スレイブズ   作:まさまさ0902

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第4話 予想外のおもてなし②

「ここが炊事場だ。料理は出来るのかい?」

 

「はい。多少は……」

 

「助かるよ。まぁ、料理の前に先ずは片付けをしないといけないのだが……」

 

 蜘蛛の巣の宴会場と化しているキッチン。

 

 流しには大量の食器が山積みになっており、食材を入れる籠の中にはミイラ化した野菜が転がっている。どこを指で触っても埃が付着する有様に、セラの眉がハの字に垂れた。

 

 ゆったりとしたフレアスカート、そして襟と袖にあしらわれたレースが上品で可愛らしい濃いグリーンのワンピースに着替えたセラは屋敷の中を案内されていた。

 

「いや、本当に申し訳ない。本来ならば予め清潔にして迎え入れるべきだったのだが……。何ぶん時間が無くてな。私もこの屋敷に来たのはつい最近なのだよ。一応風呂は使えるのだが、他は見ての通りだ」

 

 ジルが徐に皿を手に取ると、その皿は自重で割れ、床に散らばる。

 

「あ、いえそんな……。大丈夫です。私が綺麗にします」

 

「助かるよ。私も手を貸そう。力仕事は任せてくれ」

 

「え!?だ、大丈夫です!お寛ぎなさっていてください!」

 

「構わん。恐らくキミ一人では掃除し切れないだろうからな。どうせ暇なのだ。運動がてら付き合うさ」

 

 どうにも退く気配の無い主人に折れたセラはその後、ジルと一緒に屋敷内の片付けに勤しむこととなった。

 

 掃除は時折休憩を挟みながら半日かけて行われ、中庭の井戸周りと台所が取り敢えず使えるようになったところでひとまず本日の作業は終了。

 

「ふう、やれやれ、今日は全く以て暑いな」

 

 鎧を着たまま手で顔を仰ぐ主人の姿にセラの口元が微かに緩む。

 

「その……。不躾な質問で申し訳ありません。その鎧はいつも着たままなのですか?」

 

「え?あ、いや、流石に普段から着ているわけではない。何というか、何となくだ。気にしないでくれ。あ、もしかして少し怖かったかな?だとしたら申し訳ない」

 

「いえ!大丈夫です!私の事は気になさらないで下さい!」

 

 謝ってばかりの主人に、謝られてばかりの奴隷は困惑しっ放しであった。

 

 清掃中も常に自分へ気を使い、わざわざ飲み水を汲んできたりと上下関係が逆なのではと錯覚してしまう程の厚遇にセラも気が解れてきていた。しかし、次のジルの言葉が状況を一変させる。

 

「日も暮れてきたことだし夕飯にしよう。セラ、頼むよ。材料は倉庫の中にある物を何でも使ってもらって構わない。存分に腕を振るってくれ。私は風呂を沸かしてくる」

 

 そう言い残すとジルは風呂場へと向かっていった。本来であるならばそれも自分の仕事だと呼び止めるべきなのだが、しかし、セラの頭の中はそれどころではない動揺と衝撃に満ちていた。

 

(……お風呂……。お、お風呂……)

 

 そう。風呂。

 

 奴隷というのは主人の身の回りの世話をして然るべきなのだが、それはもちろん風呂においても例外ではない。

 

(ど、どうしよう!どうしよう……)

 

 悩んだところでその答えは結局ジルに握られている。セラは主人の言う事に服従するしかないのだ。己が運命と主人の情欲を受け入れるしかない。

 

「……うぅ……」

 

 大きな瞳から零れそうになる涙を必死で堪えながら、セラは倉庫へと向かった。

 

 

 ―――――

 

 

「一緒に食べよう」

 

「え!?」

 

 それは、食堂に座る鎧姿の主人の前に料理を置いた際に投げかけられた言葉であった。

 

