50歳のおじさんがJKにTS転生したのでネットアイドルしてみる話   作:アラフィフ大活躍

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九話 普通の女の子

 

 男のチャーハンをご存知だろうか。

 

 商品名じゃないよ?

 

 一人暮らしのおじさんが、冷凍食品のチャーハンでは満足できず、かといって外食するのもだるい時に自炊するチャーハンを指します。

 

 高橋さんや白石さんと別れて帰宅した俺は、晩ご飯は簡単にチャーハンで済ませる事に。

 

「ふんふーん♪」

 

 フライパンを油で熱しつつ、ボウルの中に材料をぶち込んでいく。

 

 冷やしたご飯、生卵、ネギ、刻んだチャーシュー。全部をボウルの中で混ぜ合わせてしまうお手軽調理法にしてみた。

 

 熱々のフライパンに投入し、手早く炒めてパラパラを目指す。

 

 最初に生卵を絡めた米粒は、一粒一粒が卵でお手軽にコーティングされた。

 

「よしっ、完璧!!」

 

 お皿に盛り付けテーブルへ。

 

「いただきまーすっ」

 

 家に一人でも、食材への感謝は忘れない。

 

 湯気のたつチャーハンをレンゲで掬い、頬張ろうとしたところで。

 

 ピロンっ!

 

 スマホにメッセージが届く。

 

「今ですか……?」

 

 せっかく出来立て熱々の食事だ。

 メッセージにかまけて冷めては台無し、ここは気になるけども敢えてスルーしちゃおう。

 

 ハフッ!と口いっぱいに、チャーハンの美味しさを含む。

 

 ……さいこーっ!!

 

 良い感じにパラパラだ。今度、料理配信しちゃうのもアリかな?

 

 ……などと、自画自賛していると。

 

 ピロンっ!ピロンっ!

 

 連続でメッセージの通知が。

 

「もぉー、なんなのさぁ」

 

 モノを食べる時は、誰にも邪魔されず自由でなきゃいけないのに……!

 

 ムスッとしつつ、ベッドの上に放置していたスマホを見に行く。

 

 これで迷惑メッセージだったら許さん!

 

 画面をタップしてメッセージの主を確認すると。

 

【黒崎レイ:ひまりん、元気?】

【黒崎レイ:ごめん、忙しいよね】

【黒崎レイ:暇な時連絡ちょーだい】

 

 おっ……。

 

 今日俺のメンタルをガッツリと削ってきた、高橋さんを悩ませている張本人……黒崎レイちゃんからのメッセージだった。

 

 今はチャーハンを食べるのに忙しいので、食べ終わってから返信するとしよう。

 

「く、くるしい……」

 

 星野ひまりの華奢な身体には、少々ボリューミーすぎたチャーハン。

 だが、気合を入れてどうにか食べ終えた。

 

 二度目の人生でも、時々こうやって前世を基準にご飯を作ってしまう。

 

 甘いモノを食べる女子高生の胃が無尽蔵なら、仕事で疲れたおじさんの胃袋はブラックホールなので、今後は気をつけないとね。

 

 寝てすぐ横になるのは良くないと理解しつつも、ベッドに倒れ込む。ぽっこりと膨らんでしまったお腹が重たい。

 

「レイちゃん……何の用事だろうか」

 

 どうしたって、昼間の高橋さんを思い出してしまう。

 

 ただ俺は正直、まだ黒崎レイについて知らない部分が多い。

 

 今後クラスメイトとして高橋さんと接していく上でも、レイちゃんを知っておく方が良いだろう。

 

 俺はレイちゃんに返信する。

 

【すみません、今手が空きました】

 

 ……むう。ちょっと文面が業務的すぎただろうか。

 

 ピロンっ!

 

 即返信アリ。

 

【黒崎レイ:通話していい?】

 

 どうやら、文字でやり取りするより会話の方が良いみたい。

 

 うん、俺もその方が手っ取り早くて嬉しいな。

 

 メッセージで返信する代わりに、こちらから通話をかけてみる。

 

『もしもし?』

 

 携帯越しのレイちゃんの声。

 

「もしもし!今晩は」

 

『こんばんはー。急にごめんね?』

 

 配信コラボとは違い、相手の顔が見えないのは少し新鮮だった。

 

 今日もレイちゃんはクールな雰囲気。

 

 高橋さんが好きな相手と話しちゃってると考えると、少しだけ彼女に申し訳ないような気もする。

 

「全然大丈夫!何か用事かな?」

 

 まあ、用事がなきゃかけてこないとは思うけど。

 

『うん』

 

 レイちゃんは短く返事をした。

 

 普段通りの声。

 

 ……なんだけど。

 何となく元気が無い気がする。

 

『突然、変なこと聞くんだけどさ……』

 

「うん?」

 

 なんだろう。

 

『ひまりんって、配信楽しい?』

 

