく手を挙げる。

 

『この前ねぇ〜、朝配信しようと思って五時に起きたの!』

 

『えらい』

『朝活だ』

 

『で、準備してぇ、マイク入れてぇ、配信スタートしたんだけど……』

 

 りあらちゃんが、すっと目を逸らす。

 

『開始二分で寝落ちしましたっ』

 

『?????』

『伝説』

『どういうことだよwww』

『あの回かっ!』

 

「配信始めてから寝たの!?」

 

『なんかねぇ〜、リスナーさんの【おはよう〜】見て安心しちゃってぇ……しかも寝言だけずっと配信に乗ってたらしくてぇ……』

 

 りあらちゃんが顔を真っ赤にして机へ突っ伏した。

 

『やば』

『アーカイブ永久保存』

『あとで見よ』

 

 五時起きして生配信とは。

 

「配信者って大変なんだねぇ……」

 

 寝落ちとか、普通に怖いよ?

 変な寝言やいびきかいたりとかさ、放送事故になりかねない。

 

 俺もりあらちゃんの二の舞は演じないようにしなきゃ。

 

『次、レイちゃんっ!』

 

『んー……』

 

 レイちゃんが少し考え込む。

 

『やらかしってほどじゃないけど』

 

 そう前置きしてから、小さく息を吐いた。

 

『配信切ったと思って、一人で歌ってた事ある』

 

 一瞬の静寂。

 そして。

 

『あるある』

『放送事故www』

『かわいい』

 

 レイちゃんが片手で顔を隠した。

 

『しかも結構ノリノリで』

 

 指の隙間から少しだけ覗く顔は、真っ赤に染まっていた。

 

「うわぁ……」

 

 それは恥ずかしい。

 

『リスナーさんに【アンコールありがとうございます】って言われて気づいた』

 

『草』

『リスナー優しい』

『最後まで聴いてるのが愛』

 

 レイちゃんは両手でパタパタと顔に風を送って

 

『もう二度と立ち直れないと思った』

 

 それだけ照れ臭かったんだね。

 

『……でもまあ、そのまま引退は負けかなって』

 

 レイちゃんが少し笑う。

 

 ああ、やっぱりこの子格好良いな。

 失敗しても逃げずに続ける人って、心が強い。

 

『みあはですねぇ……』

 

 今度はみあちゃん。

 

 みあちゃんは少し困ったように頬へ指を当てた。

 

『配信中に、リスナーさんから【後ろで電子レンジ鳴ってるよ】って言われて……』

 

『平和』

『かわいい』

 

『温めてたの完全に忘れてました』

 

「わかる」

 

 思わず即答してしまった。

 

『ひまりん即答で草』

『給湯室のレンジかな?』

『また課長お弁当温めっぱだよー』

 

 まるで俺の前世を見て来たかのようなコメント。

 

 みあちゃんは下を向きながら

 

『しかも、急いで取りに行ったら熱くて落としてぇ……料理を床に全部こぼしました……』

 

 一瞬。

 

 全員が「あぁ……」って空気になった。

 

「それは辛い……!」

 

 俺も深く頷く。

 

 床に料理をぶちまけた時の絶望感は、かなり上位だ。

 

『しかもラグの上だったので……』

 

『うわぁぁぁ』

『致命傷』

『ダブルパンチ』

 

 みあちゃんがしょんぼり項垂れる。

 

『でも、リスナーさんが一緒に掃除方法調べてくれて優しかったです』

 

 しかし、すぐ上を向いて笑顔でリスナーさん達に感謝を伝えた。

 

『優しい世界』

『団結するなw』

『みあたそー!!』

 

 この子、本当に世界観が柔らかい。

 やらかしエピソードですら癒し空間になってる。

 

『じゃあ最後はもちろん、ひまりん課長っ♡』

 

「課長定着してる!?」

 

 りあらちゃんがそう呼んじゃったらさ、もう定着しちゃうでしょ。

 

 俺は慌てる。

 

 しかし。

 

『ひまりんのやらかし絶対強い』

『労働エピソード期待』

 

