50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話 作:アラフィフ大活躍
「はぁー……緊張した。みんなや、そのリスナーさん達に不快感を与えてないといいけど」
コラボを終えて、静かな部屋で一人伸びをする。
背中が緊張から解放され、途端に眠気に襲われた。
慣れないことして、かなり疲れてるみたい。
「けど。楽しかった……よね?」
ベッドに寝転び、さっきまでの配信を思い出す。
時代の先頭を行く人気配信者達。
その中に混じるおじさんが一人。
かなり異色だったと我ながら感じた。
「明日学校で白石さんと感想言い合おうっと」
配信者目線と視聴者目線では気づくことも違うだろう。
アラームをセットしてから目を瞑ると、数分もしないうちに眠りに落ちていた。
そして、コラボ配信翌日。
俺……星野ひまりは、昼休みの教室で白石さんとお弁当を食べていた。
ちなみに本日のおかずは冷凍唐揚げ。
企業努力の結晶である。
「美味しい……」
柔らかい。冷めてもジューシー。
前世ではコンビニ弁当かカップ麺が主食だった身としては、冷凍食品ですら十分ありがたい。
素晴らしい仕事です。
そんな事を考えながら箸を動かしていると。
「ひまりん」
不意に声をかけられた。
俺の机を前後で挟むようにし、共にご飯を食べていた白石さんの声。
「とりあえず、昨日はお疲れ様ー。みんなといい感じに話せてて良かったよ」
購買で買った焼きそばパンとメロンパンを頬張るギャル。それだけでご飯足りるのか、おじさん的にはちょっと心配。
「ありがとう、白石さんっ!緊張したけどなんとかやり遂げた……かな」
「うん。あの三人の配信開いたりしてみたけど、どこのコメント欄でもひまりんにあたたかい感じだった!ファンも増えたと思うっ」
「本当に!?それなら嬉しいなぁ」
途中人生相談したり、結局アイドルらしくない部分も見せてしまったけど……
結果オーライってやつだろう。
「とはいえ、気をつけないと」
白石さんが緑パッケージの豆乳をストローで吸いつつ、ちょっとだけ目を細めた。
「何に?」
彼女が何を気にしているのか、俺にはわからなかった。
「いい?りあらちゃん、レイちゃん、みあちゃんのファンは基本優しい……これは間違い無い。でも、彼女らとコラボしたひまりんがもしも軽率な行動をすれば。ファンとしては自分の推しのイメージを傷つけられたと捉えかねないの」
「そういうものなの!?」
「そういうものなの。だから今まで以上に発言とかに気をつけなきゃダメだよ」
確かに。
一般論で考えれば、例えばCM。
企業がスポンサー契約する際にはタレントの不祥事や炎上でイメージダウンしてしまう事がある。
俺が何かをやらかせば、コラボしてくれたりあらちゃん達の名誉を傷つけてしまうのだ。
「それは気を引き締めないとね……」
「ま、相手にも言えるけど。例えばりあらちゃんが炎上すればひまりんにも飛び火するかもだし、お互い様よね」
「うん、そうだね」
あのりあらちゃんが炎上するとは思えなかったけど。俺は白石さんの注意をありがたく受け取っておく。
お弁当を食べ終えて、巾着にしまっていると。
「あ、あの……ひまりちゃんだよね?」
俺と白石さんの横に同じクラスの子が近づいてきた。茶髪を肩まで伸ばした女の子。確か……
「おーっ、高橋っち。どしたんー?」
白石さんが先に応答してくれる。
そうだ、高橋さんだ。教室の殆ど反対側に座っているからあんまり話した事がない。
俺に用事でもあるのだろうか。
「うん」
高橋さんは少し困ったように笑った。
「今、ちょっと時間ある?」
一応時計を確認する。
まだ昼休みは長い。
「あるよー」
俺の返事に高橋さんが笑顔になり、すぐさま緊張した顔つきに。
「……実はね、ひまりちゃんに相談乗ってほしい」
「へ?」
俺は思わず固まった。
相談……?
殆ど話した事ない相手に??