 今日何度目になるだろうか。主人の命令に疑問で応えるという、奴隷として御法度の態度をつい晒してしまったのは。

 

 

「こんな広い所で一人で食べるのは寂しいだろう?折角なんだ、一緒に食べようじゃないか」

 

「い、いや、ですが……」

 

 確かに食堂は広い。そしてテーブルも長く巨大だ。大きく白いクロスが掛けられたテーブルの上には燭台が等間隔で三つ並べられており、五本の蝋燭が淡い光を放っている。

 

 豪勢な会食でも催されるかのような大きさのテーブルだが、座っているのはジル一人。何とも寂し気な光景である。

 

「飯は誰かと一緒に食べた方が美味しいんだ。ホラ、早くしないと折角の料理が冷めてしまう。急いで自分の分を持ってきなさい」

 

「は、はいっ!」

 

 今日の夕飯は干し肉と野菜のスープに固焼きのパンと茹でた卵という豪勢なインテリアに追い付いていないメニューだったが、しかし味は中々のもの。

 

「うん。美味い。中々の腕前だな。これは今後の食事の時間が楽しみだ」

 

「き、恐縮です」

 

 長い髪が前に垂れないよう片手で支えながら、もう片方の手でスープを口に運ぶセラ。

 

 食事の間、ジルはこの屋敷の事や今までに自分が食べてきた料理の話など、取り止めの無い話を愉しそうにしていたのだが、残念なことに彼女の頭にはその内容が半分も入ってこなかった。

 

 それ以上に目の前で起きている不可解な出来事に意識が割かれていた。

 

 なんとジルは鎧を着けたまま食事をしていたのだ。それも、鉄仮面すら着けたまま。

 

 更に驚くべきことに、彼の持つスプーンの先端は鉄仮面を貫通し、何事も無かったかのように再びその姿を現す。その光景があまりにも気になり過ぎて、セラは料理の味を感じることなく食事を終える事となった。

 

「ごちそうさま。とても美味しかったよ。ただ、注文を付けるとすればもう少し量が欲しかったかな」

 

 食器を下げるセラに、ジルが優しく声を掛ける。

 

「わ、分かりました。次から気を付けます」

 

「うん。頼むよ。さて、食事も済んだことだし……。風呂にしようかな」

 

 ピタリ。と、食器を持ち上げるセラの手が止まる。

 

「ん?先に入るかい?」

 

「いっ、いえっ!だ、大丈夫です!!お先にどうぞ!」

 

 表情が分からないジルに顔を真っ赤にして答えるセラ。そうか、と、ジルは重い腰を上げ、「お先に」と一言残すと食堂を後にした。

 

 セラは中庭の井戸から汲んで来た水で食器を洗いながらしばらく考えていたが、やがて作業の手を止め、スカートの裾を摘まみ自分の部屋へと駆け出した。

 

 クローゼットの中から、桃色の水玉模様が可愛らしい寝間着と少し大胆な黒い下着を掴み取ると、手籠に詰め、妙な使命感と共に風呂場へと向かう。

 

 部屋一つ分の広さの脱衣所に向かうと、そこには既にジルの物と思わしき衣服が籠の中に放り込まれていた。だが、鎧は見当たらない。

 

 まさか鎧を着たまま入っているのではと不安を抱いたが、服を脱ぎ、その妖艶かつ張りのある身体をバスタオルで隠したセラにとっては最早どうでも良かった。

 

「しっ、ししし失礼します!」

 

 やけくそ気味のノックを数回し、返事も待たずにセラは浴場へと躍り出る。

 

「「えっ!?」」

 

 熱気と湯気が濛々と立ち込める浴場の中、二つの声が重なった。

 

 男の目に飛び込んできたのは、バスタオル一枚身体に巻き付けた姿で現れた美しきエルフの姿。

 

 女の目に飛び込んできたのは、産まれたままの姿でせっせと身体を洗う主人の姿であった……。

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