 期待値が変な方向へ高まっていた。

 

「そんな、大したやらかしはしてないよ?」

 

 何故なら、おじさんは日々やらかしを減らすようアップデートしてるからね。

 

 失敗する程、日々の生活でやらかす頻度は少なくなっていくのさ。

 

『えー?ホントかなぁ。じゃあ、ひまりんのやらかしは一旦保留にして……皆さんお待ちかね!最後のトークテーマにいっちゃうよぉー!』

 

 しまった。

 

 配信者としては無理やりにでもやらかしエピソードを話すべきだったか。

 

 少し盛り下げちゃったかもしれない。

 

 なんなら、今ここで流れを切ってしまったことこそがやらかしでは……!

 

「最後のトークテーマ?」

 

 この女子会の締めであり、おそらくは一番盛り上がるテーマだろう。

 

『そう!ズバリ、こちら!!』

 

りあらちゃんの画面に、ババンッ!と大きな文字が表示された。

 

【もしも自分が生まれ変わったとしたら、どんな人生を送りたい!?】

 

『へぇ、面白いテーマだね』

 

 レイちゃんがまじまじとテーマを見つめる。

 

『ええっと、これは性別とか、産まれる国とかも自分で選べるの?』

 

 みあちゃんは「むむっ」と、本当に生まれ変われたらを考え始めた。

 

『ふふーん、考えるだけでワクワクするテーマでしょー!?』

 

 得意げなりあらちゃん。

 

 しかし……

 

『ひまりん、どしたん?』

『課長、表情暗くね?』

 

 コメントで気がついたんだけど、今の俺はどうやら暗い顔をしてしまっていたらしい。

 

 いかんいかん!

 

 これ以上、コラボ配信で迷惑はかけられない。

 

 このテーマ。

 みんなは文字通り生まれ変わった場合を考えているのだろう。

 

 けど俺は……全くの逆。

 

 星野ひまりになる前。

 

 前世でお別れを告げられなかった家族や友人、仕事関係の人を思い出して少し切なくなってしまったのだ。

 

『最後は、ひまりんから答えて貰おうかなっ!』

 

 ここまでずっとトリを務めてきた俺が、最後の質問ではトップバッターに。

 

 切なくなっていた心境とは裏腹に。

 

「石油王!不動産王!社長の子供!」

 

 口が、脳より先に動いていた

 

 前世で仕事が嫌になるたび、「来世はこうでありたい」と願い続けた存在を、俺は即答してしまっていた……!

 

『働いたら負け』

『それはそう』

『珍しく真面目な顔してると思えばコレだよ』

『恥を知れ俗物www』

 

 りあらちゃん、レイちゃん、みあちゃん。そして、リスナーのみんな……

 

 なんかごめんね?

 

「というのは半分冗談でぇ!」

 

 流石にダメだよねっ、最後の答えが今のじゃ。

 

『半分は本気なんだねっ!?』

 

 りあらちゃんにツッコミを入れさせてしまった。

 

 でも。

 

「……みんなとこうやって女子会できて、リスナーさんは楽しいコメントをくれて。ひまりんは幸せだよ。来世があるとしたら、また同じように皆んなと楽しく過ごしたいなって思う」

 

 二度目の人生。

 

 ひまりんとして生きている今は間違いなく幸せで。三度目の人生もこうやって過ごしたいと感じるのは確かだった。

 

『……ひまりんちゃん!そうだね。もし来世で会えたら、絶対またコラボしようっ』

 

『いいね。ま、生まれ変わる前にまだまだコラボしていこう』

 

『ひまりんさんがそう思ってくれて、みあも嬉しいです』

 

 三人とも、すごく優しい目で俺の話を聴いてくれていた。

 これはこれで、なんかちょっと照れるなぁ。

 

『最初からそう言っておけば』

『テイク2いく?』

『アーカイブでは石油王発言はカットされます』

『無理やり感動路線にしてて草』

 

 ……前言撤回。

 

 三度目の人生では。

 リスナーさんから、りあらちゃんみたいな扱いをしてもらいたいかなっ!

 

 

 

 

 

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