「えっと……先生じゃなくて?」
「先生には言いにくいんだよね」
高橋さんが頬をかく。
「……友達でもなくて?」
「友達にも言いにくい」
自分で言っといてなんだけど、友達認定されてないのに少しショック。
ま、クラスが同じってだけだしねぇ。いいんだけどさっ!
「そんな大事そうな相談を、なんで俺に?」
「ひまりん……ひまりちゃんなら聞いてくれそうだから」
今、ひまりんって言いかけた!?
……ひょっとしてそういうことか。
「そんなに聞き上手に見える?」
一応様子を見る。
「うん」
即答だった。
そして。
「なんか、社会人くらい心に余裕ありそうだし」
「誰が社会人さっ!?」
女子高生なんだぞ。
戸籍上は。
あとね?
社会人が誰しも心に余裕あると思わないで欲しい。これは大人にならないとわからないかもだけど、モラトリアムな学生の方が気楽な場合もあるよ。
高橋さんが吹き出した。
「やっぱりそういうとこだよ」
そう言って、俺の隣に座る。
少しだけ真面目な顔になった。
「……好きな人がいるんだけど」
あ、終わった。
完全に俺の専門外だ。
労働相談ならまだしも。
「ひゅー。高橋っち、ガチ?」
白石さんが口笛を吹き、顔を綻ばせる。
「……うん、ガチだよ」
高橋さんは膝の上で拳を握りしめた。
なるほどね?
恋愛、恋愛かぁ……。
前世五十年。今世十六年。
合計六十六年近く生きていても。
恋愛経験はほぼ無い。
終わっていた。
「えっと……」
覚悟を決めて相談してくれた高橋さん相手に、どんな回答をすべきか。
「うん」
「あんまり参考にならないかもだけど」
「大丈夫!!」
大丈夫じゃない気がする。
かなり。
「じゃあ、もう少し具体的に教えてくれない?好きな人がいて、何を俺に相談したいのか」
もっと仲良くなりたいとか、告白がしたいとか。ゴールがわからないと方針が決められない。
白石さんも、真剣な顔で身を乗り出してくる。
「実は最近、メールの返信が少なくなったんだよね」
メールの返信が。ほうほう。
「高橋さん。その人とは付き合ってるの?」
「まさかっ!!まだあの、メールするようになったばかりで。……全然、そんなとこまでは」
顔を赤くする高橋さん。……初々しい。
アラフィフからしたら、もう子供を見る心境だ。
「部活や塾で忙しいとか、アルバイトしてたりは?」
問題を解決するには、一個一個可能性を潰していくのが確実だろう。
「んーと。詳しくは知らないけど、前までは私が連絡したらすぐ反応してくれてたんだよ。けど、それがここ最近、返事の頻度も少なければ内容も素っ気無いの」
「なるほどね。頻度も、内容もか」
恋愛とは無縁の学生生活だった俺に、果たして相手男子の気持ちが理解出来るだろうか。
「高橋っちが知らないところで彼女出来た系じゃないの?」
「ちょっと白石さんっ!?」
そんなノンデリカシー発言、おじさんですら躊躇うよ!?
「や、大事なとこでしょ。彼女がいるのに高橋っちをキープするゴミ男の可能性も出て来たし」
「ゴミ男!?」
もう、ギャル怖い。こんなズケズケと遠慮のない発言をするとは。
「そんな。クロくんに限って、そんな酷いことはしないよっ」
高橋さんの思いびとはクロくんというのね。
「あと、私は白石さんじゃなくてひまりん……ひまりちゃんにアドバイスして欲しいのっ」
うん。
この子、絶対俺がひまりんだと知った上で相談して来ているよね。
いつもはリスナーさん相手に社会人経験を活かしてアドバイスとかしてるけれど。
恋愛相談は無理!!!
しかも、Z世代とかジェネレーションギャップ極まれり!!
俺の学生時代なんて、友達との待ち合わせすら難しかったんだから。携帯電話も無く、時刻や場所を間違えたら会うことさえできず。
めぞん一刻ばりのすれ違いは、けっしてフィクションじゃ無かったのよ。
メールの返事が遅い?