「へ?」

 

 予想外の質問だった。

 思わず聞き返してしまう。

 

「もちろん楽しいよ?」

 

 自分から出たのは即答だった。

 

 思い返せば、配信を始めてから色々あった。

 

 炎上もしたし、ダンスの練習もしたし。

 昨日なんて大勢の前でコラボまでした。

 

 ……だけど。

 

「楽しくなかったら続けてないかな」

 

 目的がお小遣いだったのは今は昔。

 配信そのものを楽しんでいる自分が確かにいる。

 

『そっか』

 

 レイちゃんが小さく笑う。

 でも、俺の勝手なイメージかもしれないけど、どこか寂しそうな笑い方だった。

 

 顔が見えてないから、本当に予想だけども。

 

『ひまりんらしいね』

 

「そうかな?」

 

『うん』

 

 少しだけ沈黙。

 

 俺らしい……?

 側から見たら、【ひまりん】はそうなのか。

 

 通話越しに、何かを迷っている気配が伝わってくる。

 

『ひまりん先生に、ちょっと相談していい?』

 

 レイちゃんにも先生と呼ばれて、少し複雑。

 

「いいよっ!もちろん」

 

 けど、相談を断る理由は無い。

 

『実はさ、最近……配信が楽しくないんだ』

 

 俺は黙った。

 

 レイちゃんは元々おちゃらけてるタイプでも無いし、冗談を言っている声じゃない。

 

 だからここは茶化さない。

 ひとまず彼女の言葉を最後まで聞こう。

 

『いや、正確には違うかな』

 

 レイちゃんが言葉を探す。

 

『配信してる時は楽しいの。ゲームも好きだし、コメント読むのも好き』

 

 そうだよね。

 昨日のコラボでも、笑いながら配信してくれていたし。

 

『……リスナーも好き』

 

「うん」

 

『でも、終わった後にさ』

 

 そこで一度区切った。

 

『数字ばっかり見ちゃうんだよ』

 

 ここでの数字とは。

 

 登録者数。同時接続数。再生回数。などなど。

 

 高橋さん達が見ているものとは別の世界。

 配信者側の景色のことだろう。

 

『昨日の配信もさ、コラボ自体は楽しかった。でも……終わった瞬間、登録者増えたかなーとか。切り抜き伸びるかなーとか、そんなことばっか考えてる』

 

 俺はベッドに寝転びながら天井を見る。

 

 なんとなく。

 会社員時代を思い出した。

 

 ノルマ、売り上げ、粗利、コスト、残業……

 

 数字を追いかけ、数字に追いかけられた日々を。

 

『あ、昔は違ったんだよ?』

 

 レイちゃんが続ける。

 

『最初はさ、ただゲームしてるだけだった』

 

 みたいだね。

 

 高橋さんも、その頃からレイちゃんを見ていたとか言ってたし。

 

『五人来たー!とか、十人来たー!とか、それだけで楽しかったんだ』

 

「うん」

 

 わかるよ。

 

 星野ひまりとして配信し始めた頃、俺も一人が見てくれてるだけで嬉しかったし。今もだけど!

 

『でも今は、同接三千でも落ち込むようになって』

 

「三千!?」

 

『や、そこは驚くとこじゃない』

 

「いやいやいやっ!驚くからねっ!?」

 

 三千人って……俺が昔勤めていた会社の社員数より多いんだけど!

 

 それは、レイちゃんの感覚が麻痺してきてるのかも。

 

『……なんかさー』

 

 レイちゃんは苦笑したまま続ける。

 

『もっと上を見ちゃうんだよね。昨日より少ない、先月より伸びてない……そんなことばっか。自分でもやんなるの』

 

 なるほどね。……少しだけわかった。彼女の悩みは、真には彼女にしかわからない事なんだけども。

 

「ある種、仕事みたいになっちゃったんだね」

 

 通話の向こうで、レイちゃんが黙った。

 

『……あー』

 

 数秒後。

 妙に納得した声が返ってくる。

 

『それだわ』

 

「へ?」

 

『それなんだよ』

 

 レイちゃんが笑う。

 今度は苦笑じゃなく、少しだけ本当に笑った感じだった。

 

『仕事だ。最近の私、配信を誰かにやらされてる感じ。……自分の意思でやってはいるのにね』

 

 やらされてる、か。

 好きなことでも、仕事となると苦痛と聞く。

 

 俺も数字に追われる感覚は嫌というほど知っているよ。

 

『ひまりんってさ、ガチでたまに五十歳?』

 

「それは……たまにじゃなくて常時だよ」

 

『ふふっ。意味わかんないし』

 

 少しだけ空気が軽くなった。

 そして、レイちゃんがぽつりと呟く。

 

『あとさー』

 

「うん?」

 

『最近ちょっと重いリスナーも増えてきて』

 

