ぐちゃドロ系サイコ女は俺を立派な人斬りに育てたい 作:フォン・デ・ペギラパギラ
死は必ず訪れる。
決められた結末は、我々にいつかやってくる。――それは、これを読むあなたにも。
神の手が計った尺度。
あるいは、生まれ持った設計図。
人の手が及ばぬ、神域。
――だからこそ。
人が手ずから歪めることを、我々は異常なまでに忌避するのではないか。
命を奪う行為への、根源的嫌悪。
唾棄すべき冒涜。
そう、ここに倒れる少女は。
――まごうことなく命を奪われていた。
年の瀬は十五の頃合い。
少女から女へと辿る、その道の入り口に僅かに足を掛けた程度。
幼い、かんばせ。
艶やかな褐色。
その肌に、とろりと血が湧いて、滑る。
右鎖骨から。
心臓。
水月を通り。
腹部を捌き。
左鼠径まで。
僅かな
まるで、最初からそうだったかのように――切れ目が入っていた。
致命傷以外の何物でもない。
その腹部の大きなスリットから、臓物がばらりと解けて――まるで綺麗な華のよう。
そう見えてしまうのは、少女の美貌ゆえか。
人形のように、四肢をあらぬ方向に曲げ、投げ出している。
空洞の瞳を中空に投げ出す。そこにもう、何の色もない。
死んでいる。
火を見るよりも明らかに。
そして。
その死体の前に――剣を持った男が立っていた。
呆然と、口を開けている。
ずるりと、その手から剣が零れた。
――がらん、がらん。
石畳を金属が打つ。
さながら、薄氷が割れるような冷めかえった音が、薄暗い路地裏に反響した。
「は、……あ」
ざらざらの声が、男の
「……やっち、まった」
むせ返る血の匂い。
不思議と、青く冷たい陽の光。
てらりと血で濡れて光る、汚れた石畳。
人気の無い、建物と建物が作る僅かな間道。そこに、男の震える声だけが小さく反響した。
男。
二十四歳。
中肉中背、特徴無し。
黒髪。
異世界転移者。
その男――巧は、少女を殺した。
喉の奥を引きつらせながら、ぱくぱくと酸素を求めて口が動く。
吸っても吸っても酸素が肺に届かない。
眼球の芯に針が刺さったように、ズキズキと痛みが跳ねている。
巧は一歩後ずさった。
がくん、と膝が折れかかる。
(違う、俺じゃない)
胸骨を内側から殴るように自分勝手に叫びだす。
(だって、
巧は目を滑らせる。
――少女より奥。
さらに暗がりに、一人の男がゴミのように横たわっている。
血だまりの中に沈んでいる。
(コイツが、この女が……!
“殺すのも、仕方がない”
その思考が過った瞬間、巧は強烈な吐き気に襲われた。
食道を搔きむしりながら、胃液が逆流する。
「う、……ぐ」
巧は手で口を押えた。
汗でズルズルの手のひらが、びちゃりと頬を叩いた。酷く冷たい。
えずいて、勝手に背が跳ねる。
気付いてしまった。
――罪を、自然と正当化しようとしていたことに。
巧はよろけた。
今にも倒れ込みそうに、たたらを踏みながら後退する。
――逃げろ。
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。
巧の中のダレカが叫ぶ。
酷く
もう、意思も理性も働かない。
ただソイツの声に従い、巧の足が勝手に動き出した。
一歩。
二歩。
ゆっくりと後ずさる。
石にでもなったかのように、震える足は上手く動かない。
それでも、無理矢理に踵を返そうとした。
――そのとき。
何が名残惜しかったのか。
少女の顔を見た。
見て、しまった。
可憐な顔立ち。
虚空を灯す、オレンジ色の瞳。猫を想起させるアーモンドのような形。
あどけない頬。
――蕩けた、口元。
彼女の今際の際の、
「……ッ!」
巧は走り出した。
その衝動がなんなのか、よく分からない。
手足が千切れて散らばってしまうかと思うほど、闇雲に動かした。
水の中をもがくように、一つも前に進まない。
水たまりを踏み抜いた。
飛沫が掛かった肌が、凍るように冷える。
それでも。
巧はただ走った。
今まで軽蔑していた、殺人鬼たちと同じように。
――罪を精算しようなんて、小指の爪先ほどにも思いやしなかった。
メインの小説を待ってる人、本当にごめんなさい。
そっちの更新をおろそかにしてまで、変な小説書いてる私をどうかお赦しください……。
まあこっちはどうせ読まれんやろ。