俺の若い頃は文通だったんだから。
せめて数日くらいは待たなきゃさぁ。
……なんて、今の子には言ってもわからないよね。
「わかった、まずはクロくんをそれとなく探ろうか。勿論高橋さんの名前は出さない。最近、どこかに遊びに行ったり習い事を始めたりしてないか、私が調べてみるよ!」
せっかく俺なんかを頼ってくれたんだ。
クラスメイトとして、少しは力になってあげたい。
「あー。それは難しいかも……?」
しかし。
高橋さんは目線をそらして、微妙な反応。
「もしや他校の男子とかぁ?」
白石さんが口を尖らせる。
「ううん、違うよ。……でも」
でも、なんだろう。
「ひまりちゃんなら、聞けるかもしれない」
「えっと。よくわからないよ?さっき、難しいって言ったばかりだよね。なのに、俺なら聞けるかもって言うのは」
同じ学校にはおらず。
けど俺なら聞ける……?なんだいそれは。
「ひまりちゃん、仲良さそうだし」
「はい?」
俺が仲良い男子……だって?
そんなもんいないがっ!?自慢じゃ無いけど!
「おやぁー?ひまりん。親友の私に隠れて、いつのまに男子と仲良くなってんのぉー?」
白石さんが隣に移動してきて、肘で脇腹をついてくる。
あれ、なんか目が笑って無いんだけど。俺が隠れて男子と仲良くなっていたと誤解して、機嫌悪くしたのかな……?
「ごめん、私がはぐらかすから誤解させちゃったよね。ちゃんと話すよ」
と、高橋さんが。
こっちとしても、詳しく教えてくれるならありがたいんだけど……問題は、その男子を詳しく知ったところで何の意味も無いかもってところで……
俺は知りたいような、知りたくないような心境で高橋さんの言葉を待つ。
「私の好きな人ね、名前は黒崎レイっていうの。昔はコメントしたら必ず反応してくれたのに……最近は素っ気なくて……悲しくて……」
ぽろ……ぽろ……と、高橋さんは涙を流してしまう。他のクラスメイトが、なんだろうと視線を送って来た。
「黒崎レイ……って、【おつかレイ】のレイちゃんっ!?」
俺はガタンと机を叩き、まさに昨日コラボしたばなりのクール美女を思い浮かべた。
「うん、レイちゃん……初期のリスナーはクロくんって呼んでるの」
マジか。いや確かに?レイちゃんはおじさん目線でもカッコよかったけどもねっ!?
……だとしたら、確かめなくてはならない。
「高橋さん、そのメールって、まさかコメントのこと……?」
違くあれ。
しかし。
「うん。そうだよ……」
違く無かった。
高橋さん。それはねぇ……
泣き崩れる女子高生を相手に、俺は出かかった言葉をどうにかお茶で飲み込むのが精一杯だった。
「高橋っち、いわゆるガチ恋ってやつねー」
白石さんは頷きながら腕を組む。
「ガチ恋……?」
知らない単語だ。
Z世代の恋愛相談は、やはり俺にはレベルが高すぎた。
「リスナーが、本気で配信者を好きになっちゃうことだよ。高橋っち、黒崎レイからしたら、あんたはリスナーの内の一人でしか無いって。諦めなよ」
高橋さんの肩に手を置いて、諭す白石さん。
「違うよっ!?クロくんは、私が学校休んでまで昼配信見に行ったら喜んでくれたもんっ!!私のこと、見てくれてるもん!!」
高橋さんはヒートアップし、更にクラスの視線を集める。
そういえば……レイちゃん、昨夜のコラボでそんな話してたっけ?
「おおう、普段大人しい高橋っちがこんなブチ上がるとか。ひまりん、こりゃ教室でする話じゃないかもよー」
「……そうだね」
急変した高橋さんをなんとか宥め、悩み相談は放課後に持ち越すことにした。
高橋さんがここまで急変するだなんて。
きっと、事情があるのだろう。