 俺の脳裏に即座に浮かぶ人物。

 

 無論、高橋さんだ。……絶対高橋さんだ。

 

『嫌いじゃないんだけどね?むしろ、応援してくれるのはありがたいし』

 

「うん」

 

『でも……』

 

 レイちゃんの声が少しだけ弱くなる。

 

『こっちはさ、その人の人生に責任持てないじゃん』

 

 俺は何も言わない。

 

『学校辛いです、仕事辛いです、レイちゃんのおかげで頑張れます、生きる理由です』

 

 少し間。

 

『そう言われると嬉しい。……本当に嬉しいんだよ?でも、たまに怖いって感じることもあるんだ』

 

 その言葉に、今日の高橋さんの顔が浮かぶ。

 

 コメントを読まれないだけで落ち込む。

 

 配信が無いだけで辛い。

 

 彼氏彼女が出来たら吐きそう。

 

『だって私さ。元々は、ただゲームしてる女子高生だよ?』

 

 静かな声だった。

 うん。レイちゃんの原点は、単なるゲームが好きな女の子なんだよね。

 

『そんな大層な人間じゃないし。……いつか配信辞めるかもしれないし、普通に失敗もするし。……なのに誰かの人生背負うとか、絶対無理じゃん』

 

 その言葉は、きっと高橋さんが聞いたら悲しむ。

 

 だけど。

 

 配信者側の本音としては、とても自然な気がした。

 

「レイちゃん!」

 

『ん?』

 

「それってさ」

 

『うん』

 

「レイちゃんが優しいから悩むんじゃない?」

 

 俺は彼女の悩みを解消する、というよりは自分の考えをそのまんま伝えてみた。

 

 レイちゃんは少しだけ沈黙して。

 

『んー、そうかな?』

 

「たぶん……というか、きっとそうだよ」

 

 俺は答える。

 

「本当にどうでもいいなら、そもそも悩まないでしょ。レイちゃんがリスナーさんの事をしっかり考えてるから悩むんだと思う」

 

『まあ、それはそうか』

 

「うん!」

 

 俺も、自分の配信に来てくれるリスナーさんはどんな人かなぁ……なんて、ふとした時に考えるし。

 

『……なんかさ』

 

 レイちゃんが小さく笑った。

 

『ひまりんと話すと楽になる。今日、相談してほんと正解だった』

 

 そういって貰えると、凄く嬉しいな。

 

「話を聞くくらいしか出来ないけど、それでレイちゃんが楽になったなら良かったよー」

 

『……相談料いくら?』

 

 えっ。

 

 相談料なんて、考えたことも無かった。

 社会人にとってほうれんそうは当然で、都度料金取ってたら金欠になっちゃうし!

 

「いらないよ。また楽しく一緒に遊べたら、それだけで十分。勿論、レイちゃんが配信嫌ならプライベートだっていいし!」

 

『……うん。ひまりんのお人よし』

 

 ようやく、昨日のコラボで聞いたレイちゃんらしい笑い声が戻ってきた。後は、元社会人として一個だけアドバイスしておこう。

 

「ちなみに、今日はもう数字見ない方がいいと思う」

 

『うわ』

 

 この反応は……きっと俺にメッセージする前から見てたね?

 

「レイちゃん、今日も見たでしょ」

 

『……見た』

 

 ばつが悪そうな声。

 

「何回?」

 

『えっと、二十回くらい?』

 

「それ、もう中毒じゃん!?」

 

 どこにいても何をしてても数字が気になっちゃってるじゃんかー!

 

『まー配信者だからね』

 

「いやいや、完全に依存症だよそれ。なんならスマホ自体見過ぎじゃないかなって」

 

 俺が呆れると、レイちゃんがケラケラ笑う。

 

『じゃあ今日はもーやめるね』

 

「そうしてよ」

 

『ご飯食べて、お風呂入って寝るわ』

 

「偉い!!スマホも極力見ない方がいいよ。そういうの、デジタルデトックスって言うんでしょ?」

 

『そうだけど、なんかその言い方おじさんみたい』

 

「……やめてね?俺……私もリスナーからおじさん言われまくって傷ついてるんだからね??」

 

『えーっ?それは嘘でしょ。ハイテンションでツッコミいれてるしさ』

 

 レイちゃんはすっかり元気になったみたい。

 

 昔、高橋さんはレイちゃんに救われた。

 

 だけど、そのレイちゃんだって万能じゃないんだ。同じ人間で、悩むし落ち込むし、数字にも振り回される。

 

 配信外ではそこらにいるただの女子高生だ。

 ……いや、配信中もだよね。

 

 俺はスマホを耳に当てたまま、ふと思う。

 

 もしかすると配信者っていうのは、リスナーを支えるだけじゃなくて。

 

 誰かに支えられながら、どうにか画面の前に立ち続けているものなのかもしれない。

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